愛なんか知らない

可悠実

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森川に
「お土産渡したいから、大学いつ来る?」
と、メールしたら帰る頃取りに行くと返事が来た。
了解の返事をしたら、直ぐ、
「この前言ってた料理作りましょうか?」
と折り返しが来た。
「時間が掛かるんじゃないか?」
と打つと、
「じゃあ、ビーフシチューは休みの日に作ります。時間が掛からないもの作ります」
帰宅時間をメールすると、脇から有田が覗き混んだ。
「彼女?」
「違いますよ」
「泣いてたあの子はどうしたの?」
「恋愛相談受けました。今頃は彼氏と上手くいってんじゃないんですか?」
「他人の相談乗ってる場合?」
「ぼちぼち行きます」
真顔で言うと、有田は笑って、
「引く手あまたでしょうけど」
「そんなこと全くないです」
「好きな子いないの?」
いつもはあっさりなのに、何故か食い付いてくる。
「どうですかね」
思わず苦笑する。
「取り敢えず誘われたらデートしてみたら?」
「今までそうして失敗してきたんです」
「でも付き合ってみないと分からないことあるし。お試しで」
「お試し、流行ってんですか?」
「化粧品だって、試してみないと自分に合ってるかわからないから」
ねっ、と笑う。
電車から降りながら、さっき有田に言われた言葉を思い出した。
(お試しったって、肌荒れしたら嫌だしな)
駅を出ると森川がガードレールに腰掛け待っていた。
「よく電車の時間分かったな」
「スマホで調べました。さっきまでバイトしてたから丁度良かったです」
二人は並んで歩く。
「結局実家帰ったの?」
「一泊だけしてきました」
「顔見せられて喜んでたろ」
「そうですね。夏休み以来なので」
「弟は可愛いか?」
「小さいなら可愛いでしょうけど、もう高校生だから。でも生意気な奴ではないです」
「弟や妹はいいな。姉貴しかいないから、年下の兄弟は羨ましい」
「そうですか?」
眩しそうな顔で笑われた。
「なに?」
「普通、弟より姉の方が羨ましがられると思って」
「そうか?その姉貴にもよるかな」
アパートに着いたので、カバンから鍵を取り出し開ける。
「散らかってるけど、どうぞ」
鍵を下駄箱の上に放り投げ、先に上がる。
「お邪魔します」
森川はいつもきちんと挨拶をする。親にちゃんと躾られたんだな。
待てはできないけど…。
テーブルの上に置いておいた袋を渡す。
「那須のお土産。ラスクだけど甘くないから酒のツマミにもなるかも。木皿と食べて」
「ありがとうございます」
「あとこれ、おまけ」
と小さい包みを渡す。
「おまけ?」
「桃果と買い物行ったとこで見つけた。オレこっち気に入ったから」
と、カバンからパスケースを出して見せた。
「入った店でこれ気に入ったから。そっちは名刺入れ。就活して相手の入れたり、就職したら自分の入れとけばいいかと思って」
幹のパスケースは革製の薄い茶色。箱の中には同じデザインの少し濃いめの茶色の名刺入れが入っていた。
「ご馳走になったお礼」
じっと名刺入れをみている森川に、
「パスケースとセットだったから、オレ名刺持ってないし。森川くんならいずれ使うかなって」
だから、と笑って、
「要らないなら誰かにあげて」
そう言うと、森川はとんでもないと首を振り、
「嬉しいです。ありがとうございます」
「ならよかった」
森川は持っていた買い物袋をテーブルに置いて、
「土鍋って有りますか?」
「小さめなのあったけど」
「これなら二人でちょうどいいですね」
幹が出した土鍋をコンロに置く。
「鍋?何鍋?」
「すき焼きです。甘いのが好きかと思って」
「鍋は大抵好きだけど、すき焼きは一番好きだな」
「じゃあ、キッチン借りますね」
手を動かしながら、
「独り暮らしなのに鍋あるなんて珍しいですね」
