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第二章 中核都市エンクホイゼン

第三十七話 殺戮

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--夕刻。

 ラインハルトの命令に従って、戦闘装備の帝国四魔将が孤児院に転移門ゲートを通ってやってくる。

 アキックス伯爵、ヒマジン伯爵、エリシス伯爵、その副官のリリー、ナナシ伯爵の五人であった。

 アキックスは竜騎士の鎧に両手剣とドラゴン・ランス、ヒマジンは騎士鎧に長剣、エリシスとリリーは、帝国軍の軍服姿、ナナシは黒いローブ姿のままであった。

 ラインハルトが口を開く。

「皆、よく来てくれた。間もなく『ジェファーソン・シンジケート』という麻薬組織が、この孤児院を襲撃しに来る」

 アキックスが怪訝な顔をする。

「麻薬組織が・・・ここを襲撃?」

 ラインハルトが答える。

「そうだ。我々は、それを逆手に取って、麻薬組織『ジェファーソン・シンジケート』を殲滅する。手加減無用。皆殺しにしろ」

 ヒマジンが軽口を叩く。

「そいつは賑やかになりそうですな」

 ラインハルトは鼻で笑い、笑顔を見せるとエリシスに話し掛ける。

「エリシス。麻薬組織の連中を一人も逃さないようにできるか?」

 エリシスが答える。

「できますよ。次元ディメンジョン牢獄・プリズンに閉じ込めてしまえば、彼らでは逃げれないでしょう」

 ラインハルトが続ける。

「それで良い。やってくれ」

 エリシスが答える。

「畏まりました」

 ラインハルトが楽しそうに口を開く。

「此処に居る全員に言っておく。今回は趣向を凝らして、全員、この銀仮面をつけて戦闘するように」

 ナナシが訝しむ。

「・・・銀仮面?」

 ラインハルトが答える。

「そうだ。この銀仮面だ」

 そう言うと、キラーコマンド達から集めた銀仮面を見せる。

 ジカイラが含み笑いを漏らしながら話す。

「くっくっくっ。ラインハルト。お前も洒落が判るようになったじゃないか。オレ達がこの仮面を付けたら、麻薬組織の連中、オレたちをこの孤児院のガキ共だと思うぞ。それが狙いか?」

