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第ニ章 中核都市エンクホイゼン
第三十九話 領主解任
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ジカイラがラインハルトに尋ねる。
「孤児院を襲おうとしていた奴等は片付いたぞ。・・・で、これからどうするんだ?」
ラインハルトが答える。
「孤児院で一息付いたら、領主のところへ行く」
「そうか」
ジカイラはそう言うと、ラインハルトと肩を組むように首に腕を回し、ヒソヒソ話を始める。
「ところで・・・お前、『後宮』を作ったらどうだ?」
「『後宮』?」
ラインハルトは怪訝な顔をする。
ジカイラが続ける。
「宿屋でのお前とナナイの睦事、音も声も筒抜けだったぞ? 男の側は毎日でも女を抱ける。だが、女の側はそうじゃないからな。そこら辺の事も考えてやれよ」
ジカイラの言葉にも一理あった。
女性には、月のものがあり、性交で妊娠する事もある。
ラインハルト夫婦の場合、どちらかと言えば、ナナイの側が求めてくる場合が多かったため、ラインハルト自身は、そこまで考えたことは無かった。
ラインハルトは、曖昧に答える。
「『後宮』か。考えておくよ」
しかし、ジカイラは尚も食い下がる。
「そこらの貴族でさえ、女を囲っているんだぞ? 世界に冠たるバレンシュテット帝国の皇帝が後宮を作って女を囲ったところで、誰も文句なんて言わないぞ? むしろ『後宮に入れて欲しい』って女が殺到するだろうよ」
ラインハルトは苦笑いする。
「・・・まぁ、そこら辺の事は、だ。・・・ナナイと相談してからだな」
一通り話したジカイラは、話を切り上げる。
「相変わらず、愛妻家だな」
ヒソヒソと話している二人をナナイが訝しげに見る。
「ちょっと! 二人で何の密談!?」
「いや。何でも無い」
ジカイラは誤魔化した。
三人と帝国四魔将達は、孤児院の方へ歩いて行く。
ジカイラ、ラインハルト、ナナイの後にアキックス、ヒマジン、エリシス、リリーが孤児院の中に入る。
斬り刻んだシンジケートのチンピラの返り血に塗れた三人を見て、キラーコマンドの少年たちは、怖気づく。
ラインハルトは、食堂の椅子に腰掛ける。
ジカイラがラインハルトの向かいの席に座り、ナナイがラインハルトの隣に座る。
孤児院に居たヒナ、ティナ、ケニー、ルナがジカイラ達の元にやって来る。
四人は血塗れの三人を見て、ギョッとする。
ヒナがジカイラに話し掛ける。
「ジカさん、お疲れ様。大変だったみたいね」
ジカイラは、笑顔で答える。
「まぁな」
ケニーが口を開く。
「シンジケートは、やっつけたみたいだね」
ジカイラは素っ気なく答える。
「ああ」
ナナイが孤児院の子供達に笑顔で微笑み掛ける。
「麻薬組織は潰したわ。この孤児院は、もう大丈夫よ」
しかし、血塗れの三人を見て、キラーコマンドの少年達は、引きつった苦笑いを浮かべる。
場の雰囲気を和ませるため、ルナが人数分のお茶を淹れて持ってくる。
ルナが淹れたお茶を飲んだラインハルトが口を開く。
「ヒマジン。デン・ヘルダーの帝国軍をこの街に」
ヒマジンが聞き返す。
「陛下。この街を制圧するということで?」
「そうだ。麻薬組織の跳梁を許し、無為無策の領主など不要だ」
「御意」
ヒマジンはラインハルトに一礼すると、エリシスに話し掛ける。
「エリシス。転移門を頼む」
「判ったわ」
ヒマジンは、エリシスが作った転移門を通り、デン・ヘルダーへ向かった。
ヒマジンが出立したことを見届けたラインハルトが口を開く。
「さて。領主の城へ行くか」
ジカイラが答える。
「そうだな。・・・決めるか」
ジカイラ達五人とラインハルト夫妻、帝国四魔将のアキックスとエリシス、その副官のリリーは、領主の城へと向かう。
--小一時間後、エンクホイゼン 領主の城
ジカイラ達は、領主の城の前に着く。
ジカイラが門番に告げる。
「領主に会う。通るぞ」