「それ桃果が置いてった奴。彼氏が鍋食べたいって言うから買ったらしいけど、その後要らなくなってからって」
結構。そんなのばっかあるよ。捨てられないって、オレんちに捨ててく。
そう言って笑う。
すき焼きは美味しかった。味も幹好みで甘く、生たまごで食べると、幾らでも入っていった。
「流石にもういっぱい」
〆のうどんもすっかり食べ、幹は床にごろんと横になった。
後片付けを始める森川に慌てて、
「いいよ。片付けくらいオレやるから」
森川を座らせて、自分が洗い物を始める。洗い物は少ないので直ぐ終わった。
コーヒーをいれてテーブルに運ぶ。
「いっつも食事作ってんの?」
「朝はそれぞれ適当に食べます。夜は居るときは一緒に食べますね。その時は俺が大体作ります」
「木皿は作れんの?」
「作りはしますが、うん…」
微妙な顔して、
「まあ、なんとなく分かった。オレと同じかな」
「幹さんは料理しないって言ってましたね」
「目玉焼きゆで卵サラダ」
笑って、
「焼く茹でる生」
だから料理しないも同然。
「いつも何食べてるんですか?」
と聞かれ、考えながら、
「朝は大抵パンかな。食パンの時は目玉焼きにウインナー、たまにカット野菜のサラダ、時々菓子パンや惣菜パン、あと牛乳かコーヒー。昼は大学の食堂で定食だし、夜はコンビニ弁当かインスタントラーメン?たまに外食もするな」
笑って、
「コンビニはオレの胃袋の恋人で、スルタンは愛人?」
「偏りますよ」
「まーね。たまに野菜ドカ食いしたくなる」
体が欲してるんだろーな、他人事みたいに言う。
「俺が時々作りに来ましょうか?」
「いいよいいよ。そしたら愛人が二人になっちゃうから」
その例えかたに森川は赤くなる。
「愛人ではなく恋人の方がいいです」
「コンビニの座はなかなか奪えないぞ」
笑う幹に森川は真面目な顔で、
「幹さんと一緒に暮らせたら、毎日食事作ってあげれるのに」
「シェア?木皿としてんじゃん」
「シェアでも同棲でも構いません」
「そういうのは自分で家賃出せるようになってから言えば?」
「就職したら言って良いんですか?」
「言うだけなら別に良いんじゃないか?するかどうかはまた別の話だし」
いつになく積極的な森川に幹は戸惑う。
押されるばかりは嫌だった。
「試しにって言ったよね」
「はい」
その時の事を思い出したのか、赤くなる森川。
「あれっておかしいと思うんだ」
ギクッとなる森川。心当りがあるんだろうか?
「試すんならどちらもやってみないと駄目だと思う」
「どっちも?」
首を傾げる森川。その顔にニッと笑う幹。
「そう。反対の立場もってこと」
「あっ」
やっと思い当たったのか、ビックリしてして幹をみる。
「俺ともう一度してくれるってことですか」
「そう。やられっぱなしは嫌だからね」
あっさりした口調で言う。笑った頬が少し硬い。
幹は森川を寝室へ誘う。
その背中を追いながら、森川はそっと微笑む。
「緊張してますか」
「してねーよ」
答えが早すぎる。図星だったようだ。
幹の寝室はベッドと洋服ダンスしかない。ベッドもシングルで狭い。
「狭いけど、ソファーよりはいいから」
そう言って森川をベッドに座らせ、並んで座る。
そして森川の肩に両手を置いて、顔を正面から見つめ、直ぐに反らす。
「どうします?止めますか?」
森川が言うと、
「やる」
森川は幹が必ずそう言うと思ってわざと反対の事を言った。ずるいな、と自分で思った。
幹は目元を赤くしながら、森川の唇に自分のを当てた。2度ほど当たるだけのキスをし、ペロッと舌で森川の唇を舐める。森川はその舌を自分の舌で捕まえ、受け身ではなく攻めて深いキスをする。
「うっ、ちょっ…」
幹は慌てるが、森川にがっちり腕を捕まれ逃げられない。暫く森川に角度を変えられながらキスを続けられ、息が切れそうなごろんとやっと解放される。
