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ダンジョン・マスター第二部
2.魔王会議について
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トレンティア商会から購入した品々をダンジョン内に運び込んだ後、俺とメリルは執務室にいた。
<奇人の住処>魔王宛に届いた書状について、色々と話しあうためだ。
ちなみにだが、荷物搬入の際には余計な騒動を避けるために、セレナとリーゼには自室で待機してもらった。リーゼは少々不満顔だったが、そこはセレナに説得してもらうことで対処する。リーゼは商会がどのようなものなのか気になっていたらしい。なんというか、魔物に慣れ過ぎるのも考えものである。まあ、ダンジョンの生活に馴染んでいるのはいいことなのだけれど。いつか悪い魔物にころっと騙されてしまうんじゃないかと、俺はセレナと二人で恐々としている。
閑話休題。
「俺宛に届いた書状によると、魔王会議への招待、時期は水の季節、第三の月、日付は二十日となっているが……」
リーゼから聞いたこの世界の暦は、日本で言う四季に該当するものが地水火風の属性に当てはまる。
風が春、火が夏、土が秋、水が冬という感じだ。
それぞれの季節は三ヶ月間続き、ひと月は三十日。それで一年が三百六十日という訳だ。
つまり書状にあった水の季節、第三の月の二十日というのは、地球の暦で言うと十二月二十日あたりということになる。日本じゃクリスマス商戦のまっただ中だな。
ついでに俺がこの世界に来たのは火の季節第一の月の初め頃、地球で言うと四月頃になる。四月頃で夏というのは変な感じがするが、旧暦に近いと思ってもらえればいい。ただし四月でも実際の気候は夏である。だから魔王会議が開催される十二月も、春に向けて暖かくなっていく時期ということになる。ややこしい。
そして現在は土の季節、第三の月の初め頃。秋もそろそろ終わる時期である。
もう、この世界に来てから半年近くにもなる。
「魔王会議は通常百年に一度程度しか開催されないもので、大魔王の選出を行う会議となっております」
メリルが魔王会議について補足する。
「今年が百年目なのか?」
「いえ、そういうわけではなく、恐らくランドゲルズ様がお亡くなりになり、魔王様に代替わりしたための顔合わせといったところではないでしょうか」
「なるほど、確かに俺も他の魔王とか知らないしな」
それぞれ人間界にあるダンジョンを管理している魔王がどんな人物なのか気になるところではあった。
「……ですが、正直気が乗りませんね」
「なんで?」
「恐らく我々は侮られるでしょうから。ダンジョンの規模、魔王様の出自、幹部の人数に、その出自、保有する戦力その他、数を数えればキリがありません」
「あー、なるほど」
そう言えば俺は気にしていなかったが、メリルはダークエルフだった。ある意味幹部の一員とも言えるセレナは人間だし、俺も異世界人とは言え人間。戦力は少なく、それに比例してダンジョンは小さい。他のダンジョンでは拡張が限界まで終わって外に魔物が溢れるくらいのところがあるようだし、魔物の数、質をとっても、恐らく大きな戦力差があるだろう。
「でも、行かないって訳にはいかないんだろ?」
「……ええ、ですが魔王様に不快な思いをさせる会議になるのは間違いありませんので、行かなくて良いのであれば行きたくありませんね」
心底嫌そうに漏らす。
「まあ、そこは我慢して行くしか無いな。今回行けば予定外のことがなければ百年はいかなくていいわけだし」
そもそも人間の寿命から言って、百年も生きないと思うしな、とは言わないでおく。
まぁ、魔王になってから色々と規格外になってしまったので、本当に人間の寿命で死ぬのかという疑問もあるのだが。
「そうですね……魔王様にはご迷惑をおかけすると思いますが、魔王様が不慣れな魔界をご案内するため、私も付いて行ってよろしいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼むよ。っと、そう言えば魔王会議ってのは一日で終わんのか?」
「過去の事例ですと会議の他に会食や儀式等もありますので、一週間ほどは開催することになりますね」
顎に手を当てたメリルが思い出しながら呟く。
「となると、その間のダンジョン防衛はセレナに頑張ってもらうことになるのか」
「少々不安が残りますが、そうなりますね」
俺やメリルとも打ち解けてきているのでまさか裏切るようなことはないと思っているが、問題が発生したときや、強敵が訪れた時の対処など色々考えねばならぬこともある。