門番は、役人に案内されて城に来たジカイラ達を覚えていたが、血塗れのジカイラ達の姿に驚愕し、呆然と立ち尽くし、城門を通過することを許してしまう。
ジカイラ達は城内に入り、領主の部屋に入る。
エンクホイゼンの領主メルクリウス・エンクホイゼンは、夕食の晩餐中であった。
ジカイラがメルクリウスに告げる。
「おっさん! 邪魔するぞ!!」
突然、現れたジカイラ達にメルクリウスも驚く。
メルクリウスは、手に持っていたナイフでプルプルと震えながらジカイラ達を指し、口を開く。
「な、何だね! チミ達は!! 私は食事中なのだよ!! それに、何なんだ! その血塗れの姿は!!」
メルクリウスは、手に持っていたナイフをテーブルに置くと、大声で叫ぶ。
「衛兵!! この者達を叩き出せ!!」
二人の衛兵が部屋にやって来て、ジカイラ達を取り押さえようとする。
「無礼者が!!」
そう叫ぶとアキックスは、目にも留まらぬ速さで両手剣を抜き、二人の衛兵を峰打ちで叩きのめす。
アキックスは、手にした剣をメルクリウスに向ける。
「貴様! 皇帝陛下に対する『大逆罪』で、この場で斬り捨てるぞ!!」
「こ、皇帝陛下!?」
アキックスの言葉に再び驚いたメルクリウスは、その席で立ち上がる。
エリシスがメルクリウスに向けて手をかざし、無詠唱で魔法を放つ。
魔力指向弾。
「フギャア!!」
メルクリウスは、晩餐の食卓と共に後ろに吹き飛ぶ。
エリシスは、床に転がるメルクリウスの頭を踏み付けながら言い放つ。
「無礼者は、お前だ! 領主!!」
「ヒィイイイ!!」
ラインハルトは、メルクリウスの前に歩み出ると、静かに告げる。
「私は、バレンシュテット帝国 第三十五代皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。エンクホイゼン領主、メルクリウス・エンクホイゼン。汝の領主の任を解く。失せろ」
ラインハルトの言葉を聞いたメルクリウスは、エリシスに頭を踏み付けられたまま、取り乱して喚く。
「お、お待ち下さい! 皇帝陛下!! 陛下! 私は、努力したのです!! 努力したのです!!」
ジカイラはしゃがむと、床でのた打ち回るメルクリウスに悪態を突く。
「諦めな。おっさん!!」
「孤児院を襲おうとしていた奴等は片付いたぞ。・・・で、これからどうするんだ?」
ラインハルトが答える。
「孤児院で一息付いたら、領主のところへ行く」
「そうか」
ジカイラはそう言うと、ラインハルトと肩を組むように首に腕を回し、ヒソヒソ話を始める。
「ところで・・・お前、『後宮』を作ったらどうだ?」
「『後宮』?」
ラインハルトは怪訝な顔をする。
ジカイラが続ける。
「宿屋でのお前とナナイの睦事、音も声も筒抜けだったぞ? 男の側は毎日でも女を抱ける。だが、女の側はそうじゃないからな。そこら辺の事も考えてやれよ」
ジカイラの言葉にも一理あった。
女性には、月のものがあり、性交で妊娠する事もある。
ラインハルト夫婦の場合、どちらかと言えば、ナナイの側が求めてくる場合が多かったため、ラインハルト自身は、そこまで考えたことは無かった。
ラインハルトは、曖昧に答える。
「『後宮』か。考えておくよ」
しかし、ジカイラは尚も食い下がる。
「そこらの貴族でさえ、女を囲っているんだぞ? 世界に冠たるバレンシュテット帝国の皇帝が後宮を作って女を囲ったところで、誰も文句なんて言わないぞ? むしろ『後宮に入れて欲しい』って女が殺到するだろうよ」
ラインハルトは苦笑いする。
「・・・まぁ、そこら辺の事は、だ。・・・ナナイと相談してからだな」
一通り話したジカイラは、話を切り上げる。
「相変わらず、愛妻家だな」
ヒソヒソと話している二人をナナイが訝しげに見る。
「ちょっと! 二人で何の密談!?」
「いや。何でも無い」
ジカイラは誤魔化した。
三人と帝国四魔将達は、孤児院の方へ歩いて行く。
ジカイラ、ラインハルト、ナナイの後にアキックス、ヒマジン、エリシス、リリーが孤児院の中に入る。
斬り刻んだシンジケートのチンピラの返り血に塗れた三人を見て、キラーコマンドの少年たちは、怖気づく。
