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第一章 中核都市デン・ヘルダー

第八話 女海賊 鮮血の涙

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 ローブをすっぽりと被っている男女は、ジカイラ達の席に近付くと、二人ともローブから顔を出す。

「皆さん、こんばんわ」

 聞き覚えのある声の主はツバキ。綺麗な茶髪の髪は、三つ編みに束ねて肩から下げられていた。

「取り込み中のところ済まないな」

 もう一人は、ジカイラ達と同年代の黒髪の男、ホドラムであった。

 二人が宿屋に来た事に皆が驚く。

 ジカイラが口を開く。

「姫様と騎士隊長が城を抜け出して来て、大丈夫なのか?」

 ツバキは微笑んで答える。

「ホドラムが一緒なので、大丈夫ですよ」

「先程は失礼した」

 頭を下げるホドラムにジカイラが告げる。

「立場があるんだろう? 構わないさ。それより、二人揃って、どうしたんだ?」

 バツが悪そうにホドラムが答える。

「頭を冷やして考えたんだが、諸君らに解決して貰えば、この街は自治も失わず、帝国に属することも無く、姫様を差し出す事も無く、上手く収まると思ってな」

 ツバキが円卓に身を乗り出して話す。

「私達にも蜥蜴人リザードマンと戦うお手伝いをさせて下さい!」 

 ヒナが困惑気味に答える。

「手伝うとおっしゃられても・・・」

 ツバキは食い下がる。

「ホドラムも戦ってくれます! それに一緒に戦ってくれる私の友人を紹介します!」

 ティナが怪訝な顔をする。

「・・・友人って?」

 ツバキは、酒場の奥に居たローブの者をジカイラ達が居る円卓に招いた。

「ツバキが言っていたのは、この人達?」

 そう言うと、ローブの者は席に着き、羽織っていたローブを脱ぎ、ジカイラ達を一人一人見る。

 ローブの者は女。

 ジカイラは、女が腰に下げている剣に目を止める。

(・・・海賊剣カトラス!?)

 スタイルの良い、その体の線がはっきりと判る、黒色の革の服に身を包んだ金髪の女海賊であった。

「海賊 鮮血のブロッディ・ティアーズ。 よろしくね」

 本名ではなくとも、それが今の彼女の名であった。

 鮮血のブロッディ・ティアーズは、ジカイラの左手に目を留める。



 左手の甲、人差し指と親指の付け根の間。

 ”合谷”と呼ばれる部分。

 文様の入れ墨があった。

『特等刑務所収監者』が入れられる入れ墨。

 それは『凶悪犯』『海賊』の証であった。




 鮮血のブロッディ・ティアーズは、ジカイラの顔を見て話し掛ける。

「私と御同業かしら?」

 ジカイラが答える。

「『、同業者』ってところだ」

 ツバキが口を開く。

「ブロたんは、飛空艇に乗る海賊なのよ!」

 その場に居る一同が驚く。

 鮮血のブロッディ・ティアーズは、ツバキの紹介に苦笑いしながら答える。

「海賊と言っても、奴隷商人や麻薬商人といった外道の退治が専門なんだけどね」

 ジカイラは苦笑いする。

(姫様は、この女海賊の通り名が鮮血のブロッディ・ティアーズだから、『ブロたん』って呼んでいるのか)

 鮮血のブロッディ・ティアーズは、ジカイラの次にルナに目を留める。

「失礼。そちらの彼女は・・・獣人ビーストマン?」

 ルナが答える。

「はい。獣人ビーストマンと人間の三世クォーターです」

 ルナは獣耳けもみみと尻尾を動かしてみせる。







 ジカイラ達は、互いに自己紹介した後、今後の事を話し合う。

 鮮血のブロッディ・ティアーズが尋ねる。

「それで・・・どうするつもりなの?」

 ジカイラが答える。

蜥蜴人リザードマン達の集落に行って、彼等の言い分も聞いてみようと思う」

 ホドラムが意見を述べる。

蜥蜴人リザードマンは、力を信奉する好戦的な種族だ。こちらが下手にでたところで、大人しく話を聞き入れるとは思えない。話をするなら、一度、力でねじ伏せてからじゃないと、聞く耳を持たないだろう」

