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第四章 トラキア連邦
第七十三話 ルイーゼの想い
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皇帝である父ラインハルトとの相談が終わったジークは、自室にルイーゼを呼び出した。
程なくルイーゼがジークの私室を訪れ、ドアをノックした後、部屋に入りジークに一礼する。
「失礼します。殿下、お呼びでしょうか?」
ジークはソファーに座ったまま、ルイーゼに座るように促す。
「ルイーゼ少尉。掛けてくれ」
ルイーゼは、ジークに促されるままジークの対面のソファーに座る。
ジークが口を開く。
「話というのは、他でもない。アレクと、あの女の事なのだが・・・」
ジークは、ラインハルトと相談した結果をルイーゼに話した。
「・・・彼女は今、医務室で眠っている。目が覚めるまで、付き添ってやってくれ。彼女を保護したお前が適任だと思ってな。ソフィアやアストリッドに付き添いを頼むと、彼女を殺しかねない」
ルイーゼが答える。
「・・・判りました」
ジークが続ける。
「・・・それと、アレクの件だが、明日には独房から釈放されるだろう。アレクが私に殴り掛ったことを知っているのは、私とソフィア、アストリッド、お前の小隊と二人の兵士だけだ。現場を目撃した二人の兵士には、緘口令を出した。この件は、『無かったこと』になっている」
ルイーゼは、ジークに頭を下げお礼を言う。
「殿下の御高配に感謝します」
ジークは微笑みながらルイーゼに話し掛ける。
「ルイーゼ少尉」
「はい?」
「・・・出来の悪い弟だが、アレクの事を頼む」
「はい」
ルイーゼは、ジークに一礼するとジークの私室を後にし、医務室へ向かう。
--飛行空母内 居住区画 医務室
目が覚めたフェリシアは、ベッドに横たわったまま、周囲を見回す。
フェリシアが横たわるベッドは、カーテンで同じ病室の他のベッドとは区切られていた。
続いて目に映ったのは、見た事の無い近代的な医療設備、清潔で小綺麗なベッド、白い布に包まれた全裸の自分、その上に掛けられている毛布。
フェリシアが傍らを見ると、椅子に座ったルイーゼが居た。
フェリシアが上半身を起こしてルイーゼに尋ねる。
「・・・ルイーゼ少尉? ここは??」
ルイーゼが答える。
「帝国軍の飛行空母の医務室です。皇太子殿下が裸の貴女を自分のマントで包み、御自ら貴女をここまで運ばれました」
再びフェリシアがルイーゼに尋ねる。
「それで貴女がずっと私の付き添いを?」
「はい。殿下からそのように仰せ付かっております」
ルイーゼの言葉にフェリシアは驚く。
「・・・あの人が」
フェリシアが裸の自分を包む白い布を縁を指で辿ると、バレンシュテット帝室の紋章を象ったブローチが止めてあった。
フェリシアは、自分を包むジークのマントを肩から羽織り、胸の前で交差させると、両手を組んでお腹の上に置き、静かに口を開く。
「ルイーゼ少尉。私はこれからどうなるのでしょうか?」
フェリシアからの問いにルイーゼは、ジークから聞いた事を淡々と話す。
「アレク中尉が皇太子殿下に貴女の助命を嘆願して、皇太子殿下は皇帝陛下に貴女の免罪と助命を願い出ました。皇帝陛下は、皇太子殿下が貴女を第三妃にすることを条件に貴女の免罪と助命を了承されました」
フェリシアは俯き、自嘲気味に呟く。
「アレク中尉が私の助命を嘆願? そして・・・私が・・・あの人の・・・妃に? それは、妾というのです。・・・ふふふ」
自嘲するフェリシアに、ルイーゼは強い口調で語る。
「アレク中尉が頑張ったおかげで、貴女は処刑されずに済むのです」
