灰色ノ魔女

マメ電9

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第一章 白黒から虹色に

第三十四話 闇精霊術師

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「コハク‥‥?!」

何で‥‥?

何で‥‥コハクが‥‥ここに?

まさか‥‥
ルークが言いたかったのって、

この事‥‥だったのか‥‥?

「コハクっ!!!」


ぐったりとしているコハクに呼び掛けるが、返事をしない。
でも肺は膨らんでいるのが見えたので、少し安心したが‥‥。

私は目を疑った。

コハクに無くてはならない物。

それが無ければ生きていけない物。


コハクの命とも言える魔具が、そこに無かったのだ。

「あんたっ!コハクのっ、コハクの魔具をどこへやった?!
それが無かったらコハクは‥‥っ」
「生きていけない‥‥だったか?」

スカーレットは私の言葉に被さるように言ってきた。

しかも、事前にその事を知っている口調で。

「何故それを?って顔をしているな。‥‥君が眠っている間に、モノン等から色々聞かせてもらったんだよ。勿論、このドラゴンの事もな‥‥。
随分大事にしているそうじゃないか‥‥?
果たして、それは本物か‥‥‥‥

それとも‥‥‥‥


演技なのかな‥‥?」


コハクが入っている鳥籠が突然、スカーレットに蹴り飛ばされた。

ガラガラガラっ!

