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第二章 国渡りへ
第五十四話 囚われの身
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「あーあー。俺もルークの馬車が良かったなーー」
「こらこら、今更文句言わないでくださいよ。僕と一緒で何が不満なんですか」
「そりゃ向こうにはシロナもいるしー?ルークをからかえて面白いじゃん。モノじぃと二人旅なんて·····あーあー」
「そ、そんなあからさまに嫌がらなくてもいいのでは·····というか、そろそろ手網代わってくださいよ。僕はこれでも老体なんですから」
「はいはーい」
ジェイトと僕は海底国トルベルと雪山国ネジュに向けて旅をしていた。
海底国への道のりは何事も無ければ約5日程かかる。
旅に慣れているこの2人は、シロナ達に比べて少し過酷な旅路を強いられた。
その方がスカーレットも安心だったのだろう。
僕はよく団長に頼まれて国外へ出る事が多いし、ジェイトも過去のバイトでよく国外へ行っていたらしい。
長く生きていても彼の事はいまいちよく分からない。僕の考えていることを飛び越えてくるので毎度驚かされる。
「なぁモノじぃ」
「なんですか?代わってくれる気になりました?」
「んや、モノじぃってさ·········シロナの事どう思ってんの?」
·····ほら、また突拍子もないことを··········。
「どうも何も、彼女は僕の可愛い孫弟子ですよ」
「ふーん·····。本当に可愛いと思ってる?」
口元は笑っているのに、目が笑っていないジェイト。
全く·····この子は本当に怖い子ですね·····。
「もちろん思ってますよ!·····何が言いたいのかな?ジェイト君」
「いんや別に?ただ昔は争っていた闇精霊術師と光精霊術師が近くにいるのってどうなのかなーって思っただけだぜ」
「··········僕は闇精霊を恨んでいるわけじゃありませんからね。確かに昔は敵対していましたが、別に今もそれをしなくてはならない理由がありませんし、僕になんのメリットも無いですから」
本当に恨んでなどいない·····。
別に僕は嘘をついていない。
しかし、ジェイトは更に問い詰めてくる。
疑いの目をして。
「ほんとーにー?‥‥‥まぁシロナは最近それを知ったばかりだしなぁ。寧ろシロナは恨まれるよりその運命を恨んだ方が自然だ··········あの子は凄いよ。
父親が死んで、自分は元始の魔女の子供だと言われてしかも精霊憑きで呪いまでなんてな。
俺だったらヤケになるし、全てを壊したくなる。
なのにあの子は必死に頑張ってる。どうにかしてぇって、魔物を守りたいって‥‥‥恩返しがしたいってさ‥‥。
けど、あんたはどうなんだ?モノじぃ···············。
あんたさ··········今歳いくつだ?」
「····················」
流れる沈黙。
馬車が進む音だけが耳に入ってくる。
この質問の意味。
恐らく僕がいつの時代の人間なのかを知りたい質問·····。
それを知ってどうする気なのか·····
ふふ。
本当に·····この子は怖い子ですよ·····。
僕は振り向き、満面の笑みを浮かべてジェイトに言った。
「もうジェイト君!老人を虐めるのは止めてくださいよ~。質問の意図がいまいち分かりませんが、僕はもう歳を数えるのを止めちゃったんで分からないですね。とりあえず元団長より年上って事だけは言えますよ」
