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第三章 辺境派遣軍
第四十二話 ファーストキス
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州都キャスパーシティで辺境派遣軍と教導大隊は合流した。
教導大隊は、揚陸艇に乗せた避難民を街に降ろしていた。
ジカイラが揚陸艇前に整列する教導大隊の学生達に告げる。
「お前達、次の指示があるまで各自、自由時間とする。あまり羽目を外すんじゃないぞ?」
学生達は、歓声を挙げながら、各々、自由行動を始める。
アレクは、傍らのルイーゼに声を掛ける。
「ルイーゼ、街に行ってみよう」
ルイーゼは、上目遣いに首を傾げて尋ねる。
「デートのお誘い?」
ルイーゼからの問い掛けに、アレクはおどけて答える。
「そうだ。供をせよ、少尉」
ルイーゼは、笑顔で答える。
「お伴致しますわ。中尉殿」
ルイーゼは、悪戯っぽくそう言うとアレクと腕を組み、二人でキャスパーシティの市街地へ歩いて行った。
キャスパーシティはヨーイチ男爵領の州都で、ヨーイチ男爵家の屋敷がある以外は帝国辺境の地方の町といった佇まいであった。
辺境の開拓地の中心であるため、街の周囲を石造りの城壁と見張り塔が取り囲み、さながら城塞のような造りであったが、帝都のような大都会とは異なり、大通りに沿って商店や飲食店が並び、裏通りや路地に飲み屋などがあった。
皇宮育ちのアレクとルイーゼにとって、帝都とは異なる辺境の開拓地の都市は、原野を開拓する大型の農機具など珍しいもので溢れていた。
二人は、しばらく市内を散策して商店街であちこちの店を覗き、小物を買うなど楽しい時間を過ごした。
楽しい時間はあっという間に過ぎて日没になり、二人は大通りに面したレストランに入る。
細やかながら、この地域の特産という羊肉のコース料理と赤ワインを頼み、二人で料理を堪能する。
アスカニアでは十四才から成人とされ、飲酒も喫煙も結婚も解禁であった。
二人は、コース料理の最後に出されたフルーツを摘みながら、他愛の無い話で穏やかなひとときを過ごす。
食事を終えて程よく酔った二人は、大通りの一角にある噴水の傍のベンチに腰掛ける。
様々な動物の彫像から水が流れ出る噴水の周辺は、ちょっとした公園のようになっていた。
月明かりが照らす大通りは、道行く人の姿がまばらになっていた。
ルイーゼは、アレクに甘えて膝の上に座り、首に両手を回す。
アレクは、星空を見上げながら、ルイーゼに話し掛ける。
「ルイーゼ。・・・これから、どうなると思う?」
ルイーゼが空を見上げるアレクの顔を見ながら尋ねる。
「どうって?」
寂しげな顔をしたアレクがルイーゼに告げる。
「父上や兄上は、私に冷たい。母上は、下の兄妹達に掛かりきり。・・・私は一人だ」
ルイーゼの瞳がアレクのエメラルドの瞳を見詰める。
「アレクは、一人じゃない。私が傍にいるわ」
アレクは、ルイーゼに微笑み掛ける。アレクの脳裏にルイーゼと共に過ごした今までの出来事が思い浮かぶ。
「そうだった。どんなときも君が一緒だった。すまない。・・・これからも傍に居てくれ」
ルイーゼは、アレクの頭を胸に抱き締める。
「アレク。・・・大好き。愛してる。私の皇子様」
「ルイーゼ」
二人はそのまま目を閉じて唇を重ねる。
二人はねっとりと舌を絡め、深くキスを繰り返した。
「見せつけやがって! お前ら! 『腹筋同盟』をナメやがって! 覚悟はできているんだろうなぁ!」
ガラの悪い男がそう叫ぶと、アレクとルイーゼの周囲にガラの悪い男の仲間達が集まってくる。
帝都のギャング『フナムシ一家』の下位組織である『腹筋同盟』のウサギ・アマギとソナー、その手下達であった。
アレクは、ガラの悪い男達を観察する。
(不味い。向こうは十二人、こっちは二人だ)
「ルイーゼ! 来い!!」
アレクはそう叫ぶと、次の瞬間、ルイーゼの手を引いてその場から走り出した。
「クソッ! 待て! お前ら!!」
ガラの悪い男達は、二人を追い掛けて走り出す。
二人は、大通りを走って、ガラの悪い男達から逃げると、路地裏に入る。