と、凄い音を立てて地面を転がっていく。




そんな光景を見てしまった私が‥‥

冷静でいられるはずなど‥‥



無かった。


「お前‥‥っ!お前ぇぇぇぇぇぇええええ!!!」

シロナからユラユラと黒い魔力が漂い始める。

これでは、また自我を失い暴走してしまう可能性があったが‥‥。

スカーレットの狙いは、まさにソレだった。



しかし、ロギアンはそれを阻止した。

「《シロナ!落ち着きやがれ。
今のテメェじゃ、俺の魔力に意識を引っ張られてぶっ飛んじまうぞ!また暴走してもいいのか?!》」

「でも‥‥っ!でも‥‥コハクが!!」

「《慌てんじゃねぇよ、みっともねぇ。それでもテメェはレイナの娘か?しっかりしやがれ‥‥何も手が無ぇって訳じゃねぇよ。》」

「本当か?!」

「《嘘はつかねぇ。‥‥まぁ、まずは身をもって体験してみろよ》」



「た、体験?‥‥一体何を?」

「《本当の‥‥闇精霊術の使い方ってやつをだ》」

瞬間、意識がガラッと変わり、私はいつの間にか‥‥‥‥ロギのいた精神世界へ‥‥。







「人間、何をブツブツ言っている。そちらから来ぬのなら、このドラゴンを殺してしまおうか!!!」

彼女はまた炎攻撃魔法を繰り出し、その攻撃対象をコハクへ向けた。

無数の火の玉が一気にコハクの方角へ。
攻撃がやみ終わる頃には、辺りは煙に包まれた。
「どうだ人間‥‥。少しは本気を出す気に‥‥‥‥?」

うしろを振り返りシロナがいたハズの場所を見るが、彼女の姿がどこにも無い。

さっきまでそこに居たはず‥‥。
観客の誰もがそう思った。

だが、バチバチという音に気が付き、コハクがいる方を見直す。

煙に隠れているが、電気火花が見える。
それと、黒い魔力‥‥いや、影が具現化と言った方がいいか‥‥。

影がコハクの周りを囲い守っていた。
その中心にいる人物。
それこそ、さっきまでそこに居たはずのシロナだった。

煙が完全に晴れ、その姿が露わになる。

その姿は先程まで逃げ腰だった人間ではなく、影を纏い、左目に金色の瞳を宿した紛れもない‥‥

闇精霊術師の姿だった。

「小娘の餓鬼‥‥悪ぃがこの闘い。俺達の圧勝とさせてもらうぜ。こっからが本番だゴラァ」

スカーレットは少し驚いた表情をした。

無理もない。

先程までの人間の口調がガラリと変わっているのだから。
しかし、スカーレットは直ぐに察し、笑みを浮かべた。

「ほぉ、本当は暴走状態の人間と手合わせをしたかったのだが‥‥まさか、闇精が自らお出ましとは‥‥‥‥

お手並み拝見と行こうか‥‥伝説の精霊よ!」

スカーレットは走り出し、シロナに襲いかかる。
それをロギは華麗に避けてみせる。
影を使って。

そして、背後に回ったロギは思いっきり斬り掛る。‥‥が、

流石は騎士団長。
軽い身のこなしでその剣筋を避けてみせる。

しかし、ロギも負けてはいない。

人間とは思えない程の反射神経で相手を翻弄する。

その身体には電気が纏っていた。

「なるほど、考えたな闇精。電気魔法で身体能力を倍増させたか‥‥だが、それもいつまで続くかな?」

シロナの体はまだ鍛えが足らず、何かで力を補う必要があった。

電気魔法により、身体能力亢進状態にしているが、それは長続きしない。
体にダメージが与えられてしまうからだ。

でも、これをしないと、この重い直剣を自由に振る事が出来ない。

だから、これはもう。



時間との勝負。



「くっそが、シロナ!テメェもっと飯食って力つけやがれ!全然剣が振れねぇだろ!!」

「《う、うるさいな!!ずっと閉じ込められてたんだから、仕方ないだろ?!》」

「シロナ、言っとくが俺と交代する時間も、そう長くは持たねぇ!テメェの身体に負担が掛かりすぎる。
だからテメェはこの後どーすりゃいいのか、ちゃんと作戦立てとけ!!」

「《か、考えとけって?!そんな無茶な!》」

この後交代したとして、あの騎士団長を倒す方法なんて‥‥。
何をどう考えても浮かんでこない。
どうしよう‥‥。

ロギは影魔法でスカーレットを牽制しながら答えた。

「テメェの無茶は専売特許だろっ!!」

「《うぅ‥‥。分かった》」

「物わかりが良くていい子だ!!!」

ロギのやつ、完全に私を馬鹿にしてる。
見てろよ!絶対なんか考えてやるからな!





ロギの闘い方は独特だった。

剣を振るいながら、影も同時に操り、剣でせめ、影で守る。

そして、その影で機動力も補い、変わった太刀筋をスカーレットへ叩き込む。

「へぇ。流石は伝説と言ったところか‥‥その様な剣捌きは見たことがないな」

「だろうよ、俺の前契約者の流儀だからなっ!!」

ロギの影がスカーレットを襲う。

すると、スカーレットは影魔法をスルスルと避けてみせ、一気に間合いを詰める。

「ならば、もっとその力。私にぶつけて見せろ!」

スカーレットの直剣に炎が纏う。
この技は、前にジェイトが言っていた技法。

魔法攻撃と物理攻撃を併せたこの技は、かなり攻撃力が上がる。

ロギも負けじと、直剣に影を纏わせ迎え撃つ。

激しい戦闘だった。

剣風が観客席にまで届くほど。
その様子を魔物達は

「本当にあれは人間か?」
「化け物同士の戦いだ」

など、口々に呟く。

ルークは今にも飛び出してしまいそうな身体を必死に抑えていた。

ジェイト達も不安な眼差しで戦闘を見守る。

が、‥‥思ったより早く。

そのタイムリミットが来てしまった。


ロギの振った攻撃がスカーレットを剣を上に弾き、スカーレットの懐がガラ空きになった。

「クッ‥‥!」

今だ!
と、言わんばかりにロギはそこへ畳み掛ける。

「残念だったな!これでシめぇだ餓鬼‥‥!ぐっ‥‥?!?!」

あと少しだった。

だが、その剣は届かなかった。

継続での電気魔法。
それに加え、ロギの憑依に、闇魔法の使用。

体がそれらに耐えきれなくなり、動かなくなったのだ。

その瞬間を、スカーレットは見逃さなかった。

スカーレットは剣を高く上げ、思いっきり振り下ろす。
ロギも一応反射的に剣で防いだが‥‥。

その剣はパキンっと音を立て折れ。
クルクルと回りながら、地面に突き刺さる。

そして、スカーレットの振り下ろした剣は、シロナの左肩を斬り裂いた。



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