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本編
第九話
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――ピピッ ピピッ
「んー……」
スマホの目覚まし機能のアラーム音で目を覚ました。
目覚めは良い方なのですぐにパッと目を開くと、いつもの昭和を感じる天井が見えた。
木目が顔に見えるのがちょっと嫌なんだよなー……って。
「わっ」
ごろんと頭を横に向けると、男らしく整った顔があって驚いた。
そうだ、会長が泊まっていたんだ。
狭い布団に並んで寝たのに、会長の身体は布団から半分以上出ていた。
ほぼ畳の上で寝ているようなものだ。
僕の寝相が悪かったのかな?
ごめんなさい。
冗談で言った『一緒に寝る』だが、冗談ではなくなった。
僕の部屋には布団は一組しかない上にクッションや座布団もない。
会長は畳で転がると言ったけれど、お客様にそんなことをさせるわけにはいかない。
僕が畳で寝る! と言って強硬手段を取り、畳に転がったら抱き上げて布団に戻された。
ちなみにあまりにも簡単に抱き上げられたので、その時にまた僕のプライドが傷ついたのは内緒だ。
どうあっても僕を布団で寝かすつもりのようだったので、それならば一緒に寝ようと誘った結果、会長が折れた。
一緒に寝ても男同士だし、そんなに気にすることじゃない。
「んー……」
昨日のことを思い出していると、会長が苦しそうに唸った。
何か嫌な夢でも見ているのか。端正な顔を歪めている。
早く起こしてあげた方がよさそうだ。
会長の真横にごろんと転がってジーっと顔を見る。
「会長、朝ですよー」
「…………」
話し掛けてみたが反応はない。目は開かないし、難しい顔のままだ。
あーあ、こんなに眉間に皺を寄せて……このまま跡が付いちゃったら折角の男前が台無しだぞ?
人差し指を会長の眉間にあててぐりぐりしてみた。
跡になりませんよーに。
「…………」
「!」
会長がパッと目を開けたので慌てて手を離したけど、触っていたのがバレたかな。
「お、おはよー……」
「……」
誤魔化すように笑ってみたが……駄目ですか?
会長は目を開けたときのまま、瞬きもせず固まっている。
怒られるかな……と思っていたら会長の手が僕の頬に伸びて来た。
こら !って抓られるのかなと身構えたが違った。
スリスリと撫でられている。
「会長? ……!」
不思議に思って会長を見ると……笑った。
ふわっと優しい笑顔で会長が微笑んでいた。
あれ、会長……もしかして寝ぼけています?
「…………っ」
寝ぼけているだけだと分かっているのに、カッと顔が熱くなったのが自分でも分かった。
視線を合わせて寝転がっているこの状況で、こんな顔を向けられたうえに撫でられたら誰でもドキッとしてしまう。
頬の熱が会長の手に伝わったらどうしよう……って、あ!
「遅刻しちゃう!」
そろそろ用意をしなければ間に合わない!
慌てて立ち上がると、僕の頬を撫でていた会長の手がボトンと落ちたが気にしていられない。
遅刻すると内申点が下がる!
「会長も早く準備をした方がいいですよ!」
顔を洗い、歯磨きをしながら会長に声を掛けると会長は起きていた。
「……」
起きてはいるが、正座をしたまま前に倒れ、顔は手で覆っているという謎のスタイルになっていた。
何かのお祈りですか?
どこかの宗教に入っているのだろうか。
「お前は先に行け。……全然眠れなかった……やっと少し眠れたと思ったら、起きたらこれか。……拷問か」
ゴニョゴニョ呟いているが、祈りでも捧げているのだろうか
神聖な時間を邪魔するのは悪い。
「じゃあ、僕は先に行きますね! 鍵、ここに置いておくので掛けてきてください」
「分かった」
家に会長を残し、急いで学園へと出発した。
※
学園都市での午前授業、一般の高等学校と同じ内容の授業は、大きなホールで行われる。
クラス分けはなく、各学年全体での授業だ。
一年生の授業があるホールは校門から一番近いところにあるおかげで、今日は遅刻せずに間に合った。
会長は間に合ったかなあ。
ホールでは自由席だ。
僕は授業に集中したいので、いつも周りに人がいないところを選ぶ。
だが、稀に僕の隣に人が座ってくることがある。
「お前、栗須先輩から生徒会長に乗り換えたんだってな? 尻軽っ。それにしても乗り換え先が生徒会長とか、身の程知らず過ぎないか? 栗須先輩だって身の程を弁えろって感じだったのに」
それは今のように、僕に嫌みを言ったり嫌がらせをするためだ。
うるさいなあ! 相手にする方が面倒なので相手にしない。
今となりにいる身体のデカいこいつは、佐野山という早川の犬だ。
犬で言うと土佐犬っぽいが、魚でいうとコブダイっぽい。
ゴツゴツとしたコブダイのオスに似ている。
あ、でもコブダイってハーレムをつくる魚だから、それでいうと早川がコブダイか?