 ラインハルトが答える。

「そのとおりさ」

 エリシスの副官、真祖トゥルー・吸血鬼ヴァンパイアのリリーも冗談を口にする。

「まるで『仮面舞踏会』ですね」

 ナナイも口を開く。

のが私達で、のが彼らね」

 ラインハルトが答える。

「そのとおりだ」







--日没。

 孤児院の正門の外に多数の男達の集団がやってくる。

 麻薬組織『ジェファーソン・シンジケート』であった。

 ジカイラが孤児院の窓から外の様子を窺う。

「シンジケートの奴等、来やがったな」

 ラインハルトが答える。

「我々も出るとしよう。ケニー、ヒナ、ティナ、ルナ。四人は孤児院の子供達の傍に居て、守ってやってくれ」

 ケニーが答える。

「了解!」

 ラインハルトが帝国四魔将に指示する。

「帝国四魔将は、シンジケートの連中を孤児院の敷地の中に入れるな」

 アキックスが答える。

「御意」

 ジカイラ達は、銀仮面を付けてローブを纏い、玄関から孤児院の外に出る。

 ジカイラを中心に両脇にラインハルトとナナイが並ぶ。

 その後ろに帝国四魔将のアキックス伯爵、ヒマジン伯爵、ナナシ伯爵、エリシス伯爵、その副官リリーが並ぶ。

 ジカイラが歩きながら軽口を叩く。

「皇宮に居て、事務仕事漬けでなまっているんじゃないだろうな?」

 ラインハルトが答える。

「大丈夫さ」

 ジカイラがナナイをからかう。

「ナナイも。メロンみたいなおっ●いブラ下げて、以前のように動けるのかよ?」

 ナナイがムキになって答える。

「失礼ね! 問題ないわよ!!」

 ジカイラは、肩に斧槍ハルバードを担ぐ。

「なら、良い。派手に行こうぜ!」 

 ジカイラの言葉にラインハルトとナナイも抜剣して並び、正門を開けてシンジケートの者達と対峙する。






 シンジケートのチンピラの一人がラインハルトに近寄って、話し掛ける。

「なんだぁ? 孤児院のガキ共が鎧なんか着て、騎士の真似事かぁ? あぁん??」

 次の瞬間、ラインハルトのサーベルが水平に一閃し、チンピラの首を跳ねる。

 首を斬り飛ばされたチンピラの胴体が崩れ落ちる。

「野郎!!」

「ガキが! ナメた真似しやがって!!」

 仲間を殺されたチンピラ達は、いきり立ってナイフやダガーを手に襲い掛かってくる。

 ジカイラは、斧槍ハルバードを水平に構え、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。 

(いくぜ! いちせん!!)

 ジカイラの豪腕から放たれた斧槍ハルバードの一撃が、襲ってくるチンピラ達を薙ぎ払う。

 ナナイもレイピアを大きく振りかぶると、振り下ろす一刀でチンピラを斬り伏せる。






 一方、帝国四魔将とリリーは、孤児院の正門前で並び立っていた。

 戦闘が始まった様子を見たエリシスが、両手を広げて魔法の詠唱を始める。

Божьяヴォージャ・ причинаプリチーナ Простプラストранственноランスト-временной・ヴリミンノ коридор・クリドー
(神のことわり 時空の回廊) 

 エリシスの足元に一つ、そして頭上に一定間隔で巨大な魔法陣が10個現れる。

Светлый иスェート・イ・ темныйイチオンニー Этот мирエートット・ иイー・ мирミル・ призраковプリズィラコフ
(光と闇 現世と幽界)

 更にエリシスの四方に縦の魔法陣が現れる。

Разパラズде・デ・литеイーリィテ・ разныеラーズィ・ мирыミルィー Междуミェーズドゥ・ измеイリィーニрениямиイェーメェ
(異界を隔てる次元の狭間に)

 夜空から星が消えていき月も消え、満月の中に黒い穴が開いているように見える月が現れる。

Пленитьプリニート・ моегоモイェゴ・ врагаヴァラーガ
(我が敵を虜にせよ)

次元ディメンジョン・牢獄プリズン!!」

 エリシスが魔法の詠唱を終えると、最上位の魔法陣が紫色の光を放つ。

 エリシスの四方の魔法陣が東西南北それぞれの方向へかなりの距離を飛び、それらは停止すると同じように紫色の光を放つ。

 四方の魔法陣は、それぞれ黒色の壁のような巨大な結界を作り、エリシスの頭上の最上位の魔法陣と箱状に繋がる。

 五つの魔法陣は、『次元ディメンジョン・牢獄プリズン』と呼ばれる巨大な四角く黒い結界空間を作りあげた。




 『次元ディメンジョン・牢獄プリズン』の中は、星の光は無く、天井には満月の中に黒い穴が開いているように見える月があり、僅かな明かりとして暗黒の地表を照らしている。

 地上は、『次元ディメンジョン・牢獄プリズン』により、大勢のジェファーソン・ジンジケートの者達が捕らえられていた。

 アキックスが口を開く。

「これで奴等は、もう逃げられまい」

 ヒマジンが軽口を叩く。

「やれやれ。『カシナートの長剣』まで持ってきたものの、チンピラ相手じゃ無駄骨だったかねぇ・・・」

 二人が話しているとチンピラの一人が、孤児院の門の前に並ぶアキックス達に角材で殴り掛かって来る。

「死ねぇええええ!!」

 ヒマジンは、手にしている長剣を水平に振るい、チンピラを斬り払う。

 ヒマジンの『カシナートの長剣』は、チンピラが持つ角材ごとチンピラの頭を一刀両断し、水平に斬り飛ばした。

 エリシスが微笑む。

「その長剣。無駄骨には、ならなかったわね」

 ヒマジンが苦笑いする。

「そうだな」

 