「モノじぃマジ仙人級~」
「うるさいですよ。ほらこの辺りで休憩にしましょうか、僕はもう疲れちゃいましたから」
馬車は何もない荒野を走り続けていた。
話を終わらす為にわざと休憩を促すモノン。ジェイトもこれ以上話を聞き出すのは無理だと判断したのかもうその話題を振ろうとはしなかった。
馬車を停めて荷台から飛び降りるジェイトはグイッと背伸びをして、青い空を見上げ遥か遠くを見つめる。
「今頃二人はどこにいんのかなぁ。喧嘩してなきゃいいけど」
しかし
ジェイトの心配は‥‥‥‥残念ながら見事に的中していた。
「ルークのバカ!何でちゃんと説明しないんだ!ていうか狭いっ、もっとそっち詰めてくれ」
「説明したって無駄。俺達は魔物だ‥‥どうせ信用してもらえない、あとこれ以上詰めたらレヴォルが潰れる」
「ちょっと二人とも~っこんな狭い所で喧嘩しないでよ~っ」
今、ギルドが所有する馬車に詰め込まれている。
中は荷物が積み重なっており、僅かな狭いスペースに拘束された。
私達が乗ってきた馬車はギルドの人が乗って運んでくれている。
ギルドのマントを羽織った人間が十数名、それを指揮しているリーダーであろう人物が荷台に顔をのぞかせた。
その人は先ほど火炎魔法で仲裁した女の人。
見た目的におそらく私の二つか三つ年上のお姉さん。
髪はこの辺では珍しい黒でナディアより色は濃いめ。セミロングの髪を右に流して一つに束ねている。
瞳の色は燃えるような赤。腰にはルークと似た刀を差していた。
私と目が合うとゆっくりその口を開く。
「騒ぐな魔物。街までもうすぐだ、しばらくそこでじっとしていろ」
どうしてこんな事になっているのかというと、それは少し前に遡れば分かる。
「そこまでだ!」
火炎魔法と共に現れた少女。
ギルドの紋章の刺繍が施されたマントを翻す。
ロギと盗賊の魔法が相殺された為、お互いの視線は少女に集中している。
味方か?
そう思った。
何故なら盗賊がえらく動揺しており顔が引きつっているからだ。
盗賊にとってあの人は出くわしたくない人物だったのだろう。
「に、逃げるぞテメェら!」
盗賊リーダーは下っ端に怒鳴り、全員一目散に散り散りになって逃走を図った。
山に登って逃げる者、道の反対側を行こうとする者。しかし、全員ピタッと足を止める。
逃げた先々に少女と同じギルドのマントを羽織った人間が隠れていて、盗賊が逃げないように道を遮ったのだ。
数は盗賊の倍ほど。実力も盗賊よりおそらく上‥‥数でも力でも盗賊に勝機などありはしなかった。
「クソッ!囲まれていやがったのか‥‥っ」
「逃げようとしても無駄だ。このギルドの面汚しめ‥‥被害情報を辿ってきてみて正解だった。大人しくしてもらおうか」
「ふざけんな!俺達を追放しやがったくせして!!」
「馬鹿野郎どもめ·····!ギルドから追放されたからといって外で悪さを働いてもいいって訳じゃないだろう。
お前等は王の命により牢獄に入ってもらう。大人しく同行願おうか」
少女が合図を送ると一斉にギルドの人間が盗賊を拘束し縄で縛りだした。
盗賊達は為す術もなく、ギルドの牢馬車へ乱暴に詰め込まれていく。
盗賊リーダーが牢馬車に連れていかれる時私たちの方を睨んで
「これで終わりと思うなよ魔物」
と眉をひそめ小さく呟いた。
取り敢えず私達は助けられたって事でいいのか·····な?