「後、魔界門とゲートを繋ぐ魔力がたまるかどうかも問題じゃないか? それに一度行って、一週間滞在してまた帰ってくるんだろ? ダンジョンに帰ってくるとき、結界陣に魔力がたまるまで何ヶ月も魔界で待たないといけないのか?」
「それについては大丈夫です、魔王会議の開催時には魔界側で魔力負担をしてもらえることになっております」
とはいえ、それを利用するような魔王はほとんどいないのですが、と続ける。
「まあ、俺達のダンジョンはまだ小さいから仕方ないな……」
呼びつけたのは向こうなのだ、それくらいは負担してもらおう。
「じゃあ魔王会議参加に向けて、俺達がいない間の防衛体制確立、それから戦力の増強を行うか。後、第四層への引越しも終わらせないとな」
魔王会議まではおよそ三ヶ月、防衛体制には万全を期さねばならない。
「はい、アーシャ達には夕食時に伝えましょう」
「そうしよう」
頷くと、とりあえず俺は購入したバスタードソードの調子を確かめるため、第三層の広間へと向かう。
バスタードソードを両手に持って正眼に構え、そのまま振る。
ヒュッと風を切る音を響かせて剣が縦に振られ、剣先を地面すれすれで止める。
そのまま横薙ぎ、袈裟斬り、突きと動きを確認していき、それが終わったら今度は片手で同様に動きを確認する。
しかし、どうにも剣筋が安定しない。片手と両手で力の配分が異なるため、ぶれてしまうのだ。
今までは武器を片手で振っていたので、そちらはまだマシなのだが、両手で振ると力が入りすぎてしまう気がする。
多分、普通の人間相手ではこれでも余裕で勝てるのだろうが、世の中には勇者と呼ばれるような冗談みたいな存在もいるようだし、修練するに越したことはない。
まあ、ここに魔王がいるのだから勇者がいたって何の不思議もないのかもしれないが。
とりあえず、今の世に勇者がいるのかはわからないが、それでも今後そういった強者が敵として現れる可能性を考えると、いつまでも身体能力ばかりに頼っているわけにはいかない。
とはいえ、今すぐそういう機会が訪れるわけではないので、時間をかけて慣らしていこう。
それにしても驚かされるのはこのバスタードソードの頑丈さである。
魔王級の武器がどれくらい頑丈なのかと思って、冒険者や兵士から奪った使い物にならない鎧で試し切りをしてみたところ、力任せにぶった切ったのに刃こぼれ一つしていなかった。
これはあれだろうか、ゲームでよくある魔法金属とか、そういう物質で出来ているのだろうか。
それに俺はまだ使えないが、武器に属性を纏わせる魔法剣なんかにも耐えられる作りになっているらしい。いいな、魔法剣、なんか厨二病心がくすぐられる。火属性を纏わせて包丁みたいに使えば「切った側から焼肉~」とかやれそう。え? 武器に対して冒涜? いいんだよ、争いで使われる機会は少ないほうが。
そんなことを考えながら、練習を切り上げた俺は食堂へと向かう。
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま」
「なるほど、魔王会議に出席するから、その間ダンジョンの防衛をしろと」
なぜ今ので伝わったんだ……
自分で言っておきながら理不尽さを感じる俺である。
「わかっているとは思いますが、私達が居ないからと言って妙なことは……」
「考えない考えない、今までの暮らしを考えたらここは天国みたいなもんだよ、本当に」
セレナがひらひらと手を振りながら答える。
「私、ここでの生活気に入ってるもん。魔王様とメリルさんには感謝してるくらいだよ」
リーゼも続ける。
「……ならばいいでしょう」
リーゼが満足しているうちは、セレナは裏切らないだろう。そう考えたのかメリルが頷く。
「悪いな、疑うような真似をして」
「ま、アタシ達が来てからまだ日が浅いしね、無理もないと思うよ。むしろアタシとしては、魔王サマはもっと他人を疑ってかかったほうがいいと思うね」
それには同意です、とメリルが首肯する。
「そうかなぁ……」
自分ではよくわからない俺である。多分日本人気質なのだと思うが。
「私はそういう魔王様のほうが好きですよっ」
どうやらリーゼは好意的にとらえてくれているらしい。
「なっ、リーゼ! 好きって!?」
そして慌てるセレナ。
「そ、そういう意味じゃないよ! お姉ちゃん!」
慌てて赤くなったリーゼが否定する。
「……まぁ、この様子なら疑わなくても大丈夫そうかね」
「……そうですね」
ちょっと生温かい視線で見ながら、頷き合う俺とメリルである。
「あれ? ところでアーシャは? なんか静かだけど……」
気になってアーシャの方を見てみると、
「飯を食いながら寝てる……だと?」
「もはや特技という域を超えてる気がするねぇ……」
