上 下
77 / 177
第四章 トラキア連邦

第七十三話 ルイーゼの想い

しおりを挟む
 皇帝である父ラインハルトとの相談が終わったジークは、自室にルイーゼを呼び出した。

 程なくルイーゼがジークの私室を訪れ、ドアをノックした後、部屋に入りジークに一礼する。

「失礼します。殿下、お呼びでしょうか?」

 ジークはソファーに座ったまま、ルイーゼに座るように促す。

「ルイーゼ少尉。掛けてくれ」

 ルイーゼは、ジークに促されるままジークの対面のソファーに座る。

 ジークが口を開く。

「話というのは、他でもない。アレクと、あの女の事なのだが・・・」

 ジークは、ラインハルトと相談した結果をルイーゼに話した。

「・・・彼女は今、医務室で眠っている。目が覚めるまで、付き添ってやってくれ。彼女を保護したお前が適任だと思ってな。ソフィアやアストリッドに付き添いを頼むと、彼女を殺しかねない」

 ルイーゼが答える。

「・・・判りました」

 ジークが続ける。

「・・・それと、アレクの件だが、明日には独房から釈放されるだろう。アレクが私に殴り掛ったことを知っているのは、私とソフィア、アストリッド、お前の小隊と二人の兵士だけだ。現場を目撃した二人の兵士には、緘口令を出した。この件は、『無かったこと』になっている」

 ルイーゼは、ジークに頭を下げお礼を言う。

「殿下の御高配に感謝します」

 ジークは微笑みながらルイーゼに話し掛ける。

「ルイーゼ少尉」

「はい?」

「・・・出来の悪い弟だが、アレクの事を頼む」

「はい」

 ルイーゼは、ジークに一礼するとジークの私室を後にし、医務室へ向かう。











--飛行空母内 居住区画 医務室

 目が覚めたフェリシアは、ベッドに横たわったまま、周囲を見回す。

 フェリシアが横たわるベッドは、カーテンで同じ病室の他のベッドとは区切られていた。

 続いて目に映ったのは、見た事の無い近代的な医療設備、清潔で小綺麗なベッド、白い布に包まれた全裸の自分、その上に掛けられている毛布。

 フェリシアが傍らを見ると、椅子に座ったルイーゼが居た。

 フェリシアが上半身を起こしてルイーゼに尋ねる。

「・・・ルイーゼ少尉? ここは??」

 ルイーゼが答える。

「帝国軍の飛行空母の医務室です。皇太子殿下が裸の貴女を自分のマントで包み、御自ら貴女をここまで運ばれました」

 再びフェリシアがルイーゼに尋ねる。

「それで貴女がずっと私の付き添いを?」

「はい。殿下からそのように仰せ付かっております」

 ルイーゼの言葉にフェリシアは驚く。

「・・・あの人が」

 フェリシアが裸の自分を包む白い布を縁を指で辿ると、バレンシュテット帝室の紋章を象ったブローチが止めてあった。   
 
 フェリシアは、自分を包むジークのマントを肩から羽織り、胸の前で交差させると、両手を組んでお腹の上に置き、静かに口を開く。

「ルイーゼ少尉。私はこれからどうなるのでしょうか?」

 フェリシアからの問いにルイーゼは、ジークから聞いた事を淡々と話す。

「アレク中尉が皇太子殿下に貴女の助命を嘆願して、皇太子殿下は皇帝陛下に貴女の免罪と助命を願い出ました。皇帝陛下は、皇太子殿下が貴女を第三妃にすることを条件に貴女の免罪と助命を了承されました」

 フェリシアは俯き、自嘲気味に呟く。

「アレク中尉が私の助命を嘆願? そして・・・私が・・・あの人の・・・妃に? それは、妾というのです。・・・ふふふ」 
 
 自嘲するフェリシアに、ルイーゼは強い口調で語る。

「アレク中尉が頑張ったおかげで、貴女は処刑されずに済むのです」

 フェリシアはルイーゼの方を向くと、目に涙を浮かべながら語り掛ける。

「衆目に晒されながら恥辱を受けただけでなく、慰み者にされながら生き永らえろと?」

 フェリシアの黒い瞳から大粒の涙が溢れる。

「・・・死んだほうがましです」

 フェリシアの言葉を聞いたルイーゼは、怒りを顕にして更に強い口調で話し始める。

「アレク中尉は! アレクは、降伏式で貴女が受けた仕打ちに怒り、皇太子殿下に殴り掛りました!! 殺されるかもしれないのに!! その結果、アレクは、今、独房に収監されています!」

 ルイーゼの言葉にフェリシアが驚く。

「・・・アレク中尉が!? ・・・私のために??」

 ルイーゼは、涙ながらにフェリシアに訴える。

「フェリシアさん! 貴女のせいじゃないのは判っています! だけど、だけど・・・もう、アレクに関わらないで下さい! アレクは、私の・・・私の・・・たった一人の・・・」

 ルイーゼは、ここまで言うと、溢れる涙と嗚咽で言葉にすることができなかった。






 涙ながらに訴えるルイーゼの様子を見ていたフェリシアは、天井を見るように顔を上げ、目を閉じて少しの間、瞑想する。

(アレク中尉が・・・命懸けで・・・私のために・・・)

 瞑想を終えたフェリシアは目を開くと、再びルイーゼの方を向いて穏やかにルイーゼに話し掛ける。

「・・・ルイーゼ少尉。アレク中尉は、貴女にとって『大切な人』なのですね?」

 フェリシアの言葉に泣きながらルイーゼは答える。

「アレクは・・・アレクは、私の全てです」

 フェリシアが続ける。

「・・・判りました。私からは、アレク中尉には関わりません。約束します」

 涙声でルイーゼが口を開く。

「・・・フェリシアさん」

 フェリシアは、ルイーゼに微笑む。

「・・・アレク中尉に救われた命です。アスカニアの神々が私に死を与えるまで、生きてみようと思います」






 それぞれの想いを乗せ、飛行空母はトラキアの夜空に浮かび、下弦の月がその行く先を照らし出す。

 若者達の進むべき道が、一つだけではない事を示すように。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...