愛なんか知らない

可悠実

文字の大きさ
上 下
55 / 63

女連れ

しおりを挟む
母から荷物が送られてきた。
なんことはない、息子にはマカダミアナッツチョコを送ってきたのだ。それと一緒にハワイでしか買えないローションとオイル、化粧品だった。中に手紙が入っていて、それらは姉に持って行ってほしいと書かれていた。
別々に送ればいいのに、と内心思ったが、母と姉には逆らえない。
仕方なく桃果に連絡して、お互い都合の良い日に桃果の新居に持っていくことにした。
「桃果の方が重いんだから、あっちに送ればいいのに」
言う相手がいない愚痴を言いながら、桃果の分を抱えて電車で向かった。
桃果の新居は住宅地にある12階建てのマンション11階にあった。
「兄さん無理したんじゃないのか」
インターフォンでオートロックを解除してもらい、少し気の毒に思いながら呼び鈴を鳴らすと、その義兄がドアを開けてくれた。
「いらっしゃい。ちょうどミキも来てるよ」
「あ‥そうですか」
曲がれ右したがる体を無理矢理抑え、案内され中に入る。
廊下を抜け、広くて明るいリビングに出た。シンプル、大人な雰囲気。
白、と言っても真っ白ではなく淡いクリーム色。所々に木目調が入っている。落ち着く。
そこにピンクの塊。塊、ではなく義理の妹、ミキだった。
「お久しぶりです。まさ」
別な名前を言いそうなことに気付き、目に力を入れる。
「雅司さん」
「そうだね、久しぶり」
普通の口調で返すと、ほっとしたように体から力を抜いた。肩が下がる。
勧められるままミキの隣に座ると、幹でも知っている有名なカップ&ソーサーをテーブルに置いた姉桃果。中には紅茶。
「ストレートで良かったよね」
「ありがとう」
手に持っていた荷物をテーブルの脇から差し出すと、嬉しそうに受け取った。
「何ですか、それ」
ミキが聞くと、
「ハワイのローションと日焼け止めとかよ。ミキちゃんの分もあるわよ」
「ほんとですか?」
どうりで重かった訳だ。
ため息が出そうになったが、飲み込んだ。
「いい部屋だね」
「そうでしょ。2人で稼いでるんだから寛げる家がいいわよね」
「オタ部屋は?」
「オタ部屋?」
「もしくは腐女部屋」
嫌がると思ったら、桃果は嬉しそうに奥の部屋を指差し、
「あそこよ。あんまり広くはないけど趣味のてんこ盛りの部屋。あのスペースがあったからここに決めたのよね」
「どうぞ」
義兄が幹の前にケーキの皿を置いた。モンブランケーキだ。
「頂きます」
「それ、私買ってきたんだからね」
ミキが得意げに言う。
「ふうん」
興味無さそうにわざと言うと、
「買うのに1時間並んだんだから」
「へぇ、ご苦労さん」
一口食べて、その美味しさに目を見張る。
「ふん、美味しいでしょ」
どや顔で言うミキ。
ちょっと悔しくなりながらも、もう一口食べる。
見た目は普通の極ありきたりのモンブランだったが、栗の味、クリームの深くて滑らかな舌触り。今までの食べたことのないモンブランだった。
「これ何処の?」
一気に食べてしまい、名残惜しそうにフォークを置くと今更ながら尋ねた。
「茨城のうちの地元のケーキ屋さんです」
名前を聞いてスマホにメモる。
近いうちに買いに行こう。
モンブランが美味しいなら、他のケーキも美味しいに違いない。
ケーキと紅茶をご馳走になり、近況の報告。
「夏休みお母さんとこ行かないの?」
桃果に聞かれ、首を左右に振る。
「仕事あるし、別に行かなくても」
「二人にハニー会わせてあげたらいいのに」
「ハニーってなんだよ」
ギクリとして姉を睨む。相手は全然気にしないでニヤニヤ。
「雅司さん、恋人いるんですね?」
ミキが食いつく。
「ハニーよりダーリンじゃないんですか?」
「ほっとけ」
幹は壁の時計を見て、慌てて
「オレ、この後用事あるから」
と、帰り支度をする。
「私も一緒に」
と、ミキも立ち上がり、兄夫婦に挨拶をする。
断る暇もなく一緒にお暇をするはめになった。
東京駅まで一緒に行き、じゃあと別れようとすると、
「甘いの食べていきません」
と和風カフェに誘われ、小豆が急に食べたくなり承知してしまった。
女の子だらけの店に2人で入った。女の子の年齢はまちまちだったけれど。
またモンブラン系統のスイーツを食べている幹にミキは少し呆れたように言った。
「本当に甘いの好きなんですね」
「好きだよ」
パフェから目線を上げて言うと、ミキは少し頬を赤らめた。
ミキはタピオカ入りほうじ茶オレを飲んでいた。
幹はさっきまでいたマンションに思いを馳せ、思わず呟いた。
「引っ越そうかな」
森川が来年一緒に暮らそうと言っていたのを思い出す。
あそこまでは無理だけど、今より少し広いところ探そうか‥。
「彼氏と暮らすんですか?」
ぐっ。
思わず吹き出すところだった。
「あのな」
「彼氏紹介してください」
彼氏、決定らしい。
「やだよ」
「いいじゃないですか」
「ぜってーやだ」
言いながらパフェを口に頬張る。
早く食べ終わって帰ろう。
「雅司さんの好きな人見たい」
「勿体なくて見せられるか」
そう言うと、ニヤニヤして幹の顔を見る。
腐女子ってみんな似るんだろうか。ニヤニヤ笑う顔が桃果にそっくりだった。
「じゃあな、オレ帰るから」
テーブルの端に置いてある伝票を掴み立ち上がる。
「じゃあ、私も行きます」
レジに行こうとして知ってる顔を見つけ足が止まる。
近くの席で森川が幹を見ていた。目を見開いて幹を凝視している。
向かえの席にはショートカットの女の子がいた。綺麗な顔立ちの子だった。
「森川君」
幹が固まっていると、後ろからミキが覗き込んで森川を見つけ、
「もしかしてこの人が」
こいつには見られたくない。そう思って慌ててミキを引っ張り店を出た。
急ぎ足で店を離れた。
「雅司さん、痛いって」
ミキに言われて慌てて、ミキの手首から手を離した。
「ごめん、急いでたから」
じゃあ、とミキに別れを一方的に告げ、自分の乗る路線へ足を向けた。後ろでミキが何か言っていたが聞こえないふりをして。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