ロギは興醒めしたのか「チッ」と舌打ちをし精神世界に戻って行った。
私の意識が身体に戻り、突然の出来事で呆然と立ちつくしているとレヴォルとルークが駆け寄ってきてくれた。
コハクも心配して私の頬をスリスリしてくる。
「んもーっ!シロナちゃんいきなり飛んでっちゃうんだから!ビックリしたよ」
「仕方ない、ロギアンの仕業だろ。·····怪我はないか」
「あ、あぁ。大丈夫!何処も怪我してないぞ」
その一言に安堵したのか小さくため息をつく。
「そうか·····よかった」
先程の怖い顔とは一変して、穏やかで優しいいつもの表情に戻っているルークを見て、私も安心し微笑み返す。
これで一件落着と思えた。
しかし、穏やかだったルークの顔はまたしても険しいものとなり何かを睨みつけている。
「ルーク?」
足音が背後から聞こえてきて振り返ると、何故か今度は私達を囲ってギルドの人間が戦闘態勢に入っていた。
「こらこら、今更文句言わないでくださいよ。僕と一緒で何が不満なんですか」
「そりゃ向こうにはシロナもいるしー?ルークをからかえて面白いじゃん。モノじぃと二人旅なんて·····あーあー」
「そ、そんなあからさまに嫌がらなくてもいいのでは·····というか、そろそろ手網代わってくださいよ。僕はこれでも老体なんですから」
「はいはーい」
ジェイトと僕は海底国トルベルと雪山国ネジュに向けて旅をしていた。
海底国への道のりは何事も無ければ約5日程かかる。
旅に慣れているこの2人は、シロナ達に比べて少し過酷な旅路を強いられた。
その方がスカーレットも安心だったのだろう。
僕はよく団長に頼まれて国外へ出る事が多いし、ジェイトも過去のバイトでよく国外へ行っていたらしい。
長く生きていても彼の事はいまいちよく分からない。僕の考えていることを飛び越えてくるので毎度驚かされる。
「なぁモノじぃ」
「なんですか?代わってくれる気になりました?」
「んや、モノじぃってさ·········シロナの事どう思ってんの?」
·····ほら、また突拍子もないことを··········。
「どうも何も、彼女は僕の可愛い孫弟子ですよ」
「ふーん·····。本当に可愛いと思ってる?」
口元は笑っているのに、目が笑っていないジェイト。
全く·····この子は本当に怖い子ですね·····。
「もちろん思ってますよ!·····何が言いたいのかな?ジェイト君」
「いんや別に?ただ昔は争っていた闇精霊術師と光精霊術師が近くにいるのってどうなのかなーって思っただけだぜ」
「··········僕は闇精霊を恨んでいるわけじゃありませんからね。確かに昔は敵対していましたが、別に今もそれをしなくてはならない理由がありませんし、僕になんのメリットも無いですから」
本当に恨んでなどいない·····。
別に僕は嘘をついていない。
しかし、ジェイトは更に問い詰めてくる。
疑いの目をして。
「ほんとーにー?‥‥‥まぁシロナは最近それを知ったばかりだしなぁ。寧ろシロナは恨まれるよりその運命を恨んだ方が自然だ··········あの子は凄いよ。
父親が死んで、自分は元始の魔女の子供だと言われてしかも精霊憑きで呪いまでなんてな。
俺だったらヤケになるし、全てを壊したくなる。
なのにあの子は必死に頑張ってる。どうにかしてぇって、魔物を守りたいって‥‥‥恩返しがしたいってさ‥‥。
けど、あんたはどうなんだ?モノじぃ···············。
あんたさ··········今歳いくつだ?」
「····················」
流れる沈黙。
馬車が進む音だけが耳に入ってくる。
この質問の意味。
恐らく僕がいつの時代の人間なのかを知りたい質問·····。
それを知ってどうする気なのか·····
ふふ。
本当に·····この子は怖い子ですよ·····。
僕は振り向き、満面の笑みを浮かべてジェイトに言った。
「もうジェイト君!老人を虐めるのは止めてくださいよ~。質問の意図がいまいち分かりませんが、僕はもう歳を数えるのを止めちゃったんで分からないですね。とりあえず元団長より年上って事だけは言えますよ」
「モノじぃマジ仙人級~」
「うるさいですよ。ほらこの辺りで休憩にしましょうか、僕はもう疲れちゃいましたから」