「ルイーゼ。とりあえず、この店に入ろう!」
アレクは、ルイーゼの手を引きながら、赤い看板を掲げた路地裏の店に入った。
アレクとルイーゼが入った店の店内は薄暗かった。
照明は、壁や天井には、赤く色を塗ったガラスがはめ込まれたランタンが店内をピンク色に照らしていた。
店の席は、個室のような造りになっており、対面式の席ではなく、幅広く長いソファーの脇に小さなテーブルが置かれており、扉の代わりにカーテンで通路と仕切れるようになっていた。
二人が立つ、入り口近くの席のカーテンの隙間から、個室席の中の様子が見える。
幅広く長いソファーには、男が腰掛けており、膝の上に乗せた上半身裸の女性の胸を揉みしだきながら、キスしていた。
二人が入った店は、娼館などに一泊できない低所得者達や、逢引き向けの『睦事が出来る同伴酒場』であった。
無論、この酒場で娼婦を手配することも出来た。
アレクが店内の様子に驚いていると、無愛想な店員が二人に話し掛けてくる。
「いらっしゃい。お二人さん、同伴かい?」
固まるアレクより、先にルイーゼが答える。
「はい!」
「こっちへ」
店員は、アレクとルイーゼを席に案内すると注文を聞く。
「注文は?」
ルイーゼが答える。
「麦酒とカクテルを」
「あいよ」
ルイーゼは、戸惑うアレクの膝の上に座ると、両腕をアレクの首に回して耳元で囁く。
「・・・ここは、こういうお店でしょ?」
アレクにそう告げるルイーゼは、顔を紅潮させていた。
程なく店員がやって来る。
店員は、二人の様子を気に留めることもなく、ルイーゼが注文した麦酒とカクテル、サービス品らしきおつまみを小さなテーブルの上に置くと、足早に席から去っていった。
ルイーゼは、店員が持ってきたカクテルを一口飲む。
「・・・美味しい。アレクも飲む?」
「うん」
アレクが頷くのを見たルイーゼは、自分が飲んだカクテルをもう一口、自分の口に含むと、アレクにキスする。
ルイーゼは、自分の口に含んだカクテルを、ゆっくりと口移しでアレクに飲ませる。
ルイーゼが口移しでアレクに飲ませたカクテルは、口当たりが甘く飲みやすいものの、アルコールは強めのものであった。
教導大隊は、揚陸艇に乗せた避難民を街に降ろしていた。
ジカイラが揚陸艇前に整列する教導大隊の学生達に告げる。
「お前達、次の指示があるまで各自、自由時間とする。あまり羽目を外すんじゃないぞ?」
学生達は、歓声を挙げながら、各々、自由行動を始める。
アレクは、傍らのルイーゼに声を掛ける。
「ルイーゼ、街に行ってみよう」
ルイーゼは、上目遣いに首を傾げて尋ねる。
「デートのお誘い?」
ルイーゼからの問い掛けに、アレクはおどけて答える。
「そうだ。供をせよ、少尉」
ルイーゼは、笑顔で答える。
「お伴致しますわ。中尉殿」
ルイーゼは、悪戯っぽくそう言うとアレクと腕を組み、二人でキャスパーシティの市街地へ歩いて行った。
キャスパーシティはヨーイチ男爵領の州都で、ヨーイチ男爵家の屋敷がある以外は帝国辺境の地方の町といった佇まいであった。
辺境の開拓地の中心であるため、街の周囲を石造りの城壁と見張り塔が取り囲み、さながら城塞のような造りであったが、帝都のような大都会とは異なり、大通りに沿って商店や飲食店が並び、裏通りや路地に飲み屋などがあった。
皇宮育ちのアレクとルイーゼにとって、帝都とは異なる辺境の開拓地の都市は、原野を開拓する大型の農機具など珍しいもので溢れていた。
二人は、しばらく市内を散策して商店街であちこちの店を覗き、小物を買うなど楽しい時間を過ごした。
楽しい時間はあっという間に過ぎて日没になり、二人は大通りに面したレストランに入る。
細やかながら、この地域の特産という羊肉のコース料理と赤ワインを頼み、二人で料理を堪能する。
アスカニアでは十四才から成人とされ、飲酒も喫煙も結婚も解禁であった。
二人は、コース料理の最後に出されたフルーツを摘みながら、他愛の無い話で穏やかなひとときを過ごす。
食事を終えて程よく酔った二人は、大通りの一角にある噴水の傍のベンチに腰掛ける。
