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プロローグ
第一話 旅立ち
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海の見える小高い丘の上に、何本かの海賊剣が立ててある。
それは、海賊達の墓。
人知れず作られたであろう墓は、普段は誰も近寄ることが無い。
しかし、今日は違っていた。
墓の前に立つ者がいる。
黒衣の剣士とローブの女。
黒衣の剣士は東洋系の顔立ちで屈強な肉体の持ち主であった。
ローブの女も同じ東洋系の、黒目黒髪の整った顔立ちの美人で、髪をポニーテールに結っている。
心地好い潮風に吹かれながら、黒衣の剣士は屈んで墓に花を手向ける。
黒衣の剣士は、鼻で墓を指して傍らのローブの女に話し掛ける。
「タケチヨ、リバーフィールド、ハルベルト。皆、先に逝っちまった海賊仲間さ」
彼の言葉を聞いたローブの女が黒衣の剣士に寄り添う。
黒衣の剣士は、ローブの女を傍らに抱くと、墓に向かって話を続ける。
「タケさん。『剣の主』は、見つけた。掛け替えのないオレの友人さ。そいつの頼みで、一仕事してくる。そこから見守っていてくれ」
そして、彼は一度だけ、振り返った。
「じゃあな」
黒衣の剣士とローブの女は墓を後にする。
ローブの女が話し掛ける。
「何処に行くの?」
「皇宮さ。行く前にあいつに挨拶してくる。待ち合わせしているからな」
黒衣の剣士の名は、ジカイラ。上級職である暗黒騎士。
捨て子で産着に書かれた東洋文字から「ジカイラ」と命名された。
従って「家名」は無い。
暗黒街育ちで海賊の一員として暴れまわっていたところを逮捕されたが、年少のため極刑は免れたものの、凶悪犯専用の特等刑務所に収監されていた。
しかし、逮捕される際に死んだ仲間との約束から模範囚となって過ごしたため、特等刑務所「凶悪犯再教育プログラム」によって革命軍士官学校へ入学、卒業。
その後、様々な冒険と戦場を経て、帝国軍へ移籍。
帝国軍に移ってから皇帝ラインハルト達と共に革命政府を倒し、『帝国の英雄』の一人として現在に至っている。
バレンシュテット帝国皇帝ラインハルトとは、士官学校の同期生で同じ小隊に所属し、幾多の戦場と冒険を切り抜けた戦友であり、親友である。
ローブの女の名は、ヒナ・オブストラクト。上級職である首席魔導師。
兄弟が役所勤めであるため役所への就職試験を受けたが失敗。両親と喧嘩して士官学校へ入学、卒業。
ジカイラとは、士官学校の同期生で同じ小隊に所属。
ラインハルトに憧れていたが、ラインハルトはナナイと恋仲となったため諦めて、現在はジカイラと恋人同士であった。
-----
--皇宮 皇帝の私室
侍従がジカイラとヒナの二人を皇帝の私室へ案内する。
侍従はドアをノックして告げる。
「陛下。ご友人の方々がお目見えになりました」
「通せ」
ラインハルトの言葉によって侍従がドアを開け、一礼して二人を私室へ通す。
私室には、皇帝のラインハルト、その義妹のティナ、同じ小隊に所属した戦友のケニー、そして『帝国四魔将』の一人である不死王のエリシス・クロフォード伯爵と、その副官で真祖吸血鬼のリリー・マルレー、獣人三世のメイドのルナが居た。
ジカイラが口を開く。
「待たせたな」
ラインハルトが答える。
「構わない」
ヒナが疑問を口にする。
「・・・ナナイは?」
ナナイ・ルードシュタット。バレンシュテット帝国最大最高位の大貴族ルードシュタット侯爵家の令嬢で、小隊の副長を努めたラインハルトの副官であった。現在は皇妃としてラインハルトの妻である。
ラインハルトが苦笑いしながら答える。
「ナナイは息子とお昼寝中さ。寝かせておいてやってくれ」
「そうなんだ」
テラスの近くにある円卓の椅子に腰掛けるエリシスがジカイラ達に話し掛ける。
「お久しぶりね。陛下の戴冠式結婚式、以来かしら?」
「そうなります。お久しぶりです。伯爵」
ジカイラは珍しく畏まって挨拶した。
エリシスは、真紅のイブニングドレスを着ており、髪はウェーブの掛かった赤毛で、肌は透き通るように白い妖艶な美女であった。
その副官のリリーも、紫のイブニングドレスを着た、綺麗な銀髪を結い上げている理知的な美女であった。