 孤児院の中に居るキラーコマンド達は、外の様子が気になって仕方がないものの、外には出るなと厳命されていたため、悶々としていた。

 ヒロが口を開く。

「外の様子はどうなっているんだろう?」

 マギーが答える。

「ヒロ、外に出ちゃダメよ。言われたでしょ」

 ミランダも口を開く。

「二階の窓から見る分には、良いだろう」

 ミランダの言葉にキラーコマンド達は、孤児院の二階へ上がり、窓から外の様子を窺う。

 

 


 孤児院の門の外では、ジカイラ、ラインハルト、ナナイの三人が、次々と一方的にシンジケートのチンピラ達を斬り殺していた。

 門の前には、帝国四魔将とリリーが立ち塞がり、シンジケートの者達を一人も通さないでいる。

 門の外の戦闘の様子を見たヒロの口から感想が漏れる。

「すげぇ・・・・」

 ウィルも三人の戦い振りを見て驚く。

「あの三人、シンジケートを一方的に斬り殺している。戦闘というより、処刑とか殺戮といった感じだ」

 戦いを見たミランダが口から漏らすように呟く。

「革命政府を倒したという皇帝は『至高にして最強の騎士』、その妻の『プラチナの戦乙女ヴァルキリー』、秘密警察本部を潰した『黒衣の剣士』。・・・あの三人が。・・・どおりで強いはず」

 マギーが恐怖から両手を口に当てて呟く。

「・・・怖い」






 ジカイラ、ラインハルト、ナナイの三人によって仲間の半数以上が斬り殺されたシンジケートのチンピラ達が浮足立つ。

「あいつら、孤児院のガキ共じゃないぞ!? 本物の騎士じゃないのか!?」

「何なんだ!? やつら!! 人間が斬られた藁人形のようにバラバラに!?」

「門の前の奴ら、帝国軍の軍服を着てたぞ!? 帝国軍じゃないのか!?」

「おい!! どうやったら、この黒い壁から出られるんだ? どこまで続いているんだ??」

「あいつら、こっちに来るぞ!!」

 





 二人のチンピラが門の前に走って来る。

 二人は帝国四魔将とリリーの前にひざまずいて命乞いを始める。

「た、頼む! 助けてくれ!!」

 リリーは、銀仮面を外して命乞いをする二人のうちの一人に優しく微笑み掛けると、その手を取って立ち上がらせる。

 美しいリリーに微笑み掛けられたチンピラは「助かった」と思い、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべながら立ち上がる。

 次の瞬間、リリーの美しい瞳の瞳孔は縦に割れ、大きく開いた口からは二本の牙が伸びる。

 リリーは、立ち上がったチンピラの首筋に噛み付くと、その血を吸い始めた。

 やがて噛みつかれたチンピラは、白目を剥いて絶命する。

 その様子を見たもう一人のチンピラは、驚きと恐怖で腰を抜かして、その場に座り込む。

「ヒィイイイ!! ヴァ、吸血鬼ヴァンパイア!?」

 エリシスは、腰を抜かしたチンピラの額に手を当て、魔法を唱える。

гниль,グニー、
(腐れよ)

Благослоブラゴスロвениеヴェニーイェ・ богиниボギーニ・ яда, ヤダ、болезнейボレズニェ・ иイ・ коррупцииカロッツェ
(毒と病気と腐敗の女神ブラグザバスの祝福)

Возвраボズラщениеシェーニェ・  вヴ・ почвуフォーチョヴ
(土に還れ)

 エリシスの掌に魔法陣が現れると、チンピラの全身がたちまち赤黒く変色して化膿し、腐っていく。

「ぎゃああああ!! 助けてくれぇ!!」

 エリシスはサディスティックな笑みを浮かべる。

「あーはははは。生きたまま腐りなさい」

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