灰色ノ魔女

マメ電9

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第一章 白黒から虹色に

第七話 エレティナはこれでも店長やってます

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「何が待ってただ、いつもフラフラしてるくせに。店番の子はどうした」

「しょうが無いじゃない!用事があってどうしてもお休みしたいって言われちゃったんですもの~!」
エレティナは店のカウンター席に腰掛けて足を組んだ。

なんか偉そうだなこのエルフ。

「まぁ店の方が道具の種類も多いしいいじゃない。それで?この子が手紙で言ってた人間の新しい助手ね。」

エレティナはシロナの事を舐めるようにジロジロと見てくる。
き、気持ち悪っ何この人?!

すると何か解ったのかエレティナは立ち上がり私に近づいてきて、フードを脱がしてきた!
そして顔を近づけてくる。

近い・・・っ!そんな近寄んなくても・・・っ!
なんかふむふむとか言ってるし・・・いったい何なんだほんと。

「ふ~ん。あなた珍しい魔力を持ってるわね。おまけにその灰色の髪・・・まるで元始の魔女だわ」

また魔女か。
私は、一般常識が少し欠落している。
長い間監禁されていた弊害だ。

「なぁ元始の魔女って何なんだ?」
「えッ?知らないの??昔話とかで親に聞かされなかった?」
「母は私を産んですぐに亡くなったらしいし、父も幼いころに亡くしたので」
「そぉ・・・なんかごめんなさいね」

【元始の魔女】

 むかしむかし、まだ魔物がこの世界にいなかった時代。
王都の下町に灰色の髪の女の子がいました。

女の子は闇の精霊術師の末裔で、優れた魔力の持ち主だった為、王様からも期待された存在でした。

しかしある日突然、平和だった王都に闇の軍勢が押し寄せてきました。

その軍勢を率いてきたのは、なんと灰色の髪の魔女。

魔女は闇の精霊術を使い、魔物兵を生成したのです。

そして王都は闇に飲み込まれてしまいました。



というバッドエンドのお話らしい。
しかし、今も王都は存在しており平和そのもだそうだ。
 元始と呼ばれているのは、生成した魔物兵の子孫が今の魔物達だそうで、この世界に魔物を創り出した存在だかららしい。

「本当にあった話なのか?」
「あくまで言い伝えの昔話だしね。色々変わってる部分も多いと思うけど」
「なるほどね」

エレティナから昔話を聞いている間、ルークはまだかまだかという顔でこちらをずっと見てきている。
たぶんルークはこの店に長居をしたくないのだろう。
理由は知らないけど。
そしてその口を開いた。
「エレティナ!もういいだろ、早く助手の魔具を見繕ってくれ」

「まぁ!ルーちゃんったらもしかして、やきもち?ふふ駄目よ~。私この子気に入ったから」
エレティナは私を胸元にギューっと抱きしめてきた。
く、苦しい・・・!!じたばたと暴れてみたが、まったくその力を緩めてくれない。
この女見かけによらず剛力である。

「でもルーちゃん。悪いんだけど、ここにある魔具だとこの子の魔力は制御できないわよ」
「何だとっ!?」

衝撃の事実。

「シロちゃん。今ままで魔法を使ったことが無いって手紙に書いてたわよね?魔力が覚醒したのはいつ頃?」

「えっと・・・9年前かな?たぶん」
はぁと溜息をつくエレティナ。え?何かまずいの??
「あのね・・・魔力っていうのはストレスと一緒で、定期的に発散させないと溜まっていく一方なの。つまり今のシロちゃんの中には大量の魔力で溢れ返ってる状態。適当な魔具じゃ抑えきれないわ」

 え~・・・魔力ってそんな感じなの??だから蝋燭を灯すだけで爆発が起きたのか??
それって結構危険人物なんじゃないの?私・・・。
こわ(汗)

