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ダンジョン・マスター第二部

6.爪弾き者達

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 エレーナの部屋から出たカイン達は、別室に置いてきた装備を身に着けていた。
 無言で作業をする四人だったが、装備の確認を終えたカインが口を開く。
「オレは指揮をとれって言われたが、別に何も指図するつもりはねぇ、お前等はお前等で好き勝手やれや。ただしオレの邪魔はすんな」
 余りにもなその言葉に、他の三人は一様に口をつぐんだ。
 その中で、黒い羽根を持つ女性──イレーヌ──が問う。
「逃げても良いと?」
「別にかまやしねえが、どうせ見つかって殺されるぞ」
「……そうでしょうね、愚問でした」
 天界を裏切ったものに対する追撃は熾烈を極める。これまで人間界に赴いたことがなく、地理に疎い彼らでは逃げ切れないだろう。
「ふんっ、結局玉砕しに行くしかないんだろ」
 マイルが苛立ちを隠さない顔で告げる。
「オレは玉砕するつもりなんてねぇ、魔王とやれねえのはちと残念だが、だったら結界陣くらいぶっ壊してさっさと戻ってきてやる」
 んでもってあの女はぶっ飛ばす。カインはそう続けて息巻いた。
「君は馬鹿じゃないのか? 魔王となんて戦ったら、勝負にすらならないで殺されるに決まってるだろ」
 呆れたと言わんばかりにマイルが返す。
「ふん、死んだらオレがそこまでの奴だったってことさ、魔王に殺されるなら文句はねぇ」
 大まじめにカインが言う。
「とんだ戦闘狂だ」
 つける薬なしと言わんばかりのマイル。
「うるっせえな、おい耳なが、そもそもてめえは飛べんのかよ? こっからじゃのたのた歩いてたら魔王が不在の間につけねえぞ」
「……っ! 僕はマイルだ! 耳ながなどと呼ぶな!!」
 突如激昂したマイルが怒鳴り返す。
「あぁ?」
 怒りの理由がわからないのか、不思議そうな顔をするカイン。
「……その、マイルさんはハーフブラッドであることを馬鹿にされたと感じたのかと」
 カインをフォローしたのは白い羽根を持つ少女──ロナ──だった。
「んだぁ? そんなことかよ? 別に気にすることじゃねえだろ。オレの知り合いにも何人かいるぞ」
 一般的にエルフと天界の住人の混血であるハーフブラッドは、差別や迫害の対象である。これは魔族が人間界の生物を見下しているのと同じようでもあるが、天界の人間は自らの血に絶対的な誇りを持っているためでもある。そのためカインのような何も気にしていない生粋の天界人は珍しいのだ。
 じゃあなぜハーフブラッドという存在がいるのかと言えば、エルフは長命で容姿に優れているため、様々な手段で人間界から”輸出”されるのだ。天界と言っても、そこに住むのは賢人ばかりではない。欲も陰謀も渦巻く世界なのだ。
「……ふんっ! ともかくだ、僕は魔法で飛べる。だから気にしなくてもらわなくて結構!」
 カインの反応に気勢を削がれたのか、ぶっきらぼうにマイルが返す。
「そうかい、なら結構。ただし、他の二人にも言っておくが、遅れそうになるようだったらぶら下げてでも連れていくからな。脱落してぇんだったら捨てていく、後は勝手にしろ」
 その言葉にロナとマイルの二人は表情を強張らせる。<奇人の住処>までの距離と、魔王不在期間のタイムリミットを想像して厳しいと判断したのかもしれない。
 そんな中、特に表情を変えないイレーヌに興味を惹かれたのか、カインが目を向ける。
「おめえは平気そうにしてんな、大丈夫なのかよ?」
「……はい、足手まといになるようなことはないかと」
 イレーヌは淡々と、事実がそうであると告げる。
「ふぅん、面白いじゃねぇか、行く前に一戦交えるか?」
 カインが犬歯をむき出しにして笑う。
「私にそのつもりはありません。それとも貴方は、無抵抗な相手を嬲ることでも楽しめるのですか? なら構いませんが」
 表情を変えずにイレーヌが答える。
「けっ、オレはそんな屑じゃねぇ。やる気のねえ相手とはやんねえよ。でもな、いずれきっとやる気にさせてやるぜ」
 カインはこの場は引き下がったが、諦めてないことを伝える。
「……この状況を生きて潜り抜けることが出来たら考えておきましょう」
 ある意味余裕のある会話を続ける二人に、ロナは不安を隠せない顔で呟く。
「ボクは不安です……」
 その言葉に気がついたカインは、不思議そうな顔をして言う。
「ボクだぁ? なんだお前、男だったのか? 確かに女にしちゃ幼児体型だが……」
 それを聞いたロナは、顔を真赤にして言い返す。
「ぼ、ぼ、ボクは女です! 男じゃありません!」
「だったら紛らわしい一人称なんて使ってるんじゃねえ」
「こ、これはその、子供の頃からの癖で……」
 もごもごとロナが言い訳をする。
「オレはまぁ別にいいけどよ。そんなんじゃ男に間違われても仕方ねぇぞ」
「う、うぅ……」
 ロナが涙目になりながら呻く。
「そんなことより、さっさと出発しないか? 僕達に与えられた時間は有限なんだしさ」
 マイルが呆れたように言う。
「そうですね、本当に追手が出されないのか疑問もありますし」
 同意するようにイレーヌが答える。
「あぁ?」
 どういうことだと、カインが表情で問う。
「いえ、少々この作戦に疑問を感じただけです。天界はまだ魔界との戦争を望んでいないからこそ、正規軍を差し向けるのではなく、我々のような本当に裏切っても不思議ではない面々を集めて、今回の作戦に当てているのでしょうが、それにしては杜撰な計画ではないかと思いまして」
「つまり、どういうことだよ?」
「この作戦は軍が正式に決定したものではなく、彼女、あるいは彼女の上からの独断で実行されているのではないか、と」
「だから追手を出さない権限なんてものはなくて、実際は進んでも僕達は追われるっていうのか!?」
 マイルが騙されたという表情で叫ぶ。
「事実はわかりませんが、その可能性もあるのではないかと」
 イレーヌが頷く。
「それじゃあ結界陣を破壊しても、ボク達は裏切り者として処罰されちゃうかもしれないの?」
 ロナが怯えを顔に滲ませながら問う。
「ありえますね」
「そんな……」
「そうなりゃ追手もぶっ倒すしかねえな、簡単じゃねえか」
 それがどうしたと言わんばかりのカイン。
「そんな簡単なことでもないと思いますが……」
 イレーヌが少々呆れたように言う。
「ふん、どうせ考えたってオレらは進むしかねえんだ。だったらなるようになるさ」
 全く悩んだ風もなく、カインは返す。
「まぁ、それは事実ですね」
 イレーヌは同意するが、ロナとマイルは不安を隠せない様子だった。
「うだうだ言ってもしょうがねえ、さっさと出発するぞ」
 それでもカインに促され、四人は天界を出発する。
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