29 / 56
第一章 白黒から虹色に
第二十九話 夢の中で
しおりを挟む
「父さん!また徹夜したのー?もう朝だぞ!」
「お?あぁシロナ。もう朝か?いやぁ、はは、どうも熱中しすぎたみたいだね‥‥今片付けるよ」
私と父は村の端っこの小さな家に住んでいて、決して裕福とは言い難いが、十分私は幸せに過ごしていた。
父さんはいつも机にかじりついて何かを作ってる。
沢山の薬品や素材を溶かしては混ぜての繰り返し。
その完成品が一体何なのかは、子供の私には教えてくれない。
でもたまに手伝いくらいはしていた。
そんなある日‥‥。
父さんが私に紹介したい人がいると連れてきた。
長いクリーム色の髪を風になびかせて、綺麗な洋服を着た女性。
「あなたがシロナちゃんね?」
私の名前を何故知ってる??
その疑問を父さんが晴らした。
「シロナ‥‥紹介するよ。僕の新しい妻。シロナの母さんになる人だよ」
「かぁ‥‥さん?」
私の実の母。
一緒に過ごしたこともなければ、顔も見たことがない。
唯一知っているのは【レイナ】という名前だけ。
私を産んですぐ亡くなったらしい。
だから私にとって母とは、よく分からなかった。
「シロウさんとお付き合いさせて頂いてます。カルダって言います。これから一緒に住むことになるけど、始めはなんでも好きな呼び方で良いからね」
当然‥‥最初からこの女の人の事を母とは思えず、私はカルダさんと呼んだ。
父さんも少しずつ慣れればいい。
そう言ってくれた。
カルダはなんでも出来た。
掃除
洗濯
料理
裁縫
私と父ではこなせなかった家事も全部してくれた。
‥‥そんな彼女に私は尊敬、憧れを抱き、次第に不器用ながらも
母さん
と呼べるようになっていった。
母さんがいる生活は、こんなにも暖かくて賑やかなのか‥‥。
小さい家で仲良く3人。
こんな風に過ごす日が来るとは、夢にも思っていなかった。
ご飯を食べる時も3人
寝る時も3人
いいことが沢山増えて。
誕生日プレゼントだって一つ多く貰えるようになった!
夢に描いていた、幸せな日々。
カルダが私をいつもの様に寝かしつけて、父さんの研究机にお茶の入ったコップを置く。
「あぁカルダさん、すまないね」
「フフ、いいのよ?これくらい気にしないで‥‥シロナちゃんはさっき眠ったわ」
「そうか、ありがとう」
カルダは近くの椅子に腰掛ける。
「‥‥その薬、だいぶ完成してきたみたいね」
「もうあと少しってところかなぁ~。‥‥‥‥なぁ、カルダさん。僕との約束覚えているかい?」
シロウは、手元の魔石を専用道具でゴリゴリと砕きながら口を動かす。
「えぇ、覚えてるわ‥‥。シロナちゃんが私に懐いたらと、あなたのその薬が完成したら‥‥‥‥‥‥出て行くよね?あなた一人、この村から‥‥その理由はやっぱり話せない?」
動かしていた手がピタッと止まり、シロウは俯き呟く。
「‥‥すまない‥‥カルダさん。‥‥詳しい事は話せない。けど、僕は‥‥探しに行かないといけないんだ。その為に僕にはこの薬が必要なんだよ。‥‥魔力の才能に恵まれなかった僕に‥‥」
探しに行く。
一体誰を?
どこへ?
そうカルダは思ったはず。
でも、彼女はそこから深くは足を踏み入れなかった。
「‥‥分かったわ。シロナちゃんの事は私に任せてちょうだいね。じゃ、そろそろ私も寝るから‥‥夜更かしも程々にするのよ?」
カルダはコップをシンクに置き、寝室へ向かった。
そして、シロウは誰にも聞こえないくらいの声で
「レイナ‥‥」
と呟いた。
そんなやり取りがあって数日後の事‥‥。
カルダは外に買い出しで出掛けて、父と私の二人で留守番をしていたある日。
その時は、来てしまった。
「あっ、母さん財布忘れてる!」
玄関先に落ちている財布を発見したシロナは、研究中のシロウの元へ駆け寄る。
しかし、シロウの研究も終盤に来ており、今日完成するかどうかという大事な時期であったため、シロウは研究から目が離せなかった。
「父さん!母さんが財布忘れてったんだけど、私届けに行ってもいいかな?」
「え?あ、あぁ、駄目だよ?商業街に子供一人で出歩くのは危ないから‥‥僕が後で行くよ」
行くよ‥‥と言いつつ。
父さんが机から離れる気配はなし。
私はほっぺたをプーっと膨らまし、反抗した。
「もう私6歳だよ!それくらいのお使い一人で出来るから!」
横から必死に訴えかけるが、シロウは目すら合わせず駄目駄目しか言わない。
そこで、一旦諦めたふりをしシロウから離れるが、研究に熱中している父さんの目を免れ外に出るのは容易だった。
父さん‥‥行くとか言っときながら絶対行かないんだから!