ラインハルトは、食堂の椅子に腰掛ける。
ジカイラがラインハルトの向かいの席に座り、ナナイがラインハルトの隣に座る。
孤児院に居たヒナ、ティナ、ケニー、ルナがジカイラ達の元にやって来る。
四人は血塗れの三人を見て、ギョッとする。
ヒナがジカイラに話し掛ける。
「ジカさん、お疲れ様。大変だったみたいね」
ジカイラは、笑顔で答える。
「まぁな」
ケニーが口を開く。
「シンジケートは、やっつけたみたいだね」
ジカイラは素っ気なく答える。
「ああ」
ナナイが孤児院の子供達に笑顔で微笑み掛ける。
「麻薬組織は潰したわ。この孤児院は、もう大丈夫よ」
しかし、血塗れの三人を見て、キラーコマンドの少年達は、引きつった苦笑いを浮かべる。
場の雰囲気を和ませるため、ルナが人数分のお茶を淹れて持ってくる。
ルナが淹れたお茶を飲んだラインハルトが口を開く。
「ヒマジン。デン・ヘルダーの帝国軍をこの街に」
ヒマジンが聞き返す。
「陛下。この街を制圧するということで?」
「そうだ。麻薬組織の跳梁を許し、無為無策の領主など不要だ」
「御意」
ヒマジンはラインハルトに一礼すると、エリシスに話し掛ける。
「エリシス。転移門を頼む」
「判ったわ」
ヒマジンは、エリシスが作った転移門を通り、デン・ヘルダーへ向かった。
ヒマジンが出立したことを見届けたラインハルトが口を開く。
「さて。領主の城へ行くか」
ジカイラが答える。
「そうだな。・・・決めるか」
ジカイラ達五人とラインハルト夫妻、帝国四魔将のアキックスとエリシス、その副官のリリーは、領主の城へと向かう。
--小一時間後、エンクホイゼン 領主の城
ジカイラ達は、領主の城の前に着く。
ジカイラが門番に告げる。
「領主に会う。通るぞ」
門番は、役人に案内されて城に来たジカイラ達を覚えていたが、血塗れのジカイラ達の姿に驚愕し、呆然と立ち尽くし、城門を通過することを許してしまう。
ジカイラ達は城内に入り、領主の部屋に入る。
エンクホイゼンの領主メルクリウス・エンクホイゼンは、夕食の晩餐中であった。
ジカイラがメルクリウスに告げる。
「おっさん! 邪魔するぞ!!」
突然、現れたジカイラ達にメルクリウスも驚く。
メルクリウスは、手に持っていたナイフでプルプルと震えながらジカイラ達を指し、口を開く。
「な、何だね! チミ達は!! 私は食事中なのだよ!! それに、何なんだ! その血塗れの姿は!!」
メルクリウスは、手に持っていたナイフをテーブルに置くと、大声で叫ぶ。
「衛兵!! この者達を叩き出せ!!」
二人の衛兵が部屋にやって来て、ジカイラ達を取り押さえようとする。
「無礼者が!!」
そう叫ぶとアキックスは、目にも留まらぬ速さで両手剣を抜き、二人の衛兵を峰打ちで叩きのめす。
アキックスは、手にした剣をメルクリウスに向ける。
「貴様! 皇帝陛下に対する『大逆罪』で、この場で斬り捨てるぞ!!」
「こ、皇帝陛下!?」
アキックスの言葉に再び驚いたメルクリウスは、その席で立ち上がる。
エリシスがメルクリウスに向けて手をかざし、無詠唱で魔法を放つ。
魔力指向弾。
「フギャア!!」
メルクリウスは、晩餐の食卓と共に後ろに吹き飛ぶ。
エリシスは、床に転がるメルクリウスの頭を踏み付けながら言い放つ。
「無礼者は、お前だ! 領主!!」
「ヒィイイイ!!」
ラインハルトは、メルクリウスの前に歩み出ると、静かに告げる。
「私は、バレンシュテット帝国 第三十五代皇帝 ラインハルト・ヘーゲル・フォン・バレンシュテット。エンクホイゼン領主、メルクリウス・エンクホイゼン。汝の領主の任を解く。失せろ」
ラインハルトの言葉を聞いたメルクリウスは、エリシスに頭を踏み付けられたまま、取り乱して喚く。
「お、お待ち下さい! 皇帝陛下!! 陛下! 私は、努力したのです!! 努力したのです!!」
ジカイラはしゃがむと、床でのた打ち回るメルクリウスに悪態を突く。
「諦めな。おっさん!!」
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