「でも大丈夫よ。ちゃんと当てはあるから」
そう言うとエレティナはカウンターに置いてあった紙に何か書きだし、それをルークに渡した。
「ルーちゃん。これに書いてある素材を採ってきてほしいの」
「は?!客に頼むか普通」
「お願~い!私、店から離れられないの!ルーちゃん達しかいないのよぉ!」

 はは~。このエルフただ単に面倒くさいだけだな。
顔めっちゃニヤニヤしてるし。

 まぁでも、私が使う物だしね・・・。
ルークは仕方ないなとボヤキながらも引き受けることにし、店を後にした。

 ルークは迷わずスタスタと歩いていく。どこに行く気だ?素材を集めろって何を集めるんだろ。
あれか?魔石ってやつ?
なら洞窟とかかな・・・

そしてたどり着いたのは、またしても転移門。しかし行き先は【白竜の谷】と書かれている。

「白竜って・・・もしかしてドラゴン?」
「そうだ。ホワイトドラゴンの住処があるんだが、そいつの羽根を一枚とウロコを採ってきてほしいらしい」
ホワイトドラゴン!
如何にも強そうなんですけど。

 転移門をくぐるとまたしても光に包まれた。
着いた先はゴツゴツした岩山と木々が生い茂っており、霧のせいで視界が悪い。
これじゃあ探すのは苦労するだろうな。
しかももう日が暮れる。暗くなれば余計に見つからないだろうに。

その不安が顔に出ていたのだろう。ルークが説明を始めてくれた。

「心配するな。ホワイトドラゴンは大人しいドラゴンだ。住処も知ってるし、あいつは夜行性だからきっと着く頃には寝床も空になってるだろ。羽根とウロコぐらいなら落ちてるかもしれないしな」
「なるほど、ならそれ拾ってくるだけで終わりなら簡単なお遣いだな!」

なんだ、心配して損した。

しばらく歩くと木々の隙間から大岩が見えた。あそこがドラゴンの住処らしい。
でも、様子がおかしい。何かが燃えたような臭いがする。

嫌な予感しかしない。

急いで森を抜けると、そこは焼け野原となっており、微かに魔力が残っている。
地面には折れた片手直剣や弓も落ちている。
間違いない、人間の仕業だ。

「昼間に来て、寝ているところを襲ったのか?」

討伐か?どこから来た人間?どうして?何のために?
怒りと疑問がどんどん湧いてくる。

シロナ!と呼ぶ声が聞こえたので向かってみる。

大岩の後ろにホワイトドラゴンの亡骸が横たわっていた。
その身体は、酷い火傷と裂傷が激しく一方的に襲われた様な傷だった。
これは、いくら何でも酷すぎる・・・

「ホワイトドラゴンは大人しいと言ったが、ドラゴンはドラゴン。攻撃を受ければただでは済まさないはずだが・・・どうして・・・」

何か反撃しない理由があったのか。でもそれって何だ。
するとドラゴンの羽下が少し動いた気がした。

生きてる?!
いや、待って。もしかして・・・

「シロナ、どうした」



「ルーク。このドラゴン反撃しなかったんじゃない。出来なかったんだ」
「これは・・・ッ!?」

羽下には小さいドラゴンが守られていた。きっとこのドラゴンの子供だろう。
とても衰弱している。このままじゃ死んでしまう!
街には魔物の治癒術師くらいいるだろ!

「ルーク!早く街に戻ろう!そうじゃないとこの子が!」

「駄目だ。今から戻ったところで間に合わない」

冷静に答えるルーク。
その冷静さに私は腹が立った。

「駄目って、じゃぁこのまま置いていくのか?!私は・・・嫌だぞ・・・もう目の前で誰かが死ぬのは・・・」
駄目、泣くな泣くな泣くな。
目頭が熱くなるのが分かった。でもこいつに涙は見せたくない。

それを見てルークは何故か微笑んでいた。
「大丈夫。何もしないとは言ってない」
「え?」

ルークは腰に付けている鞄から、なにやら青く透き通った液体の入った小瓶を出してきた。

「ここで治療してから戻らないとダメだって言ったんだ。薬師としてこのまま見過ごすわけにはいかないしな」

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