灰色ノ魔女

マメ電9

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第一章 白黒から虹色に

第十六話 夢の後の日常

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エレティナから魔具をもらい、その後ルークの家に帰ってきた私は、暖炉の前のソファーに座って寛いでいた。

この2日で色々ありすぎで、あまり体力の無い私にとっては、かなりハードなスケジュールだった。
まぁ‥‥‥‥これで膨大な魔力も制御できるし、何より私に生きる意味が1つ見つかったからいいか‥‥。

膝の上で眠るコハクを撫でていると、私もいつの間にか泥のように眠ってしまった‥‥。




夜は嫌いだ。

何故かって?

それは‥‥夢を見るから‥‥。

空を飛ぶ夢や好きなお菓子を食べれるような夢ならいいんだけど、私が見る夢はいつも暗い。

これは私に掛けられた呪いだと思う。



ほら‥‥‥‥‥また‥‥。



目の前に父。

背中を鋭い爪で引き裂かれて血塗れになってうつ伏せで倒れている。

そして、父さんはいつも最後に私に何かを話す。

でも

その言葉は何故かいつもノイズが入って上手く聞き取れない。

まぁ、聞き取れなくても何となく分かる。
きっとこう言ってるんだろう・・・


『お前の‥‥お前のせいだ‥‥!』





って‥‥。

その通りだ‥‥。私があの日1人で外に出かけなければ、あんな事には‥‥。

この呪いはきっと解けない。
一生かけても償いきれない‥‥


これは私に科せられた‥‥

罰だ。


夢の中でノイズが入った時、いつもそこで目が覚める。
だからなのか分からないけど、私はいつも寝起きの機嫌が悪い。

この日もノイズが入って目が覚めた。
私はソファーで眠ってしまったと思っていたが、何故か自分の部屋のベッドで寝ていた。

コハクも布団の上で気持ち良さそうにスースーと寝息をたてている。

ソファーで眠ってしまった私をルークが部屋まで運んでくれたのか・・・。
そういえば服も着替えずに寝ちゃったな。

そう思い出し、ベッドから起き上がる。
そこであることに気づいた。

服が‥‥‥‥部屋着になっているではありませんかー!!!

あれ、私着替えた覚えが‥‥。
いや待て。
これ‥‥同じような事が前にもあった気がするぞ!

私が初めてここに来た日!

え、ちょっと待って。

あの時はパニックで気にならなかったけど、よくよく考えたらこれ‥‥これ‥‥!

ルークが‥‥っ!!!!??!

顔から火が出るくらい熱くなるのが分かった。

もしかして

もしかして

全部見られ‥‥

私はいてもたってもいられなくなり、気づいたら勢いよく部屋から飛び出していた。
それも大声で叫び散らかしながら。
「ルゥゥゥゥゥウクーーーーー!!!」

階段を駆け下りるとキッチンにルークの姿があった。

「お、起きたか。顔洗ってこい、飯だぞ」
朝ごはんのいい匂いがする。
でも、今はそれどころではない。

確認せねば!

「あ、あ、あああ、あんた!!!き、昨日の夜!わ、わわ私の服を!」
恥ずかしすぎて呂律が回らない。
それに対しルークは冷静だ。

「ん?昨日?‥‥あぁ、だいぶ汚れてたからな、洗濯しておいたぞ」

違う!!そうじゃない!!!

「洗濯しておいたぞ、じゃないし!!てことは、あんたが着替えを‥‥?!」

「?当たり前だろ。何焦ってるんだ」

コイツゥうううう!!!!

「へ、変態!痴漢!セクシャルハラスメントーー!!!」

「なんなんだ一体。寝室にまで運んでやったのに」

「あのなぁ!私はこれでも女だぞ?!それなのに、寝てる間にむくとか!ありえないだろ!!」

「ん~‥‥‥‥そうか、まぁ一応女の子だもんな。今後気をつけよう」

ななな、何なんだー!その冷静さはー!!!

あれか!私の事女として見てないな!
小さい子感覚だろ絶対!!

まぁ確かにぃ?女としてのポテンシャルは低いさ、胸もそんな無いし?
でもこれは、今まで栄養が足りてなかっただけで!これから大きくなる予定だしぃ!!
これからなんだしーー!

コノヤロウ‥‥
絶対見返してやるからな!!!

と、涙目になりながらルークを睨みつけたが、ルークは特に気にせず席に着いた。

「ほら、せっかくの飯が冷める。コハクも呼んでこい」

‥‥‥‥この温度差よ。



コハクを起こして一緒に一階へ降りた。

「はい、コハク」
「クゥクゥ!」

コハクの主食は私の魔力だが、私達と同じようなご飯も食べるらしい。
だからコハクの分もルークがちゃんと作ってくれた。

やっぱりルークの作るご飯は美味しい。
コハクもノンストップで食べ進めていく。
すると食べ終えたルークが立ち上がり話しかけてきた。

「それ、食べ終わったら庭に来い」
「庭?なんでだ?」
ルークは右手首を指さした。

「せっかく作ってもらったんだ。もう魔力制御も出来てるはずだからな、魔法‥‥練習するぞ」

そうだ!魔法!
魔力ゼロだった私がコレのおかげで使えるようになるんだ!

