親友は勇者 オレはケモ耳男子校で保健室の先生はじめます

花果唯

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第26話 面談

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 みんなを一気に治した、あのときのことを思い出す。
 一人一人治していたら思っていたよりも早く疲れてしまい、ぼんやりと考え事をしていたら——。

「……急に声が聞こえたんです。魔法の対象を複数にする方法を、誰か——おそらく勇者に教えていました。ちょうど『みんなを一度に治せたら楽なのに』ということを考えていたので、それに従ってみたら……できちゃいました」

 できたけど、倒れちゃったので面目ない……。
 ごまかして笑うと、シオン先生も苦笑いになった。

「正体が分からない声に従うのは危険かもしれませんよ」
「あ! そうですね……すみません」

 その可能性がスコーンと抜け落ちていた。
 精神攻撃的なことをしてくる魔物もいるかもしれないのに……。

「いえ、小言を言ってしまいましたが、危険なものではないから警戒心が働かなかったのかもしれません。その声に心当たりはありますか?」
「あ! 職員寮に出る白いおばけの声です」

 たしかに、あの白いおばけには「怖い!」とビビったけど、危険だとは感じなかった。
 思い出すのは悲しそうな声ばかりだ。

「なるほど……」

 シオン先生は席を立ち、本棚から一冊の絵本を手にして戻ってきた。

「さっきクコが言っていた賢者様の本です」

 どうぞ、と渡してくれたので手に取る。
 表紙には森と動物、白いローブを着た魔法使いが描かれている。
 みんなの頭上には夜空が広がっていてとても綺麗な絵本だ。
 年季が入っていて、ところどころ汚れや破れがあるのが残念だ。

「読んでみてください」

 今? と思ったが、絵本なのですぐに読み終わるだろう。
 シオン先生に促されて絵本の表紙をめくる。
 表紙と同じタッチの絵と共に、少しずつストーリが進んでいく。

 ——賢者様は神子様から動物を託され 共に森で生きていました

 ——動物たちは賢者様を愛し 賢者様も動物を愛しました

 ——ある日邪悪な塔が現れ 平和な暮らしが脅かされました

 ——賢者様は違う世界からきた勇敢な若者に知恵と力を授けました

 ——そして、癒しの力を持ったお姫様と 三人で塔を登り 魔王を倒しました

 ——でも 動物たちの元に賢者様が帰ることはありませんでした

 ——平和を取り戻すことができたのですが 賢者様は若者を守って命を落としていたのです

 ——若者とお姫様は幸せに暮らすようになりましたが 亡くした友を思い 彼の意思を継ぐ者たちを育てる学校を作りました

 ——そうして賢者様は 今もわたしたちの中に生きているのです



 めでたしめでたし……という終わり方だけれど、なんだかやり切れない。
 
「これは……歴史――事実を元にしている絵本ですか?」
「おおよそ合っているかと思います」

 おおよそ、というのが気になるが、合っているなら——。

「もしかして、この絵本に出ている学校がここだったりします?」
「そうです。賢者様を称えて作られた学校なので、支援は少なくても潰されずに済んでいるのです」

 なるほど……。
『獣人を嫌っている国だから学校なんて潰しそうなのに』と不思議だったが、そういう理由があったのか。

「じゃあ、あのおばけは……賢者様?」

 この絵本に描かれている賢者も全身『白』だし……。

「以前、ここに塔があったことが分かったと言いましたね? 賢者様が命を落としたと言われている塔がここにあったのです。賢者様が動物たちと暮らしていた森もここです」
 
 それだけ状況証拠のようなものが多いということは……確定ってこと?
 勇者に魔法について教えているときは生き生きとした声だったのに、寮で見たときは絶望したような姿だった。
 魔王を倒せたと知らずに亡くなったのだろうか。

「あの白いおばけの正体は賢者様な気がしてきましたけど……そんな素晴らしい人が女性を呪うんですか?」
「……分かりません」

 オレという例外はあるものの、女性だけが呪われるなんて女性に恨みがあるように思える。
 登場人物の中でいうと『癒しの力を持ったお姫様』、おそらく『聖女』だ。
 今の聖女のように、大昔の聖女も性格に問題ありな感じだったのだろうか。