馬車は何もない荒野を走り続けていた。
話を終わらす為にわざと休憩を促すモノン。ジェイトもこれ以上話を聞き出すのは無理だと判断したのかもうその話題を振ろうとはしなかった。
馬車を停めて荷台から飛び降りるジェイトはグイッと背伸びをして、青い空を見上げ遥か遠くを見つめる。
「今頃二人はどこにいんのかなぁ。喧嘩してなきゃいいけど」
しかし
ジェイトの心配は‥‥‥‥残念ながら見事に的中していた。
「ルークのバカ!何でちゃんと説明しないんだ!ていうか狭いっ、もっとそっち詰めてくれ」
「説明したって無駄。俺達は魔物だ‥‥どうせ信用してもらえない、あとこれ以上詰めたらレヴォルが潰れる」
「ちょっと二人とも~っこんな狭い所で喧嘩しないでよ~っ」
今、ギルドが所有する馬車に詰め込まれている。
中は荷物が積み重なっており、僅かな狭いスペースに拘束された。
私達が乗ってきた馬車はギルドの人が乗って運んでくれている。
ギルドのマントを羽織った人間が十数名、それを指揮しているリーダーであろう人物が荷台に顔をのぞかせた。
その人は先ほど火炎魔法で仲裁した女の人。
見た目的におそらく私の二つか三つ年上のお姉さん。
髪はこの辺では珍しい黒でナディアより色は濃いめ。セミロングの髪を右に流して一つに束ねている。
瞳の色は燃えるような赤。腰にはルークと似た刀を差していた。
私と目が合うとゆっくりその口を開く。
「騒ぐな魔物。街までもうすぐだ、しばらくそこでじっとしていろ」
どうしてこんな事になっているのかというと、それは少し前に遡れば分かる。
「そこまでだ!」
火炎魔法と共に現れた少女。
ギルドの紋章の刺繍が施されたマントを翻す。
ロギと盗賊の魔法が相殺された為、お互いの視線は少女に集中している。
味方か?
そう思った。
何故なら盗賊がえらく動揺しており顔が引きつっているからだ。
盗賊にとってあの人は出くわしたくない人物だったのだろう。
「に、逃げるぞテメェら!」
盗賊リーダーは下っ端に怒鳴り、全員一目散に散り散りになって逃走を図った。
山に登って逃げる者、道の反対側を行こうとする者。しかし、全員ピタッと足を止める。
逃げた先々に少女と同じギルドのマントを羽織った人間が隠れていて、盗賊が逃げないように道を遮ったのだ。
数は盗賊の倍ほど。実力も盗賊よりおそらく上‥‥数でも力でも盗賊に勝機などありはしなかった。
「クソッ!囲まれていやがったのか‥‥っ」
「逃げようとしても無駄だ。このギルドの面汚しめ‥‥被害情報を辿ってきてみて正解だった。大人しくしてもらおうか」
「ふざけんな!俺達を追放しやがったくせして!!」
「馬鹿野郎どもめ·····!ギルドから追放されたからといって外で悪さを働いてもいいって訳じゃないだろう。
お前等は王の命により牢獄に入ってもらう。大人しく同行願おうか」
少女が合図を送ると一斉にギルドの人間が盗賊を拘束し縄で縛りだした。
盗賊達は為す術もなく、ギルドの牢馬車へ乱暴に詰め込まれていく。
盗賊リーダーが牢馬車に連れていかれる時私たちの方を睨んで
「これで終わりと思うなよ魔物」
と眉をひそめ小さく呟いた。
取り敢えず私達は助けられたって事でいいのか·····な?
ロギは興醒めしたのか「チッ」と舌打ちをし精神世界に戻って行った。
私の意識が身体に戻り、突然の出来事で呆然と立ちつくしているとレヴォルとルークが駆け寄ってきてくれた。
コハクも心配して私の頬をスリスリしてくる。
「んもーっ!シロナちゃんいきなり飛んでっちゃうんだから!ビックリしたよ」
「仕方ない、ロギアンの仕業だろ。·····怪我はないか」
「あ、あぁ。大丈夫!何処も怪我してないぞ」
その一言に安堵したのか小さくため息をつく。
「そうか·····よかった」
先程の怖い顔とは一変して、穏やかで優しいいつもの表情に戻っているルークを見て、私も安心し微笑み返す。
これで一件落着と思えた。
しかし、穏やかだったルークの顔はまたしても険しいものとなり何かを睨みつけている。
「ルーク?」
足音が背後から聞こえてきて振り返ると、何故か今度は私達を囲ってギルドの人間が戦闘態勢に入っていた。
応援ありがとうございます!
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