灰色ノ魔女

マメ電9

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第二章 国渡りへ

第五十一話 いつか

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空は満天の星。

私達は焚き火を囲んで、ルークの作った晩御飯を食べていた。
ミルクで煮込んだスープの中に、先程手に入った白兎の肉が入っているのだが·····

「····················」

「どうしたシロナ。さっさと食べろ、冷めるぞ」

「·····う、うん·····」


いや、もちろん食べたいんだけど·····。
さっき襲ってきたヤツを、すぐ食べるってのが何か、ほら、気持ち的に·····な?

でも·····凄くいい匂いがする。

一口含むと、柔らかくほろけていくお肉。
そして味も濃厚でめちゃくちゃ美味しい!!

体も温まって緊張していた体が解れていく感じ。


「うまぁ·····!」

思わず零れた言葉に、ルークはクスッと微笑んでスープを口に運んだ。

「う~んっ!美味い!!いやぁ、白兎を見つけてきたシロナちゃんも凄いけど、ルーク君も流石だね~!
もう武器魔装も完璧じゃないか。
数年でよく腕を上げたよ全く」

一気に食べ切ったレヴォルが、よっぽど気に入ったのかおかわりを注いでいる。


さっき大盛りを食べてた気がするけど·····レヴォルは結構大食いなのか?

って!ちょっと待て!
私も早く食べないとおかわりが無くなるんじゃっ?!
それは駄目だ!

折角の珍しい白兎のお肉。
食べれる時に食べないと勿体ない!


そう思った私は、急いでガツガツ食べる。

「おいおい、そんな急いで食べたら喉に詰め·····」

モッモッモッと食べ進めていく私だったが、案の定喉に詰めた。

「むぐっ?!~~~っ!!」

「馬鹿だな·····ほら」

苦しそうにする私に水を渡し、それを一気飲みする。
助かった~と言いうように深いため息をついた。


「ふぁ~·····。ありがとうルーク·····」

「もう少し落ち着きをもてないのか·····。ほら、口の横についてるぞ」

「つ、ついてんじゃない!わざと付けてるんだ!」

何か子供扱いされている様で腹が立ったのと、恥ずかしさから俯いてゴシゴシと口を拭く。


その様子をまたもニヤニヤとしながら見つめるレヴォル。

「本当に仲が良いね~。
そういえば、あの時シロナちゃんは魔装が出来てたね?
なら武器魔装もコツを掴めば出来るようになるんじゃないかな~」


魔装?

あの時?

「ほら!闘技場で電気魔法を体に纏わせてたでしょ?それと、闇魔法もかな?

·····って、あれ?もしかして無自覚でやってたの??」


あぁ!あの時のか!

闘技場と言われて初めて気づいた。
でも、あの時の魔法は私が操ってたんじゃなくてロギが手伝ってくれてたから·····
習得したってわけじゃないんだよな·····。

今日の昼に、漸く影を操れるようになったところだし。


「まぁ、偶然できてたとしても後はコツさえ掴めば出来るようになるからね。
そう難しい顔しなくていいっていいって!

なんなら、道中オレが稽古つけてやってもいいよ?」

「えっ?!本当か!!」

「うん!全然いいよー!これでも師匠をしているからね~。
教えるのは得意だよ」


まさかの言葉に、歓喜あまって立ち上がる私。

まだ闇魔法を完全にものにした訳じゃないから、モノンに指導受けてすぐ国渡に出るのは不安だった。

レヴォルなら、スカーレットの師匠もしているんだし安心出来る!

·····まぁ、おさわり以外の話だが·····。


「じゃぁよろしく頼む!」

するとレヴォルは親指を立ててニカッと笑った。

「おうよ!へへ、任せといて」

つられて私もニカッと笑う。







隣国のユスティーツまでは、あと2日の道のり。
今晩はレヴォルが夜の番をしてくれると言うので、お言葉に甘えて私とルークは眠りについた。


焚き火の傍で簡易毛布に包み寝ていた。
私の隣で眠ってるコハクが寝返りを打って、尻尾が私の顔に当たった。

「·····っ」

寝ぼけながら払い除けると、何やらカチャ、カチャと金属の開け閉めする音が聞こえてくる。

夜中、半分寝ぼけていたのでよく覚えていないけど·····
ふと目が覚めてレヴォルの方を見ると、服の中にしまっていたのだろうか。

首から下げているロケットの様なものを取り出し開いて、切ない表情で眺めていた。


聞いてみようと思ったけど、眠気が強すぎてそのまま眠り朝を迎えてしまった。



「おっぱよー!さぁそろそろ行くよー」

朝目が覚めると、レヴォルはいつもの感じに戻っていた。

昨晩の事·····は、また機会があれば聞いてみよう·····。


荷物を全て荷車に戻し、私達は馬車に乗り込んだ。
コハクは馬と仲良くなったみたいで、昨日は屋根の上にいたのに今日は馬の頭の上に乗っている。

レヴォルとルークは昨日と同じ位置に座り、私は後ろの席に足を外へ放り出して景色を眺めていた。

今日もいい天気で、雲一つない。


今までいた場所が段々と離れていくのを眺めていると、見た事ある村が目の端に映った。

「あ·····あれは·····」

「んー?シロナちゃんどうかした?」

「え、あぁ、ううん。別に何でも·····!」

「ふーん。そう?ならいいけど·····」

突然独り言を呟いたので、レヴォルがそれに反応してしまった。


多分あの村は、私がいた場所。
村の外から見るのは、これが2回目かな?

あの捨てられた日の夜、遠目での街灯りを見て以来だ·····


いや、別にレヴォルに隠してるつもりは無い。
無いのだけど·····。

あそこでは少し、色々ありすぎたせいで意識するのが怖い·····。
だからあまり話したくない·····。

ロギに過去の事は教えてもらったけど·····やっぱり頭で分かっていても、体が拒絶反応を起こしてしまう。


近寄りたくないって·····。


でも、あそこにはナディアがいる。
後、父さんの家が残ってれば、きっと母さんの事が分かる何かがあるはずだ。

あの女が、父さんから預かっているものを持っているかもしれないし、会いたくないけど·····会わなくちゃいけない·····。


だからいつか·····私がもう少し強くなったら·····。



そんなことを考えていると、心の中で


「《心配すんな·····てめぇ一人じゃねぇ、俺が居んだろ·····》」


そう声を掛けてくれるロギの声がした。


段々と遠ざかって見えなくなっていく村を眺め·····

小さく


「·····うん」


と答えた。



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