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死神と運命の女
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アリシアは初めて感じる屈辱とともに瞬間移動を試みた。
回廊横の中庭に降り立って、彼女は即座に辺りを見回す。
「やめたほうがいい。その力は君の命を一番削っているヨ。悪魔ならともかく人間の身は空気抵抗で摩耗する。君の身体にはもうガタが来ているんだろう?」
まるで計測したかのように、彼女の念力系統能力の発動圏外に、ライア・ロビンソンは立っていた。
「……どうしてそんなに私の力について詳しいのかしら、異国のあなた」
「長く生きてると色々あるんだ。君のことも紙の上では知っていたヨ、イノセント院のアリシア」
アリシアは表情を変えないまま首を傾げた。
「もしかして国のお役人さん? あの施設に関わっていたの?」
「いや。でもあの施設をリークして潰したのは私」
ああ、とアリシアは侮蔑するように目を細める。
「……わかったわ、あなたほんと、反吐が出るくらい正義漢なのね。でもお生憎様、あそこにいた子は誰も幸せにならなかったでしょう?」
あなたの顔を見れば分かるわ、とアリシアは嗤う。
「私はあの子たちの中でも特別強かったけど、毎日毎日いろんなことをさせられて他の子は皆泣いて暮らしていたわ。途中で壊れた子も沢山いた。そんな子たちが外の世界に急に出されてもまともになんて生きられない。皆狂うわ。そんなこと、わかりきっているでしょう?」
ライアは自嘲するしかなかった。
「君は痛いところばかり突いてくるね」
「ふふっ」
アリシアは笑った。考え至ったのだ、この鼻持ちならない偽善者を仕留める方法を。
アリシアはライアの懐に瞬間移動する。
「、お前、また!」
「あなたの人生劇場をみせて」
触れるだけでいい。それだけで彼女の人生の暗闇が再生される。
心が脆い者はそれだけで溺れてしまう、それこそカルロス・ケニーのように。
しかし。
「……どうして? どうして始まらないの?」
アリシアがライアの頬に触れても、人生劇場は再生されなかった。
愕然とするアリシアから、ライアは再び距離をとって自嘲気味に笑う。
「人生の最も暗い部分を再生する能力なんて、趣味の悪い力もあるもんだネ。でも私には効かないよ、私の人生はオマケみたいなものだからね」
「そんなの、そんなの理由になるわけない! なんなのあなた!?」
アリシアは激昂する。同時に中庭の樹やオブジェに穴が空いて倒れた。
アリシアの感情の乱れに呼応して能力が暴発しているのだ。
「おいおいあんまり感情的になるナヨ!?」
「あなたが私の思い通りにならないからよ!」
ライアのすぐ横の柱に穴が空く。能力の発動圏がわずかに広がっていることにライアは気づいた。
折悪く、大きな音を聞きつけてか、エントランスのほうから王宮の使用人たちが駆け寄ってくる姿が見える。
「来るな!」
ライアが鬼気迫る表情で声を張り上げると、使用人たちはひるんで立ち止まる。
その一瞬だった。
「その甘さがあなたの命取りよ」
ナイフのような冷たい声と同時に、ライアは衝撃で吹き飛んだ。
白い石の床に吐き散らしたのは真っ赤な血だ。
まだ自分の血は赤かったんだなと、ライアは冷静に感慨に耽った。
使用人たちの悲鳴が聞こえる。
目の前で人が死にかけているのだ、その反応も頷ける。
「即死しないなんて、あなたやっぱりただの人間じゃないのね? 能力者なの?」
ただの死にぞこないなんだけどナぁと言いたかったが、言葉が出なかった。内臓を損壊したことだけは理解できる。
「先生!」
突然教え子の声が聞こえて、ライアは少しだけ視線を上げた。
ロアはすぐにライアのもとに駆け寄り、ライアを抱き起こす。
わりぃ下手したわ、と、唇を動かせたかどうかも曖昧だったが、ロアは「喋らなくていい」と泣きそうな顔で言った。
「……っアリシア――!」
憎悪の篭った声でロアが彼女の名を呼ぶと、アリシアは一瞬びくりと肩を震わせ、子供のような不機嫌さで顔をしかめる。
「だってその人私の邪魔をするんだもの! せっかく貴女に会いにここまで来たのに!」
「ふざけるな」
両手をライアの血で染めたロアが顔を上げた。
紅い視線がアリシアに突き刺さる。殺意すら感じられる鋭い眼光だった。
「……なによ。なによなによなによ! 私は! 私はあの人に会いたいだけなのに! なんで怒られなくちゃいけないの? どうしてそんな眼で見られなきゃいけないの? 私は! 私は何も悪くないわ!?」
アリシアは再度の瞬間移動を試みる。跳んだ先はロアの目の前だった。
「お願いよ、そんな目で見ないで。私を愛してよ」
