上 下
27 / 64
第ニ章 中核都市エンクホイゼン

第二十七話 中核都市エンクホイゼン

しおりを挟む
 --翌日。

 ジカイラ達は、宿屋を後にしデン・ヘルダーから、次の中核都市エンクホイゼンを目指して出発した。

 デン・ヘルダーの城門を出て、北西街道を北へ進む。

 中核都市エンクホイゼンは、デン・ヘルダーから北西街道を進み、二日程の距離にある川の三角州に築かれた港街であった。

 昼近くには、周囲の風景が湿地から草原に変わる。

 ジカイラ達は、北西街道沿いの木立で幌馬車を止め、小川が流れる見晴らしの良い草原で昼食を取る。

 野戦炊飯車でティナとヒナが食事を作り、一行は、細やかな食事を取る。

 ティナとヒナが食事の後片付けをして小川で食器を洗い、ケニーとルナは剣術の稽古を始める。

 昼食を取ったジカイラは、木立の日陰で横になり、他のメンバー様子を眺める。

(・・・穏やかで平和な日常そのものだ)

 後片付けを終えたヒナが、ジカイラの元にやって来る。

「寝てる?」

「・・・いや、起きてるよ」

「頭を上げて。・・・こう」

 ヒナがジカイラの頭を自分の膝の上に置く。

 ジカイラがヒナに尋ねる。

「どうしたんだ? 急に?」

「クランの救出といい、秘密警察の事といい、ジカさん、色々と疲れているでしょ?」

「まぁな」

 ジカイラは、一言だけそう答えると、目を閉じる。

 柔らかいヒナの膝枕と、心地良い木立の日陰が、ジカイラを眠りに誘う。 

 ヒナは、眠りに就いたジカイラの頭を優しく撫でる。

(貴方の中にだけ、私の居場所があるのかも知れない)

 




 小一時間の食休みの後、ジカイラ達は、再び北西街道をエンクホイゼンを目指して進む。

 徒歩で北西街道をエンクホイゼンへ向けて進む傭兵団を、幌馬車で追い越す。

 デン・ヘルダーには帝国軍が進駐し、帝国軍から退去勧告を受け、傭兵団はデン・ヘルダーの街から姿を消した。

 傭兵団を追って、娼婦達も街から姿を消していった。




 ジカイラ達は、北西街道で二泊、野営して北西街道を進み、昼に中核都市エンクホイゼンに到着する。

 エンクホイゼンは、川の三角州に築かれた港街であり、街の周囲は城壁で囲まれ、入り口は街の南北に跳ね橋が設置されていた。

 ジカイラ達は、偽の身分証を提示して城門を通過し、街の宿屋に宿を取る。

 宿屋は、よくある作りで、一階は食堂 兼 酒場。二階より上の階が宿になっていた。

 ヒナ達は昼食を取り、ジカイラは、例の如く宿屋一階の酒場のマスターに一杯奢り、話を聞く。

 酒場のマスターがジカイラに礼を言う。

「ありがとよ」

「景気の良い話はあるかい?」

「最近、ここいらの港街は、どこも不景気だよ。取り扱いの荷は減っているから」

 ジカイラは、デン・ヘルダーの話をマスターに振ってみる。

「そうか。デン・ヘルダーには、百万人の帝国軍が進駐してきたらしい」

 ジカイラの話にマスターは驚く。

「ひゃ、百万人だって!? 帝国軍がデン・ヘルダーを制圧したって話は聞いたが、そんな凄い大軍だったとは。新皇帝は、港湾自治都市群を潰すつもりなのかねぇ」

 ジカイラはトボける。

「さぁねぇ・・・」

「タダでさえ、このエンクホイゼンじゃ、『シンジケート』と『キラーコマンド』でドンパチやっているのに、更に帝国軍が来たんじゃ、戦争になりそうだなぁ・・・」

 ジカイラは、聞き慣れないマスターの言葉を問い質す。

「『シンジケート』?」

 マスターが説明する。

「知らないのかい? 『ジェファーソン・シンジケート』さ。ここいら一帯で麻薬取引を取り仕切っている無政府主義の麻薬組織さ」

「それで。『キラーコマンド』ってのは?」

「麻薬商人ばかりを狙って襲う盗賊団さ」

「それはまた、随分と面白そうな事になっているんだな。この街の領主はどうしているんだ?」

「領主は、見て見ない振りさ。シンジケートを取り締まったら報復される。けど、キラーコマンドを取り締まって市民の反感も買いたくないってところだ」

「なるほどなぁ・・・」

 ジカイラはマスターとの話を切り上げ、ヒナ達が昼食を食べている席に戻る。





 ヒナがジカイラに尋ねる。

「何か面白い話は聞けた?」

「ああ。随分と面白そうな事になっているみたいだ」

 ティナがジカイラに尋ねる。

「面白い事?」

「ああ」

 ジカイラは先程、酒場のマスターから聞き出した話を、ヒナ達に説明する。

 ヒナが口を開く。

「この街って、麻薬組織と盗賊団で抗争中なの!?」

「そうらしい」

 ティナが尋ねる。

「それで。ジカさん、どうするの?」

「まずは、情報収集だ。街の地理や様子を探る。シンジケートやキラーコマンドの情報も集めないとな」

 ティナは納得したように答える。

「そうね」

 ジカイラが他のメンバーに指示を出す。

「昼食が終わったら、二手に分かれて街の探索に出よう。オレとヒナ、ティナの班とケニーとルナの班だ。ただし、街の探索は日没までだ。まだ、この街の地理には疎いからな」

「「了解」」

  



 ジカイラ達は二手に分かれて街を探索する。

 ジカイラ、ヒナ、ケニーは、港や倉庫街へ向かい、ケニーとルナは、市庁舎や商店街へ向かう。

 港についたジカイラ達は、港や倉庫街の様子を観察する。

(デン・ヘルダーとあまり変わらないな)

 エンクホイゼンは、三角州に築かれた街であるため、街そのものが三角形であり、海に面した一帯は石積みの岸壁になっていた。

 岸壁には大型の船舶が接岸停泊し、船舶への荷揚げや荷降ろしが行われ、船員や乗客が乗り降りしていた。

 ヒナは、以前、デン・ヘルダーの港街を見ていたが、ティナは、辺境の港街を初めて目にしたため、楽しそうに、はしゃいでいた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

処理中です...