しかもコブダイって生まれたときは全部メスだけど、群れで身体が一番大きい個体一匹だけがオスになる。
ファンを侍らす女王様な早川と似ているなあ。
美少年な早川には、貴久先輩ほどではないがファンがついている。
そのファンの筆頭がこの佐野山だ。
こいつには嫌な思いをさせられているので好感はないが、『凄いな』とは思っている。
だって、早川のことが好きなのに、貴久先輩と早川が上手くいくように先頭を切って協力しているのだ。
意味が分からない。
これがアイドルを支えるファン心理というものなのだろうか。
ん? ポケットに入れていたスマホが震えた。
こっそりと取り出して画面を見ると、昨日連絡先の交換をした会長からメッセージが入っていた。
『午前の授業が終わったら迎えに行く』
あ、そうか。
生徒会室に連れていってくれるんだった。
「分かりました。待っています」と返事をしたら、またすぐにメッセージが入った。
『お前の家の鍵を預かっていていいか?』
すぐに返しに来なくてもいいか? ということかな。
昼に会うのだから別に構わない。
「どうぞ。ちゃんと鍵をして来てくれましたか?」と送る。
『もちろんだ。閉めてきたが、あの鍵では頼りない』
メッセージでまでセキュリティ面のことを言っている。
よっぽど気になるんだなあと思わず画面を見ながらくすりと笑ってしまった。
「え? お前の家の鍵、会長が持っているのか? もう同棲!?」
「なっ、勝手に覗くな!」
急に佐野山が大きな声を出したと思ったら、こっそりと僕の画面を覗いていたようだ。
やめろ、周りに聞こえたらどうするんだ!
会長に迷惑がかかる勘違いをするな!
「覗いてなんかいない。見えただけだ」
覗き込んでいたくせに、シラッとそんな嘘をつくと佐野山は席を移動して行った。
次に腰を下ろした場所は早川の後ろで、早速報告をしているようだった。
「……」
佐野山から何か聞いた早川が、軽蔑するような視線を僕に向けてくる。
うざすぎる……海で泳いでたら貼りついてきたナイロン袋くらいうざい……。
どうせ僕が会長と同棲していると聞いたのだろう。
ぐぬぬ……勘違いでも早川にあんな目で見られるのは腹が立つ!
教科書を投げつけてやりたい!
一限目の授業が終わると、早川はなぜか嬉しそうにホールを出て行った。
頭に音符が乗っていそうなくらい上機嫌だったが……。
あいつがあんなに喜んでいるということは、貴久先輩関係でなにかいいことがあったのだろう。
「あ! あー……もう」
一限目の授業の要点を纏めていたのだが、手に力が入ったのかメンダコシャーペンの芯が折れてしまった。
貴久先輩に関する事はもう気にしていないはずなのに……上手くノートをまとめられない。
なんとか無理矢理にまとめたが、後日やりなおした方がよさそうだ。
そんなことをしているうちに、二限目が始まるチャイムが鳴った。
一限目の片づけもまだできていなかったので、早く二限目の用意をしないと、と焦った。
「うん?」
戻って来た早川が目に入ったのだが、その表情は出て行ったときと正反対だった。
目つきは鋭いし……薄らと涙が浮かんでいる?
すこぶる機嫌が悪そうだが、何かあったのだろうか。……まあ、興味ないけど!
視線を戻し、二限目の教科書を広げていると――。
「零。それ、教科書が違うんじゃない?」
「?」
もう隣には誰もいないはずなのに声をかけられた。
誰だろう、と横を見ると、一年生のホールにはいないはずの人が座っていて……。
「……た、貴久先輩?」
「零に会いたくなって。侵入ちゃった」
タ、タカアシガニ―! と心の中で叫んでみたが、まったく気がまぎれなかった。
完全に動揺してしまう。
侵入ちゃったって……。
美しさと愛らしさを兼ね備えたその笑顔は、付き合っていた頃の僕なら心臓を押さえて倒れるくらい破壊力のあるものだったし、別れた今でも致命傷は避けたけどダメージを受けた。
恐ろしい人だ……なんて悠長に考えている場合じゃなくて、侵入しちゃ駄目です!!
