【短編集】気ままにショートストーリー

黒子猫

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「ある日、会社の飲み会の後……」

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キスしたい。

ここは、居酒屋。
私は会社の飲み会に参加していた。
今は、ほとんどの人が帰ってしまい、私ともう一人の同僚しか残っていない。
今日は大分飲んでしまった……。
明日が休みで良かった……。
もうそろそろ帰らないと、終電の時間がなくなるな、などと思う。
でも、体がダルい……。
動きたくない……。
残された同僚はというと、やっぱりぐったりしていた。
飲みかけのビールやつまみなどが置いてあるテーブルの脇で突っ伏している。
ダメだこりゃ……。
こんな風になっていたら、まともに帰れる気がしない。
あぁ……でも、そろそろこのお店からも出ないとだな……。
ぼーっとした頭でそんなことを考えた。
「ねぇ……、生きてる……?」
同僚に聞いてみる。
「……はい……。なんとか……」
この同僚とは今まであまり話したことはない。
たまに顔を合わせれば挨拶するか、たまに仕事で必要なことを話すか、それぐらいだ。
「とりあえずここ出ないと……。迷惑かかるから……」
私がそう言うと、同僚は無言のまま頷いた。

夜の公園は誰も居なかった。
私達は駅に向かって歩いていたのだが、同僚が途中で気持ち悪くなってしまい、仕方なく近くの公園のベンチで休むことにした。
終電がもうすぐ出発する時間。
多分、この人を置いて私だけ走って行けば間に合うかもしれない。
でも、走る元気もないや……。
もうどうにでもなれと、同僚の隣でボーッとしていた。
「ねぇ……、大丈夫?」
前を向いたまま、一応同僚を気遣ってみる。
「はい……。なんとか……」
さっきと同じセリフだ。
はぁ……と私はため息をつく。
「……すいません……なんか……、終電で帰れたかもしれないのに……」
私を気遣う元気はあるようだ。
「まぁ……、仕方ないよ」
私は若干ため息混じりに言う。
「キニシナイデ」
自分のその言葉はなぜか嘘っぽく聞こえた。
私は、本当はちょっと怒っているんだなと思った。
「やっぱり、どこかに置いて帰れば良かった……」
小さく呟いたつもりが、彼には聞こえていたようだ。
「本当……すいません……」
同僚だけど、気が弱くて敬語が抜けない。
酒が入っているのに、気を使うのが抜けない。
そんななのに、なんでそんなに酔った?
「あのさ……、お酒弱いの?」
「いや、そんなに弱くないんですけど、今日は飲みすぎて……。緊張ほぐそうとして、思わず……」
「なんでそんなに緊張するの?」
「人と話すの苦手で……」
ほぉ……。
人見知りだったのに、飲みに誘われて、仕方なく参加したから、飲みすぎたって訳か……。
確かに社内でも人見知り感あるもんな……。
「でも、そのせいでご迷惑かけてすみません」
いやいや、なんでも背負うなよ。
自分のせいにし過ぎるなよ。
それじゃあ社会で生きてくの大変だぞ。
「なんか生きにくそう……」
「え……?」
「そんな風に自分のせいばっかにしなくてもいいのに。終電見逃したのは、私の選択でもあるし」
そう、放って置こうと思えば出来た。
でもそうしなかった。
それは私が選んだこと。
「でも……」
「じゃあさ私の暇潰しに付き合ってよ。始発の時間までまだまだだから」
「でも……、もう飲むのは……」
「……ホテルでも行く?」
「はっ??」
彼らしからぬ声が出た。
こんな声は初めて聞いた。
……面白い。
「休憩って言ったらホテルっしょ?ここの近くに何件かあった筈……」
私はスマホで調べようとする。
「血迷うのはやめてください!」
「……血迷う……?」
私は思わず吹き出す。
「……こういうの……嫌いなんです……僕は……」
真面目すぎる……。
私はこういうのが好みだ。
「でも、退屈だしなぁ……」
「じゃ、じゃあ……、ここで喋っていたらいいじゃないですか」
「えー、でもちょっと肌寒いしー」
「僕の上着貸しますよ!」
「飲み物とかないしー」
「コンビニで買ってきますよ!!」
「……優しいじゃん」
顔を見てニヤッと笑うと、彼は照れて向こう側を向いた。
ほう……。そう来たか……。
「じゃあさ、横になりたいから、膝枕、して?」
「は……?膝枕って普通女性がするものじゃ……」
「どっちとか関係ない。私に申し訳ないと思ってるなら、早く」
予想もしてない展開にドギマギする彼。
これは、面白い。
彼にベンチの端に移動してもらうと、私は遠慮なく、頭を乗せようとする。
「ちょっと待ってくださいっ!……ゆ、ゆっくり、お願いします……」
リクエスト通りゆっくり頭を乗せると、少し彼の膝がビクッとなり、思わず笑った。
「……面白い……」
「何を楽しんでるんですか……?」
「だって、面白いんだもん」
『なんか久しぶりに笑った気がする』と小さく呟くと、私は目を瞑った。
なんかこの膝枕……安心するな……。
思わずこのまま寝そうになる。
「あのさ……」
「はい……?」
次は何を言われるのかと不信そうな彼の声。
「キスしてみる……?」
「はい??」
案の定大きな声が響き渡った。
とたんに私は可笑しくなる。
私の好きなリアクション。
「……冗談」
笑いを堪えながら言った。
「でも……、したかったらしていいよ」
私は目を閉じたままそう言った。


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