私は胸を踊らせ、残りのご飯を一気にかきこむ。

「ぷはっ。ご馳走様!」


それから私達は家の裏にある庭へ移動した。
玄関側の庭と違って花壇とかは無く、木に囲まれた芝生になっている。
少し運動するのに丁度いい広さだ。

キョロキョロと見渡しているとルークがロウソクを持って来た。

「よし、準備はいいか?」

あの時は魔力量を上手く扱えなくて大爆発を起こしてしまったが‥‥
もう魔力調整は自由自在!
リベンジだ!

「いつでもいいぞ!」
やる気十分で右手を前に突きだし、左手で右腕を支える。
ルークはロウソクを下に置き、その場から離れると牙のネックレスに両手を近づけ魔力を練りだした。

「シロナ!」

掛け声とともに、右手に魔力を練って唱えた。

「ファイア!!」








その少し前、ジェイトとモノンはルークの家の前に来ていた。

「いやぁ、久しぶりに弟子に会いますね。1年ぶりくらいかな」
「え?そんなに会ってねぇのか?師弟関係なのに」

「ルークはもう一人前ですし、僕が教えることは無くなっちゃいましたからね~。弟子の弟子は孫みたいなもの、会うのが楽しみ楽しみ!」

「へへ、俺が言うのもあれだがちっこくて可愛いぜ」
「そうなんですか!」

玄関まで着いた2人だが、チャイムを鳴らしても何も返答が返ってこない。
「あれ?出掛けてる?おーい、ルーク!来たぞー」

「‥‥‥‥‥‥‥‥留守ですかね?」

「寝てんのかな、もっかい押すぞ」
そう言ってジェイトがもう一度チャイムを鳴らしたその時!

ドォォォォォォォオオオン!!!!!

家の裏から物凄い爆発音がした。

「なっ何だ今の?!すげー音したぞ!」
「裏庭からですね、行きますよジェイト!」

急いで家の裏に回ると、庭は黒い煙に包まれていた。
するとその煙の中から、ゴホゴホと咳き込みながらシロナが出てきた。

「ゴホッゴホッ、クソォ、なんだよこれ」

「シロナ!大丈夫か!」
ジェイトはシロナに駆けよってどこも怪我が無いことを確認した。

「あれ?ジェイト‥‥?何でここに」
「何言ってんだ~。また顔出しに来るって言ったろ?それよりこれはどういう状況なんだよ」

うっ
と明らか渋い顔をした。
だって、普通にロウソクに火を灯そうとしてこんな爆発を起こしてしまった失敗を知られるのは、すごく嫌だったから。

説明を渋っていると煙が晴れてルークが出てきた。

「やっぱりな、シールド魔法で庭を囲っておいて正解だった。シロナ‥‥ちゃんと魔力量調節したか?」

「勿論したぞ!前は練っても量の感覚が分からなかったけど、今回はちゃんと把握出来てたし‥‥ちょっと失敗してしまったが‥‥」

「何処がちょっとだ。ちょっとって言うのは、例えたら小さじで少しすくうぐらいだ!お前の場合お玉でも使ってるんじゃないのか」

あーーー!もーーー!
うるさいなーーー!!!
人がいる前でゴチャゴチャとーー!

「初めに今まで魔法使った事ないって言っただろ!後!私の家系は不器用だから仕方ないんだからちゃんと教えてくれないルークも悪い!」

「不器用って‥‥限度があるだろ」

「う、うるさーい!」

目の前で繰り広げられる口喧嘩に挟まれたジェイトは、気まずそうにその喧嘩の仲裁に入った。

「おいおいおい、お二人さん?俺達のこと忘れないで欲しいな~」

その声にようやくジェイトの存在に気づいたフリをするルークは、さらりといじる。
「ん、なんだ。居たのかジェイト。気づかなかった」

「あれ~。俺にそんな態度とっていーのかなー?ルーク君。今日はお行儀良くした方が身のためだぜ」

ジェイトの後ろに隠れていたモノンがルークに近づいてきた。

「!」

気配を消していたのか、モノンの存在には気づいていなかったルークは、1年ぶりに再開する師匠の顔を見て少し驚いた顔。

「せ、先生‥‥」

「ルーク、久しぶりですね。相変わらず元気みたいでなによりです」

ルークが先生と呼ぶその人は、どう見ても私と歳が近そうに見えた。
でも、何となく感じるオーラが10数年前そこら生きてきた子供が出すようなものには思えなかった。

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