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第2話 動物に懐かれるタイプではあるけども

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 連れて来られたときに一度見ているが、ここはおとぎ話に出てきそうな城だ。
 テーマパークの中にもあるような美しい白城で、庭も綺麗に整備されている。
 敷地は広く、オレは建物からなるべく離れた、緑が多いところをあてもなく歩いた。

「これからどうしようかな」

 ため息をつき、途方に暮れながら今までの自分を振り返る。
 オレは負けず嫌いな子どもだった。

 かけっこでは、順番をつけられなくても一番にゴールテープを切らないと嫌だったし、椅子取りゲームやじゃんけん列車でも生き残りたい。
 負けると悔しくて、家に帰ってから飼っている白猫のしらたまを抱きしめて泣いたし、努力で何とかなるものは隠れてがんばった。
 そんな性格のおかげで勉強もスポーツもできる方だったし、見た目も「アイドルっぽい」と褒めて貰えるくらいには悪くなかったので友達も多かった。

 中でも京平は親友で一番のライバルだ。
 京平はオレが小学生の頃クラスにやってきた転校生で、初めて教室に入ってきたときに女子が色めき立った。
 圧倒的にかっこよくて、頭脳明晰、スポーツも万能。
 人気者になると思ったのだが……めちゃくちゃ不愛想でクラスから浮いた存在になった。

 話しかけても一言返ってきたらいい方で、大体は一瞥するだけで無視。
 感じ悪~とオレも思ったが、強敵と勝負をしたくてしつこく話しかけていった結果、オレとだけは普通に話すようになった。
 中学、高校と同じところに進み、今日も放課後にバッティングセンターで対決しようとしていたところでまさかの異世界転移。

「はあ……。主人公とモブ、随分と差が出ちゃったなあ」

 飛びぬけてたくましく、かっこよく育っていく京平に比べ、オレの成長は平均的。 
 体格が近かった小学生のころは接戦が多かったけれど、だんだん身体能力が必要なことでは勝てなくなっていった。
 最近では諦めモードだったのだが、今回のことで盛大にトドメを刺された。 

「本当に、どうやって生きていこうかな」

 聖女がいるのに、不必要な風邪薬としてそばに置いて貰うなんて惨めだ。
 知り合いがいない異世界で友達と離れるのはつらいけれど、今はそばにいる方がつらいかもしれない。
『小回復』で働くことはできないだろうし、オレにできそうなことと言えば飲食店スタッフ、とか?

 三人兄弟の長男で、中学生になってからは仕事の帰りが遅い母に代わって簡単な食事を作ることが多かったから割と得意だ。
 まあ、カレーとかパスタとか親子丼とか、一皿でなんとかなるものばかりしていたから、弟たちにはレパートリーを増やせと文句を言われてばかりだったが。
 だって、作るのも楽だし皿をいっぱい使ったら洗うのが面倒じゃん。
 
 掃除とか片付けはあまり好きじゃないから、もしくは動物を飼育したり世話をする仕事はないだろうか。
 
「せっかくだから、異世界にしかいない生き物を見てみたいなあ。……うん?」

 何か聞こえたような気がして耳を澄ませると、苦しそうなうめき声が聞こえてきた。
 それを頼りに探してみると、生垣の裏に誰かがうずくまっているようで慌てて駆けつけた。

「大丈夫……あっ」

 たしかにうずくまっている人がいたのだが、まず目に入ったのが白に黒の模様があるしっぽだ。
 ホワイトタイガーみたいだなと思ったが、よく見ると豹柄だから……白のユキヒョウのしっぽ?
 銀髪の頭を見ると、しっぽと同じ柄の耳がついている。
 おもちゃ? と思ったが、体と同じように苦しそうに動いているから本物のようだ。
 漫画やゲームに出てくる『獣人』だろうか。
 動物好きとしては触ってみたくてウズウズするが、それどころじゃない。 
 若い男で両手で頭を押さえているが……頭痛?

