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第一章 中核都市デン・ヘルダー
第十八話 デン・ヘルダーの領主
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-- 昼前。
ジカイラとヒナが仮眠を取り、ケニーとルナが北西街道を見張っていると、彼方から追っ手が来るのが見えてくる。
ルナが指を指して、傍らのケニーに尋ねる。
「ケニーたん、アレって!?」
ケニーは、望遠鏡でルナが指を指した先を見る。
「・・・傭兵団か!?」
馬に乗る傭兵らしき物達が十五人ほどと、人を乗せているであろう黒い幌馬車が二台、北西街道を向かってくるのが見える。
ケニーは、強化弓を取り出して矢を番えると、傍らのルナに告げる。
「ルナちゃん! ジカさん達を起こして来て!」
「判った!!」
ルナは、すぐ幌馬車で眠る者達を起こしに行く。
「みんな、起きて! 追手よ!!」
ルナの声に眠っている者達は、飛び起きた。
十五人ほどの傭兵団らしき集団から、黒い眼帯をした、片目の丸々と太った商人然とした男と、人相の悪い男の二人が馬に乗ったまま、ケニーに近付いて来る。
人相の悪い男が、矢を番えて構えるケニーに話し掛ける。
「トカゲ女を返して貰おう」
ケニーは答えずに、矢を番えたまま人相の悪い男を睨み付ける。
目を覚ましたジカイラ達が、ケニーの元に駆けつけて来る。
太った商人然とした男が人相の悪い男の隣に来て、ジカイラ達に告げる。
「儂は、この街の領主であるカッパ・デン・ヘルダー! お前達、なかなかの手際ではないか」
カッパは目聡く、ジカイラの傍に居るヒナ達に目を留め、値踏みするように目を細める。
「ほほう・・・? なかなかの上玉を連れているな。女達を置いて去るなら、見逃してやるぞ?」
ケニーはきっぱりと告げる。
「断る!!」
カッパは歪んだ余裕のある笑みを浮かべながらジカイラ達に告げる。
「なら、力ずくで戴くまでだ!」
ジカイラは、担いでいた斧槍を構える。
「交渉決裂だな! ヒナ! やれ!!」
「いくわよ!!」
ヒナは手をかざしてそう叫ぶと、魔法の詠唱を始める。
ヒナの足元に一つ、ヒナの頭上に三つの魔法陣が現れる。
「Manna, människans alla saker」
(万物の素なるマナよ)
「Kom igen! Källan till Elivagar, bestående av elva floder」
(来たれ! 十一の川からなるエーリヴァーガルの源泉)
「Jag vill bo med Niigata från Nievlheim」
(ニヴルヘイムより常世に現さんと欲す)
「Skydda dig själv som en cirkel!!」
(円陣となりて我を守護せよ!!)
「氷結水晶円陣防壁!!」
幌馬車とジカイラ達を囲むように、二メートル程の氷の防壁の円陣が空中から作られ、ヒナの魔法陣が光の粉になって空気中に消える。
その様子を見たジカイラがヒナを褒める。
「よし! いいぞ! ヒナ!!」
ヒナは親指を立て、片目を瞑ってジカイラに答えた。
突然、目の前に氷の防壁が出来たことにカッパ達は怯み、彼等の乗る馬も嘶く。
人相の悪い男がカッパに告げる。
「魔法陣が三つ。第三位階魔法です。下がって下さい!」
カッパは、人相の悪い男に言われたとおり後ろに下がり、振り返りながら、ぼやく。
「魔術師!? あの女、魔術師だったのか!! クソッ!!」
馬に乗ったまま、人相の悪い男がジカイラ達に告げる。
「オレは、倫敦武装商会のコサイン! ここいらの辺境じゃ、ちょっとは名の知れた商会だ! 大人しくトカゲ女を渡せ!!」
氷の防壁の上でしゃがみなら、ジカイラがコサインに言い返す。
「今すぐ、大人しく帰るなら、命だけは助けてやるぜ?」
「クソが!!」
コサインは、斬り掛かろうと腰に下げている剣の柄に手を掛ける。
「遅い!」
ジカイラは、持っている斧槍の柄でコサインの胸を突いた。
バランスを崩したコサインは、落馬する。
コサインは、地面から起き上がりながら手下の傭兵達に命令する。
「やっちまえ!!」
氷の壁の上にしゃがんでいたジカイラが円形に作られた防壁の外に飛び降りる。
地面に立ったジカイラは、斧槍を大きく二回振り回すと、正眼に構える。
「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」
そう言うとジカイラは大きく息を吸い、腰を落として身構える。
「おりゃあああ!!」
叫び声を上げながら、三人の傭兵がジカイラに斬り掛かる。
(いくぜ! 一の旋!!)
ジカイラの渾身の力を込めた斧槍の一撃が剛腕から放たれる。
ジカイラの斧槍によって、三人の傭兵の胴体がちぎれ飛ぶ。
ジカイラの攻撃を合図に、ケニーが氷壁の上から強化弓につがえた矢を放ち、素早く二回目の矢をつがえて射った。
ケニーが射った矢は、それぞれ傭兵の喉を射抜く。
ケニーとルナは氷壁から飛び降り、ジカイラに加勢する。
二人の傭兵が抜剣してジカイラに斬り掛かる。
(そいつは想定内さ。二の旋!!)