「オレがするんだから手出すな」
「我慢できなかったんです」
カッーと幹の顔が赤くなる。
「帰るか?」
冷ややかな目で見られ、
「我慢するように努力します」
ふん、と息を吐くと、森川のシャツのボタンを外し始める。しかし、上手くいかない。
「自分でやれよ」
「はい」
くすっと笑われ、幹は不貞腐れたように自分のセーターを脱いだ。
「自分のと反対になるから外しずらいんだよ」
「そうですね」
アンダーシャツも脱いで、ジーパンも脱ぐ。森川がボクサーパンツを脱いでしまうと、幹は目を反らした。幹もノロノロと全て脱いだ。
「ええと」
シングルベッドに並んで裸で座って、幹は途方に暮れた。女性とだったらスムーズに次へ進めた。
しかし相手は男で前回されたことで、男同士でのやり方は分かってはいるが…
「幹さん」
「な、なに?」
声がひっくり返ってしまい、ますます固くなる。
「コンドーム有りますか?」
「ベットの引き出しに確か」
森川はベットのヘッド部分にある引き出しから、開封された箱を見つける。
「しばらく前のだけど使えるだろ」
少しホッとして森川はそこから1つ取り出す。
「あとベビーオイルとかクリームとか有りますか?」
「そっちの引き出しにハンドクリームがある。仕事で手がガサガサになるからいっつも使ってるやつ」
森川は幹をベッドに押し倒した。
「話が違うだろ」
森川の胸を押して起き上がろうとしたが、びくともしない。
「今回は俺がってことで」
「なんでだよっ」
「だって幹さん進めないようだから」
肩をがしっと押さえ込まれ動けない。
「努力してみたんですけど、我慢できない」
いきなり噛みつくようにキスをしてきた。
文句を言おうとして言葉ごと森川に奪われてしまった。
舌を絡ませ、吸われ幹は息が苦しくなる。その上森川に胸当て撫でられ、体を捩らせた。
「っ、あっやめっ」
自分でも存在を忘れている乳首を摘ままれびくりとからだを震わせる。
感じたのが分かり、森川は唇から離れ右の乳首を軽く噛む。
「あっ、やめろっ」
森川の頭をそこから離そうと手をやるが、森川に吸われ反対に森川の頭を抱き締めてしまう。
「んっ」
森川はそのまま脇腹を撫でながら手を下へ動かす。
屹立したものを握られ、幹は眉をしかめる。でも先を撫でるようにされ、腰を引く。宥めるように反対の手で太ももを撫でられる。
「あぁ」
離れていた唇を探して深くキスをかわす。
太ももを撫でていた手が後ろにまわり、なだらかな山をかき分けその先を擽るように触る。
「ん」
幹は無意識に体を捩って逃れようにする。
それをがっちり押さえつけられ指を入れられた。
「う、ん」
痛くはない。森川が優しくゆっくりしてくれているから。でもやっぱり違和感は否めない。
やがて指は幹のポイントを刺激する。
「くっ、あぁっ」
あまりの刺激に幹は思わず声が出てしまい、唇を噛む。
「幹さんいいですか…」
かすれた声で囁かれ、幹は体がぶるっと震えた。
「色っぽい声出すなよ」
汗ばんだ額に髪が張り付き、シーツを掴んでいた手の甲で額を擦る。
指を増やしながら森川は、
「幹さんの感じてる顔の方が色っぽいです」
「バカかっ」
「幹さんが好きすぎてバカになってます」
女の子に言ったこともないし、言われたこともない臭い台詞に幹は赤くなる。
「やっぱバカだ」
そう言った瞬間、感じ過ぎる場所を擦られ喘ぎ声が出る。
唇にキスされ、森川が体を離す。避妊具を着けて、ハンドクリームを絞ってまた幹の足の間に入ってくる。
右の足を自分の肩に掛け、さっきまで指を入れていたところにハンドクリームを擦り付ける。
その刺激だけで前の自分自身が濡れてきてしまい、幹は内心焦る。
(どうしちまったんだろう。今までこんなに…)
「あっ」
ハンドクリームが塗られた場所に森川の屹立が当たるのを感じ、幹は目をきつく閉じる。