【R18】父と息子のイケナイ関係

如月 永
BL
<あらすじ> 父:「息子を好きすぎて辛い。いつか私から離れてしまうのなんて耐えられない。だから……一生愛して支配したい」 息子:「僕がドMで変態なんて父さん知ったら嫌われちゃうよね。でも僕は母さんにしてたみたいにドSな父さんに虐めて欲しい」 父子家庭で仲良く暮らす二人は、実は長年両片思いだった。 拗らせ過ぎた愛情はやっと成就し、ご主人様と奴隷の生活が始まった。 <説明&注意点> 父×息子。近親相姦。ストーリー性0。エロ中心。ソフトSM傾向。 設定も深くありませんので、血の繋がりもそれほど気にせずとも読めるかも。 素人作品のため、作者の気分次第で視点が急に変わったり、文体が変わる傾向があります。特にエロ文章を試行錯誤中。 誤字脱字、話中の矛盾、変態プレイなど気になら方はどうぞ頭からっぽにして読んでください。 <キャラクター覚書> ●父:御主人様。40代。Sっ気あり。年齢に見合わず絶倫。妻(母)を亡くしてから息子が生きがい。歪んだ愛が蓄積し、息子を奴隷とする。 息子を育てるために、在宅で出来る仕事をし、家事全般にも優秀。 ●息子:大学生。20代。快感に弱く流されやすい。父限定で淫乱ビッチ奴隷。物心がついた頃からドMだと自覚あり。母似で、幼少は女の子とからかわれるのが嫌で、今は適度に身体を鍛えて身長も高い。通常時は父を「オヤジ」、自分を「俺」と呼ぶが、えっちな状況や気分になると「父さん」「僕」と無意識に呼び方が変わる。 ●母(故人):作中にはほぼ出ませんが、息子が小学生の頃、病気で亡くなる。父とは性癖が合い長年のセフレを経て妻になる。息子にとっては母。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...