ジカイラは、この七百年以上生きている不老不死の不死者の美女二人に対して、本能的に「底知れぬ恐ろしさ」を感じていた。
ジカイラ自身は経験を積み、二回の転職を経て上級職の暗黒騎士になり、同じ上級職である上級騎士のラインハルトと並んで戦えるようにまでなってはいた。
(・・・オレがこの二人のうちの、どちらか一人と戦っても、全く勝てる気がしない)
ジカイラはそう考えていた。
ラインハルトがジカイラ達に話し掛ける。
「いよいよ港湾自治都市群に行くのか?」
「ああ。サクッと探索してくる」
話を聞いていたエリシスが話に混ざってくる。
「あら? 北西部の港町に行くの?」
ジカイラが答える。
「そうです」
「なら、この娘も連れて行ってくれる?」
エリシスは自分の傍らに立つメイドのルナの背中を押す。
「え? 私も行くんですか!?」
ルナが驚いて答える。
エリシスは上機嫌で微笑みながらルナに話す。
「帝室の地下墳墓に居る私の代わりに北西部の港町を見てきて頂戴。そして見たこと、聞いたことを毎月、手紙に書いて私に教えてくれる?」
「判りました」
そう言うと、ルナはくるっと、ジカイラ達四人の方を向くと、頭を下げる。
「・・・ということで、同行させて頂くことになりました。メイドのルナです。よろしくお願い致します」
ジカイラは内心、「おいおい、遊びに行くんじゃないんだぞ!?」とは思いつつも、帝国四魔将の一人のエリシスからの頼みでは、無下に断る訳にもいかなかった。
ジカイラが答える。
「・・・判った。ただ、旅行じゃあない。探索任務だ。指示には従ってくれよ」
ルナは獣耳と尻尾を動かしながら笑顔で答える。
「大丈夫です」
ケニーが周囲に話す。
「旅の仲間が四人から五人になったね」
ティナも口を開く。
「そうね。仲間は多いほうが楽しいし、一緒に行きましょう!」
ヒナがジカイラに耳打ちしながら不安を口にする。
「・・・大丈夫かしら?」
ジカイラが諦めたように答える。
「・・・まぁ、何とかなるだろ」
ジカイラがラインハルトに告げる。
「じゃ、行ってくるわ」
「頼んだぞ」
ラインハルトは、皇帝の私室から旅路に向かう五人を見送る。
こうして暗黒騎士のジカイラ、首席魔導師のヒナ、首席僧侶のティナ、忍者のケニー、メイドのルナ、五人の探索の旅が始まった。
それは、海賊達の墓。
人知れず作られたであろう墓は、普段は誰も近寄ることが無い。
しかし、今日は違っていた。
墓の前に立つ者がいる。
黒衣の剣士とローブの女。
黒衣の剣士は東洋系の顔立ちで屈強な肉体の持ち主であった。
ローブの女も同じ東洋系の、黒目黒髪の整った顔立ちの美人で、髪をポニーテールに結っている。
心地好い潮風に吹かれながら、黒衣の剣士は屈んで墓に花を手向ける。
黒衣の剣士は、鼻で墓を指して傍らのローブの女に話し掛ける。
「タケチヨ、リバーフィールド、ハルベルト。皆、先に逝っちまった海賊仲間さ」
彼の言葉を聞いたローブの女が黒衣の剣士に寄り添う。
黒衣の剣士は、ローブの女を傍らに抱くと、墓に向かって話を続ける。
「タケさん。『剣の主』は、見つけた。掛け替えのないオレの友人さ。そいつの頼みで、一仕事してくる。そこから見守っていてくれ」
そして、彼は一度だけ、振り返った。
「じゃあな」
黒衣の剣士とローブの女は墓を後にする。
ローブの女が話し掛ける。
「何処に行くの?」
「皇宮さ。行く前にあいつに挨拶してくる。待ち合わせしているからな」
黒衣の剣士の名は、ジカイラ。上級職である暗黒騎士。
捨て子で産着に書かれた東洋文字から「ジカイラ」と命名された。
従って「家名」は無い。
暗黒街育ちで海賊の一員として暴れまわっていたところを逮捕されたが、年少のため極刑は免れたものの、凶悪犯専用の特等刑務所に収監されていた。
しかし、逮捕される際に死んだ仲間との約束から模範囚となって過ごしたため、特等刑務所「凶悪犯再教育プログラム」によって革命軍士官学校へ入学、卒業。
その後、様々な冒険と戦場を経て、帝国軍へ移籍。
帝国軍に移ってから皇帝ラインハルト達と共に革命政府を倒し、『帝国の英雄』の一人として現在に至っている。
バレンシュテット帝国皇帝ラインハルトとは、士官学校の同期生で同じ小隊に所属し、幾多の戦場と冒険を切り抜けた戦友であり、親友である。