フェリシアはルイーゼの方を向くと、目に涙を浮かべながら語り掛ける。
「衆目に晒されながら恥辱を受けただけでなく、慰み者にされながら生き永らえろと?」
フェリシアの黒い瞳から大粒の涙が溢れる。
「・・・死んだほうがましです」
フェリシアの言葉を聞いたルイーゼは、怒りを顕にして更に強い口調で話し始める。
「アレク中尉は! アレクは、降伏式で貴女が受けた仕打ちに怒り、皇太子殿下に殴り掛りました!! 殺されるかもしれないのに!! その結果、アレクは、今、独房に収監されています!」
ルイーゼの言葉にフェリシアが驚く。
「・・・アレク中尉が!? ・・・私のために??」
ルイーゼは、涙ながらにフェリシアに訴える。
「フェリシアさん! 貴女のせいじゃないのは判っています! だけど、だけど・・・もう、アレクに関わらないで下さい! アレクは、私の・・・私の・・・たった一人の・・・」
ルイーゼは、ここまで言うと、溢れる涙と嗚咽で言葉にすることができなかった。
涙ながらに訴えるルイーゼの様子を見ていたフェリシアは、天井を見るように顔を上げ、目を閉じて少しの間、瞑想する。
(アレク中尉が・・・命懸けで・・・私のために・・・)
瞑想を終えたフェリシアは目を開くと、再びルイーゼの方を向いて穏やかにルイーゼに話し掛ける。
「・・・ルイーゼ少尉。アレク中尉は、貴女にとって『大切な人』なのですね?」
フェリシアの言葉に泣きながらルイーゼは答える。
「アレクは・・・アレクは、私の全てです」
フェリシアが続ける。
「・・・判りました。私からは、アレク中尉には関わりません。約束します」
涙声でルイーゼが口を開く。
「・・・フェリシアさん」
フェリシアは、ルイーゼに微笑む。
「・・・アレク中尉に救われた命です。アスカニアの神々が私に死を与えるまで、生きてみようと思います」
それぞれの想いを乗せ、飛行空母はトラキアの夜空に浮かび、下弦の月がその行く先を照らし出す。
若者達の進むべき道が、一つだけではない事を示すように。
程なくルイーゼがジークの私室を訪れ、ドアをノックした後、部屋に入りジークに一礼する。
「失礼します。殿下、お呼びでしょうか?」
ジークはソファーに座ったまま、ルイーゼに座るように促す。
「ルイーゼ少尉。掛けてくれ」
ルイーゼは、ジークに促されるままジークの対面のソファーに座る。
ジークが口を開く。
「話というのは、他でもない。アレクと、あの女の事なのだが・・・」
ジークは、ラインハルトと相談した結果をルイーゼに話した。
「・・・彼女は今、医務室で眠っている。目が覚めるまで、付き添ってやってくれ。彼女を保護したお前が適任だと思ってな。ソフィアやアストリッドに付き添いを頼むと、彼女を殺しかねない」
ルイーゼが答える。
「・・・判りました」
ジークが続ける。
「・・・それと、アレクの件だが、明日には独房から釈放されるだろう。アレクが私に殴り掛ったことを知っているのは、私とソフィア、アストリッド、お前の小隊と二人の兵士だけだ。現場を目撃した二人の兵士には、緘口令を出した。この件は、『無かったこと』になっている」
ルイーゼは、ジークに頭を下げお礼を言う。
「殿下の御高配に感謝します」
ジークは微笑みながらルイーゼに話し掛ける。
「ルイーゼ少尉」
「はい?」
「・・・出来の悪い弟だが、アレクの事を頼む」
「はい」
ルイーゼは、ジークに一礼するとジークの私室を後にし、医務室へ向かう。
--飛行空母内 居住区画 医務室
目が覚めたフェリシアは、ベッドに横たわったまま、周囲を見回す。
フェリシアが横たわるベッドは、カーテンで同じ病室の他のベッドとは区切られていた。
続いて目に映ったのは、見た事の無い近代的な医療設備、清潔で小綺麗なベッド、白い布に包まれた全裸の自分、その上に掛けられている毛布。
