アスカニア大陸戦記 黒衣の剣士と氷の魔女

StarFox

文字の大きさ
上 下
31 / 64
第ニ章 中核都市エンクホイゼン

第三十一話 荒んだ目

しおりを挟む
 ジカイラが煙幕が晴れた、商店街の路地裏を見回して口を開く。

「・・・消えた?」

 ルナが獣耳けもみみを動かして、周囲を探る。

 ルナは、ハッと気がついたように建物の屋根を見上げる。

「ケニーたん! 屋根の上!!」

 ルナの言葉にジカイラ達は、一斉に屋根の上を見上げる。

 建物の屋根の上に登ったキラーコマンド達は、屋根伝いに走って逃走中であった。

「行くよ! ルナちゃん!!」

「ええ!」

 ケニーとルナは、素早く雨樋を伝って建物の屋根の上に登ると、キラーコマンド達を追う。

 路地裏から屋根の上に登った二人を見上げるジカイラが叫ぶ。

「ケニー! ルナ! 深追いするなよ!」 

 ジカイラの元にティナとヒナが歩み寄る。

 ヒナが口を開く。

「キラーコマンドって、子供の盗賊団なの!?」
 
 ティナは、哀れんだ表情で呟く。

「・・・そんな」

 ジカイラは、歪んだ笑みを浮かべて呟く。

「ガキ共が、粋がりやがって。・・・麻薬組織をナメ過ぎだぞ」







 ミランダ率いるキラーコマンド達は、商店街の屋根伝いに走ってジカイラ達から逃げていた。

 途中で別れた、路地裏を荷車を押しているヒロ、マギー、クリスの三人と合流するためでもあった。

 キラーコマンドの一人が口を開く。

「ミランダ! 二人、追って来る!!」

 ミランダは振り返り、ケニーとルナの二人が、屋根伝いに自分たちを追って来る事を確認する。

「クッ!! みんな、先にヒロ達と合流しな!!」

 そう言うとミランダは、ショートソードを抜いて、追って来るケニーに斬り掛かる。

 ケニーは、両手で二本のショートソードを抜いて、屋根の上でミランダを斬り結ぶ。





 下弦の月夜の元、商店街の屋根の上で甲高い金属音を上げながら、ケニーとミランダは剣戟を繰り返す。

 基本職であるスカウト初心者のミランダと、上級職である忍者ニンジャのケニーとでは、圧倒的に力量差がある。

 ケニーが本気を出そうと剣の構えを変えたとき、ルナがケニーの近くまで駆け寄って叫ぶ。

「ダメ!! ケニーたん!! その子は、ミランダ! 彼らは孤児院の子達よ!!」

 ルナの声にケニーは、驚いて相手の顔を見る。

 銀仮面越しにミランダの荒んだ目とケニーの真摯な目が合う。

 ミランダもルナの声でケニー達に気が付く。

「お前達は、昼間の!?」

 ケニーは、ミランダと剣を交えて剣戟を繰り返しながら、話し掛ける。

「ミランダ! 僕達は敵じゃない! 話を聞いてくれ!!」

「うるさい!!」

「孤児院も、院長先生も、シンジケートも、僕達が何とかする!! 信じてくれ!!」

「関係無い! お節介なんだよ!!」

 ルナは、ケニーとミランダを挟む位置に回り込み、剣を構える。

 ルナの位置取りを見たケニーは、本気を出す。

 ケニーは、右手のショートソードの柄、十手のように湾曲した部分でミランダの剣を絡め取ると、身を翻して左手のショートソードの剣先をミランダの喉元に突き付ける。

「うっ!?」

 ルナとケニーに挟まれ、喉元に剣先を突き付けられたミランダは、動きを止める。

 ミランダは、観念して剣を屋根の上に捨てると、口を開く。

「好きにしな。・・・何者なんだ? お前達は??」

 ケニーは、両手の剣を鞘に収めると、ミランダに話し掛ける。

「明日の昼、キラーコマンドのみんなで宿屋の食堂に来て欲しい。そこで話そう」

 ミランダは、諦めたように答える。

「判った。・・・ただし、説教なら聞かないよ!」

 そう言うと、ミランダは、二人の元から走り去って行った。







 キラーコマンドの三人、ヒロ、クリス、マギーの三人は、深夜の貧民街の通りで荷車を押して居た。

 ヒロとクリスが荷車を動かして貧民街の通りを進み、マギーは荷車の上で金貨の入った箱を開け、小袋に金貨を少し入れると、貧民街の家々に金貨の入った小袋を投げ込んでいく。 

 金貨を配る三人の元に他のキラーコマンドのメンバー達が駆け寄ってくる。

 ヒロが口を開く。

「今日も上手くいったな。・・・ミランダは?」

 ロブが答える。

「新手の二人が屋根の上まで追い掛けて来て、ケツ持ちに」

「そうか。ま、ミランダなら大丈夫だろう」

 金貨を配り終えたマギーがヒロに話し掛ける。

「ヒロ、配り終わったわ。残りはこれだけ」

 僅かな金貨がキラーコマンド達の手元に残っていた。

 ヒロが答える。

「残りは、銅貨に両替してから院長先生に「寄付だ」と言って渡すんだぞ。金貨のまま、渡したらダメだからな」

「判ってるわ」

 そう答えたマギーは、荷車の上で下弦の月を見上げながら、ヒロに話し掛ける。

「ねぇ、ヒロ。・・・私達、いつまで、こんな事続けるの?」

 ヒロは、苦しそうにマギーに答える。

「・・・判らない。こんな暮らしから、抜け出せるようになるまでさ!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...