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第七章 天覧試合

第百三十九話 暗殺者の本領

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 試合開始の合図の空砲が鳴り、ドミトリーが小隊全員に支援魔法を掛ける。

筋力レッサー・強化ストレングス!」

 アレク、ルイーゼ、ナディア、ドミトリーの四人は、旗のある本陣から通路へ進み、敵陣を目指す。




 通路を歩きながら、アレクが指示を出す。

「ルイーゼ。先頭に立ってくれ」

「判ったわ」

 暗殺者アサシンであり、斥候系のスキルを持っているルイーゼがアレク達を先導する。

 



 アレク達は、通路を歩いて行く。

 途中で分かれ道があったり、曲がり角があったり、小部屋があったりするが、ルイーゼが先導して探索しながら進んで行く。

 曲がり角の手前で、ルイーゼは屈んで立ち止まると、後続のアレク達にハンドサインを示す。

(待って。二人。こっちに来る)

 アレクは、三人に鼻先で近くの小部屋に入るように促し、自分も小部屋に入る。

 小部屋の入り口の向かって左側にアレクが潜み、右側の天井近くに手甲を使って壁を登ったルイーゼが潜む。

 ナディアとドミトリーは、小部屋入り口の正面奥で身構える。

 アレク達が息を殺して潜んでいると、フェンリル小隊の二人が小部屋の探索にやって来る。

 フェンリル小隊の二人は、小部屋の正面奥に居るナディアとドミトリーを発見して、交戦しようと小部屋に入ろうとする。

 ルイーゼは、広げた両足を軸にして上半身を振り子のように半回転させ、フェンリル小隊の先頭の一人を攻撃する。

 ルイーゼが両手で持つショートソードの柄が、フェンリル小隊の先頭の者の喉元を打つ。

「ごふっ!!」

 フェンリル小隊の先頭の者は男であったが、ルイーゼの一撃を喉元に受け、白目を剥いて前のめりに倒れる。

 突然襲ってきたルイーゼの攻撃に、フェンリル小隊の二人目の者は怯む。

 すかさずアレクが入り口の影から現れて、フェンリル小隊の二人目の者の肩口を捕まえて部屋の中に引き込むと、胸を押して壁に押し付け、喉元に剣を突き付ける。

 アレクが捕まえた相手に顔を近づけて告げる。

「降参しろ! ・・・って、えっ!?」




 ぷにゅっ。

 ぷにゅっ、ぷにゅっ。




 相手の胸を押すアレクの手に柔らかい感触が伝わる。

 アレクが捕まえた相手は、女の子であった。

 アレクに捕まり、怯えていたフェンリル小隊の女の子が、アレクの顔を正視する。

 女の子が口を開く。

「・・・アレク中尉!?」

 アレクが捕まえたフェンリル小隊の女の子は、学校の屋上でアレクにお菓子とラブレターを渡した女の子であった。

 女の子は、自分の胸を揉んでいるアレクの手に自分の手を重ねると、恍惚こうこつとした表情でアレクに告げる。

「降参します」

 そこまで言うと女の子は、頬を赤らめて恥じらいながら、アレクから顔を背けて続ける。

「・・・アレク中尉の好きにして下さい」

 予想外の女の子の反応にアレクは焦る。

「いや、そういう意味じゃなくて・・・」

 ナディアの位置から見ると、アレクが女の子を壁際に立たせて胸を揉み、顔を近づけて強引に迫っているようにしか見えなかった。

 その様子を見たナディアがアレクを咎める。

「ちょっと! アレク! 試合中に女の子を口説いて迫ってるの!?」

 ナディアの言葉を聞いたルイーゼが驚き、アレク達の方を振り向く。

「ええっ!?」

 アレクは、焦りながら否定する。

「誤解だよ! 誤解!!」

 ドミトリーがアレクに語り掛ける。

「隊長は、煩悩に捕らわれ過ぎだ」




 ルイーゼが倒した相手は斥候で、アレクが捕まえた女の子は僧侶であった。



 とりあえずの戦闘が片付いたアレク達は、小部屋で一息つく。

 ルイーゼがアレクに尋ねる。

「アレク。捕まえたその女の子をどうするの?」

 アレクは困惑する。

「どうって・・・」

 ナディアがアレクをからかう。

「アレク。・・・まさか、その女の子を裸にして、縄で縛り上げるつもりなんじゃ・・・??」

「「ええっ!?」」

 ルイーゼと女の子の顔が赤くなる。

 ナディアが続ける。

「身動きできないようにしてから、凌辱するのね。・・・エロい! エロいわ!!」

 ドミトリーが懸念を示す。

「・・・隊長なら本当にやりそうだ」

 女の子は、恥じらい、モジモジしながらアレクに告げる。

「アレク中尉は、そういうのがお好きなんですか? ・・・あの、・・・恥ずかしいので、二人きりの時に」

 アレクは、必死に否定する。

「いや、そんな事はしないよ!!」

 アレクが女の子に告げる。

「縛ったりはしないけど、試合が終わるまで、この部屋で大人しくしてて」

「はい」

 気を取り直したアレク達は、小部屋から通路に出て、再び進み始める。







 アレク達四人は、先ほどと同じようにルイーゼを先頭に歩き続ける。

 歩きながらアレクは考える。

(二人倒したものの、まだフェンリル小隊の主力は残ってるな・・・)

