真野君は私の気になる後輩

黒子猫

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〈壁が壊される……?〉

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こんなに酔ったのは久しぶりだった。
足がふらふらする。
私は真野君の肩を借りながらなんとか歩いていた。
「大丈夫ですか?水、飲みます?」
「……いらない……」
ふらふらだったけど、気分は良かった。
あの後、更に飲んで……。
なんか、色々話したと思ったんだけど……、よく覚えていない……。
「三香子さんの家はここをまっすぐでいいんですか?」
「……うん……」
曖昧に頷く。
私はどうやら、真野君に家に送ってもらっているようだった。
「いやー、でも、僕と三香子さんが付き合うことになるなんてなー」
嬉しそうに笑う真野君。
「……うん……?」
今なんて……?
私、酔ってて空耳が……?
私は頭がボーッとするのを、正気に戻そうとする。
「いや、だから、僕と三香子さんは付き合うことになったんですって」
真野くんの笑顔に動揺する。
「え……そんな……覚えてないんだけど……」
付き合うって、なに……!?
冗談……だよね……?
だんだん酔いが覚めてきた。
真野くんは私の心をまるで読んだように
「冗談じゃないですよ?」
と少しイジワルっぽく言った。
「……付き合うって言っても、これはお試しです。自分でそう言ったじゃないですか、三香子さん。
社内恋愛はしないって決めてたけど、本当は社内でもドキドキ出来たらいいなって」
「いや、でも……」
確かに、そんなこと言った気もするけど……。
「だから、僕は提案したんです。じゃあ、僕たち付き合ってみませんか?って。
だって、僕のこと意識してたから、目を合わせないようにしてたんですよね?」
「いや、そうだけど……」
あ、思わず本音が出てしまった……。
すかさず口をつぐんだけど、もう遅い。
真野くんが嬉しそうにニヤっとしていた。
「じゃあ、やっぱり、決まりですね!」
「……でも……、真野くんの気持ちは……!?」
「僕の気持ちですか?」
真野くんは私の耳元で言った。
「好きな決まってるじゃないですか」
思わず真野君の方を見ると、至近距離で目があった。
今、こんなに近い……。
「こんなに近くで目を合わせるのは、初めてですね」
そう言われて、すぐに顔を背ける。
真野君がクスッと笑ったのが聞こえた。
「なんで俺が好きになったか、分かりますか?」
私は横に首を振る。
ドキドキし過ぎて、これは夢なんじゃないかと思った。
「普段のクールな感じも好きだったけど……、社内恋愛しないって決めて俺と目を合わせないなんて……可愛いなって思ったんです」
私はなんか恥ずかしくなった。
「バカにして……」
「バカになんてしてないですよ」
真野くんの私を見る目がいとおしそうなものを見る目に変わった。
「そんな頑なあなたが、俺と付き合うとどう変わるのか、見てみたくなったんです」
「……付き合うってまだ言ってない……」
「ほぉー、そんな意地張っちゃって」
「わ、私は覚えてないし」
「この流れで付き合っちゃいましょうよ」
「か……、軽すぎ」
嬉しくない訳じゃない。
だけど、こんなに簡単に付き合うのは、なんか悔しい。
今まで、社内恋愛しないって決めて頑張ってきたのに……。
「しょうがないなぁ……」
真野くんは、子供に可愛い可愛いをするように私の頭を数回撫でる。
「じゃあ、1ヶ月。1ヶ月付き合ってみて、いいなと思えなかったら、その時考える。1ヶ月で俺の魅力をお伝えしますよ♪」
すごい自信だな……。
真野君も大分酔ってるみたいだ。
「……こういう大事なことをこういう酔ってる時にするのはどうかと……」
「だから、いいんじゃないですか。じゃないと三香子さん、社内恋愛する気になんて起こらないでしょ?」
「でも……」
こんな約束してもいいのかな……?
後で後悔しない……?
「こーゆーのは、勢いが大事なんです。今までの壁を超えるにはね」
真野くんが至近距離でニヤリと笑った。
「三香子さんの常識の壁、越えちゃいましょう♪」
「……でも……」
今まで守ってきたルールを崩すのは、怖い。
「お互い惹かれ合っている2人が近づいて、付き合うのは当然のことかと思いますが……」
確かに、真野くんのことは気になる……。
でも……、今まで決めてきた壁を越えるのは、勇気がいる……。
「あのさ……。家で帰ってからメールで返事するのでも……いい?」
「いいですよ」
真野くんは笑顔だった。
あぁ、こんなこともスパッと決めれないなんて情けないけど、カッコ悪い気がするけど、笑顔で受け入れてくれた真野くんの対応に安心して、私はホッとしていた。
少し、今までの壁を壊す勇気が出そうな気がする……。
真野君に送り届けてもらう間に、私の気持ちも変わっているかも……。
「ところで、三香子さん。今日はお家にお邪魔してもいいですか?」
「ダメ……!」
……しれない。



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