「んー……」
スマホの目覚まし機能のアラーム音で目を覚ました。
目覚めは良い方なのですぐにパッと目を開くと、いつもの昭和を感じる天井が見えた。
木目が顔に見えるのがちょっと嫌なんだよなー……って。
「わっ」
ごろんと頭を横に向けると、男らしく整った顔があって驚いた。
そうだ、会長が泊まっていたんだ。
狭い布団に並んで寝たのに、会長の身体は布団から半分以上出ていた。
ほぼ畳の上で寝ているようなものだ。
僕の寝相が悪かったのかな?
ごめんなさい。
冗談で言った『一緒に寝る』だが、冗談ではなくなった。
僕の部屋には布団は一組しかない上にクッションや座布団もない。
会長は畳で転がると言ったけれど、お客様にそんなことをさせるわけにはいかない。
僕が畳で寝る! と言って強硬手段を取り、畳に転がったら抱き上げて布団に戻された。
ちなみにあまりにも簡単に抱き上げられたので、その時にまた僕のプライドが傷ついたのは内緒だ。
どうあっても僕を布団で寝かすつもりのようだったので、それならば一緒に寝ようと誘った結果、会長が折れた。
一緒に寝ても男同士だし、そんなに気にすることじゃない。
「んー……」
昨日のことを思い出していると、会長が苦しそうに唸った。
何か嫌な夢でも見ているのか。端正な顔を歪めている。
早く起こしてあげた方がよさそうだ。
会長の真横にごろんと転がってジーっと顔を見る。
「会長、朝ですよー」
「…………」
話し掛けてみたが反応はない。目は開かないし、難しい顔のままだ。
あーあ、こんなに眉間に皺を寄せて……このまま跡が付いちゃったら折角の男前が台無しだぞ?
人差し指を会長の眉間にあててぐりぐりしてみた。
跡になりませんよーに。
「…………」
「!」
会長がパッと目を開けたので慌てて手を離したけど、触っていたのがバレたかな。
「お、おはよー……」
「……」
誤魔化すように笑ってみたが……駄目ですか?
会長は目を開けたときのまま、瞬きもせず固まっている。
怒られるかな……と思っていたら会長の手が僕の頬に伸びて来た。
こら !って抓られるのかなと身構えたが違った。
スリスリと撫でられている。
「会長? ……!」
不思議に思って会長を見ると……笑った。
ふわっと優しい笑顔で会長が微笑んでいた。
あれ、会長……もしかして寝ぼけています?
「…………っ」
寝ぼけているだけだと分かっているのに、カッと顔が熱くなったのが自分でも分かった。
視線を合わせて寝転がっているこの状況で、こんな顔を向けられたうえに撫でられたら誰でもドキッとしてしまう。
頬の熱が会長の手に伝わったらどうしよう……って、あ!
「遅刻しちゃう!」
そろそろ用意をしなければ間に合わない!
慌てて立ち上がると、僕の頬を撫でていた会長の手がボトンと落ちたが気にしていられない。
遅刻すると内申点が下がる!
「会長も早く準備をした方がいいですよ!」
顔を洗い、歯磨きをしながら会長に声を掛けると会長は起きていた。
「……」
起きてはいるが、正座をしたまま前に倒れ、顔は手で覆っているという謎のスタイルになっていた。
何かのお祈りですか?
どこかの宗教に入っているのだろうか。
「お前は先に行け。……全然眠れなかった……やっと少し眠れたと思ったら、起きたらこれか。……拷問か」
ゴニョゴニョ呟いているが、祈りでも捧げているのだろうか
神聖な時間を邪魔するのは悪い。
「じゃあ、僕は先に行きますね! 鍵、ここに置いておくので掛けてきてください」
「分かった」
家に会長を残し、急いで学園へと出発した。
※
学園都市での午前授業、一般の高等学校と同じ内容の授業は、大きなホールで行われる。
クラス分けはなく、各学年全体での授業だ。
一年生の授業があるホールは校門から一番近いところにあるおかげで、今日は遅刻せずに間に合った。
会長は間に合ったかなあ。
ホールでは自由席だ。
僕は授業に集中したいので、いつも周りに人がいないところを選ぶ。
だが、稀に僕の隣に人が座ってくることがある。
「お前、栗須先輩から生徒会長に乗り換えたんだってな? 尻軽っ。それにしても乗り換え先が生徒会長とか、身の程知らず過ぎないか? 栗須先輩だって身の程を弁えろって感じだったのに」
それは今のように、僕に嫌みを言ったり嫌がらせをするためだ。
うるさいなあ! 相手にする方が面倒なので相手にしない。
今となりにいる身体のデカいこいつは、佐野山という早川の犬だ。
犬で言うと土佐犬っぽいが、魚でいうとコブダイっぽい。
ゴツゴツとしたコブダイのオスに似ている。
あ、でもコブダイってハーレムをつくる魚だから、それでいうと早川がコブダイか?
