灰色ノ魔女

マメ電9

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第二章 国渡りへ

第三十八話 名付け

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疲れ切っていたのか、私はベッドに入ると秒瞬で眠りにつくことが出来た。

あの牢獄とは、天と地の差の寝心地。
暖かくて、フワフワで‥‥

これが当たり前に感じてきている事に、怖いと思う気持ちと、幸せな気持ちが混ざりあい、複雑な感情に包まれた。

未だ返事のないロギと、私の頭の横で丸まっているコハクにお休みと声をかけて瞳を閉じる。



眠っていると、何処からか騒がしい音が耳に入ってきた。
その音は、爆発音であったり、人の叫び声であったり‥‥。
争いの音で、胸がざわつく。

目を開き辺りを見回すと、空は暗く厚い雲に覆われ、光の玉や、闇の玉が飛び交っていた。

さっきまで、私はベッドに居たはず‥‥。
これは、夢‥‥か?
私の夢?
でも、それにしてはリアルすぎる。

「ぐあっ!」
という声と共に、1人の青年が私の目と前に吹き飛ばされ倒れた。


敵にやられたのか?!
でも、敵って…??
というか、この人
青年‥‥?
いや、どう見ても、私と同じ‥‥15歳くらいの少年だ。


「大丈夫かっ!」
と声をかけて、駆け寄ろうとするが、何故か体が動かない。

足を、手を動かしたいのに、言うことを聞かない。

気が動転していると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「《何してやがるっ!俺に任せてテメェはさっさと引っ込んでろ!じゃねーと俺達全員全滅だぞっ!》」


ロギっ?!


私の中から聞こえる。
でも、パッと手や足を見ると、見たことの無い甲冑を付けていて、オマケに、体がやけにゴツゴツとしている。

これは‥‥私の体じゃない?


そして、自分の体だと思っていた口から、私の声ではなく、やや低めの男の人の声が発せられた。

「ハッ!わっるいなー!残念だけどよ、もう精霊に好きなようにこの体を使わす事は出来ないね…!
お前達に、この戦いを託したのが間違いだった」


「《テメェ‥‥何言ってやがる‥‥》」


「もう、精霊を崇拝する時代は終わったんだ!
これから、精霊の時代じゃない。
俺達‥‥人間が頂点に立つ時代だ!

だから、闇精霊‥‥お前達は、俺達人間の中で大人しく、力だけよこす存在になれ‥‥。

これから、ずっと‥‥永遠になっ!」

「《ハァ?‥‥人間風情が何言ってやがんだテメェ‥‥。んなこと出来るわけ‥‥》」


全て言い終わる前に、男が何か魔法を使い始めた。

足元には、魔法陣が展開され、光の柱があがる。


この魔法‥‥どこかで‥‥。


「精々そこで足掻いてろよ。闇精霊」


精神世界では、突然ロギの体に鎖が巻き付き、ロギを捉えていく。

たちまち、体の自由が効かなくなり、ロギは鎖によって、あのクロスになった鉄骨に縛り付けられた。

ジャラジャラと音を立てながら抵抗するロギ。
しかし、その行動は虚しく、ただただ、体力、魔力だけが吸い取られていく。

「《‥‥テメェっ!!糞人間がァァァァァァッ!》」


裏切られたロギの叫び声が、真っ暗な精神世界の闇の中に。
溶けて、消えていく‥‥。


ほらみろ‥‥人間に手を貸すからこういう事になるんだろうが‥‥。

あの時、あんだけ俺が反対したのに‥‥‥‥。

もうお終いだ‥‥。
俺達‥‥闇精霊はもう‥‥。


ロギの心の声だろうか。
悲しそうな‥‥悔しそうな‥‥。
辛い感情が流れ込んでくる。

その時確信した。

私は、ロギの夢を見ているんだ。
ロギの‥‥きっと‥‥過去の‥‥。



ロギの中でグチャグチャと人間に対する憎しみが吹き出しそうになっている時。

少女が呼ぶ。

「ねぇ?あなた‥‥もしかして、闇精霊さん?名前はなんて言うの?」

ロギが顔を上げると、そこに1人の少女がこちらを見ていた。

紫色の瞳に、灰色の髪。
一瞬私が立っているのかと思った。
けど、違う。

瞳の色が違うし、髪質も違う‥‥。
でも、何処と無くその顔立ちが、私と似ている気がした。

彼女は‥‥。


「《何だ‥‥男が続いて、今度は糞女かよ‥‥。

今すぐここから消えやがれ。
テメェみてぇな人間が来る場所じゃねぇんだよ。

さもねぇと殺すぞ》」


凄まじ殺意を纏いながらの脅迫にも関わらず、少女は笑顔をロギに向け、まさかの言葉を発した。

「もしかして、名前が無いのかい?