 ジカイラがが天井を見上げながら呟く。

「一戦、交えるしかないか」

 ケニーも意見を述べる。

「戦った感じだと、蜥蜴人リザードマンは一般人よりは強いけど、僕たちなら勝てるんじゃない?」

 ルナも意見を言う。

「ケニーたんの言うとおりよ。私達なら勝てるわ。蜥蜴人リザードマンより、獣人ビーストマンのほうが強いってことを見せてあげる」

 獣人ビーストマン蜥蜴人リザードマン同様に力を信奉する種族であった。

 ティナが尋ねる。

蜥蜴人リザードマンの集落の場所は判るの?」

 ホドラムが答える。

「ここから少し南に行った、湖沼地帯に奴等の集落がある。飛空艇なら、すぐ行けるだろう」

 ジカイラが結論を述べる。

「よし。明日の朝、飛空艇で蜥蜴人リザードマンの集落に強襲を仕掛けよう。できれば犠牲は少ないほうが良い。ただ、蜥蜴人リザードマンを全滅させることが目的じゃなく、争いを止めることが目的だからな」

 ツバキが、その場にいる一同に頭を下げる。

「ありがとうございます。皆さんの力をお貸し下さい。よろしくお願いします」

 明朝の強襲が決まったため、ツバキはホドラムと城に戻り、鮮血のブロッディ・ティアーズは自分の飛空艇に帰って行った。

 ジカイラ達も、宿屋のそれぞれの部屋に戻る。







--夜。

 ケニーの部屋のドアをノックする音がする。

「ケニーたん、いい?」

 ルナであった。

「どうぞ」

 ケニーが答えると、ドアを開けてルナが部屋に入って来る。
 
 ケニーはベッドに腰を掛けてルナに尋ねる。
 
「どうしたの? ルナちゃん?」

「ケニーたんに『会いたいな。』と思って」

 ケニーが驚く。

「え?」

 ケニーは大人しい性格もあって、今まで女の子と任務以外、二人きりで話したことなど、ほとんど経験が無かった。

 口数も少なく小柄であり、ジカイラ達と同じ士官学校や小隊に所属していた時も、目立たない存在であった。

 ベッドに腰掛けるケニーに対して、ルナはケニーの隣に座り、顔を覗き込むように話し掛ける。

「ね。ね。ケニーたんは、恋人とか、誰か好きな人が居るの?」

 ケニーはルナの顔を見て、緊張気味に答える。

「好きな女の子は、居た・・・けどね。フラれちゃった」

「そうなんだ」

獣人ビーストマンの社会だと、強い男の人がモテるんだよ」

 そう言うと、ルナはケニーの右手を両手で握り、自分の顔をケニーの顔に近づけて話す。

「けど、ルナはね・・・ケニーたんみたいに、強くて優しい人が好き」

 恥じらいからか、ルナの顔がほんのりと紅潮している事にケニーが気が付く。

「ケニーたん、好きよ」

 自分の想いを伝えるルナの瑠璃色の瞳が、ケニーを見詰める。

 緊張気味にケニーが答える。

「ありがとう。僕は、女の子から告白されるなんて初めてだから、その・・・凄く嬉しいよ」

「ルナも男の人に告白するのは、初めて。・・・明日は、蜥蜴人リザードマンと戦うから、その前に気持ちを伝えておきたくて」

 ルナが愛くるしい笑顔で続ける。

「ケニーたんは、ルナの初めての『彼氏』って事ね!」

 ケニーも笑顔で答える。

「ルナちゃんも僕の初めての『彼女』だよ」

 ルナはケニーの頬にキスすると、腰掛けていたベッドから立ち上がる。

「明日は頑張りましょ! それじゃあ、ケニーたん、おやすみなさい」

 ルナはケニーに挨拶すると、自分の部屋に戻って行った。

 ケニーはベッドに腰掛けたまま、微笑んでルナを見送る。

「おやすみ」

 そう言うと、ケニーはベッドに寝転がって考える。

(僕にも彼女が出来た・・・初めてだ・・・)

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