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第四章 トラキア連邦

第六十五話 首都急襲(三)

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--トラキア連邦 議長府

 アレク達ユニコーン小隊は、議長府の建物の探索を再開する。

 小走りで走りながら、アレクが小隊メンバーに指示を出す。

「・・・時間が無い。二人一組で各部屋を回ろう!」

「「了解!」」

 ユニコーン小隊は、飛空艇に乗っている組み合わせで、議長府の建物の部屋を回り探索する。









--首都上空 飛行空母 艦橋

 飛行空母の艦橋に居るジークの目にトラキア連邦軍の二隻の飛行船が上昇してくるのが見える。 

 飛行船は、首都郊外の飛行場から緊急浮上してきた様子で、船首を上げたまま上昇を続けていた。

 飛行船を一瞥したジークが口を開く。

「・・・今頃、現れたか。だが、無駄なことだ。・・・ヒマジン伯爵!」

「ハッ!」

「トラキア連邦軍の飛行船を撃沈しろ!」

「了解しました」

 トラキア連邦軍の飛行船は、二門の大砲で帝国軍の飛行戦艦を砲撃しながら上昇を続けていた。

 しかし、飛行船の大砲から発射されたは、飛行戦艦に命中しても鈍い音と共に装甲板で弾かれる。

 帝国軍の飛行戦艦が、上昇を続ける先頭の連邦軍飛行船に対して、主砲の照準を合わせる。

 飛行戦艦の二門づつ四基ある八門の主砲が飛行船に向けて一斉射撃する。

 主砲から発射された八発のは、飛行船の装甲板を貫通して船内で大爆発を起こす。

 トラキア連邦軍の飛行船は、大爆発の後、船体中央から二つに折れて轟沈し、黒煙を上げながら墜落していく。

 続け様に帝国軍の飛行戦艦は、二隻目の連邦軍飛行船も一斉射撃で轟沈させる。

 轟沈する連邦軍の飛行船を艦橋から眺めながらジークが呟く。

「・・・圧倒的ではないか。我が軍は」








--トラキア連邦 議長府

 議長府の執務室には、フェリシアと一人の職員が居た。

 突然、ドアが開けられ、二人の男が入って来る。

 フェリシアが叫ぶ。

「議員!?」

 フェリシアの執務室に侵入してきた二人の男は、トラキア連邦の議員であった。

 懐からナイフを出した議員が、フェリシアと一緒にいた職員の腹を突き刺す。

「ぐふっ!? 何を・・??」

 そう言うと職員は、刺された腹を押さえながら床に倒れる。

 血に塗れたナイフを持った議員が口を開く。

「・・・まもなく帝国軍がやって来る! 元々、我々は、帝国との戦争には反対だったのだ! 貴女を帝国軍に差し出して降伏すれば、我々は助かるかもしれない!!」

 議員が口にした言葉にフェリシアは驚く。

「ええっ!?」

 もう一人の議員がフェリシアの腕を掴んで、後ろ手に捩じ上げ、口を開く。

「議長! 我々と一緒に来て貰う!!」

 後ろ手に腕を捩じ上げられたフェリシアの顔が苦痛に歪む。

「・・・痛い!!」






 次の瞬間、執務室の扉が勢い良く開けられ、若い二人の男女が現れる。

 アレクとルイーゼであった。

 アレクは、帝国騎士ライヒスリッターの装備に身を固めており、突然、目の前に現れた帝国騎士ライヒスリッターに、二人の議員は怯む。

「「て、帝国軍!?」」

 ルイーゼは、素早く二本の短刀を取り出すと、二人の男に向けて投擲する。

 ルイーゼが投擲した短刀の一つは、ナイフを持った議員の右目に刺さり、もう一本の短刀は、フェリシアを捕まえる議員の喉に突き刺さる。

 喉に短刀が刺さった議員は絶命して、その場に崩れ落ちる。

 フェリシアは、絶命した議員に腕を掴まれたまま、引っ張られるようにその場に座り込む。

 ナイフが右目に刺さった議員は、叫びながらナイフを出鱈目に振り回して、アレクとルイーゼに斬り掛かる。

「クソッ! クソォオオオオ!!」

 ナイフを振り回す議員に対して、アレクは冷静に対峙すると、居合切りの一刀で議員を斬り伏せた。

 ルイーゼは、床に座り込むフェリシアを介抱する。

「大丈夫?」

 議員に捩じ上げられた腕を摩りながら、フェリシアが尋ねる。

「・・・大丈夫です。貴女達は?」

 アレクは官姓名を名乗り、ルイーゼを紹介する。

「私は、バレンシュテット帝国 辺境派遣軍 教導大隊所属 アレキサンダー・ヘーゲル中尉です。アレクと呼んで下さい。・・・こちらはルイーゼ少尉」

 フェリシアは、呆然と二人を見上げる。

「帝国軍・・・」

 フェリシアの腕を取りながらルイーゼが尋ねる。

「・・・貴女は?」

 フェリシアが名乗る。

「私がトラキア連邦の議長にしてバラクレア王国の女王、フェリシア・アーゴットです」

 フェリシアの名乗りを聞いたアレクとルイーゼは驚く。

「貴女が!? トラキア連邦の議長??」

 フェリシアは、寂しげな笑顔を見せる。

「・・・ふふ。その通りです。意外でしたか?」

 黒目黒髪で巫女服に身を包み、純朴で清楚な感じの美女であるフェリシアの笑顔に、アレクは一瞬、見惚れる。

 アレクが答える。

「驚きました。・・・失礼ですが、てっきり、巫女か何かかと・・・」

 フェリシアが微笑んで答える。

「巫女ですよ。私は」

 アレクとフェリシアのやり取りを見ていたルイーゼが口を開く。

「アレク。時間が無いわ」

 アレクがルイーゼに答える。

「判った」

 アレクがフェリシアに告げる。

「議長閣下。・・・一緒に来て貰います。身の安全は保障します」

「・・・判りました」

 アレクとルイーゼは、フェリシアを捕虜として伴い、議長府の探索を終えた他の小隊メンバーと合流する。

 トゥルムとドミトリーが、議長府の建物の入り口の庭にある旗立てに『帝国軍旗』を掲げる。

 『帝国軍が議長府を制圧した』という合図であった。
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