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第三章 中核都市エームスハーヴェン

第五十六話 招かれざる客

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 ジカイラ達が昼食を終えた頃、ラインハルトがエリシスに指示を出す。

「そろそろだろう。エリシス、ナナイの迎えを頼む」

「御意」

 エリシスは、ラインハルトにそう答えると転移門を通り、皇宮からナナイを連れて来た。

 ナナイが口を開く。

「こっちもお食事中だったの?」

 ジカイラが答える。

「今、終わったところさ」

 ナナイは、ラインハルトの隣に座り、ティナに話し掛ける。

「良かった。元気になったみたいね」

 ティナは、気不味そうにナナイに答える。

「ごめんなさい。・・・色々と・・・迷惑や・・・心配を掛けたみたいで・・・」

「いいのよ。ラインハルトの義妹いもうとは、私の義妹いもうとでもあるんだから」

 そう言うとナナイは、ティナに微笑み掛ける。

 ティナは、ナナイの言葉を素直に受け取り、微笑み返していた。



 ジカイラは、少し離れた席から二人のやり取りを眺め、考えていた。

(理由はどうあれ、あの気の強いナナイが、自分の男と寝た女に微笑み掛けるなんて・・・)

(『自分に対する絶対的自信』と『妻としての、皇妃としてのプライド』ってやつからきてる余裕なんだろうな・・・)

(女ってのは、恐ろしいぜ・・・)

 実際、ジカイラの思案通り、皇帝であるラインハルトがナナイ以外の女性を何人抱いたとしても、帝国の皇妃はナナイであり、世継ぎである皇太子を産み育てているのもナナイであった。








 その後、食堂に居る全員で食後のお茶を飲み談笑していると、宿屋に1人の男が入ってくる。

「皆さん、お揃いのようですね」

 軍服を着た丸眼鏡の骸骨のような男。

 秘密警察のアキ少佐であった。

「「秘密警察!?」」

 突然、秘密警察の将校が現れたことで、ジカイラ達は身構える。

 アキは、悪びれた素振りも見せず宿屋の食堂までその歩みを進めると、話し始める。

「ヒヒヒ。皆さん、そう驚かなくても。こちらだと伺ったので、今日は挨拶に伺いました」

 食堂の中を見渡すアキの目に、ラインハルトとナナイの姿が目に留まる。

「おや? お二人も居ましたか」

 ラインハルトとナナイの方を向くアキに対して、2人は身構える。

 アキは、身構える2人を気に留める様子も無く、話を続ける。

「いやはや。少し見ない間に英雄殿は皇帝になったようで。ご立派な事です」

 ラインハルトが答える。

「嫌味か?」

 アキは、針金のような細い目を更に細くして笑う。

「ヒヒヒ。いいえ。率直な感想ですよ」

 そう言うとアキは、ナナイの方を向く。

「貴女も以前のようなトゲトゲしさが無くなって、すっかり女性らしくなられましたな。すっかり英雄殿にようで。 ヒヒヒヒヒ」

 ナナイのエメラルドの瞳がアキを睨み付け、剣の柄に手を掛ける。

下衆ゲスが!」

 ジカイラが長机の上に両足を上げ、アキに悪態を突く。

「おい! お前、そんな事を言うためにわざわざ此処に来たのかよ?」

「これは失礼。私としたことが。ヒヒヒ」
 
 ワザとらしく軍帽に手を掛け、アキはジカイラに会釈してみせる。

 ジカイラは更に悪態を突く。

「さっさと要件を言え!」

 アキは、不気味な笑みを浮かべてジカイラ達に告げる。

「革命党の党首であらせられるヴォギノ主席からの御命令により、我々、秘密警察はこの街から拠点を移し、この国から去ります。あなた方とは、もう会うことも無いでしょう」 

 アキの言葉を聞いた、その場に居た一同が驚く。

 ジカイラが尋ねる。

「お前ら、何処に逃げるつもりだ?」

 アキは、出口に向けて数歩、歩くと顔だけ振り向いて、歪んだ笑みを浮かべながら答える。

「我々が何処に行こうと、追って来ないほうが、あなた方のためですよ。それでは失礼します。ヒヒヒヒヒ」

そう告げるとアキは、宿屋から去って行った。







--バレンシュテット帝国-カスパニア王国国境 カスパニア王国軍 野戦陣地

 帝都ハーヴェルベルクから北西街道を進み、港湾自治都市群の中核都市エームスハーヴェンを抜けると、そこはカスパニア王国領であった。

 カスパニア王国軍は、北西街道沿いの小高い丘の上に野戦陣地を築いて宿営し、およそ十万の軍勢を預かるロビン将軍は、王太子カロカロからの指示を待っていた。

 今朝方、エームスハーヴェンからの早馬がロビンの元に到着。ロビンは『王太子失踪』の報告を受け、『自分はどうすればよいのか』と、王都に伺いを立てていた。

 自治都市とはいえ、帝国領であるエームスハーヴェンに攻め込めば、バレンシュテット帝国と戦争になることは明らかであった。

 アスカニア大陸でカスパニア王国は、『列強』と呼ばれる強国のひとつに数えられていたが、バレンシュテット帝国は、軍事、魔法科学、経済、文化など全ての分野でカスパニア王国を圧倒していた。

 一介の将軍に過ぎないロビンが独断で軍を動かして戦端を開くには、『荷が重すぎる相手』であった。

 ロビンは、昼近くまで王都からの指示を待ったものの、王都から未だ連絡は来ていなかった。

 ロビンが側近達に命令を出す。

「とりあえず帝国国境まで兵を進めよ!!」

 側近が尋ねる。

「よろしいのですか?」

ロビンが答える。

「国境までだ。国境を越えてはならんぞ!!」

 
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