なら、私がつけてあげようか!」


これまで接してきた人間の態度と明らかに違う少女に、ロギは身を乗り出し驚いた。

あの日からロギは、精霊としてでは無く、ただの物として扱われてきた。
だから、少女の言葉が信じられなかった。


「《は、ハァッ?!?!て、テメェ?!何言ってやがる?

俺に名前?!
勝手な事してんじゃねぇよ!》」

「でも、名前が無いと不便じゃない?それに、これから私と長い間パートナーになるってお爺ちゃん達から聞いたの。
あなたはこれから、私の家族だしさ!


‥‥!

そうだ‥‥家族‥‥確か違う言葉で‥‥」

何かを考え込みだし、そしてパァっと笑いながらロギに言った。

「ロギアン!
これからあなたはロギアン!
うん!いい名前。あなたにピッタリ」

「《ロギ‥‥アン?‥‥家族だと‥‥?》」

「うん!私の名前はレイナ。

これからヨロシク!その鎖も、いつか私が解いてみせるから、待ってて」

ニコッと微笑み、ロギに近づく少女。


レイナ‥‥レイナ‥‥。
この糞ガキの名前‥‥。

今までの人間とは違ぇってのか?

ふっ、兎に角今回俺は‥‥変な人間と契約しちまったって訳か‥‥。


いいだろう‥‥。
次の契約者が産まれるまで‥‥付き合ってやろうじゃねぇか。















レイナ‥‥。
その名前は知ってる‥‥。

元始の魔女の名前。

私の



母の名前。





結構寝てしまっていたらしく、窓から太陽に日差しが差し込んで、ちょうど私の顔に当たっていたため、思わず眩しくて目を開けた。

おでこに手の甲を当てて、そのまま天井を眺め、さっきみた夢のことを思い出す。


あれは‥‥本当に‥‥

そう考えていると突然顔の上にコハクが乗っかってきた。

「ふがっ?!?」

思わず飛び起きて、コハクを引き剥がす。
寝起きにこれは、ちょっと驚くのでやめて欲しい!
でも、いつもはこんな事をしない。
不思議に思ったが、その答えはすぐに分かることになった。

「シロナ!テメェ‥‥勝手に俺の記憶覗きやがったなぁ?!」

コハクが喋ってる???????

いや、

でもこの口調‥‥この声‥‥!!

心当たりがありすぎる!!

「あ、あんた‥‥ロギ‥‥か??」

「《たりめェだろが!!折角こっちは気持ちよく寝てたってのによーっ?!覗きは趣味わりぃぞ!》」


朝っぱらからガーガーガーガーと‥‥っ
ってか昨日は、いくら喋りかけてもなんも言ってこなかったクセに!!

何なんだコイツ!!


見た目はコハクのままだからって、流石にこれは腹が立つ。

私はコハクの顔に近づき反抗した。

「あーもーっ!!うるっさいなぁ!言っとくけど!見たくて見た訳じゃないからなっ!
あと、それを言うならロギだって私の夢見てたじゃないか!!

ロギこそ覗きは悪趣味なんじゃないのかー??
えー???」

「《ンだとぉ?!あれは!テメェがしょぼくりやがってたから、俺が手を貸してやったんだろ?!
むしろ、有難いと思えってんだ!あ??》」

「そんなの、頼んだ覚えはありませ~ん!!!
ロギのバカ!!」

「《この餓鬼ぃ~っ!
レイナの娘だからって、調子こいてんじゃねーぞ?!
ボケ!》」

「レイナ、レイナって、どんだけ母さんの事が好きなんだよ!」

「《テメェこそ!父さん、父さんってメソメソ泣いてたじゃねーか!》」

「何だとーーーっ?!」
「《やんのかゴラァっ!?》」


朝から大声でこの喧嘩である。
もちろん、1階にいたルークまで声がだだ漏れな訳で。

あまりの五月蝿さに、ルークが勢いよくバンっ!と扉を開け、シロナとコハクの頭をゴンッと殴った。

それも、グーで。

結構その攻撃は痛く、二人とも頭を抱えて悶絶する。

「「~~っ!!」」

「朝からうるさい‥‥さっさと着替えて降りてこい。

朝飯‥‥抜きにするぞ?」


ルークが不機嫌そうに、フライ返しをビシッと私達に指してくる。


一旦ロギと睨み合ったが、ルークの視線が痛く、お互いの腹の虫も鳴ったので、仕方なくここは休戦となった。
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