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第六章 解放戦線

第百二十四話 天地を砕く星の欠片

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 カルロフカの街の上空に現れた巨大な髑髏の形の暗雲は、語り終えると虚空に消えて行った。

 トラキア解放戦線のアクエリアスとキャスパーは、カルロフカの街を取り巻く城壁の上で、髑髏の形の暗雲が告げた警告を聞いていた。

 キャスパーは、真っ青な顔で狼狽える。

「は、早くここから逃げねば・・・、殺される・・・」

 アクエリアスは、虚勢を張りながらキャスパーに答える。

「はは・・・、お前、あんなコケ脅しにビビったのか?」

 キャスパーは、恐怖に顔を歪めながらアクエリアスに告げる。

「私は逃げる。・・・皇帝への復讐は、命があってこそだ。じゃあな」

 アクエリアスがキャスパーを侮蔑する。

「びびったか、腰抜けめ。・・・まぁ、脱獄させてくれた事には礼を言うぞ」

 キャスパーはアクエリアスと決別すると、城壁を降りて街から逃げ出す避難民に紛れ、カルロフカ市外へ歩いて行った。








--二十四時間後、カルロフカ 近郊

 カルロフカの包囲を解いた帝国不死兵団。その中に、小さな砦ほどの大きさもある車輪の付いた巨大な輿にエリシスとリリーは、乗っていた。

 リリーがエリシスに報告する。

「エリシス。降伏勧告から二十四時間経ちました。既に街を包囲していた帝国不死兵団の退避は完了しております」

 エリシスは座っていた玉座から立ち上がると、リリーの方を振り向いて微笑む。

「御苦労様」

 エリシスは、輿の上からカルロフカ市街を見渡すと、サディスティックな笑みを浮かべながら呟く。

「帝国と陛下に仇なすトラキアの賊徒どもが。・・・己の傲慢な愚かさを悔いるが良い」







 エリシスは両手を広げ、魔法の詠唱を始める。

Фрагментフラグメント・ звезды,ゼヴェズディー, дрейфующейディレィフーシュ・ заズィ・ пределамиプリデルミ・ Луныルニー.」

(天地創造より月の彼方に漂う星の欠片)

 エリシスの足元に一つ、そして頭上に一定間隔で巨大な魔法陣が10個現れる。

Фрагментフラグメント・ звездыゼヴェズディー・плавающейプラーヴシュー・ вヴ・ бескоベスカнечнойニーチニー・ вселенной.セレノニー

(無限の宇宙を漂う星の欠片よ)

 更にエリシスの四方に縦の魔法陣が現れる。

Заザ・ пределамиプレデルミ・ самолета,サマロータ・ выйдиヴィデ・ из-за.イーザ

(次元を越えて彼方より来たれ)

 エリシスの周囲に『積層型立体魔法陣』が現れる。

Этоエト・ метеор,メテオール、 которыйカトルル・ разбиваетヴィヴァイェット・ небо.ニヤバ、 Превраプリヴァラтитьсяティッツア・ вヴ・ горящийゴリャシャシャ・ огонь.ゴン

(天地を砕く流星よ。灼熱の業火と化せ)

Станьтеシュタンツイェ・ звезднымゼヴェニョム・ пузыремポゼリョン・ иイ・ сокрушитеソクルシュテ・ моихモイ・ врагов! !ヴラゴフ!!

(星の飛礫つぶてとなりて、我が敵を粉砕せよ!!)

Падениеパーデーニ・ метеораメテオーラ!!!!」

隕石落としメテオ・ストライク!!)

 積層型立体魔法陣は、光の粉となって宙に消える。





 空を引き裂くような轟音と共に、空の彼方から隕石がカルロフカを目掛けて落下してくる。

 それは巨大な火の玉に見えた。

 落下してきた隕石は、カルロフカ市街に命中する。

 視界の全てが真っ白くなるような眩い閃光の後、激しい爆発音と衝撃波がエリシスとリリーの乗る輿に届く。

 爆発によって発生した巨大なきのこ雲は、高度の低い乱層雲だけでなく、高高度の巻層雲に円形に穴を開けて立ち上る。

 地上の表面を衝撃波が伝い、生い茂る草を薙ぎ払っていく。








 トラキア解放戦線とカルロフカ市街は、巨大な隕石の直撃を受けて消滅した。

 カルロフカから逃げ出したトラキアの避難民の人々は、空から落ちて来た隕石がトラキア解放戦線もろともカルロフカ市街を消し飛ばし、天地を砕く光景に絶句していた。

 避難民の中でキャスパーが呟く。

「・・・これが帝国の力だ」

 禁呪隕石落としメテオ・ストライクの威力を知っているエリシスは、輿の上からカルロフカ市街ごとトラキア解放戦線が消滅する光景を、不敵な笑みを浮かべながら眺めていた。







--帝都 皇宮 謁見の間

 皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、皇太子ジークと三人の妃は、謁見の間に居た。

 ラインハルトは、皇宮の謁見の間で玉座に座り、伝令から『カルロフカ消滅』の報告を受ける。

 伝令からの報告に、ラインハルトは顔色一つ変えず一言だけ答える。

「そうか。トラキア解放戦線は、カルロフカ市街ごと消滅したか」

 ジークの第三妃フェリシアの顔から、みるみる血の気が引いていき、青ざめながら呟く。

「そんな・・・消滅って。・・・あの街には、十万人以上のトラキアの人々が・・・」

 ラインハルトの冷たいアイスブルーの瞳がフェリシアを睨む。

「これでトラキア人にも帝国の力が判っただろう。これ以上、トラキア人が帝国に反旗を翻すならば、民族浄化ホロコーストも考えねばなるまい」

 ラインハルトの言葉を聞いたフェリシアは、絶句する。

民族浄化ホロコースト・・・」

民族浄化ホロコースト。それは、『トラキア人を絶滅させる』という意味であった。 

 フェリシアは、ジークの後ろからラインハルトの前に歩み出ると、平伏してラインハルトに懇願する。

「陛下! 何とぞ『民族浄化ホロコースト』だけはご容赦ください! どうか、トラキア人に御慈悲を!!」

 ラインハルトとナナイは、平伏して懇願するフェリシアに驚く。

 その様子を見ていたジークもフェリシアの傍らに行き、ラインハルトに請願する。

「父上。トラキアは連邦制国家でした。フェリシアがトラキアの全土を統治していた訳ではありません。私からもお願い致します。トラキア人に御慈悲を」

 二人の姿を見たラインハルトが口を開く。

「・・・判った。しばらく様子を見ることにしよう」

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