灰色ノ魔女

マメ電9

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第一章 白黒から虹色に

第二十九話 夢の中で

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「父さん!また徹夜したのー?もう朝だぞ!」

「お?あぁシロナ。もう朝か?いやぁ、はは、どうも熱中しすぎたみたいだね‥‥今片付けるよ」

私と父は村の端っこの小さな家に住んでいて、決して裕福とは言い難いが、十分私は幸せに過ごしていた。

父さんはいつも机にかじりついて何かを作ってる。
沢山の薬品や素材を溶かしては混ぜての繰り返し。

その完成品が一体何なのかは、子供の私には教えてくれない。
でもたまに手伝いくらいはしていた。

そんなある日‥‥。

父さんが私に紹介したい人がいると連れてきた。

長いクリーム色の髪を風になびかせて、綺麗な洋服を着た女性。

「あなたがシロナちゃんね?」


私の名前を何故知ってる??
その疑問を父さんが晴らした。

「シロナ‥‥紹介するよ。僕の新しい妻。シロナの母さんになる人だよ」

「かぁ‥‥さん?」


私の実の母。
一緒に過ごしたこともなければ、顔も見たことがない。

唯一知っているのは【レイナ】という名前だけ。

私を産んですぐ亡くなったらしい。

だから私にとって母とは、よく分からなかった。




「シロウさんとお付き合いさせて頂いてます。カルダって言います。これから一緒に住むことになるけど、始めはなんでも好きな呼び方で良いからね」


当然‥‥最初からこの女の人の事を母とは思えず、私はカルダさんと呼んだ。

父さんも少しずつ慣れればいい。

そう言ってくれた。




カルダはなんでも出来た。

掃除
洗濯
料理
裁縫

私と父ではこなせなかった家事も全部してくれた。

‥‥そんな彼女に私は尊敬、憧れを抱き、次第に不器用ながらも

母さん

と呼べるようになっていった。



母さんがいる生活は、こんなにも暖かくて賑やかなのか‥‥。
小さい家で仲良く3人。

こんな風に過ごす日が来るとは、夢にも思っていなかった。



ご飯を食べる時も3人
寝る時も3人

いいことが沢山増えて。
誕生日プレゼントだって一つ多く貰えるようになった!

夢に描いていた、幸せな日々。





カルダが私をいつもの様に寝かしつけて、父さんの研究机にお茶の入ったコップを置く。

「あぁカルダさん、すまないね」

「フフ、いいのよ?これくらい気にしないで‥‥シロナちゃんはさっき眠ったわ」

「そうか、ありがとう」

カルダは近くの椅子に腰掛ける。

「‥‥その薬、だいぶ完成してきたみたいね」

「もうあと少しってところかなぁ~。‥‥‥‥なぁ、カルダさん。僕との約束覚えているかい?」

シロウは、手元の魔石を専用道具でゴリゴリと砕きながら口を動かす。

「えぇ、覚えてるわ‥‥。シロナちゃんが私に懐いたらと、あなたのその薬が完成したら‥‥‥‥‥‥出て行くよね?あなた一人、この村から‥‥その理由はやっぱり話せない?」

動かしていた手がピタッと止まり、シロウは俯き呟く。

「‥‥すまない‥‥カルダさん。‥‥詳しい事は話せない。けど、僕は‥‥探しに行かないといけないんだ。その為に僕にはこの薬が必要なんだよ。‥‥魔力の才能に恵まれなかった僕に‥‥」

探しに行く。

一体誰を?

どこへ?

そうカルダは思ったはず。
でも、彼女はそこから深くは足を踏み入れなかった。

「‥‥分かったわ。シロナちゃんの事は私に任せてちょうだいね。じゃ、そろそろ私も寝るから‥‥夜更かしも程々にするのよ?」

カルダはコップをシンクに置き、寝室へ向かった。


そして、シロウは誰にも聞こえないくらいの声で

「レイナ‥‥」

と呟いた。



そんなやり取りがあって数日後の事‥‥。


カルダは外に買い出しで出掛けて、父と私の二人で留守番をしていたある日。

その時は、来てしまった。


「あっ、母さん財布忘れてる!」

玄関先に落ちている財布を発見したシロナは、研究中のシロウの元へ駆け寄る。

しかし、シロウの研究も終盤に来ており、今日完成するかどうかという大事な時期であったため、シロウは研究から目が離せなかった。

「父さん!母さんが財布忘れてったんだけど、私届けに行ってもいいかな?」

「え?あ、あぁ、駄目だよ?商業街に子供一人で出歩くのは危ないから‥‥僕が後で行くよ」


行くよ‥‥と言いつつ。
父さんが机から離れる気配はなし。

私はほっぺたをプーっと膨らまし、反抗した。

「もう私6歳だよ!それくらいのお使い一人で出来るから!」

横から必死に訴えかけるが、シロウは目すら合わせず駄目駄目しか言わない。

そこで、一旦諦めたふりをしシロウから離れるが、研究に熱中している父さんの目を免れ外に出るのは容易だった。


父さん‥‥行くとか言っときながら絶対行かないんだから!
母さんも財布が無いと困るだろうし‥‥

私が行くしかないな!


