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「名前」

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私の名前は明子。
明るい子と書いて、明子。
でも、明るくなんてない。

名前なんて、親が勝手に付けたもので、別に自分で選んだものじゃないし。
産まれる前や、産まれてすぐに付けたりするから、私の性格なんて関係ない。
親の願いだったり、好みだったりで付けられてるだけ。
だから私は、この名前に左右されることはない。
そうやって、自分を励ます。
あまりにも、自分はこの名前とかけ離れているから。

この名前のあった自分になろうと思って、頑張った時もあった。
なるべく笑顔を心掛けたり、楽しい口調で話そうとしたり、大袈裟に笑ったり……。
でも、すぐに疲れた。
当たり前だ。
本当の私じゃないんだから。

本当の私は、物静かで、人と関わるより一人が好きで、人前でもあまり感情を表さないような人間だから。

昔、この名前が嫌だということを、親戚に話してみたことがある。
「いい名前なのにね~」
「明子ちゃん、可愛いじゃない」
「この名前みたいに明るくなれば良いのよ」
「お父さん達が色々考えて付けてくれた名前なんだから」
……多分、大して考えてない。
うちの両親は。
周りの大人は無責任に適当なことを言って、波風立たないようにするものだ。
適当なのだ。
こちらの気持ちもちゃんと考えないで。

学校にいると、この名前にそぐわない自分に、肩身が狭くなる思いがする。
名前とは、看板なのだ。
『明子』という看板が出ていて、その後ろの私が明らかに暗かったら……笑い者である。

せめてもうちょっと意味のない漢字を使ってくれたら……。
まだ、引け目を感じずに済んだのに。

こんな下らないことで悩む。
でも、私にとっては大きなことなのだ。


ある日、ふと思った。
ネットで多くの人は匿名で活動してる!
だから、私も好きな名前を名乗って、ネットではそのままの自分を出せばいいんじゃないかと……。
私もTwitterはやっている。
でも、見る専門だし、名前も適当に付けていた。
私は、自分の好きな名を名乗り、自分を出して良いんだ!!
そう思ったら、希望の光が見えた。
名前……。
何にしよう……?
私に相応しい名前……?
でも、今の私に相応しい名前じゃなく、新しい、こんな自分になりたいって名前だったら、嬉しいかも……。
そうだ……光にしよう。
光はよくありそうな名前だから、
ヒカリ……?
HIKARI……?
柔らかさを表現するために、ひらがなの『ひかり』……??
なんか、考えてたら、ちょっとワクワクした。
こんなことで悩むなんてカッコ悪いのかもしれないけど。
自分のこれからに可能性を感じること、なんか嬉しく思った。
きっと、私の道は私で作れる。



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