灰色ノ魔女

マメ電9

文字の大きさ
上 下
48 / 56
第二章 国渡りへ

第四十八話 旅立ち

しおりを挟む

騎士団長スカーレットはいつにも増して真剣な表情で話し出した。

「今回君達に集まってもらった理由は二つある。本来この任務は私がこなすべきなのだろうが、もしもの事態にそなえ、ここに残るべきだと判断した」


任務·····?
団長がする程の任務を私達が?

一体どんな内容なんだ·····そんな大変そうな事をどうして私達に·····
他の兵士では務まらないのだろうか·····。


「率直に言おう·····。

君達には他国に足を運んでもらいたい。

隣国のヴァラバレイで甚大な被害を受けている。その被害が他国支部でも広がっていないか確認調査と、各支部長にこの手紙を渡す事だ」


スカーレットは引き出しから手紙を数通取り出し、机の上に並べた。
手紙は全部で四通。

特殊な魔法がかけられているのか、紙からは魔力が漂っている。


「待てよ姉貴。いきなり旅に出ろって言われてもさ·····他の兵士に頼めばいいだろーよ?
何でわざわざ俺たちで、しかも人間のシロナに行かせんだよ」

ジェイトの反発に続いてルークも抗議した。

「あぁ、全くだ。それにその被害の詳細は何だ?
後、他国の支部に出向けと言うのに四通しかないな·····一ヶ国はどうした。
何故一通足りない」




疑問は溢れるばかりだ。



というより、ここ以外に魔軍の拠点があったことに驚きだった。

他国に手紙を届けろって事は·····魔軍の拠点は全部で七ヶ所あるって事か?

それって人間の国も同じだったような·········。

国ごとに各支部が存在するのか·····?



意外と大規模な組織だったんだな·····魔軍って。




「被害の内容なら、既に身をもって知っているだろう。

凶暴化魔物の襲撃だ」



凶暴化魔物


その単語を聞いて背中がゾワっとした。
私達の国以外にも、凶暴化魔物が出没していたなんて·····。



「なんの前触れもなく、突然現れたそうだ。
それも一体や二体どころではなく、何百体も·····。

ヴァラバレイの使者はその事態に対応する為アンファング支部へと救援要請をしたが、全く反応が無かったらしい。

恐らく·····

アンファング支部は既に潰されていると考えるのが妥当だ。

ギリギリ保っていたとしても、本部だけで2ヶ国へ支援を送るのは難しい。

·····故に、本部にて総魔軍支部長会議を行う事にした。
この手紙がその通達だ」


淡々と話された内容は、深刻な問題だった。

正直危ないのは魔物達だけではない、そこに住む人間の被害も甚大に違いない·····。



このまま放っておく訳にはいかない·····。


「突然現れたって·····凶暴魔物さんが転移魔法を使ったって事かよ?

はは、ありえないね~。

転移魔法なんて高度過ぎる魔法·····まともな奴でも使える奴なんてそうそういねーぞ?」


「あれ?でもイヂラードに行く時とか転移魔法使ってるくかいか?あれは違うのか?」

「シロナ、あれはなぁ元々転移魔法の基盤があるんだよ。
魔力さえあれば誰でも使えんだよ·····けど、その基盤を一から作れる奴なんて滅多に居ない」

「そうなのか·····」


転移魔法ってそんな難しい魔法だったんだな·····。
なら、あの基盤を作ったルークのお母さんって相当凄い魔法使いだったってことなんじゃないのか?

何だそれ、凄いなルークのお母さん·····!


