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「救いの船」

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職場の人と飲むことになった。
残業付き合ってくれたお礼ってことで、奢りで。
最初は3人で飲んでたんだけど、一人はさっき帰ってしまった。
私は、職場ではたまにしか話さない、この同僚と2人きりになった。
さっきから、この人は、どうでもいいことをぺちゃくちゃ喋っている。
私は、飲みすぎてしまったのか、ちょっとぼーっとしている。
「佐々木さんて、普段職場で全然喋らないですよね。女子の輪に入らないというか」
佐々木さんって、私の名前。
色々言われて、鬱陶しいなぁと思った。
「私、学生時いじめられてたから、職場の人とは深く関わらないようにしてるの」
沈黙が訪れた。
さすがに、こういうことを言ったら、向こうも何を言っていいか分からなくなるよね。
「……そうだったんですね……、……なんか言う言葉が見当たらないんですけど……」
まぁ、そりゃそうだよね。
私は、レモンチューハイのグラスに口を付けた。
「……佐々木さんが学生の時に、俺が一緒の学校だったら、良かったのにって、思いました」
予想外の言葉に飲みかけたお酒が喉に詰まりそうになった。
「……なに……?」
「いや実は前から、佐々木さんのこと良いと思ってて、いや、あの……過去に戻れる訳じゃないですけど、俺は、学生時代楽しかったんで、想像しかできないけど、きっと辛かったんだろうから、俺が居たら、いじめてるヤツらに何か言ってあげれたかな……と……」
「分かった……。私とやりたいんでしょ?だからそういうこと……」
そう言いながら、心の奥がギュッとしていた。
もし、あの時戻れたら、そんな人が居たなら、少しは救われたのかな……そんなことを想像してしまった。
私は、瞼が熱くなるのを隠すように、深く目を閉じた。


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