財布を片手に、商業街へ向かって走り出した。


確かに、商業街に子供一人で歩き回るのは危険。
何故なら、たまに魔物が紛れ込んでいる事があるかららしい。
そして、結構野蛮な人間もウロウロしているので、喧嘩なんてしょっちゅうある。

路地裏で人が倒れているシチュエーションなんて、日常茶飯事だった。

そんな商業街は、子供達にとって刺激的な非日常が味わえる憧れの場所でもある。


商業街の入口のアーチを潜り、人混みをかき分けカルダを探しながら走っていた。

すると突然誰かとぶつかってしまい、相手も私も転けてしまう。
慌てた私はすぐ起き上がり声を掛ける。


「だ、大丈夫??!」

ぶつかったその人は、帽子を目深に被り着物を着ていた。
少し年上のお姉さんで、サラサラとした銀髪が輝いていてとても綺麗。

手を差し出すと一瞬躊躇ったが、手を取り立ち上がることが出来た。

「ごめんなさい。私ちゃんと前見てなくて‥‥」

お姉さんは地面に落ちた財布を拾い、私に渡してくれた。

「私もちゃんと見てなかったから‥‥ごめんね。はい、これ貴方のよね?」

「ありがとう!‥‥お姉さん1人?」

「ううん。お父さんと来たんだけど、はぐれちゃって‥‥探しながら歩いてたの」

「そうなの?私も母さんを探してるんだ!良かったら一緒に探そうよ!」

「え?いいの?」

「うん!私も一人で少し怖かったから‥‥」

ワクワクしていた半分、不安もあったので同じような境遇の彼女と出くわし

友達になれたら‥‥

なんて事を考えていた。


少し悩んでいたが、一緒に探す事に同意し商業街を二人で歩き回る事になった。


話を聞くところによると、お姉さんのお父さんは薬師らしく。
ここにはその材料を買いに来たそうで、お姉さんは反対を押し切って一緒に着いてきたらしい。

「案の定迷子になっちゃったから、きっと見つかったら叱られちゃうね」

微笑みながら私に話しかけてくれる。

この人はいい人だ!

「私も。父さんの言うこと無視して来ちゃったから、今頃カンカンだろうなぁ」

私達は顔を合わせ笑い合った。


そんな感じで子供が2人歩いていると、当然目立つわけで、背後にいかにもヤバそうな男達。

四人の男が私達を囲み睨みつけてきた。

突然の展開に私は半泣き状態。
そんな私をお姉さんは前に出て私を隠すように立つ。

「嬢ちゃん達~俺らちょっと金落としちまったみたいでさ~。その財布とかさ、俺達に恵んでくんないかな~?」

財布。
それは私がカルダに届ける財布の事を指していた。

怖くて下唇を噛んだ。

するとお姉さんが男達に向かって言い放った。

「これはこの子の物!あなた達に恵むものなんてありません!!そこを、退いて」

「お姉さん‥‥!」

勇敢なその姿に、私は少し安心した。
でも、男達が素直に従うはずは無く‥‥。

「んだとぉ?!この餓鬼!!」

お姉さんの腕や頭を鷲掴みにする。
すると、その拍子に帽子が脱げてしまった。

全員が驚いた顔をする。

美しい銀髪の頭に獣耳が現れたからだ。


そう。

彼女は


魔物だった。

「コイツっ!魔物?!」

「‥‥っ!君!早く逃げて!」
固まっている私を突き飛ばす彼女。

彼女は私を逃がそうとして、男達を殴ったり蹴ったりしている。

それなりに相手は怯んでいる。
やっぱり魔物だから人間より力が強いんだ。

でも、、
「お姉さんは?!」

その問いに、彼女は笑い答える。

「私は大丈夫。ごめんね黙ってて。さぁ!早く行って!」

すると、やられて地面に倒れていた男が私を追いかけようとするので、私は怖くなり一目散にそこから逃げた。

‥‥彼女だけを残して。
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