「アーシャさん……」
「……」
行儀が悪いですよ、といいながらアーシャをスリッパでひっぱたくメリル。
今日もダンジョンは平和だった。
<奇人の住処>魔王宛に届いた書状について、色々と話しあうためだ。
ちなみにだが、荷物搬入の際には余計な騒動を避けるために、セレナとリーゼには自室で待機してもらった。リーゼは少々不満顔だったが、そこはセレナに説得してもらうことで対処する。リーゼは商会がどのようなものなのか気になっていたらしい。なんというか、魔物に慣れ過ぎるのも考えものである。まあ、ダンジョンの生活に馴染んでいるのはいいことなのだけれど。いつか悪い魔物にころっと騙されてしまうんじゃないかと、俺はセレナと二人で恐々としている。
閑話休題。
「俺宛に届いた書状によると、魔王会議への招待、時期は水の季節、第三の月、日付は二十日となっているが……」
リーゼから聞いたこの世界の暦は、日本で言う四季に該当するものが地水火風の属性に当てはまる。
風が春、火が夏、土が秋、水が冬という感じだ。
それぞれの季節は三ヶ月間続き、ひと月は三十日。それで一年が三百六十日という訳だ。
つまり書状にあった水の季節、第三の月の二十日というのは、地球の暦で言うと十二月二十日あたりということになる。日本じゃクリスマス商戦のまっただ中だな。
ついでに俺がこの世界に来たのは火の季節第一の月の初め頃、地球で言うと四月頃になる。四月頃で夏というのは変な感じがするが、旧暦に近いと思ってもらえればいい。ただし四月でも実際の気候は夏である。だから魔王会議が開催される十二月も、春に向けて暖かくなっていく時期ということになる。ややこしい。
そして現在は土の季節、第三の月の初め頃。秋もそろそろ終わる時期である。
もう、この世界に来てから半年近くにもなる。
「魔王会議は通常百年に一度程度しか開催されないもので、大魔王の選出を行う会議となっております」
メリルが魔王会議について補足する。
「今年が百年目なのか?」
「いえ、そういうわけではなく、恐らくランドゲルズ様がお亡くなりになり、魔王様に代替わりしたための顔合わせといったところではないでしょうか」
「なるほど、確かに俺も他の魔王とか知らないしな」
それぞれ人間界にあるダンジョンを管理している魔王がどんな人物なのか気になるところではあった。
「……ですが、正直気が乗りませんね」
「なんで?」
「恐らく我々は侮られるでしょうから。ダンジョンの規模、魔王様の出自、幹部の人数に、その出自、保有する戦力その他、数を数えればキリがありません」
「あー、なるほど」
そう言えば俺は気にしていなかったが、メリルはダークエルフだった。ある意味幹部の一員とも言えるセレナは人間だし、俺も異世界人とは言え人間。戦力は少なく、それに比例してダンジョンは小さい。他のダンジョンでは拡張が限界まで終わって外に魔物が溢れるくらいのところがあるようだし、魔物の数、質をとっても、恐らく大きな戦力差があるだろう。
「でも、行かないって訳にはいかないんだろ?」
「……ええ、ですが魔王様に不快な思いをさせる会議になるのは間違いありませんので、行かなくて良いのであれば行きたくありませんね」
心底嫌そうに漏らす。
「まあ、そこは我慢して行くしか無いな。今回行けば予定外のことがなければ百年はいかなくていいわけだし」
そもそも人間の寿命から言って、百年も生きないと思うしな、とは言わないでおく。
まぁ、魔王になってから色々と規格外になってしまったので、本当に人間の寿命で死ぬのかという疑問もあるのだが。
「そうですね……魔王様にはご迷惑をおかけすると思いますが、魔王様が不慣れな魔界をご案内するため、私も付いて行ってよろしいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼むよ。っと、そう言えば魔王会議ってのは一日で終わんのか?」
「過去の事例ですと会議の他に会食や儀式等もありますので、一週間ほどは開催することになりますね」
顎に手を当てたメリルが思い出しながら呟く。
「となると、その間のダンジョン防衛はセレナに頑張ってもらうことになるのか」
「少々不安が残りますが、そうなりますね」
俺やメリルとも打ち解けてきているのでまさか裏切るようなことはないと思っているが、問題が発生したときや、強敵が訪れた時の対処など色々考えねばならぬこともある。
「後、魔界門とゲートを繋ぐ魔力がたまるかどうかも問題じゃないか? それに一度行って、一週間滞在してまた帰ってくるんだろ? ダンジョンに帰ってくるとき、結界陣に魔力がたまるまで何ヶ月も魔界で待たないといけないのか?」