「!」
アリシアの指がロアに触れる。
人生劇場は今度こそ起動した。
回廊横の中庭に降り立って、彼女は即座に辺りを見回す。
「やめたほうがいい。その力は君の命を一番削っているヨ。悪魔ならともかく人間の身は空気抵抗で摩耗する。君の身体にはもうガタが来ているんだろう?」
まるで計測したかのように、彼女の念力系統能力の発動圏外に、ライア・ロビンソンは立っていた。
「……どうしてそんなに私の力について詳しいのかしら、異国のあなた」
「長く生きてると色々あるんだ。君のことも紙の上では知っていたヨ、イノセント院のアリシア」
アリシアは表情を変えないまま首を傾げた。
「もしかして国のお役人さん? あの施設に関わっていたの?」
「いや。でもあの施設をリークして潰したのは私」
ああ、とアリシアは侮蔑するように目を細める。
「……わかったわ、あなたほんと、反吐が出るくらい正義漢なのね。でもお生憎様、あそこにいた子は誰も幸せにならなかったでしょう?」
あなたの顔を見れば分かるわ、とアリシアは嗤う。
「私はあの子たちの中でも特別強かったけど、毎日毎日いろんなことをさせられて他の子は皆泣いて暮らしていたわ。途中で壊れた子も沢山いた。そんな子たちが外の世界に急に出されてもまともになんて生きられない。皆狂うわ。そんなこと、わかりきっているでしょう?」
ライアは自嘲するしかなかった。
「君は痛いところばかり突いてくるね」
「ふふっ」
アリシアは笑った。考え至ったのだ、この鼻持ちならない偽善者を仕留める方法を。
アリシアはライアの懐に瞬間移動する。
「、お前、また!」
「あなたの人生劇場をみせて」
触れるだけでいい。それだけで彼女の人生の暗闇が再生される。
心が脆い者はそれだけで溺れてしまう、それこそカルロス・ケニーのように。
しかし。
「……どうして? どうして始まらないの?」
アリシアがライアの頬に触れても、人生劇場は再生されなかった。
愕然とするアリシアから、ライアは再び距離をとって自嘲気味に笑う。
「人生の最も暗い部分を再生する能力なんて、趣味の悪い力もあるもんだネ。でも私には効かないよ、私の人生はオマケみたいなものだからね」
「そんなの、そんなの理由になるわけない! なんなのあなた!?」
アリシアは激昂する。同時に中庭の樹やオブジェに穴が空いて倒れた。
アリシアの感情の乱れに呼応して能力が暴発しているのだ。
「おいおいあんまり感情的になるナヨ!?」
「あなたが私の思い通りにならないからよ!」
ライアのすぐ横の柱に穴が空く。能力の発動圏がわずかに広がっていることにライアは気づいた。
折悪く、大きな音を聞きつけてか、エントランスのほうから王宮の使用人たちが駆け寄ってくる姿が見える。
「来るな!」
ライアが鬼気迫る表情で声を張り上げると、使用人たちはひるんで立ち止まる。
その一瞬だった。
「その甘さがあなたの命取りよ」
ナイフのような冷たい声と同時に、ライアは衝撃で吹き飛んだ。
白い石の床に吐き散らしたのは真っ赤な血だ。
まだ自分の血は赤かったんだなと、ライアは冷静に感慨に耽った。
使用人たちの悲鳴が聞こえる。
目の前で人が死にかけているのだ、その反応も頷ける。
「即死しないなんて、あなたやっぱりただの人間じゃないのね? 能力者なの?」
ただの死にぞこないなんだけどナぁと言いたかったが、言葉が出なかった。内臓を損壊したことだけは理解できる。
「先生!」
突然教え子の声が聞こえて、ライアは少しだけ視線を上げた。
ロアはすぐにライアのもとに駆け寄り、ライアを抱き起こす。
わりぃ下手したわ、と、唇を動かせたかどうかも曖昧だったが、ロアは「喋らなくていい」と泣きそうな顔で言った。
「……っアリシア――!」
憎悪の篭った声でロアが彼女の名を呼ぶと、アリシアは一瞬びくりと肩を震わせ、子供のような不機嫌さで顔をしかめる。
「だってその人私の邪魔をするんだもの! せっかく貴女に会いにここまで来たのに!」
「ふざけるな」
両手をライアの血で染めたロアが顔を上げた。
紅い視線がアリシアに突き刺さる。殺意すら感じられる鋭い眼光だった。
「……なによ。なによなによなによ! 私は! 私はあの人に会いたいだけなのに! なんで怒られなくちゃいけないの? どうしてそんな眼で見られなきゃいけないの? 私は! 私は何も悪くないわ!?」
アリシアは再度の瞬間移動を試みる。跳んだ先はロアの目の前だった。
「お願いよ、そんな目で見ないで。私を愛してよ」
「!」
アリシアの指がロアに触れる。
人生劇場は今度こそ起動した。
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