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第二章 中核都市エンクホイゼン

第三十五話 隣室と決意

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 ラインハルトとナナイが宿屋の二階の部屋に行き、少し時間を置いてからジカイラ達も解散して、宿屋二階の自分たちの部屋に向かう。

 ジカイラとヒナの二人は、部屋に戻ると部屋着に着替え、ジカイラはベッドに横たわり、ヒナはその足元に腰掛けてランタンの明かりで読書を始める。




 程なく異変が起こる。

 宿屋の部屋に備え付けてある家具の戸棚が、カタカタと音を立て揺れ始める。

「え!? 地震??」

 ヒナは、驚いて周囲の様子を伺う。

「・・・違うな」

 ジカイラは、ベッドに寝転んだまま、落ち着いていた。

 やがて、ヒナの耳に、ギシギシとベッドの軋む音と一緒に聞こえ始める。

「・・・ああっ・・・あっ・・・あああっ」

 驚いたヒナは、思わず本を閉じて聞き耳を立ててしまう。

(ええっ!? ベッドの軋む音!? ナナイの喘ぎ声??) 

 ベッドに寝転がるジカイラがニヤけて呟く。

「・・・始まったな」

 ジカイラは、ベッドの軋む音や喘ぎ声が聞こえてきても、平然としていた。

 海賊時代、仲間が船に女を連れ込んで睦事を始めたり、安娼館などでは、音も声も筒抜けであったりと、その音や声が聞こえてくることにも慣れていた。

 だが、ヒナは違った。

 ヒナは、読んでいた本を口に当てて、じっと横目で壁を見つめる。





 ヒナは、士官学校時代、貴族子弟のゴロツキ達に絡まれた時、ラインハルトに救って貰ったことがあり、ラインハルトに憧れていた。

 ラインハルトは、近接戦最強の上級職である上級騎士パラディンであり、神が作り上げたであろう、その美しい容姿も『金髪の貴公子』そのものであった。

 士官学校の首席であり、ヒナやジカイラが所属した小隊の小隊長であり、緋色の肩章レッドショルダーを授与された『英雄』であった。



 しかし、ラインハルトの傍らには常にナナイが居り、ヒナの居場所は無かった。

 ナナイ・ルードシュタット。

 帝国最大最高位の大貴族ルードシュタット侯爵家の令嬢であり、先祖代々から続く上級職の聖騎士クルセイダー

 輝く金髪とエメラルドの瞳の美女。

 女性にしては長身で色白、出るところは出て、締まるところは締まった完璧なプロポーションと明晰な頭脳の持ち主。

 士官学校では、いつもハリッシュと二番手三番手を争う成績であり、ヒナやジカイラが所属した小隊の副隊長であり、ナナイは薄く化粧をしているだけで大人びて見え、小隊の副隊長として凛として振る舞う『セレブのイメージリーダー』であった。

 ラインハルトとナナイは、誰もが認める『お似合いのカップル』であった。



 ヒナは、平民の地方公務員の娘であり、役所の採用試験に落ちて家に居場所が無くなり、士官学校へ入った。

 ヒナ自身は、黒目黒髪で整った顔立ちの美人で、出るところは出て、締まるところは締まってこそいたが、華奢な体付きはナナイのそれに及ぶべくもなかった。

 自分に自信が無いため、いつも体の線が隠れるローブを着ていた。

 ヒナは想いを胸に、ただ、遠くからラインハルトを見つめているだけであった。

 決定的だったのは、ラインハルトとティナの実家『ヘーゲル工房』に小隊で泊まった際に、ラインハルトとナナイが同じベッドで全裸で抱き合って寝ていた所をヒナとティナ、クリシュナの三人で目撃したことであった。

 ナナイは、とてもヒナが敵う相手ではなかった。

 『負けた』と認めざるを得なかった。

 今やラインハルトとナナイはバレンシュテット帝国の皇帝と皇妃であり、遥かに見上げる遠い存在になっていた。





 現在、ヒナはジカイラと付き合っているものの、かつての想い人の睦事が否応なく気になる。

(ラインハルトさんとナナイが・・・)

(あれだけベッドが軋むなんて・・・)

(あのナナイが、あんな声出すのね・・・)

(・・・すごく気持ち良さそう)

 ヒナは、壁の向こうでの二人の睦事を想像してしまう。

 読んでいた本を口に当てたまま、横目で喘ぎ声が聞こえてくる壁を見つめ、みるみる顔だけでなく耳まで赤くなる。

 睦事の想像に耽るヒナをジカイラがからかう。

「どうした? そんな真っ赤な顔して?? お前もしたくなったか?」

 ヒナは必死に否定する。

「違うもん!!」

 ジカイラはヒナを抱き上げると自分の膝の上に乗せ、ヒナの服に手を入れて下着の中を探る。

「体は素直なのに・・・お前は素直じゃないのな」

 ヒナは、自分が二人の睦事を想像して欲情している事をジカイラに知られてしまい、恥じらう。



 ジカイラの膝の上に座るヒナがジカイラの顔を見上げる。

 優しくヒナを見つめるジカイラの黒い瞳と、ヒナの黒い瞳の目線が合う。

 ヒナは、右手をジカイラの胸に置く。

 ジカイラの鍛え抜いたボディビルダーのような屈強な男の筋肉の感触が、ヒナの手に伝わる。

 やがて、ゆっくりと脈打つジカイラの心臓の鼓動が伝わる。

(・・・私の居場所は、この人の中にある)

 意を決したヒナは、ポニーテールに結っている髪を解いて着ている服を脱ぐと、左手をジカイラの首に回して身を乗り出してキスする。

 ヒナがジカイラの耳元で囁く。

「いいよ。抱いて」

 ヒナの言葉を聞いたジカイラは、ヒナを抱き締めて呟く。

「逃げだした先に、幸せなんて無いのさ」




 ジカイラは、ヒナにキスするとその両肩を抱き、覆い被さるようにヒナを抱く。

 ヒナは、胸の前で両手を軽く握って合わせ、ジカイラにされるがままにしていた。

 ジカイラのキスは、ヒナの口から移っていく。

「んんっ・・・。あっ・・・」

 ヒナの反応を見たジカイラが呟く。

「敏感だな」

 ヒナが恥じらいつつ口を開く。

「恥ずかしい・・・。あまり見ないで。自信無いから」

「綺麗だよ」

「ありがとう。嬉しい」




 ヒナは顔を背けて右手を軽く握ると口元に当て、喘ぎ声が出るのを堪えていた。

 押し寄せる快感を堪え切れず、ヒナの口から喘ぎ声が漏れる。
 
「あっ・・・。ああっ・・・」

 ヒナが懇願する。

「・・・初めてなの。優しくして」

「任せろ」
 
「痛っ! ああっ・・・。はぁっ!!」

 ヒナは破瓜の痛みに一瞬、顔を歪める。

 ジカイラがヒナを気遣う。

「痛くないか?」

「最初だけちょっと。・・・気持ち良い」

 ジカイラが再び動き始めると、ヒナは喘ぎ出す。

「あぁ・・・。んあっ・・・。あああぁ・・・」

 ヒナはジカイラにすがりつき、無意識にヒナの爪先がジカイラの両肩に爪を立てる。

 やがて、ジカイラがヒナの中に子種を注ぎ込むと、ヒナは同じタイミングで体を反らせる。
 
 ヒナは、自分の中に想い人の子種が溜まっていく感覚に至福を感じていた。

 交わりを終えた二人は再びキスする。

 ジカイラは、ヒナに腕枕をすると傍らに抱き寄せ、二人はそのまま眠りに就いた。
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