母さんも財布が無いと困るだろうし‥‥
私が行くしかないな!
財布を片手に、商業街へ向かって走り出した。
確かに、商業街に子供一人で歩き回るのは危険。
何故なら、たまに魔物が紛れ込んでいる事があるかららしい。
そして、結構野蛮な人間もウロウロしているので、喧嘩なんてしょっちゅうある。
路地裏で人が倒れているシチュエーションなんて、日常茶飯事だった。
そんな商業街は、子供達にとって刺激的な非日常が味わえる憧れの場所でもある。
商業街の入口のアーチを潜り、人混みをかき分けカルダを探しながら走っていた。
すると突然誰かとぶつかってしまい、相手も私も転けてしまう。
慌てた私はすぐ起き上がり声を掛ける。
「だ、大丈夫??!」
ぶつかったその人は、帽子を目深に被り着物を着ていた。
少し年上のお姉さんで、サラサラとした銀髪が輝いていてとても綺麗。
手を差し出すと一瞬躊躇ったが、手を取り立ち上がることが出来た。
「ごめんなさい。私ちゃんと前見てなくて‥‥」
お姉さんは地面に落ちた財布を拾い、私に渡してくれた。
「私もちゃんと見てなかったから‥‥ごめんね。はい、これ貴方のよね?」
「ありがとう!‥‥お姉さん1人?」
「ううん。お父さんと来たんだけど、はぐれちゃって‥‥探しながら歩いてたの」
「そうなの?私も母さんを探してるんだ!良かったら一緒に探そうよ!」
「え?いいの?」
「うん!私も一人で少し怖かったから‥‥」
ワクワクしていた半分、不安もあったので同じような境遇の彼女と出くわし
友達になれたら‥‥
なんて事を考えていた。
少し悩んでいたが、一緒に探す事に同意し商業街を二人で歩き回る事になった。
話を聞くところによると、お姉さんのお父さんは薬師らしく。
ここにはその材料を買いに来たそうで、お姉さんは反対を押し切って一緒に着いてきたらしい。
「案の定迷子になっちゃったから、きっと見つかったら叱られちゃうね」
微笑みながら私に話しかけてくれる。
この人はいい人だ!
「私も。父さんの言うこと無視して来ちゃったから、今頃カンカンだろうなぁ」
私達は顔を合わせ笑い合った。
そんな感じで子供が2人歩いていると、当然目立つわけで、背後にいかにもヤバそうな男達。
四人の男が私達を囲み睨みつけてきた。
突然の展開に私は半泣き状態。
そんな私をお姉さんは前に出て私を隠すように立つ。
「嬢ちゃん達~俺らちょっと金落としちまったみたいでさ~。その財布とかさ、俺達に恵んでくんないかな~?」
財布。
それは私がカルダに届ける財布の事を指していた。
怖くて下唇を噛んだ。
するとお姉さんが男達に向かって言い放った。
「これはこの子の物!あなた達に恵むものなんてありません!!そこを、退いて」
「お姉さん‥‥!」
勇敢なその姿に、私は少し安心した。
でも、男達が素直に従うはずは無く‥‥。
「んだとぉ?!この餓鬼!!」
お姉さんの腕や頭を鷲掴みにする。
すると、その拍子に帽子が脱げてしまった。
全員が驚いた顔をする。
美しい銀髪の頭に獣耳が現れたからだ。
そう。
彼女は
魔物だった。
「コイツっ!魔物?!」
「‥‥っ!君!早く逃げて!」
固まっている私を突き飛ばす彼女。
彼女は私を逃がそうとして、男達を殴ったり蹴ったりしている。
それなりに相手は怯んでいる。
やっぱり魔物だから人間より力が強いんだ。
でも、、
「お姉さんは?!」
その問いに、彼女は笑い答える。
「私は大丈夫。ごめんね黙ってて。さぁ!早く行って!」
すると、やられて地面に倒れていた男が私を追いかけようとするので、私は怖くなり一目散にそこから逃げた。
‥‥彼女だけを残して。
「お?あぁシロナ。もう朝か?いやぁ、はは、どうも熱中しすぎたみたいだね‥‥今片付けるよ」
私と父は村の端っこの小さな家に住んでいて、決して裕福とは言い難いが、十分私は幸せに過ごしていた。
父さんはいつも机にかじりついて何かを作ってる。
沢山の薬品や素材を溶かしては混ぜての繰り返し。
その完成品が一体何なのかは、子供の私には教えてくれない。
でもたまに手伝いくらいはしていた。
そんなある日‥‥。
父さんが私に紹介したい人がいると連れてきた。
長いクリーム色の髪を風になびかせて、綺麗な洋服を着た女性。
「あなたがシロナちゃんね?」
私の名前を何故知ってる??
