灰色ノ魔女

マメ電9

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第一章 白黒から虹色に

第三十五話 みんなの声

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「何だ‥‥こんなものか‥‥」

血のついた剣を振り落とすスカーレット。
血液が地面に叩きつけられた。

「糞‥‥が‥‥タイミング悪ぃなおい‥‥」

ロギの意識が遠くなり、私と入れ替わる。



痛い!

痛い!!!

今まで感じたことない痛み。
左肩から血がドクドクが溢れ出す。

私は右手で左腕を抑える形で、地面に膝をつき前屈みになって倒れた。

「クッ‥‥!」

自然と表情も歪む。
激痛に耐えるのに必死だった。

「もっと楽しませてくれると思ったんだが‥‥。伝説も大した事ないな‥‥。
見ろ‥‥観客の魔物共も物足りない様だぞ?」

観客席からは、確かにブーイングの声が聞こえてくる。

でも、痛いんだ‥‥。
もう動けない。

じゃぁ
私はここで‥‥殺されるのか‥‥。

それも嫌だ。

けど、体が動かない。

どうしようもないんだ。

「コーローせ!コーローせ!コーロせ!」

魔物達声が重なり殺せコールが聞こえてくる。


精神世界からは、ロギが起きろ!早く逃げろ!って言ってくる。

うるさいな‥‥
分かってる、そんな事ぐらい‥‥。


けど、私はスカーレットを睨みつけることしか出来ず。

「終わりだな」

とスカーレットが剣を掲げる。





私も覚悟した。



死ぬ事を‥‥。




「シロナァァァァァ!」

ルークが叫んでる‥‥。



ごめん‥‥




私‥‥。





すると、観客席から突然女の子の声が響き渡った。



「シロナお姉ちゃーーーーーーーーん!!!!!!」




透き通るような綺麗な声。

殺せコールとは全く違う声が聞こえた事から、全員が視線を集めた。



聞き覚えのある声。


その声の先を顔を上げて見ると‥‥

そこには、私の白銀のローブを着た少女が1番前の席に立っていた。



「ナ‥‥ディア‥‥?」


ルークもナディアの姿を見て驚いている。
ジェイト達も驚きを隠せないでいた。

「あの子!確か、施設に新しく入った子だ!!」

ポルクは指をさしながら言う。
ジェイトもよく施設に顔を出すので、ナディアの事は知っていた。

ナディアを連れてきてくれたであろう、保母さんが静止を促すも、

ナディアは続けて叫び。
その声は闘技場全体に響く‥‥。

「シロナお姉ちゃーーーーーーーーんー!!!!!

負けないでーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

頑張れーーーーーーーーーー!!!!」



ローブがどこにも見当たらないと思ったら‥‥ナディアが持ってたんだな‥‥。


夢かと思った。
ナディアを見た最後の記憶が、血塗れになっているところだったから。

生きて‥‥


生きてたんだ‥‥っ!

良かった。



ナディアの応援の声に感化されたポルクも大声で叫んだ。

「シロナァァァァァァァ!!!!
頑張れーーーーーーーーーーー!!!!!」

人間を応援する魔物を見たそかの観客達は、困惑した。

「おいおい、こいつ、人間なんかを応援してるぜ?」
「頭おかしいんじゃね?」

そんな声もする。

だが、ジェイトとエレティナもポルクに続く。

「シロナァァァ!何寝てんだよーーー?!俺が教えた技全然使ってねーーだろーーー?!
さっさと姉貴なんか倒しちまえよーーー!」

「シロちゃーーーーん!!!負けないでーー!!」


ざわめき出す観客席。

それに対しスカーレットは面白くなさそうな表情だ。

「‥‥‥‥‥‥」

まぁ、彼女は私を公開処刑したかったんだろうから、人間を応援する声が邪魔なのだろう。



そうだ‥‥。
私は‥‥。

まだ死ねない。


痛いけど‥‥あの日の心の痛さに比べれば‥‥

こんなの、大した事ない!!

私はよろけながらも立ち上がった。

左腕を伝って血が指先から落ちていく。



「ロギ‥‥私に少しだけ力を貸してくれないか?」

「《あ??何言ってやがる!これ以上闇魔力はテメェに負担がかかる!!