フェリシアが傍らを見ると、椅子に座ったルイーゼが居た。
フェリシアが上半身を起こしてルイーゼに尋ねる。
「・・・ルイーゼ少尉? ここは??」
ルイーゼが答える。
「帝国軍の飛行空母の医務室です。皇太子殿下が裸の貴女を自分のマントで包み、御自ら貴女をここまで運ばれました」
再びフェリシアがルイーゼに尋ねる。
「それで貴女がずっと私の付き添いを?」
「はい。殿下からそのように仰せ付かっております」
ルイーゼの言葉にフェリシアは驚く。
「・・・あの人が」
フェリシアが裸の自分を包む白い布を縁を指で辿ると、バレンシュテット帝室の紋章を象ったブローチが止めてあった。
フェリシアは、自分を包むジークのマントを肩から羽織り、胸の前で交差させると、両手を組んでお腹の上に置き、静かに口を開く。
「ルイーゼ少尉。私はこれからどうなるのでしょうか?」
フェリシアからの問いにルイーゼは、ジークから聞いた事を淡々と話す。
「アレク中尉が皇太子殿下に貴女の助命を嘆願して、皇太子殿下は皇帝陛下に貴女の免罪と助命を願い出ました。皇帝陛下は、皇太子殿下が貴女を第三妃にすることを条件に貴女の免罪と助命を了承されました」
フェリシアは俯き、自嘲気味に呟く。
「アレク中尉が私の助命を嘆願? そして・・・私が・・・あの人の・・・妃に? それは、妾というのです。・・・ふふふ」
自嘲するフェリシアに、ルイーゼは強い口調で語る。
「アレク中尉が頑張ったおかげで、貴女は処刑されずに済むのです」
フェリシアはルイーゼの方を向くと、目に涙を浮かべながら語り掛ける。
「衆目に晒されながら恥辱を受けただけでなく、慰み者にされながら生き永らえろと?」
フェリシアの黒い瞳から大粒の涙が溢れる。
「・・・死んだほうがましです」
フェリシアの言葉を聞いたルイーゼは、怒りを顕にして更に強い口調で話し始める。
「アレク中尉は! アレクは、降伏式で貴女が受けた仕打ちに怒り、皇太子殿下に殴り掛りました!! 殺されるかもしれないのに!! その結果、アレクは、今、独房に収監されています!」
ルイーゼの言葉にフェリシアが驚く。
「・・・アレク中尉が!? ・・・私のために??」
ルイーゼは、涙ながらにフェリシアに訴える。
「フェリシアさん! 貴女のせいじゃないのは判っています! だけど、だけど・・・もう、アレクに関わらないで下さい! アレクは、私の・・・私の・・・たった一人の・・・」
ルイーゼは、ここまで言うと、溢れる涙と嗚咽で言葉にすることができなかった。
涙ながらに訴えるルイーゼの様子を見ていたフェリシアは、天井を見るように顔を上げ、目を閉じて少しの間、瞑想する。
(アレク中尉が・・・命懸けで・・・私のために・・・)
瞑想を終えたフェリシアは目を開くと、再びルイーゼの方を向いて穏やかにルイーゼに話し掛ける。
「・・・ルイーゼ少尉。アレク中尉は、貴女にとって『大切な人』なのですね?」
フェリシアの言葉に泣きながらルイーゼは答える。
「アレクは・・・アレクは、私の全てです」
フェリシアが続ける。
「・・・判りました。私からは、アレク中尉には関わりません。約束します」
涙声でルイーゼが口を開く。
「・・・フェリシアさん」
フェリシアは、ルイーゼに微笑む。
「・・・アレク中尉に救われた命です。アスカニアの神々が私に死を与えるまで、生きてみようと思います」
それぞれの想いを乗せ、飛行空母はトラキアの夜空に浮かび、下弦の月がその行く先を照らし出す。
若者達の進むべき道が、一つだけではない事を示すように。
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