森川がじっくり柔らかくしてくれたおかげで痛みはなかった。でも本来ならそのような使い方する訳ではない場所に違和感は感じた。
しかしゆっくり森川が入ってくることで違和感よりも充足感が大きかった。
奥まで入ったところで、森川は幹を抱き締める。自分よりがっちりした腕に抱き締められ、胸の奥が熱くなった。
「なんか…好きかも」
小さく呟いた幹の言葉に森川はびくりと体を震わせた。
「動きます」
「えっ」
森川は体を起こし、初めはゆっくり、やがて激しく抽挿する。
「ま、ま…て」
森川の汗が幹の胸に落ちる。それを見て、森川の顔をそっと見上げる。
苦しそうなそして快感に歪んだ顔に、何故か嬉しくなる。自分で感じてくれてるんだな。
余裕な表情で森川の様子を見ていたつもりが、いつの間にか自分も追い込まれていた。
耳にキスされ中を舌で犯され、幹の中心もはち切れそうになっていく。
抽挿するときに幹のポイントに当たるよう森川がするので、幹は啜り泣きのような声をあげる。
「うっ」
森川が幹の中で弾けた。そのビクビクした反動で感じすぎた幹が白濁したもので森川の腹部を汚した。
そのまま森川は幹の体の上に覆い被さる。幹はその体を抱きしめた。
しばらく二人はそのまま激しくなった息を整えるようにじっとしていた。
「幹さん、耳弱いですよね」
「くすぐったがりなんだよ」
「違うと思います」
そう言って森川は幹の耳を優しく噛んだ。
「やめっ…な、なんだよ」
幹は自分の中に入ったままの森川が容量を増したので、慌てて引きはなそうと胸を押し退けた。
「幹さんが締めるから」
「離せ。お前が耳噛むからだろーが」
「こうなったらもう一回」
「このまましたらコンドーム破けるだろ」
む、と森川は少し考えて幹からからだを離す。抜かれるとき幹は思わず声をあげてしまい、赤くなる。
「風呂入る」
「まだです」
森川は急いで新しいものに交換し、立ち上がろうとしている幹を組敷く。
「終電間に合わなくなるぞ」
「もうギリギリ間に合いません」
「うそっ」
掛け時計を見ると、今から10分後には最後の電車が出てしまう。走って行っても間に合わない。
「泊めてもいいけど、オレは明日仕事なんだから」
「何時からですか?」
「遅番だから昼過ぎ」
「じゃあ、まだ大丈夫ですね」
と、にっこり笑う。
「大丈夫じゃ…」
肩に甘噛みされ、ひっと声をあげた。
「もう少しお付き合い下さい」
「丁寧に言ったって駄目だ」
「幹さん」
じっと見つめられ、またシェパードの顔を思い出す。
「今度カールの動画見せるよ」
「動画?」
「この前行ったとき撮ったんだ。桃果にも撮ってもらったし」
「後で見せてください」
「うん」
「幹さんどこもかしこも白いですね」
脇腹を撫でながら言う。
「くすぐったいんだよ」
体を捩りながら、
「昔から黒くないたくて焼くんだけど赤くしかなんないんだよな」
お前焼けてて羨ましいなと呟く。
森川は幹の胸にキスをして、
「幹さんはそのままでいいです。肌綺麗ですね」
「ばっ」
幹は真っ赤になって、
「恥ずかしいこと言うなっ。女じゃないんだから嬉しくねーよ」
森川の体を押しやろうとするが、ガッチリと腕を押さえられた。そしてじっと見つめられる。
「なんだよっ」
そう言う唇に噛みつかれた。激しく深いキスをされ、まだ柔らかいままの場所に森川の中心を当てられらる。
準備万端の場所に幹は慌てて、
「オレ仕事だって」
「もう少しだけ」
見つめられ鼻を耳元に擦り付けられると、拒否できない幹だった。
「ちゃっちゃと終われよ」
「約束はできませんが」
「おいっ、って…あっ」
ぐいっと森川に突かれ、掴んでいた肩にしがみついた。
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