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第二章 士官学校

第十二話 ユニコーン小隊vsバジリスク小隊(前編)

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--昼下がり。

 昼食後、寮の食堂でユニコーン小隊の面々が談笑していると軍監が寮を訪れハリッシュが応対した。
 
 軍監は軍事教練「模擬近接個人戦」の対戦相手を伝えると、参加する四人を決めておくようにハリッシュと話すと帰っていった。

 <模擬近接戦>
 それは小隊対抗で行われる試合形式の1vs1の近接個人戦闘訓練であった。 

 ユニコーン小隊の参謀役であるハリッシュが口を開く。

「対戦相手は『バシリスク小隊』とのことです」

 ハリッシュの言葉にジカイラが驚く。

「『バジリスク小隊』って、あのオカッパ頭たちかよ!?」

 ハリッシュが中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後で答える。

「そうです。『キャスパー男爵と愉快な仲間たち』といったところですかね」

 ハリッシュの答えに、その場に居た全員が驚く。

「ええっ!? あの『鼻血ブー男爵』たちと近接個人戦やるの??」

 ティナの声にラインハルトは鼻で笑って答える。

「アイツらか」

 キャスパー男爵のバジリスク小隊は前衛四人、後衛四人という編成で、前衛四人は全員、従騎士スクワイアであった。

 ユニコーン小隊の小隊長であるラインハルトには絶対の勝算と自信があった。

 入学当初ならともかく、入学式での職業確定によってユニコーン小隊はラインハルトとナナイが上級職であり、バジリスク小隊は全員が基本職であった。

 また、授業と教練の他に自主訓練までやって経験を重ねたユニコーン小隊と、遊び呆けていたバジリスク小隊の彼我ひがの戦力差に確信を持っていた。

 ハリッシュが続ける。
 
「近接個人戦を行う四人を決めねばなりませんね。しかし、ウチは前衛職が上級騎士パラディンのラインハルト、聖騎士クルセイダーのナナイ、戦士ウォーリアーのジカイラの三人しかいません。あと一人、誰が出るのかを決める必要があります」

「僕が出るよ!」

 そう発言したのはケニーだった。 

「おおっ!  いいぞ、ケニー!!  男ってのはなぁ、やらなきゃならない時があるんだよ!!」

 意気に感じたジカイラがケニーを褒めあげる。

「私も戦うわ!」
 
 クリシュナも名乗りを上げる。

「クリシュナ。ここはケニーの顔を立ててあげましょう。セクハラ好きな彼らの事です。女性の貴女が出ると、キャスパー男爵たちの思う壺です。近接個人戦にかこつけて、どんなセクハラをしてくるか分かりません」