 アレクが考え事をしながら歩いていると、先導するルイーゼが左折している曲がり角の手前で立ち止まり、「敵接近」の合図をアレク達に示す。

 アレクは「全員で戦闘する」との合図を示し、ナディア、ドミトリーと、それぞれ目線を合わせて無言で頷くと、三人でルイーゼの元に駆け寄る。

 アレクの合図で四人は、戦闘態勢を取る。

 アレクを剣を抜き、ナディアはレイピアを抜く。ルイーゼは爪を構え、ドミトリーは拳を握る。

 アレク達四人は、身構えながら一斉に曲がり角を左に曲がる。

 通路に出たアレク達四人の前に、通路の先の曲がり角を曲がって来たフェンリル小隊の四人が現れる。

 現れたフェンリル小隊の四人は、戦士三人と魔導師一人であった。

 通路で鉢合わせしたフェンリル小隊の一人が叫ぶ。

「敵だ!!」

 通路での遭遇戦であったが、アレク達が事前に相手の存在を把握していて、既に戦闘態勢であるのに対し、フェンリル小隊の四人は、アレク達と鉢合わせしてから慌てて戦闘態勢を取り始める。

 アレク達四人は戦闘態勢で、フェンリル小隊の四人に向けて駆け寄る。

 アレクとルイーゼ、その後ろにナディアとドミトリーが続く。

 アレクをルイーゼが追い越していく。

(ルイーゼ!?・・・速い!!)

 アレクを追い越していったルイーゼの顔は、いつもの可愛らしい顔ではなく戦士の顔つきであった。

 両手の手甲の爪を構えながらルイーゼは低い姿勢で走り、フェンリル小隊の四人に斬り込んでいく。

 



 ルイーゼは、低い姿勢から右手の手甲の爪を下から上に斬り上げ、右側の戦士に襲い掛かる。

 右側の戦士は盾を構え、ルイーゼの一撃を防ぐ。

 乾いた金属音が通路に響く。

「くそっ!!」

 左側の戦士がルイーゼに剣で斬り掛かるが、ルイーゼは左手の手甲の爪で剣を受けると、右手の手甲の爪で相手の喉元を狙い、突きを放つ。

(・・・いけない! 殺してはダメだ!!)

 ルイーゼは、右手の手首を返し、突きから掌底に変える。

 ルイーゼの右手の掌底が左側の戦士の顎先を捉える。

「がはっ!!」

 ルイーゼの攻撃を受けた戦士は、嗚咽を漏らし、壁を背にして倒れ込む。

 倒れた戦士の後ろに居た魔導師がルイーゼに向けて魔法を唱える。

火球ファイヤーボール!!」

 ルイーゼは素早く飛び跳ねて魔法の攻撃を避け、手甲の爪を使って壁に取り付くと壁を蹴って飛び、通路の反対側の壁に取り付き、魔導師に向けて三角蹴りを放つ。

 フェンリル小隊の魔導師が口を開く。

「なっ!? 何なんだ?? ぐおっ!!」

 ルイーゼの三角蹴りが魔導師に炸裂する。

「おらっ!!」

 魔導師の隣に居た戦士が、ルイーゼに向けて水平に剣を払う。

 ルイーゼは、屈んで剣での攻撃を避けると、斬り掛かって来た戦士の足を狙って床面すれすれに後ろ回し蹴りを放ち、戦士の足を払う。

 ルイーゼに後ろ回し蹴りで足を払われた戦士は転倒する。

 ルイーゼは、立ち上がってフェンリル小隊の四人の方へ振り向き、再び身構える。

 斥候系の中堅職の暗殺者アサシンであるルイーゼは、フェンリル小隊の四人を翻弄し圧倒した。

 



 ルイーゼの手甲の爪での攻撃を盾で防いだ戦士が、ルイーゼの方を振り向いて口を開く。

「くそっ! チョロチョロしやがって!!}

 だが、戦士がフェンリル小隊の四人の後ろに駆け抜けたは、駆け寄って来るであった。

 アレクが自分に背を見せた戦士に後ろから剣の背で殴り掛る。

 アレクの剣は戦士の後頭部に直撃し、鈍い音と共に戦士は崩れ落ちる。






 屋内イン・ドア・ファイト

 敵の存在を察知して、自分の気配を消して接敵し、至近距離から攻撃する。

 狭い屋内での遭遇戦、至近距離の戦闘は、ルイーゼが暗殺者アサシンとしての本領を発揮できる場所であった。
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