その疑問を父さんが晴らした。
「シロナ‥‥紹介するよ。僕の新しい妻。シロナの母さんになる人だよ」
「かぁ‥‥さん?」
私の実の母。
一緒に過ごしたこともなければ、顔も見たことがない。
唯一知っているのは【レイナ】という名前だけ。
私を産んですぐ亡くなったらしい。
だから私にとって母とは、よく分からなかった。
「シロウさんとお付き合いさせて頂いてます。カルダって言います。これから一緒に住むことになるけど、始めはなんでも好きな呼び方で良いからね」
当然‥‥最初からこの女の人の事を母とは思えず、私はカルダさんと呼んだ。
父さんも少しずつ慣れればいい。
そう言ってくれた。
カルダはなんでも出来た。
掃除
洗濯
料理
裁縫
私と父ではこなせなかった家事も全部してくれた。
‥‥そんな彼女に私は尊敬、憧れを抱き、次第に不器用ながらも
母さん
と呼べるようになっていった。
母さんがいる生活は、こんなにも暖かくて賑やかなのか‥‥。
小さい家で仲良く3人。
こんな風に過ごす日が来るとは、夢にも思っていなかった。
ご飯を食べる時も3人
寝る時も3人
いいことが沢山増えて。
誕生日プレゼントだって一つ多く貰えるようになった!
夢に描いていた、幸せな日々。
カルダが私をいつもの様に寝かしつけて、父さんの研究机にお茶の入ったコップを置く。
「あぁカルダさん、すまないね」
「フフ、いいのよ?これくらい気にしないで‥‥シロナちゃんはさっき眠ったわ」
「そうか、ありがとう」
カルダは近くの椅子に腰掛ける。
「‥‥その薬、だいぶ完成してきたみたいね」
「もうあと少しってところかなぁ~。‥‥‥‥なぁ、カルダさん。僕との約束覚えているかい?」
シロウは、手元の魔石を専用道具でゴリゴリと砕きながら口を動かす。
「えぇ、覚えてるわ‥‥。シロナちゃんが私に懐いたらと、あなたのその薬が完成したら‥‥‥‥‥‥出て行くよね?あなた一人、この村から‥‥その理由はやっぱり話せない?」
動かしていた手がピタッと止まり、シロウは俯き呟く。
「‥‥すまない‥‥カルダさん。‥‥詳しい事は話せない。けど、僕は‥‥探しに行かないといけないんだ。その為に僕にはこの薬が必要なんだよ。‥‥魔力の才能に恵まれなかった僕に‥‥」
探しに行く。
一体誰を?
どこへ?
そうカルダは思ったはず。
でも、彼女はそこから深くは足を踏み入れなかった。
「‥‥分かったわ。シロナちゃんの事は私に任せてちょうだいね。じゃ、そろそろ私も寝るから‥‥夜更かしも程々にするのよ?」
カルダはコップをシンクに置き、寝室へ向かった。
そして、シロウは誰にも聞こえないくらいの声で
「レイナ‥‥」
と呟いた。
そんなやり取りがあって数日後の事‥‥。
カルダは外に買い出しで出掛けて、父と私の二人で留守番をしていたある日。
その時は、来てしまった。
「あっ、母さん財布忘れてる!」
玄関先に落ちている財布を発見したシロナは、研究中のシロウの元へ駆け寄る。
しかし、シロウの研究も終盤に来ており、今日完成するかどうかという大事な時期であったため、シロウは研究から目が離せなかった。
「父さん!母さんが財布忘れてったんだけど、私届けに行ってもいいかな?」
「え?あ、あぁ、駄目だよ?商業街に子供一人で出歩くのは危ないから‥‥僕が後で行くよ」
行くよ‥‥と言いつつ。
父さんが机から離れる気配はなし。
私はほっぺたをプーっと膨らまし、反抗した。
「もう私6歳だよ!それくらいのお使い一人で出来るから!」
横から必死に訴えかけるが、シロウは目すら合わせず駄目駄目しか言わない。
そこで、一旦諦めたふりをしシロウから離れるが、研究に熱中している父さんの目を免れ外に出るのは容易だった。
父さん‥‥行くとか言っときながら絶対行かないんだから!