「考えにくい事だが、それしか方法が無い·····。
裏で誰かが手を引いているのかもしれないが·····まだ何も手掛かりが無い状態だ。

対策はただ一つ。
守りを固め、いつ来てもおかしくない襲撃に備えること。
だから私はここから動けない」


「·····ふ~ん。なるほどね~」

少し腑に落ちない感じで、ジェイトは納得しソファーに腰を掛けた。


「言っておくが私も人間なんぞに行かせたくない。
だが、我が本部の兵士の3割を既にヴァラバレイに送っている。
これ以上本部の戦力を削ぐのは好ましくない。

それにだ、ユスティーツの支部は人間の街内にあるのだ。
精霊術師の人間に行かせるのが無難·····」


ジッと私を睨みつけてくるスカーレット。

本当にいやいや頼んでいるんだなと、ひしひしと伝わってくるが·····
私に拒否権など始めから無い。

従うしか無かった。


「分かった」
とだけ呟くと、スカーレットは不服そうに目を閉じた。




事は一刻を争う。

四ヶ国に手紙を届けなければならないのだが、ひとつひとつ行くには時間がかかりすぎる。
そのため、二手に分かれて出発する事になった。

私とコハクとルークで
隣国のユスティーツと、火山の国クラカーノへ。

ジェイトとモノンは海底国のトルベルと、雪山の国ネジュという所だ。


どれもこれも名前しか聞いた事のない国ばかり、行ったことも見たことも無い。
私にとって、生まれて初めての旅になる。


国渡りは距離が遠いため、スカーレットから馬車が渡された。
ここから隣国に行くだけでも、馬車で3日はかかるらしい·····。

遠い·····!

なので数日分の食糧や水を積み込む作業を行っていた。

この積み込む作業が、これまた重労働·····。

全て積み込み終わると、ルークが家に戻って取ってきたであろう木箱を抱えて、それも積み込んだ。


「·····ルークそれ何だ?」

「ん?あぁ、丁度俺も仕事でユスティーツに用事があったんだ·····
これは、その納品物だ」


運んでいる途中で動いてしまわないように、ローブでしっかりと固定するルーク。

多分中身は回復薬類

瓶詰めされているので割れないようにしているのだろう。


「よし!これくらいでいいな·····シロナも忘れ物ないか?」

「うん。元々持ち物少ないし·····問題ないぞ」

「そうか·····なら行くか。もうジェイトと先生は出発しているしな」


最終チェックを終えて、ルークは手綱を手に取り馬車を進ませた。


魔物の国から馬車で出るには表門からになる。

表門を抜け、森を抜け、そして広い草原を走り山越えしたらユスティーツがある。
まずはそこを目指す。


正直いうと、ワクワクでたまらない!
遊びじゃない事は分かっているけど、好奇心が勝ってしまい顔がニヤついてしまう。

コハクもこの国の外に出るのは初めてだからか、屋根の上に登って風に当たっている。



表門で出国手続きを行い、外に出ようとした瞬間·····待ってよーと言う声が聞こえ、
振り返ると突然レヴォルが荷台に乗り込んできた。

「!?なっ?!あんた何して·····っ?!」

「いやいやー♪間に合ってよかったよー!抜け出す用意してたらもう二台とも出発してるんだもんね!
焦った焦った~」


突然の登場に私とルークは口をポカーンとあけ、何故乗ってきたのかを問いただした。

「何であんたも来るんだ!聞いてないぞ!」

「いーじゃんシロナちゃん、ケチ臭いなぁ。多分だけど、オレも一緒に行った方がいいと思うんだよねー。
ほら、これでも一応顔が利くからね?」

「·····いいのか?スカーレットの事は」

「いいのいいの!ちゃんと置き手紙置いてきたから大丈夫!
それに!ユスティーツには綺麗な子が多いって話じゃん?
これは行かなきゃでしょーーーっ!」


私とルークの脳裏に、超怒り狂うスカーレットの姿が目に浮かんだが·····
手続きを済ませてしまった今、引き返すのはめんどく··········大変なので仕方なく旅のメンバーにレヴォルを迎え、出発することにした。


「はーい!しゅっぱーつ!!」

「「···············」」


··········先が思いやられる。
しおりを挟む

処理中です...