「大丈夫か?」
「頭が……痛い……」

 やっぱり頭が痛いようだが……どうしよう。
 周りに人はいないから助けは呼べないし、頭痛くらいなら小回復でも治るだろうか。
 やってみよう……と思ったのだが、どうやったらスキルは使える?
 小回復スキルを持っていることは聞いたけれど、使い方は教えて貰ってない。
 マンガで得た知識を駆使し、使えないか試みよう。
 だいたいは魔法を使うイメージを固めて、とかだ。
 頭痛が治るようにという願いを込めて……。

「いたいのいたいの とんでいけ」

 治すときのイメージと同時に浮かんだのは、子どものことにかけて貰ったおまじないの言葉だった。
 弟たちが小さかった頃には、オレもよくやってあげた。
 その頃のことを思い出しながら、サラサラの銀髪を撫でながら痛みが飛んでいくように願いを込めていると、手がぽわっと光った。

「うおっ」

 何かでた、と驚いて思わず手を放してしまったが、獣人を見るとオレと同じように驚いていて、済んだ水色の瞳と視線がぶつかった。
 王子様フェイスというか、京平とは違うタイプの透明感がある圧倒的に綺麗なイケメンで驚いた。
 白シャツに白ズボンなのも王子様感をアップさせている。
 おそらく年齢はオレと変わらないくらいだと思う。

「頭痛が治った……」
「え、ほんとに? よかったじゃん」

 風邪薬程度には役に立って、なんて心の中でささくれ立っていると、お腹に衝撃があった。
 顔がいいユキヒョウ獣人がタックルで抱きついてきたのだ。

「何!?」
「分からない……衝動に駆られて……」
「はあ?」

 ユキヒョウ獣人も自分の行動に戸惑っているようだが、まだしっかりとオレのお腹にしがみついたままだ。
 オレは昔から動物にはモテるタイプで、家族以外には吠えるという犬に懐かれたりするのだが……そういう感じ?
 人を動物と同じように考えるのは失礼だけど、お腹にくっついている頭にある耳を見ていると、そんなことを考えてしまった。

「……本当に意味が分からない。離れろ」

 そう言ってユキヒョウ獣人が、オレを軽く突き飛ばした。 
 …………は?

「くっついてきたのはお前だから!」
「頭痛、どうやって治したんだ?」
「無視すんな!」

 ユキヒョウ獣人はまっすぐに立つと京平くらいの身長で、十センチ程上からオレを見下ろしてくる。
 その顔が作り物みたいに綺麗だし目もガラス玉みたいにキラキラしていて、ちょっと気圧されてしまう。
 懐いたことに逆切れするような謎の態度は腹立たしいが、まあ……治ったしいいか。

「オレの『小回復』で。しょぼいスキルだけど、役に立てたならよかったよ。じゃ!」
「! やっぱりスキルか……」

 もう用はないので離れようとしたら……。

「来て」

 淡々とそう言うとオレの手を掴んで歩き始めた。
  
「ちょ、どこに行くんだよ」
「近いから」
「距離を聞いているんじゃなくて、行先を聞いてるんだよ。いや、言わなくてもいいけど離してくれ」
「すぐに着く」
「いや、時間でもなくてね……。お前、話通じないな!」

 ちゃんとコミュニケーション取れないし、作り物みたいな美貌だからアンドロイドか?
 それにしては手は暖かい。
 ……というか、オレはなぜ男と手を繋いでいるんだ?
 振り払おうと思ったが、力が強くて無理だった。

「手を解こうとするの、うっとうしいからやめて」
「離してくれたら解決するんだけどねー!」
「…………」
「だから無視すんなって!」

 ユキヒョウなら、肉球があって和んだのに……。
 そのままユキヒョウ獣人は城の建物に入り、奥の方へと進んで行った。
 ほとんど人には会わなかったのだが、途中で二人組の騎士とすれ違う。
 二人は悪意のある笑顔でこちらを見ていて、何やら話している。

「おい、ペットと風邪薬が一緒にいるぞ」
「価値が近いもの同士、気が合ったんじゃないか」

 オレのことを風邪薬と言っているから、さっきの場に居合わせた騎士なのだろう。
 それにしても……ペット?
 このオレの手を引くユキヒョウ獣人に言っているようだ。

「失礼な奴らだな」

 思わずそうつぶやいてしまう。 
 すると、ユキヒョウ獣人は騎士たちには目もくれず、憤るオレにふっと微笑んでそのまま進んでいった。 
 なんだよ、その流し目。 
 おもしれえ奴、みたいな顔をしてたけど、少女マンガでも始める気か? 
 お前より背は低いし華奢だけど、オレを少女扱いしたらぶっ飛ばすからな。 
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