愛なんか知らない

可悠実

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仕事終わり、駅を出た途端スマホが鳴った。
「うえっ」
相手を確認して、思わず声が出た。
「桃果」
ー雅司。元気だった?
「ついさっきまでは元気だった」
ー何言ってんのよ。私の声聞いたら元気になるでしょうが
「何の用だよ」
ー今晩泊めて
「やだ」
ーホテル取れなくて、頼むから
「男んとこ泊まればいいじゃん」
ー別れたわよ、2か月前に。
「逃げられたか」
ーイベントまで我慢すれば良かった。
「うちは泊めないよ」
ーそんなことは言っていいのかな
桃果は色っぽく笑う。
「…分かったよ。で、今何処?」
「ここ!」
直ぐ近くから声が聞こえた。
今改札口から女性が手を降って出てきた。
大きいキャリーバックを引いて。背の高い、170近いだろうか、しっかりメイクの美人。キャリアウーマンな感じだ。年の頃は25.6位か。
「はい」
当然の様にキャリーを幹に渡す。幹もため息を付きながら受け取った。
大きさの割に軽かった。
「イベント?」
「そうよ。めちゃくちゃ楽しみ。明日は早いから気にしないでね」
「はいはい。もしかして香と会う?」
「約束はしてないけど、たぶんね」
桃果も香と同じ腐女子たった。
(なんでオレの周りはこんなんばっかりなんだろう)
ストーカーといい、友人、家族皆規格外ばっかり。最近つくづくそう思う。
「お腹減った。何か食べてこう」
「カレーでいい?」
直ぐいつものカレー屋さんに着いた。
「いいね、インドカレーか」
桃果がドアを開けると、
「いらっしゃいませ」
いつもと違いしっかりした日本語で声を掛けられた。
「おっ、イケメン」
桃果が小さく言う。その言葉は聞こえなかったようだが、次いで入ってきた幹を見ると店員はぎょっとしたようだ。
幹も相手を認め頷いて見せた。
「こんにちは」
店員は森川晃だった。
「雅司、ここ座ろう」
「ああ」
まだ席はほとんど空いていた。平日の6時はまだ早い。
桃果が座った奥のテーブルに着く。
「ここよく来るの?」
「引越してから見つけた」
「へぇ」
森川が水の張ったコップを2つ置く。
「ここ日本人もいたんた?」
幹に声を掛けられた森川は無愛想な顔で頷く。
店に入ったときは笑顔だったのにな、と思う。オレに気付いてからこの顔になったな。
「でもいつもは森川君いないよね」
「いつもは厨房にいるから」
「なるほど」
「決まったら呼んでください」
すっとカウンターに戻っていった。
「知ってるの?」
「うちの大学生」
「へぇー」
ニヤリと笑われ、嫌な予感しかしなかった。
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