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第三章 中核都市エームスハーヴェン

第五十五話 カスパニア王太子襲撃(三)

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 漁業区画に着いたジカイラ達は、乗っていた小舟を船揚場に上げ、捕らえたカロカロとレイドリックを荷車に乗せて宿屋へ向かった。

 カロカロの入った麻袋を小突いて、ジカイラが傍らのヒナに話し掛ける。

「・・・しかし、密入国するなら、商船や隊商に紛れて密入国するとか、商人や大道芸人に変装して密入国するとか、他に方法があるだろうに。自国の軍艦で王太子旗を掲げて堂々と密入国とか、此奴らって馬鹿じゃないのか?」

 ヒナも呆れたように答える。

「・・・きっと、自己主張が強い人達なのよ」

 ジカイラとヒナは、他愛の無い話をしつつ宿屋に歩みを進める。

 ジカイラ達が宿屋についた時、既に東の空が明るくなり始めていた。

 宿屋に着いたジカイラは、ケニーから『王太子旗』を受け取ると、報告書と共にフクロウ便で皇宮のラインハルトの元へ送った。








--領主の城 謁見の間

 謁見の間には、領主のヨーカンと秘密警察のアキ少佐が居た。

 アキ少佐は領主の椅子に座るヨーカンを無表情で見詰める。 

 アキ少佐が口を開く。

「・・・それで。領主は、我々に『黒い剣士』達と戦えと?」

「そうだ! そなた達の仇敵がこの街に現れたぞ! 積年の恨みを晴らす絶好の機会だ!!」

「仇敵? 積年の恨み? ヒヒヒ」

 そう呟くと、アキ少佐はニヤける。

 部屋の明かりがアキ少佐の丸眼鏡に反射し、不気味なアキ少佐の表情を映し出す。

 ヨーカンの顔が恐怖に引きつる。

「・・・我々、秘密警察は『黒い剣士』達など、何とも思っていません。彼らが手強い事も事実です。何の利益もなく、無闇に刺激するべきではないというのが私の考えです」

 ヨーカンが狼狽える。

「『戦わない』というのか!?」

 薄ら笑みを浮かべながらアキ少佐が答える。

「言ったはずです。『何の利益もなく、無闇に刺激するべきではない』と」

 ヨーカンは、むくれて悪態を突く。

「判った! もういい!!」

 領主の言葉を聞いたアキ少佐は、ヨーカンに背を向ける。

「・・・我々、秘密警察は、この街から拠点を移します。貴方とは、もう会うことも無いでしょう。ヒヒヒヒヒ」

 捨て台詞を吐くと、アキ少佐は謁見の間から去っていった。

 去っていくアキ少佐の後ろ姿を眺めつつ、ヨーカンは思案を巡らせる。

(クソッ!! 秘密警察がダメなら、ダークエルフがいる!!)

 ヨーカンは、衛兵に指示を出す。

「迎賓館に居るシグマに使いを出せ!!」







--翌朝。

 突然、軍艦から王太子と護衛が居なくなり、王太子旗が無くなったカスパニア軍艦は、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなった。

 カスパニア軍艦から各方面に早馬が出され、「王太子失踪」の報は、領主のヨーカンの元にも届く。

 報告を聞いたヨーカンは、驚きのあまり絶句する。

(マズい! マズいぞ!! 国境に展開するカスパニア軍が、この街に攻め込んで来る!!)

(それに、皇帝に知られでもしたら・・・)

 しばしの沈黙の後、我に返ったヨーカンは、衛兵達に命令する。 

「探せ!! 兵を総動員し、街中くまなく探せ!! 王太子殿下を何としても探し出すのだ!!」

 指示された衛兵は、城の詰め所に向かって小走りで向かって行く。

 謁見の間に一人残ったヨーカンが呟く。

「『黒い剣士の出現』、『カスパニア王太子の失踪』、『秘密警察の離別』。・・・クソッ! どうして、こうなった!?」

 







--ジカイラ達が宿泊する宿屋

 ジカイラ達は、カスパニア王太子の拉致と王太子旗の奪取のため、夜通し活動していたので、全員が起きてきたのは、昼近くなってからであった。

 全員で一階の食堂に集まって、昼食を取る。

 食事をしながら、ティナがジカイラに尋ねる。

は?」

 『お客さん』とは、軍艦から拉致したカスパニア王太子カロカロと護衛のレイドリックの事である。

 ジカイラがぶっきらぼうに答える。

なら、納屋の荷馬車の荷台だ」

 ルナも疑問を口にする。

「あの・・・水とか、食べ物とか、与えなくて大丈夫なんですか?」

 ジカイラが答える。

「大丈夫、大丈夫。もうすぐラインハルトが来るから」

 ジカイラがそう言うと、ジカイラ達が食事をしている席のすぐ近くに転移門ゲートが開き、ラインハルトとエリシス、その副官のリリーがやって来る。

 転移門ゲートから出てきたラインハルトがジカイラ達に話し掛ける。

「皆、食事中だったのか?」

 ラインハルト達三人は、食卓にしている長机の一角の席に座る。

 ジカイラが答える。

「今、まさに食事中だよ。ナナイは?」

「息子に授乳してるよ。終わったら来ると思う」

 ラインハルトがジカイラに尋ねる。

「それで、『』は?」

「納屋の荷馬車の荷台さ」

 ラインハルトが目配せすると、エリシスとリリーは席を立ち、納屋に向かう。

 しばらくすると、リリーが1人でモゾモゾと動く二つの麻袋を持ち上げて食堂まで運んで来て、エリシスが作った転移門ゲートの中に二つの麻袋を投げ込んだ。

は、私達が連れて帰って、じっくりと話を聞くことにするよ」

 ラインハルトは、ジカイラにそう告げると、ティナの方を向く。

 ラインハルトと目が合ったティナは、気恥ずかしさから、途端にみるみる顔が紅潮する。

 ティナは、先日、想い人である兄のラインハルトに抱かれ、胸も秘所も睦事での淫らな喘ぎ声も全てラインハルトに知られていた。

 上目遣いにモジモジしながら、ティナはラインハルトにお礼を言う。

「その・・・お兄ちゃん。・・・先日は、ありがとう」

「元気になって、良かった」

 ラインハルトはティナに微笑み掛けた。
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