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第12話 男子校の姫たち

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「あ、お疲れさま。手伝わせて貰ってます」
「…………」

 夕飯の準備をしにきたシュロ先生に、食器を洗いながら笑顔を向けた。
 オレは一足先に食堂の奥にある厨房にきて、夕食の手伝いをしていたのだ。

 リッカに夕飯の調理時間について聞いたら、いつも手伝いをしている生徒たちはもう準備をしているかもしれないと教えて貰ったので早速混ぜて貰っていた。

 お手伝いに来ていた生徒は、オレが校庭を通っていたときに二階の窓から見ていた子たちで、ウサギ、カンガルー、ハリネズミ獣人の子たちだ。
 三人ともオレより少し低いくらいの身長で愛らしい。
 見ているとめちゃくちゃ癒される。

 みんな最初はオレを警戒してテーブルに隠れて出てきてくれなかった。
 その様子が可愛いすぎて、このままビビらせて眺めていたいという意地悪精神が働きそうになったが、何とか説得して今はもうすっかり仲良しだ。

 ウサギ獣人は『アリス』と言って、白にメッシュで少しピンクが混じったふわふわ髪に、大きな丸い赤い瞳が可愛い子で、オレが目を奪われた愛らしい耳の主である。
 耳はレーダーのような役割をしているらしいのだが、初めて対面したときはオレをすごく警戒してぴんっと立っていた。
 話している途中に慣れてくれたのか耳が倒れていったが、たまにぴくっと動いている。
 動きをみるだけでも癒される。
 三人の中で一番社交的というか、オレとも楽しくおしゃべりをしてくれた。

 カンガルー獣人は『シャル』。
 耳と長いしっぽが特徴的で、モスグリーンの髪に明るい茶色の目だ。
 アリスは友達のようにくだけた話し方をしてくれるのだが、シャルは終始敬語でまじめそうな印象だ。
 三人組の保護者ポジションと言えるかもしれない。
 愛らしい容姿だが、カンガルーらしく腕力も脚力もあるそうなので、ケンカしたらオレは負けるかも……。

 ハリネズミ獣人は『クコ』。
 水色の長い髪に深い青の目で、アリスとシャルを可愛い系とすると、クコは綺麗系だ。
 一番口数が少ないし、見た目の印象からしてクールなのかと思ったけど、ただの恥ずかしがり屋らしい。
 照れたときにちょっと顔が赤くなっているのが可愛かった。
 獣人の中には回復魔法が効かなくても攻撃魔法を使える人は稀にいるそうで、クコは氷の攻撃魔法が使えるらしい。
 ハリネズミのように全身から氷の針を出せるそうなので、刺されないように気をつけよう。

 三人と楽しい時間を過ごさせて貰ったが、もちろん夕飯の準備で手を動かしながらだ。

 この世界のキッチンは、元の世界と似たようなものだったけれど電気もガスもない。
 代わりに魔力で動く道具を使っていた。
 水道はないけれど水が溢れ出てくる桶があり、コンロはないけどIHみたいに高温になる石板がある。
 日本で使っていたものの代わりになるものが大体あったから、多少戸惑ったが問題はなかった。

 そして、まだオレについてきたリッカも、ボーッと立っていたので手伝わせているのだが、三人はリッカにそわそわしていた。
 嫌っているとか、マイナスな感じはしない。
どちらかと言えば好意的に見えるが緊張しているようなのは、リッカがユキヒョウ――肉食獣の獣人だからなのかな?
 さすがに君たちを食べることはないと思うよ?
 性的にどうかは知らないけどさ。
 ここには男しかいないわけだし、男子校の姫って言われてそうなほど可愛い君たちは気をつけないとね。

 この姫な三人はいつも自主的に手伝っているらしい。なんていい子なんだ!
 他にもたまに手伝いにくる子もいれば、森で食材を調達してきてくれる子もいるようだ。
 少し離れたところには川もあるそうで、魚を獲ってきてくれる子もいるという。
 支援が少なくて大変だと思うが、自給自足で支え合って生きているのがいいなあ。

「シュロ先生! チハヤ先生と一緒に今日の献立通りに進めて、準備はほとんど終わりました! 今は休憩中ですっ」

 ウサギ獣人のアリスが嬉しそうにシュロ先生に報告する。
 献立は五種類あって、それを順番に繰り返しているらしい。
 食が豊かな日本で暮らしていたオレからすると、「五種類ループは飽きそう」なんて思ってしまうが、毎日同じものだった時代もあるそうで、これでもかなり改善されたという。

「使った調理器具の片付けも終わっています」
「あとは盛り付けだけ……」

 二人も誇らしげに報告しているが、シュロ先生はオレがいるからか少し複雑そうな顔をしている。

「……それ、何?」

 シュロ先生が指さしたのは、三人+リッカが食べているデザートだ。
 ご飯前だけれど、時間に余裕があったのでオレが作った。

「それはオレが作った焼きリンゴだよ。何かデザートを作れないかなあって食材を見ていたら、リンゴがたくさんあったから。酸味があったから、バターと砂糖で――」
「は!? 勝手に使うな! バターも砂糖も貴重なんだぞ! 今後の予定に響くだろ!」

 説明を聞いてシュロ先生がオレに詰め寄る。
 また怒らせちゃった!?
 あ、でも、在庫を減らさない配慮はちゃんとしていて――。

「「「シュロ先生!」」」

 オレが説明しようとしたところで、アリスたちが慌ててフォローに入ってくれた。

「ボクがおこづかいで買っていたのを譲ったので、学校の備蓄からは出してないので大丈夫です! とってもおいしくてびっくりしますよ!」
「それに異世界の食べ物だなんて、とても興味深いです!」
「おいしい……幸せ……」

 なるべくオレが怒られないように、『生徒が喜んでいる』ということも伝えてくれている。
 うっ、いい子たち……!

 調味料は貴重というのを聞いていたから、甘いものが好きだというアリスに相談して譲って貰っていたのだ。
 もちろん、ただ貰うだけではなく、のちほど何かで返すことにしている。
 人間だと色々と仕入れやすいようだから、オレが調達に行くのもアリだと思っているし……。

「……それならいいけど 。ほんとにこれ以上余計なことをするなよ」

 シュロ先生は納得してくれたのか、食堂の方へ行った。
 残ったアリス達と安心して顔を見合わせた。

「シュロ先生、いつもはとっても優しくて、素敵で……。ボクたちともたくさんお話ししてくれるんですよ。チハヤ先生も早く仲良くなれたらいいですね」
 
 アリスと一緒に、シャルとクコも「がんばって」と応援してくれた。

「うん、ありがとう!」

 実はシュロ先生の分も焼きリンゴを作っているのだが……食べてくれるだろうか。
 渡す前から怒られてしまったから無理かなあ。
 いや、諦めないのがオレである。
 チャンスがあったら渡すぞ! と、シュロ先生の分を狙っている四人から残りの焼きリンゴを守った。
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