母さんも財布が無いと困るだろうし‥‥
私が行くしかないな!
財布を片手に、商業街へ向かって走り出した。
確かに、商業街に子供一人で歩き回るのは危険。
何故なら、たまに魔物が紛れ込んでいる事があるかららしい。
そして、結構野蛮な人間もウロウロしているので、喧嘩なんてしょっちゅうある。
路地裏で人が倒れているシチュエーションなんて、日常茶飯事だった。
そんな商業街は、子供達にとって刺激的な非日常が味わえる憧れの場所でもある。
商業街の入口のアーチを潜り、人混みをかき分けカルダを探しながら走っていた。
すると突然誰かとぶつかってしまい、相手も私も転けてしまう。
慌てた私はすぐ起き上がり声を掛ける。
「だ、大丈夫??!」
ぶつかったその人は、帽子を目深に被り着物を着ていた。
少し年上のお姉さんで、サラサラとした銀髪が輝いていてとても綺麗。
手を差し出すと一瞬躊躇ったが、手を取り立ち上がることが出来た。
「ごめんなさい。私ちゃんと前見てなくて‥‥」
お姉さんは地面に落ちた財布を拾い、私に渡してくれた。
「私もちゃんと見てなかったから‥‥ごめんね。はい、これ貴方のよね?」
「ありがとう!‥‥お姉さん1人?」
「ううん。お父さんと来たんだけど、はぐれちゃって‥‥探しながら歩いてたの」
「そうなの?私も母さんを探してるんだ!良かったら一緒に探そうよ!」
「え?いいの?」
「うん!私も一人で少し怖かったから‥‥」
ワクワクしていた半分、不安もあったので同じような境遇の彼女と出くわし
友達になれたら‥‥
なんて事を考えていた。
少し悩んでいたが、一緒に探す事に同意し商業街を二人で歩き回る事になった。
話を聞くところによると、お姉さんのお父さんは薬師らしく。
ここにはその材料を買いに来たそうで、お姉さんは反対を押し切って一緒に着いてきたらしい。
「案の定迷子になっちゃったから、きっと見つかったら叱られちゃうね」
微笑みながら私に話しかけてくれる。
この人はいい人だ!
「私も。父さんの言うこと無視して来ちゃったから、今頃カンカンだろうなぁ」
私達は顔を合わせ笑い合った。
そんな感じで子供が2人歩いていると、当然目立つわけで、背後にいかにもヤバそうな男達。
四人の男が私達を囲み睨みつけてきた。
突然の展開に私は半泣き状態。
そんな私をお姉さんは前に出て私を隠すように立つ。
「嬢ちゃん達~俺らちょっと金落としちまったみたいでさ~。その財布とかさ、俺達に恵んでくんないかな~?」
財布。
それは私がカルダに届ける財布の事を指していた。
怖くて下唇を噛んだ。
するとお姉さんが男達に向かって言い放った。
「これはこの子の物!あなた達に恵むものなんてありません!!そこを、退いて」
「お姉さん‥‥!」
勇敢なその姿に、私は少し安心した。
でも、男達が素直に従うはずは無く‥‥。
「んだとぉ?!この餓鬼!!」
お姉さんの腕や頭を鷲掴みにする。
すると、その拍子に帽子が脱げてしまった。
全員が驚いた顔をする。
美しい銀髪の頭に獣耳が現れたからだ。
そう。
彼女は
魔物だった。
「コイツっ!魔物?!」
「‥‥っ!君!早く逃げて!」
固まっている私を突き飛ばす彼女。
彼女は私を逃がそうとして、男達を殴ったり蹴ったりしている。
それなりに相手は怯んでいる。
やっぱり魔物だから人間より力が強いんだ。
でも、、
「お姉さんは?!」
その問いに、彼女は笑い答える。
「私は大丈夫。ごめんね黙ってて。さぁ!早く行って!」
すると、やられて地面に倒れていた男が私を追いかけようとするので、私は怖くなり一目散にそこから逃げた。
‥‥彼女だけを残して。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
87
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる