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第一章 中核都市デン・ヘルダー

第十七話 救出

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 三人は、人の気配の無い暗闇の倉庫街を、宿屋に向けて足早に歩く。

 ジカイラは歩きながら考える。

獣人ビーストマン三世クォーターのルナでさえ目立つのに、流石に蜥蜴人リザードマンのクランは目立ち過ぎるな・・・)

 考えているうちに三人は宿屋の前にたどり着く。

 ジカイラは宿屋の脇に止めてある幌馬車からローブを持ってくると、クランに着せる。

「済まないが、それを着ていてくれ」

 クランは大人しく従い、頭からすっぽりとローブを被る。

「・・・判りました」

 三人は、宿屋に入る。

 宿屋の中に入ると、ジカイラは、直ぐに宿屋の主人に呼び止められる。

「お客さん! 勝手に泊まる人数の追加は困ります!!」

 ジカイラは、宿屋の主人に銀貨を二枚握らせると、小声で話す。

「買ってきた女だ。野暮な事は聞くな」

 宿屋の主人は、ジカイラから受け取った二枚の銀貨を確かめると、アッサリと引き下がる。

「まいど」




 三人は、宿屋の二階に上がると、ジカイラはティナの部屋に全員を集める。

 ジカイラは、女の子三人にクランを紹介する。

蜥蜴人リザードマンの族長の娘、クランだ」

 クランは三人に挨拶する。

「クラン・ドルジです」

 ティナがクランの手を握って挨拶する。

「こっちがルナで、こっちはヒナ。私はティナ。よろしくね! クラン!」

 ケニーがジカイラに尋ねる。

「ジカさん、次はどうするの?」

 ジカイラが答える。

「まず、フクロウ便でツバキに連絡する。此処の領主と秘密警察の関係と所在を掴むまで、ラインハルトに連絡するのはまだ早い。確証を掴んでからだ。追っ手が来る前に、今夜のうちにこの街から脱出しよう」

 ヒナが尋ねる。

「秘密警察に対しては?」

 ジカイラが答える。

「今夜は、何も掴めなかったが、焦ることはない。まず、蜥蜴人リザードマンの族長の娘クランの救出が最優先だ」

 ティナが追従する。

「そうね」

 思い出したようにルナが口を開く。

「・・・私もエリシス伯爵にお手紙を書かないと」

 ジカイラがルナに話しかける。

「ルナ。何なら、オレが宿屋の主人にフクロウ便を頼む時に、一緒に頼むぞ?」

 ルナは、素直にお礼を言う。

「ありがとうございます」

 ジカイラは席を立つ。

「それじゃ、部屋に戻るから、書いたら教えてくれ。一緒に送るから」

「判りました」

 ルナが返事をした所で解散となり、それぞれ自分の部屋に戻った。

 クランは、ティナと相部屋となった。






 ジカイラは、自分の部屋で羊皮紙にツバキ宛の報告書を書いていると、女の子三人での入浴を終えたヒナが部屋に戻ってくる。

「まだ仕事しているの?」

 そう言うとヒナは、ベッドに腰掛ける。

「もう少しな・・・」

 ヒナがジカイラに尋ねる。

「ねね。クランを連れて、どうやって街から出るの? クランは目立つでしょ? 城門で見つかっちゃうわよ?」

 ジカイラはヒナの方を振り向いて答える。

「それは、オレも考えた。まず、ヒナの魔法で門番を眠らせて、強行突破する。その後、
街の外で、鮮血ブロッディの涙・ティアーズの飛空艇で、デン・ホールンまで離脱しよう。」 

 ヒナは納得したように答える。

「そうね・・・。飛空艇なら早いわね」 

 報告書を書き終えたジカイラは、椅子から立ち上がる。

「できたぞ。・・・ルナの手紙も一緒に送る約束だったな。ちょっと行って来る」

「行ってらっしゃい」

 ジカイラは、ケニーとルナの部屋を訪れ、ルナから手紙を受け取ると、宿屋の主人を通してフクロウ便を手配し、報告書と手紙を送った。

 ジカイラとケニーが入浴している間にヒナ、ティナ、ルナは荷造りを終えていた。

「世話になったな」

 ジカイラは、宿屋の主人にチップを握らせる。

「まいど」

 ジカイラ達は、夜の闇の中、幌馬車で出発する。 







 ジカイラ達が城門に近付くと、篝火かがりびの傍に二人の門番が立っているのが見えてくる。

「ヒナ、頼むわ」

「任せて」

 ヒナが門番に右手を向けて魔法を唱える。

睡眠雲スリープ・クラウド

 ヒナの掌に魔法陣が現れると、睡眠雲スリープ・クラウドが門番の頭の周りに現れ、ほどなく門番の二人が眠る。

「わざわざ目立つ必要は、無いからな」

 ジカイラは傍らのヒナにそう言って、微笑んだ。

 ジカイラ達は、門番が眠った城門を通り抜ける。

 ジカイラ達は、中核都市デン・ヘルダーを離れて深夜の闇の中、北西街道を辺境の街デン・ホールンへ向けて進んでいった。





 

--明け方。

 黎明、東の空が白みはじめる頃、ジカイラ達は、北西街道の脇に幌馬車を止め、小休止を取る。

 幌馬車の荷台で寝ていたケニーやルナ、ティナ、クランはともかく、夜通し御者として馬車を動かしていたジカイラと傍らのヒナは、徹夜開けであり、休息を必要とした。

 外の見張りは、ケニーとルナでやることになり、ティナとクランは、引き続き眠りにつく。

 馬車馬の頭を撫でながら、ルナがケニーに話し掛ける。

「ねね、ケニーたん。追手が来ると思う?」

「どうだろう? 来ないとは言い切れないな・・・」

「秘密警察って、強いの?」

「うん。彼奴等は、人間と食屍鬼グールの戦闘員が居て、すごく厄介だよ」

「厄介って、どんな風に?」

「例えば、人間には効果がある精神系の魔法は、不死者の食屍鬼グールには効果が無いでしょ?」

「うん」

「反対に、ティナちゃんが使う神聖魔法は、不死者の食屍鬼グールには効いても、人間には効かないし」

「うん」

「それでいて、食屍鬼グールも、人間も、同じ格好しているから見た目じゃ判別できない。暗殺者アサシン系で気配を殺して近付いて来るし、食屍鬼グールは、人間よりも遥かに力が強いうえ、簡単に死なない。首を切り落とさないとね」

「・・・そうなんだ」

「ルナちゃん、もし、奴等と戦うことがあっても、絶対に組み合ったりしたらダメだよ。相手が食屍鬼グールだったら、怪力で潰されちゃうから」

「・・・怖い」

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