様々な動物の彫像から水が流れ出る噴水の周辺は、ちょっとした公園のようになっていた。
月明かりが照らす大通りは、道行く人の姿がまばらになっていた。
ルイーゼは、アレクに甘えて膝の上に座り、首に両手を回す。
アレクは、星空を見上げながら、ルイーゼに話し掛ける。
「ルイーゼ。・・・これから、どうなると思う?」
ルイーゼが空を見上げるアレクの顔を見ながら尋ねる。
「どうって?」
寂しげな顔をしたアレクがルイーゼに告げる。
「父上や兄上は、私に冷たい。母上は、下の兄妹達に掛かりきり。・・・私は一人だ」
ルイーゼの瞳がアレクのエメラルドの瞳を見詰める。
「アレクは、一人じゃない。私が傍にいるわ」
アレクは、ルイーゼに微笑み掛ける。アレクの脳裏にルイーゼと共に過ごした今までの出来事が思い浮かぶ。
「そうだった。どんなときも君が一緒だった。すまない。・・・これからも傍に居てくれ」
ルイーゼは、アレクの頭を胸に抱き締める。
「アレク。・・・大好き。愛してる。私の皇子様」
「ルイーゼ」
二人はそのまま目を閉じて唇を重ねる。
二人はねっとりと舌を絡め、深くキスを繰り返した。
「見せつけやがって! お前ら! 『腹筋同盟』をナメやがって! 覚悟はできているんだろうなぁ!」
ガラの悪い男がそう叫ぶと、アレクとルイーゼの周囲にガラの悪い男の仲間達が集まってくる。
帝都のギャング『フナムシ一家』の下位組織である『腹筋同盟』のウサギ・アマギとソナー、その手下達であった。
アレクは、ガラの悪い男達を観察する。
(不味い。向こうは十二人、こっちは二人だ)
「ルイーゼ! 来い!!」
アレクはそう叫ぶと、次の瞬間、ルイーゼの手を引いてその場から走り出した。
「クソッ! 待て! お前ら!!」
ガラの悪い男達は、二人を追い掛けて走り出す。
二人は、大通りを走って、ガラの悪い男達から逃げると、路地裏に入る。
「ルイーゼ。とりあえず、この店に入ろう!」
アレクは、ルイーゼの手を引きながら、赤い看板を掲げた路地裏の店に入った。
アレクとルイーゼが入った店の店内は薄暗かった。
照明は、壁や天井には、赤く色を塗ったガラスがはめ込まれたランタンが店内をピンク色に照らしていた。
店の席は、個室のような造りになっており、対面式の席ではなく、幅広く長いソファーの脇に小さなテーブルが置かれており、扉の代わりにカーテンで通路と仕切れるようになっていた。
二人が立つ、入り口近くの席のカーテンの隙間から、個室席の中の様子が見える。
幅広く長いソファーには、男が腰掛けており、膝の上に乗せた上半身裸の女性の胸を揉みしだきながら、キスしていた。
二人が入った店は、娼館などに一泊できない低所得者達や、逢引き向けの『睦事が出来る同伴酒場』であった。
無論、この酒場で娼婦を手配することも出来た。
アレクが店内の様子に驚いていると、無愛想な店員が二人に話し掛けてくる。
「いらっしゃい。お二人さん、同伴かい?」
固まるアレクより、先にルイーゼが答える。
「はい!」
「こっちへ」
店員は、アレクとルイーゼを席に案内すると注文を聞く。
「注文は?」
ルイーゼが答える。
「麦酒とカクテルを」
「あいよ」
ルイーゼは、戸惑うアレクの膝の上に座ると、両腕をアレクの首に回して耳元で囁く。
「・・・ここは、こういうお店でしょ?」
アレクにそう告げるルイーゼは、顔を紅潮させていた。
程なく店員がやって来る。
店員は、二人の様子を気に留めることもなく、ルイーゼが注文した麦酒とカクテル、サービス品らしきおつまみを小さなテーブルの上に置くと、足早に席から去っていった。
ルイーゼは、店員が持ってきたカクテルを一口飲む。
「・・・美味しい。アレクも飲む?」
「うん」
アレクが頷くのを見たルイーゼは、自分が飲んだカクテルをもう一口、自分の口に含むと、アレクにキスする。
ルイーゼは、自分の口に含んだカクテルを、ゆっくりと口移しでアレクに飲ませる。
ルイーゼが口移しでアレクに飲ませたカクテルは、口当たりが甘く飲みやすいものの、アルコールは強めのものであった。
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