ローブの女の名は、ヒナ・オブストラクト。上級職である首席魔導師。
兄弟が役所勤めであるため役所への就職試験を受けたが失敗。両親と喧嘩して士官学校へ入学、卒業。
ジカイラとは、士官学校の同期生で同じ小隊に所属。
ラインハルトに憧れていたが、ラインハルトはナナイと恋仲となったため諦めて、現在はジカイラと恋人同士であった。
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--皇宮 皇帝の私室
侍従がジカイラとヒナの二人を皇帝の私室へ案内する。
侍従はドアをノックして告げる。
「陛下。ご友人の方々がお目見えになりました」
「通せ」
ラインハルトの言葉によって侍従がドアを開け、一礼して二人を私室へ通す。
私室には、皇帝のラインハルト、その義妹のティナ、同じ小隊に所属した戦友のケニー、そして『帝国四魔将』の一人である不死王のエリシス・クロフォード伯爵と、その副官で真祖吸血鬼のリリー・マルレー、獣人三世のメイドのルナが居た。
ジカイラが口を開く。
「待たせたな」
ラインハルトが答える。
「構わない」
ヒナが疑問を口にする。
「・・・ナナイは?」
ナナイ・ルードシュタット。バレンシュテット帝国最大最高位の大貴族ルードシュタット侯爵家の令嬢で、小隊の副長を努めたラインハルトの副官であった。現在は皇妃としてラインハルトの妻である。
ラインハルトが苦笑いしながら答える。
「ナナイは息子とお昼寝中さ。寝かせておいてやってくれ」
「そうなんだ」
テラスの近くにある円卓の椅子に腰掛けるエリシスがジカイラ達に話し掛ける。
「お久しぶりね。陛下の戴冠式結婚式、以来かしら?」
「そうなります。お久しぶりです。伯爵」
ジカイラは珍しく畏まって挨拶した。
エリシスは、真紅のイブニングドレスを着ており、髪はウェーブの掛かった赤毛で、肌は透き通るように白い妖艶な美女であった。
その副官のリリーも、紫のイブニングドレスを着た、綺麗な銀髪を結い上げている理知的な美女であった。
ジカイラは、この七百年以上生きている不老不死の不死者の美女二人に対して、本能的に「底知れぬ恐ろしさ」を感じていた。
ジカイラ自身は経験を積み、二回の転職を経て上級職の暗黒騎士になり、同じ上級職である上級騎士のラインハルトと並んで戦えるようにまでなってはいた。
(・・・オレがこの二人のうちの、どちらか一人と戦っても、全く勝てる気がしない)
ジカイラはそう考えていた。
ラインハルトがジカイラ達に話し掛ける。
「いよいよ港湾自治都市群に行くのか?」
「ああ。サクッと探索してくる」
話を聞いていたエリシスが話に混ざってくる。
「あら? 北西部の港町に行くの?」
ジカイラが答える。
「そうです」
「なら、この娘も連れて行ってくれる?」
エリシスは自分の傍らに立つメイドのルナの背中を押す。
「え? 私も行くんですか!?」
ルナが驚いて答える。
エリシスは上機嫌で微笑みながらルナに話す。
「帝室の地下墳墓に居る私の代わりに北西部の港町を見てきて頂戴。そして見たこと、聞いたことを毎月、手紙に書いて私に教えてくれる?」
「判りました」
そう言うと、ルナはくるっと、ジカイラ達四人の方を向くと、頭を下げる。
「・・・ということで、同行させて頂くことになりました。メイドのルナです。よろしくお願い致します」
ジカイラは内心、「おいおい、遊びに行くんじゃないんだぞ!?」とは思いつつも、帝国四魔将の一人のエリシスからの頼みでは、無下に断る訳にもいかなかった。
ジカイラが答える。
「・・・判った。ただ、旅行じゃあない。探索任務だ。指示には従ってくれよ」
ルナは獣耳と尻尾を動かしながら笑顔で答える。
「大丈夫です」
ケニーが周囲に話す。
「旅の仲間が四人から五人になったね」
ティナも口を開く。
「そうね。仲間は多いほうが楽しいし、一緒に行きましょう!」
ヒナがジカイラに耳打ちしながら不安を口にする。
「・・・大丈夫かしら?」
ジカイラが諦めたように答える。
「・・・まぁ、何とかなるだろ」
ジカイラがラインハルトに告げる。
「じゃ、行ってくるわ」
「頼んだぞ」
ラインハルトは、皇帝の私室から旅路に向かう五人を見送る。
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