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講演会は大学祭の1日目午後からだった。
講演会自体は3時からだったが、古平慶が大学に到着したのは2時前だった。タクシーで到着したのを幹が控え室に案内した。直ぐ香も合流した。
「本日案内させて頂きます浅香と幹です。何かご不便なことが有りましたら遠慮なく仰ってください」
「宜しくお願いします」
そう言って、男性の方が、
「僕が古平晶(しょう)です。」
握手を求められ、香、幹の順で握手する。見た目と違って力強い握手だった。
晶と代わって、
「私は古平曖。今日は宜しくお願いします」
にっこりと微笑む。写真と同じ顎の位置でカットされた髪がふわっと揺れた。
ソファーに座り、コーヒーを出す。
「コーヒーがお好きだとお聞きしていたので」
コーヒーの好みもチェック済みだ。
「編集者の方はいつ頃見えますか?」
幹が尋ねると、晶が幹をじっと見て、
「2時半には来て、準備を始める予定です」
そしてにっこりして、
「君はここの卒業生?」
「そうです。彼女も私も卒業生です。古平さんもそうだと伺ってます」
「卒業生同士宜しくね」
「はい」
返事しながら、変な感じがした。
なんか視線が馴れ馴れしいというか、なんか視姦されてるみたいだ。
背中に嫌な汗をかきそうだ。
香を見ると、曖と笑顔で話をしている。でもいつもの香の笑顔ではない気がする。違和感。
取り敢えず編集者が到着するまでなんとか時間稼ぎをしなくてはと考える。
なんかめんどくさそうな二人だな…。
香と目が合い苦笑した。あちらもそう思ってるようだ。
「在学中からお仕事されていたんですね」
雑誌のインタビューに書かれていたことを言ってみた。
「そう。その頃はほとんど売れてないけどね」
「仕事と学業両立は大変ですね」
去年は自分もそれに近かったなと思いながら話を振った。
曖と香もこちらを見ていた。幹は曖の方を向いて、「もう少し何かお飲みになりますか?」
と、聞いた。カップが空になっていた。
「もう充分頂きました」
ね、と何故か香に同意を求める。香は誤魔化すような笑い方をした。
編集者は予定より5分ほど早く到着した。
「谷倉と申します」
幹と香に名刺を配る。
「彼もここの卒業生で僕たちと同級なんだよ」
幹と余り変わらなく見える。晶と同い年なら28歳のはずだか、童顔のせいか若く見える。
「こんな若い職員さんとは思いませんでした」
学生ではなく、職員と希望したのは谷倉らしい。
年配の職員を希望していたようだ。
「若輩者ですが、ご不便をお掛けしないよう勤めさせていただきます」
そう笑顔で言うと、谷倉は少し眉をひそめて、ちらっと晶を伺う。
「心配ないよ」
晶は谷倉の思惑を気付かない振りで、幹の肩に手を置いた。幹はそっと姿勢を変え、香の方を向いた。肩から手が外れた。
「会場の方へ移動しようか?」
「そうね。ご案内します」
幹は谷倉を、香は晶と曖をそれぞれの持ち場へ案内した。
会場の入口にテーブルが三台置かれていた。
「この場所に本を置いて頂いて、先生方はこちらのテーブルでサイン会をしていただきます」
一台のテーブルには椅子が2脚置かれている。
「講演が始まってから本を運びいれます。他に2名本の販売の手伝いが来ますので宜しくお願いします」
「了解しました」
谷倉はまだ何か言いたそうにしていた。
「後は何か有りますか?」
「あ。いいえ」
では外に居るスタッフに声を掛けてきますと言って出ていった。
講演会は時間通り3時に始まった。大学で一番大きい階段教室で300人近く受講者が集まった。学生ばかりでなくポスターで集まった一般人も半数はいた。老若男女と言ったところか。
一時間二人で交互に話し、残り30分は質問コーナーで、二人は笑いを引き出しながら答えていた。
(さすがに小説家。話がうまいな)
感心しながら幹は、二人の話を教室の扉の前で聞いていた。
扇状に広がり後ろに従って高くなる教室は、下から見上げると圧倒される雰囲気がある。それでも晶や曖はそんなこと感じないかのように滑らかに話をしていた。
(オレだったらあがってしまって話なんか出来ないな)
170あるかないかの華奢な体の晶、クレオパトラのようなキリリとした横顔で160いかない細い骨格の曖。
どちらも力強く見えないのに、大きくみえた。存在感があった。
たぶんこの受講者の中に紛れ込んでもすぐ見つかるんだろうな、そう思えた。
そう思った時、森川と木皿を見つけた。教室の中程窓際の席に二人は座っていた。
あいつらも存在感あるのか。あの中から見つけてしまった。
森川は幹がそちらを見たのに気付いたようだ。幹に向かって頭を少し下げて見せる。
幹は唇の端を上げた。森川が目を見張ったのに気付かず、講演者の方へ視線を戻した。