「まだ賢者様だと決まったわけではありませんし、そうだとして賢者様の意図するところではなく呪いになってしまった可能性もあります」
「あ、そっか。呪うつもりがなくても、死んで悲しいという想いが呪いになっちゃった、みたいな可能性もあるんですね」
「そうです。すべて憶測にすぎませんがね」
「…………」

 何が起こったか分からないけれど、平和のために賢者様が命を落としたことは確かだ。
 そして、今もおばけとなってつらい思いをしているのかもしれない……。
 オレたちは賢者様を想って、しばらく言葉がでなかった。
 風で開いていたページがパラパラとめくれ、最後のページにある月に祈っている動物たちの絵が現れた。
 賢者様の帰りを待っている動物たちの気持ちを思うと泣けてくる。

「どうしてオレは白いおばけ——賢者様が見えたり、声を聞くことができるんですかね」

 沈黙を破って、気になったことを聞いた。
 
「それは……チハヤ先生に適正があるのだと思います」
「適正、ですか」
「最初に城でお会いしたときに、チハヤ先生の力に心当たりがあるという話をしたのを覚えていますか?」
「あ、はい……」
「賢者様も獣人を癒せる回復魔法を使えたんです」

 そういえばシャルが、『賢者様は高度な回復魔法を使えた』と言っていた。

「賢者様が使える魔法は『神聖魔法』というものです」
「神聖魔法……あ、神子様が使ったやつだ」

 邪悪な魔物を知性のない魔物・獣人・動物に分けたとかいう……。

「そう、それです。私の一族は代々、神聖魔法について調べているので、すぐにそう思ったのです」
「え、それって……すごいのでは?」
「はい。神子様と賢者様しか使った記録がありません。めちゃくちゃすごいです」
「お、おお……」

 小回復しかできないから正直実感がゼロです!

「あなたは勇者ではないのにこの世界の言語や文字を理解できたのは、この世界にとって重要な人だからかもしれませんね」
「おおっ」

 京平! オレ、マジですごそうだぞ! 小回復しかできないけどさ!
 みんなにも自慢するか! と思ったのだが……。

「すごいので、やはり聖女からは隠すべきです。どこから話が漏れるか分からないので、あなたが使う魔法が神聖魔法だということは二人の秘密にしましょう」
「!」

 シオン先生がシーッと指を立てている。
 大人な魅力でドキッとしてしまったが……言っちゃだめなのか! 言いたいなー!
 でも、力を隠している方がヒーローっぽい!
 いつかチハヤ先生が世界を治す! みたいな展開がくるかもしれない! 小回復しかできないけど!

「分かりました……!」
「頼みますよ?」

 シオン先生が笑っている。
 オレのテンションが妙に高いので、口を滑らせないか心配になったのかもしれない。

「まだ調べていることはあるのですが……今はこれくらいにしておきましょう。これからチハヤ先生にも協力していただくことがあると思いますので、よろしくお願いします」
「分かりました」

 これで話は終わりかな、と思ったのだが、シオン先生が「あ」と声を出した。

「申し訳ないのですが、たまごの様子を確認するためにチハヤ先生の部屋に入らせて頂きました」
「あ、いいですよ。たまごちゃんの様子はどうでしたか?」

 三日間も放置してしまったので、様子を見てくれたのはありがたい!

「特に変化はありませんでした。……勝手に入った私が言うのも何ですが、部屋の鍵はかけておいた方がいいですよ」

 そういえば、鍵をかけずに部屋を出たなあ。

「あー……そうですね。悪い子もいないし、いいかなって」

 楽観的に考えてしまったが、たまごちゃんの安全のためにも鍵をつけた方がいいだろう。

「悪い子はいなくても、リッカやスノウが勝手に居ついちゃいますよ」
「あ、それは困ります」

 さっきみたいに近くでケンカされたら困るし、今度は三人で一緒に寝よう、なんてことになったら嫌だ。
 そんなことを考えて顔を顰めていたら、チハヤ先生が笑った。

「チハヤ先生が来てくださって、二人の関係も良くなっています。感謝しきれませんね」
「良くなっている……?」

 あれで? と思っていたら、シオン先生の表情が真剣なものに変わった。

「少し、リッカのことも話しておきましょう」

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