ジカイラは身を翻すと、二撃目を繰り出す。
『燕返し』のように斧槍の矛先が、同じ軌跡で戻ってくる。
ジカイラの斧槍が二人の傭兵を薙ぎ払う。
ルナは、ジカイラの後ろから右側を走り抜けると、傭兵の一人に斬り掛かる。
傭兵も抜剣し、甲高い金属音を上げてルナと斬り結ぶ。
ルナは素早く身を翻すと、左手で裏拳の一撃を加えるように、左手に装備している小型盾で傭兵の顔を打つ。
鈍い音と共に顔を打たれた傭兵は、嗚咽を漏らしながら後ろによろける。
「やああっ!!」
ルナは、よろけた傭兵の胸に剣を突き立てる。
ケニーは、ジカイラの後ろから左側を走り抜けると、二人の傭兵に斬り掛かる。
抜剣した傭兵は、ケニーのショートソードを剣で斬り結んで受ける。
ケニーは、傭兵の剣を右手に持つショートソードの柄の部分、『十手のように湾曲した部分』で絡めとると素早く身を翻し、左手に持つショートソードで傭兵の喉笛を切り裂いた。
「ガハッ!!」
喉笛を切り裂かれた傭兵が、嗚咽を上げながらケニーにもたれ掛かる。
ケニーは、素早く懐から二本のナイフを取り出すと、もう一人の傭兵に向けて投擲する。
ケニーが投擲した二本のナイフは、傭兵の右目と喉に突き刺さる。
氷壁の上から、ヒナが傭兵の集団に向けて手をかざす。
「氷結水晶槍、四本!!」
ヒナの声と共に、空気中に四本の氷の槍が作られて飛んで行き、生き残りの傭兵達を貫いていく。
ジカイラ達の戦いぶりにコサインが怯む。
「オレ以外、全滅だと!? くっ・・・なんて奴等だ。黒い剣士を中心に見事に連携している」
カッパの顔が引き吊る。
「く、『黒い剣士』だと!? まさか、彼の秘密警察本部を襲撃して潰したという『黒い剣士と氷の魔女』か!?』
黒い幌馬車から降りてきた男が、狼狽える二人に声を掛ける。
「ヒヒヒヒ。・・・お困りのようですな。領主」
現れたのは、革命軍の軍服を着た骸骨のような丸眼鏡の男であった。
ジカイラとヒナが仮眠を取り、ケニーとルナが北西街道を見張っていると、彼方から追っ手が来るのが見えてくる。
ルナが指を指して、傍らのケニーに尋ねる。
「ケニーたん、アレって!?」
ケニーは、望遠鏡でルナが指を指した先を見る。
「・・・傭兵団か!?」
馬に乗る傭兵らしき物達が十五人ほどと、人を乗せているであろう黒い幌馬車が二台、北西街道を向かってくるのが見える。
ケニーは、強化弓を取り出して矢を番えると、傍らのルナに告げる。
「ルナちゃん! ジカさん達を起こして来て!」
「判った!!」
ルナは、すぐ幌馬車で眠る者達を起こしに行く。
「みんな、起きて! 追手よ!!」
ルナの声に眠っている者達は、飛び起きた。
十五人ほどの傭兵団らしき集団から、黒い眼帯をした、片目の丸々と太った商人然とした男と、人相の悪い男の二人が馬に乗ったまま、ケニーに近付いて来る。
人相の悪い男が、矢を番えて構えるケニーに話し掛ける。
「トカゲ女を返して貰おう」
ケニーは答えずに、矢を番えたまま人相の悪い男を睨み付ける。
目を覚ましたジカイラ達が、ケニーの元に駆けつけて来る。
太った商人然とした男が人相の悪い男の隣に来て、ジカイラ達に告げる。
「儂は、この街の領主であるカッパ・デン・ヘルダー! お前達、なかなかの手際ではないか」
カッパは目聡く、ジカイラの傍に居るヒナ達に目を留め、値踏みするように目を細める。
「ほほう・・・? なかなかの上玉を連れているな。女達を置いて去るなら、見逃してやるぞ?」
ケニーはきっぱりと告げる。
「断る!!」
カッパは歪んだ余裕のある笑みを浮かべながらジカイラ達に告げる。
「なら、力ずくで戴くまでだ!」
ジカイラは、担いでいた斧槍を構える。
「交渉決裂だな! ヒナ! やれ!!」
「いくわよ!!」
ヒナは手をかざしてそう叫ぶと、魔法の詠唱を始める。
ヒナの足元に一つ、ヒナの頭上に三つの魔法陣が現れる。
「Manna, människans alla saker」
(万物の素なるマナよ)
「Kom igen! Källan till Elivagar, bestående av elva floder」
(来たれ! 十一の川からなるエーリヴァーガルの源泉)
「Jag vill bo med Niigata från Nievlheim」
(ニヴルヘイムより常世に現さんと欲す)
「Skydda dig själv som en cirkel!!」
(円陣となりて我を守護せよ!!)