講演会自体は3時からだったが、古平慶が大学に到着したのは2時前だった。タクシーで到着したのを幹が控え室に案内した。直ぐ香も合流した。
「本日案内させて頂きます浅香と幹です。何かご不便なことが有りましたら遠慮なく仰ってください」
「宜しくお願いします」
そう言って、男性の方が、
「僕が古平晶(しょう)です。」
握手を求められ、香、幹の順で握手する。見た目と違って力強い握手だった。
晶と代わって、
「私は古平曖。今日は宜しくお願いします」
にっこりと微笑む。写真と同じ顎の位置でカットされた髪がふわっと揺れた。
ソファーに座り、コーヒーを出す。
「コーヒーがお好きだとお聞きしていたので」
コーヒーの好みもチェック済みだ。
「編集者の方はいつ頃見えますか?」
幹が尋ねると、晶が幹をじっと見て、
「2時半には来て、準備を始める予定です」
そしてにっこりして、
「君はここの卒業生?」
「そうです。彼女も私も卒業生です。古平さんもそうだと伺ってます」
「卒業生同士宜しくね」
「はい」
返事しながら、変な感じがした。
なんか視線が馴れ馴れしいというか、なんか視姦されてるみたいだ。
背中に嫌な汗をかきそうだ。
香を見ると、曖と笑顔で話をしている。でもいつもの香の笑顔ではない気がする。違和感。
取り敢えず編集者が到着するまでなんとか時間稼ぎをしなくてはと考える。
なんかめんどくさそうな二人だな…。
香と目が合い苦笑した。あちらもそう思ってるようだ。
「在学中からお仕事されていたんですね」
雑誌のインタビューに書かれていたことを言ってみた。
「そう。その頃はほとんど売れてないけどね」
「仕事と学業両立は大変ですね」
去年は自分もそれに近かったなと思いながら話を振った。
曖と香もこちらを見ていた。幹は曖の方を向いて、「もう少し何かお飲みになりますか?」
と、聞いた。カップが空になっていた。
「もう充分頂きました」
ね、と何故か香に同意を求める。香は誤魔化すような笑い方をした。
編集者は予定より5分ほど早く到着した。
「谷倉と申します」
幹と香に名刺を配る。
「彼もここの卒業生で僕たちと同級なんだよ」
幹と余り変わらなく見える。晶と同い年なら28歳のはずだか、童顔のせいか若く見える。
「こんな若い職員さんとは思いませんでした」
学生ではなく、職員と希望したのは谷倉らしい。
年配の職員を希望していたようだ。
「若輩者ですが、ご不便をお掛けしないよう勤めさせていただきます」
そう笑顔で言うと、谷倉は少し眉をひそめて、ちらっと晶を伺う。
「心配ないよ」
晶は谷倉の思惑を気付かない振りで、幹の肩に手を置いた。幹はそっと姿勢を変え、香の方を向いた。肩から手が外れた。
「会場の方へ移動しようか?」
「そうね。ご案内します」
幹は谷倉を、香は晶と曖をそれぞれの持ち場へ案内した。
会場の入口にテーブルが三台置かれていた。
「この場所に本を置いて頂いて、先生方はこちらのテーブルでサイン会をしていただきます」
一台のテーブルには椅子が2脚置かれている。
「講演が始まってから本を運びいれます。他に2名本の販売の手伝いが来ますので宜しくお願いします」
「了解しました」
谷倉はまだ何か言いたそうにしていた。
「後は何か有りますか?」
「あ。いいえ」
では外に居るスタッフに声を掛けてきますと言って出ていった。
講演会は時間通り3時に始まった。大学で一番大きい階段教室で300人近く受講者が集まった。学生ばかりでなくポスターで集まった一般人も半数はいた。老若男女と言ったところか。
一時間二人で交互に話し、残り30分は質問コーナーで、二人は笑いを引き出しながら答えていた。
(さすがに小説家。話がうまいな)
感心しながら幹は、二人の話を教室の扉の前で聞いていた。
扇状に広がり後ろに従って高くなる教室は、下から見上げると圧倒される雰囲気がある。それでも晶や曖はそんなこと感じないかのように滑らかに話をしていた。
(オレだったらあがってしまって話なんか出来ないな)
170あるかないかの華奢な体の晶、クレオパトラのようなキリリとした横顔で160いかない細い骨格の曖。
どちらも力強く見えないのに、大きくみえた。存在感があった。
たぶんこの受講者の中に紛れ込んでもすぐ見つかるんだろうな、そう思えた。
そう思った時、森川と木皿を見つけた。教室の中程窓際の席に二人は座っていた。
あいつらも存在感あるのか。あの中から見つけてしまった。
森川は幹がそちらを見たのに気付いたようだ。幹に向かって頭を少し下げて見せる。
幹は唇の端を上げた。森川が目を見張ったのに気付かず、講演者の方へ視線を戻した。
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