しかもコブダイって生まれたときは全部メスだけど、群れで身体が一番大きい個体一匹だけがオスになる。
ファンを侍らす女王様な早川と似ているなあ。
美少年な早川には、貴久先輩ほどではないがファンがついている。
そのファンの筆頭がこの佐野山だ。
こいつには嫌な思いをさせられているので好感はないが、『凄いな』とは思っている。
だって、早川のことが好きなのに、貴久先輩と早川が上手くいくように先頭を切って協力しているのだ。
意味が分からない。
これがアイドルを支えるファン心理というものなのだろうか。
ん? ポケットに入れていたスマホが震えた。
こっそりと取り出して画面を見ると、昨日連絡先の交換をした会長からメッセージが入っていた。
『午前の授業が終わったら迎えに行く』
あ、そうか。
生徒会室に連れていってくれるんだった。
「分かりました。待っています」と返事をしたら、またすぐにメッセージが入った。
『お前の家の鍵を預かっていていいか?』
すぐに返しに来なくてもいいか? ということかな。
昼に会うのだから別に構わない。
「どうぞ。ちゃんと鍵をして来てくれましたか?」と送る。
『もちろんだ。閉めてきたが、あの鍵では頼りない』
メッセージでまでセキュリティ面のことを言っている。
よっぽど気になるんだなあと思わず画面を見ながらくすりと笑ってしまった。
「え? お前の家の鍵、会長が持っているのか? もう同棲!?」
「なっ、勝手に覗くな!」
急に佐野山が大きな声を出したと思ったら、こっそりと僕の画面を覗いていたようだ。
やめろ、周りに聞こえたらどうするんだ!
会長に迷惑がかかる勘違いをするな!
「覗いてなんかいない。見えただけだ」
覗き込んでいたくせに、シラッとそんな嘘をつくと佐野山は席を移動して行った。
次に腰を下ろした場所は早川の後ろで、早速報告をしているようだった。
「……」
佐野山から何か聞いた早川が、軽蔑するような視線を僕に向けてくる。
うざすぎる……海で泳いでたら貼りついてきたナイロン袋くらいうざい……。
どうせ僕が会長と同棲していると聞いたのだろう。
ぐぬぬ……勘違いでも早川にあんな目で見られるのは腹が立つ!
教科書を投げつけてやりたい!
一限目の授業が終わると、早川はなぜか嬉しそうにホールを出て行った。
頭に音符が乗っていそうなくらい上機嫌だったが……。
あいつがあんなに喜んでいるということは、貴久先輩関係でなにかいいことがあったのだろう。
「あ! あー……もう」
一限目の授業の要点を纏めていたのだが、手に力が入ったのかメンダコシャーペンの芯が折れてしまった。
貴久先輩に関する事はもう気にしていないはずなのに……上手くノートをまとめられない。
なんとか無理矢理にまとめたが、後日やりなおした方がよさそうだ。
そんなことをしているうちに、二限目が始まるチャイムが鳴った。
一限目の片づけもまだできていなかったので、早く二限目の用意をしないと、と焦った。
「うん?」
戻って来た早川が目に入ったのだが、その表情は出て行ったときと正反対だった。
目つきは鋭いし……薄らと涙が浮かんでいる?
すこぶる機嫌が悪そうだが、何かあったのだろうか。……まあ、興味ないけど!
視線を戻し、二限目の教科書を広げていると――。
「零。それ、教科書が違うんじゃない?」
「?」
もう隣には誰もいないはずなのに声をかけられた。
誰だろう、と横を見ると、一年生のホールにはいないはずの人が座っていて……。
「……た、貴久先輩?」
「零に会いたくなって。侵入ちゃった」
タ、タカアシガニ―! と心の中で叫んでみたが、まったく気がまぎれなかった。
完全に動揺してしまう。
侵入ちゃったって……。
美しさと愛らしさを兼ね備えたその笑顔は、付き合っていた頃の僕なら心臓を押さえて倒れるくらい破壊力のあるものだったし、別れた今でも致命傷は避けたけどダメージを受けた。
恐ろしい人だ……なんて悠長に考えている場合じゃなくて、侵入しちゃ駄目です!!
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