「氷結水晶円陣防壁!!」
幌馬車とジカイラ達を囲むように、二メートル程の氷の防壁の円陣が空中から作られ、ヒナの魔法陣が光の粉になって空気中に消える。
その様子を見たジカイラがヒナを褒める。
「よし! いいぞ! ヒナ!!」
ヒナは親指を立て、片目を瞑ってジカイラに答えた。
突然、目の前に氷の防壁が出来たことにカッパ達は怯み、彼等の乗る馬も嘶く。
人相の悪い男がカッパに告げる。
「魔法陣が三つ。第三位階魔法です。下がって下さい!」
カッパは、人相の悪い男に言われたとおり後ろに下がり、振り返りながら、ぼやく。
「魔術師!? あの女、魔術師だったのか!! クソッ!!」
馬に乗ったまま、人相の悪い男がジカイラ達に告げる。
「オレは、倫敦武装商会のコサイン! ここいらの辺境じゃ、ちょっとは名の知れた商会だ! 大人しくトカゲ女を渡せ!!」
氷の防壁の上でしゃがみなら、ジカイラがコサインに言い返す。
「今すぐ、大人しく帰るなら、命だけは助けてやるぜ?」
「クソが!!」
コサインは、斬り掛かろうと腰に下げている剣の柄に手を掛ける。
「遅い!」
ジカイラは、持っている斧槍の柄でコサインの胸を突いた。
バランスを崩したコサインは、落馬する。
コサインは、地面から起き上がりながら手下の傭兵達に命令する。
「やっちまえ!!」
氷の壁の上にしゃがんでいたジカイラが円形に作られた防壁の外に飛び降りる。
地面に立ったジカイラは、斧槍を大きく二回振り回すと、正眼に構える。
「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」
そう言うとジカイラは大きく息を吸い、腰を落として身構える。
「おりゃあああ!!」
叫び声を上げながら、三人の傭兵がジカイラに斬り掛かる。
(いくぜ! 一の旋!!)
ジカイラの渾身の力を込めた斧槍の一撃が剛腕から放たれる。
ジカイラの斧槍によって、三人の傭兵の胴体がちぎれ飛ぶ。
ジカイラの攻撃を合図に、ケニーが氷壁の上から強化弓につがえた矢を放ち、素早く二回目の矢をつがえて射った。
ケニーが射った矢は、それぞれ傭兵の喉を射抜く。
ケニーとルナは氷壁から飛び降り、ジカイラに加勢する。
二人の傭兵が抜剣してジカイラに斬り掛かる。
(そいつは想定内さ。二の旋!!)
ジカイラは身を翻すと、二撃目を繰り出す。
『燕返し』のように斧槍の矛先が、同じ軌跡で戻ってくる。
ジカイラの斧槍が二人の傭兵を薙ぎ払う。
ルナは、ジカイラの後ろから右側を走り抜けると、傭兵の一人に斬り掛かる。
傭兵も抜剣し、甲高い金属音を上げてルナと斬り結ぶ。
ルナは素早く身を翻すと、左手で裏拳の一撃を加えるように、左手に装備している小型盾で傭兵の顔を打つ。
鈍い音と共に顔を打たれた傭兵は、嗚咽を漏らしながら後ろによろける。
「やああっ!!」
ルナは、よろけた傭兵の胸に剣を突き立てる。
ケニーは、ジカイラの後ろから左側を走り抜けると、二人の傭兵に斬り掛かる。
抜剣した傭兵は、ケニーのショートソードを剣で斬り結んで受ける。
ケニーは、傭兵の剣を右手に持つショートソードの柄の部分、『十手のように湾曲した部分』で絡めとると素早く身を翻し、左手に持つショートソードで傭兵の喉笛を切り裂いた。
「ガハッ!!」
喉笛を切り裂かれた傭兵が、嗚咽を上げながらケニーにもたれ掛かる。
ケニーは、素早く懐から二本のナイフを取り出すと、もう一人の傭兵に向けて投擲する。
ケニーが投擲した二本のナイフは、傭兵の右目と喉に突き刺さる。
氷壁の上から、ヒナが傭兵の集団に向けて手をかざす。
「氷結水晶槍、四本!!」
ヒナの声と共に、空気中に四本の氷の槍が作られて飛んで行き、生き残りの傭兵達を貫いていく。
ジカイラ達の戦いぶりにコサインが怯む。
「オレ以外、全滅だと!? くっ・・・なんて奴等だ。黒い剣士を中心に見事に連携している」
カッパの顔が引き吊る。
「く、『黒い剣士』だと!? まさか、彼の秘密警察本部を襲撃して潰したという『黒い剣士と氷の魔女』か!?』
黒い幌馬車から降りてきた男が、狼狽える二人に声を掛ける。
「ヒヒヒヒ。・・・お困りのようですな。領主」
現れたのは、革命軍の軍服を着た骸骨のような丸眼鏡の男であった。
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