無茶すんじゃねぇ!!》」

無茶‥‥か。

「ロギ‥‥忘れたのか?」

「《?》」

「無茶は、私の専売特許‥‥なんだろ?」


私は、ニッと笑ってみせ、剣先をスカーレットに向けた。

ロギは少し呆れた声を漏らしたが、次は笑いだした。

「《ハハハハハ!!テメェ面白れぇな!

いいだろう。
その無茶に、俺も付き合ってやる》」


本当は心配なんだろうけど、逆に、その付き合ってやるは優しさなんだと。

私は気付いていた。


「ほぉ、その刃折れの剣で戦うというのか?
そんな物で、私を倒せるとでも?」

見下して笑う彼女に、私も笑い返してやった。

「私は逆に感謝してるぞ‥‥。あんたがこの剣を折ってくれた事をな!」

彼女から笑みが消える。

「何?」

私は、ジェイトから教わった構えをしながら言った。

「正直言って‥‥直剣苦手なんだ。‥‥重いし、上手く振れないし、早く走れないし!
本当はカッコイイから使いたかったんだけど断念した‥‥。

じゃぁ、私の使ってる武器はなんだと思う?」

「私の愛用武器は‥‥



短剣だ」


魔力を一気に練り上げ、電気を纏う。

さっきロギが使った魔法だ。
そして、一気に間合いを詰める!

突然の速さに、スカーレットは怯んだ。

「《?!。さっきより数倍速いだと?!》」

そんな馬鹿な、とでも言いたげだ。

当たり前だろ。
短剣の方が軽いんだから。

これが、私の本当の戦い方!


モロにスカーレットの直剣を受けると、力で私が負ける。
だから、軽くいなして、体を捻り、相手の懐へ潜り込む。

ジェイトから教わったやり方だ。

それでも、剣を封じられる事もある。
その時は、空いている四肢を使い殴り込む!

今回は左腕が使えない。
だから、蹴り技も加えつつ攻撃を行う。


更に体が小さい事で、相手に動きを捉えにくく、スカーレットもだんだんイライラさせ始めていた。

「くそっ!ちょこまかちょこまかと!」

「コレが私の闘い方だ!」


観客席からうおー!と、歓声が上がる。
「何だあの人間?死にかけてたのに巻き返してるぜ!」
「これ、もしかして、もしかするんじゃないのか?」

そんな事を言い出す魔物もいた。


確かに、勢いに圧倒され、スカーレットは圧されている。

だが、それも長続きはしないことも、シロナは分かっていた。

だからこそ、早めにもう1つの目的を完遂する必要があり、その準備を着々と進めていた。

スカーレットにバレぬよう。


そして、遂にその時がきた。

「人間中々やるな!‥‥だが、その剣捌きだけでは、私に傷などつけれまい!」

「だろうな。けど、捨て身で行くのは後で‥‥。
残念だけど、あんたの事は後回しにさせてもらう」

そう言って私は一旦距離を取り、地面に手を当てた。

「気付いてたか?私が、あんたの周りに血を撒いていたことを‥‥そして、私が今から何をするのかを‥‥」

シロナの言う通り。
スカーレットの周りの地面に血で濡れていた。
その円に繋がるよう1本の血液の線がシロナに繋がっている。

「まさか‥‥!貴様!」

「ちょっとだけ、動かないでいてくれ!!」

シロナの手から電気がビリビリと地面に流れ、血液を伝いスカーレットを囲っていく。


「エレクトリボックス」

電気の壁がスカーレットを包み込んだ。

そして、その形はまさに鳥籠。
スカーレットを閉じ込めることに成功した。

「《よし!これで袋のネズミだ!シロナ!畳み掛けろ!》」

そう、誰もが思った。

けど。


シロナは何故か反対方向へ走っていく。



観客の誰もが頭にはてなマークを浮かべた。

それは捕まっているスカーレット自身でさえ。


「《おいおい!!シロナ!どこ行きやがる!敵はあっちだぞ!》」

ロギも困惑気味。
でも、理由はすぐわかった。

シロナが向かった先は、魔力不足で苦しんでいるコハクの元だった。
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