「それについては大丈夫です、魔王会議の開催時には魔界側で魔力負担をしてもらえることになっております」
とはいえ、それを利用するような魔王はほとんどいないのですが、と続ける。
「まあ、俺達のダンジョンはまだ小さいから仕方ないな……」
呼びつけたのは向こうなのだ、それくらいは負担してもらおう。
「じゃあ魔王会議参加に向けて、俺達がいない間の防衛体制確立、それから戦力の増強を行うか。後、第四層への引越しも終わらせないとな」
魔王会議まではおよそ三ヶ月、防衛体制には万全を期さねばならない。
「はい、アーシャ達には夕食時に伝えましょう」
「そうしよう」
頷くと、とりあえず俺は購入したバスタードソードの調子を確かめるため、第三層の広間へと向かう。
バスタードソードを両手に持って正眼に構え、そのまま振る。
ヒュッと風を切る音を響かせて剣が縦に振られ、剣先を地面すれすれで止める。
そのまま横薙ぎ、袈裟斬り、突きと動きを確認していき、それが終わったら今度は片手で同様に動きを確認する。
しかし、どうにも剣筋が安定しない。片手と両手で力の配分が異なるため、ぶれてしまうのだ。
今までは武器を片手で振っていたので、そちらはまだマシなのだが、両手で振ると力が入りすぎてしまう気がする。
多分、普通の人間相手ではこれでも余裕で勝てるのだろうが、世の中には勇者と呼ばれるような冗談みたいな存在もいるようだし、修練するに越したことはない。
まあ、ここに魔王がいるのだから勇者がいたって何の不思議もないのかもしれないが。
とりあえず、今の世に勇者がいるのかはわからないが、それでも今後そういった強者が敵として現れる可能性を考えると、いつまでも身体能力ばかりに頼っているわけにはいかない。
とはいえ、今すぐそういう機会が訪れるわけではないので、時間をかけて慣らしていこう。
それにしても驚かされるのはこのバスタードソードの頑丈さである。
魔王級の武器がどれくらい頑丈なのかと思って、冒険者や兵士から奪った使い物にならない鎧で試し切りをしてみたところ、力任せにぶった切ったのに刃こぼれ一つしていなかった。
これはあれだろうか、ゲームでよくある魔法金属とか、そういう物質で出来ているのだろうか。
それに俺はまだ使えないが、武器に属性を纏わせる魔法剣なんかにも耐えられる作りになっているらしい。いいな、魔法剣、なんか厨二病心がくすぐられる。火属性を纏わせて包丁みたいに使えば「切った側から焼肉~」とかやれそう。え? 武器に対して冒涜? いいんだよ、争いで使われる機会は少ないほうが。
そんなことを考えながら、練習を切り上げた俺は食堂へと向かう。
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま」
「なるほど、魔王会議に出席するから、その間ダンジョンの防衛をしろと」
なぜ今ので伝わったんだ……
自分で言っておきながら理不尽さを感じる俺である。
「わかっているとは思いますが、私達が居ないからと言って妙なことは……」
「考えない考えない、今までの暮らしを考えたらここは天国みたいなもんだよ、本当に」
セレナがひらひらと手を振りながら答える。
「私、ここでの生活気に入ってるもん。魔王様とメリルさんには感謝してるくらいだよ」
リーゼも続ける。
「……ならばいいでしょう」
リーゼが満足しているうちは、セレナは裏切らないだろう。そう考えたのかメリルが頷く。
「悪いな、疑うような真似をして」
「ま、アタシ達が来てからまだ日が浅いしね、無理もないと思うよ。むしろアタシとしては、魔王サマはもっと他人を疑ってかかったほうがいいと思うね」
それには同意です、とメリルが首肯する。
「そうかなぁ……」
自分ではよくわからない俺である。多分日本人気質なのだと思うが。
「私はそういう魔王様のほうが好きですよっ」
どうやらリーゼは好意的にとらえてくれているらしい。
「なっ、リーゼ! 好きって!?」
そして慌てるセレナ。
「そ、そういう意味じゃないよ! お姉ちゃん!」
慌てて赤くなったリーゼが否定する。
「……まぁ、この様子なら疑わなくても大丈夫そうかね」
「……そうですね」
ちょっと生温かい視線で見ながら、頷き合う俺とメリルである。
「あれ? ところでアーシャは? なんか静かだけど……」
気になってアーシャの方を見てみると、
「飯を食いながら寝てる……だと?」
「もはや特技という域を超えてる気がするねぇ……」
「アーシャさん……」
「……」
行儀が悪いですよ、といいながらアーシャをスリッパでひっぱたくメリル。
今日もダンジョンは平和だった。
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