 ハリッシュの言葉にクリシュナは大人しく引き下がった。

「まるで私が女じゃないみたいね」

 ナナイが腕を組み不満げにつぶやいたが、ハリッシュは冷静に返した。

「貴女は別格ですよ。ナナイ。聖騎士クルセイダーの貴女に勝てるとすれば、上級騎士パラディンのラインハルトしかいないでしょう」

「あのオカッパ頭たちに補給処での借りを返さないとな!! 叩きのめしてやる!!」

 ジカイラが意気込み、気勢を上げた。

-----

--模擬近接個人戦当日

 ラインハルト達ユニコーン小隊が会場に入ると、既にバジリスク小隊が会場にいた。 また、周囲には大勢の士官学校の学生が見物に来ていた。

「すげぇな。全校生徒がいるんじゃないの?」

 ジカイラの感想にハリッシュが答えた。

「『因縁の対決』というか、平民対貴族のカードですからね。色んな意味で注目を集めているようです」

 対戦は教官が審判員を努める。また、実戦形式で行うため、決定的な寸止めで勝負は決まるが、死なない程度に斬りつけても問題無かった。

 会場の中央で両小隊が対峙する。

 キャスパー男爵が口を開く。

「今日こそ『目上の者に対する礼儀』というものを教えてやる!」

 ティナがヤジを飛ばす。

「何よ!鼻血ブーだったクセに!!」

「なんだと!」

 ティナの前に出てきたキャスパー男爵の前にジカイラが立ち塞がる。

「お前ら、剣も衣装も四人で御揃いって、演劇でやってる『ナンとか戦隊』の真似かよ? 四人で合体ポーズとか決めてくれるのか?」

「ほざけ!  賤民せんみんが!!」

 ジカイラとキャスパー男爵が睨み合う。

 しかし、ラインハルトのかたわらにいるナナイを見つけるとキャスパー男爵の態度が一変する。

「これはこれは。ルードシュタット侯爵令嬢。相変わらず、お美しい」

 そう言うとナナイに向けてうやうやしく一礼した。

 ナナイは、このネズミのような小男が大嫌いであった。容姿や言葉、仕草など全てに生理的嫌悪感を感じる。

 ナナイはキャスパー男爵を『完全に無視』すると、大げさにラインハルトと腕を組み、顔を見上げて微笑み掛けた。

 キャスパー男爵は、無視された怒りと屈辱で、そのままの姿勢で固まってプルプル震えていた。

 ハルフォード子爵が気不味そうにキャスパー男爵に声を掛ける。

「キャスパー男爵。どう見ても、脈は無さげですぜ?  いい加減、あの女は諦めては?」

「うるさい!!」

 キャスパー男爵は甲高い怒声を上げた。

 キャスパー男爵に怒られたハルフォード子爵がナナイに近寄る。

「お高く止まりやがって。ひん剥いてやる」

 ナナイはハルフォード子爵を一瞥いちべつしただけで、挑発には乗らなかった。

 教官の声が響く。

「それでは対戦を始める! 両小隊はそれぞれ控え席に着くように!」

 教官からの指示にユニコーン、バジリスクの両小隊は会場の端にある控え席に着いた。

「一番手! 前へ!」

 教官の指示にケニーが立ち上がった。

「一番手は僕が行くよ」

 ラインハルトとジカイラにそう告げると、ケニーは歩みだした。

 ユニコーン小隊のケニーとバジリスク小隊のポロリ子爵が、会場の中央の教官の前で対峙する。

「礼!」

 教官の声にポロリ子爵が胸の前に剣を垂直に立てて掲げ、名乗りを上げ一礼する。

「帝国貴族ポロリ・ポロポロ子爵」

 ケニーも左右の手、それぞれに持つショートソード二本を揃えて胸の前に垂直に掲げ、名乗りを上げ一礼する。

「ケニー・ジョンブル」

「では、第一回戦! 始め!!」

 教官の声を合図に斬り合いが始まる。

「チッ! オレの相手はスカウトかよ!!」

 ポロリ子爵が不満を漏らした。

 試合の様子をジカイラが講評し始めた。

「ラインハルト。気が付いたか? ケニーのショートソード」

「ああ」

 ケニーの使うショートソードは、二本とも鍔(つば)の部分が通常のものと違い、片方が『十手じゅって』のように湾曲していた。一方、ポロリ子爵は、通常のブロードソード(幅広の直剣)を使用していた。

 ブロードソードのほうがショートソードより長い分、間合いが長く取れるため、剣撃の度にポロリ子爵がジリジリとケニーを押していた。

 ケニーはショートソードで剣撃を受けながらジリジリと後退し、ポロリ子爵との間合いを詰めるタイミングを図る。



(今だ!!)

 ケニーは二本のショートソードでポロリ子爵の剣撃を受け止めると、手首を返して十手じゅってのようなつばで相手の剣を絡め取った。

「うおっ!?」

 ポロリ子爵が怯むと、ケニーは相手の剣を下に押し下げ、身を乗り出して相手との間合いを一気に詰める。

(僕の間合い! いける!!)

 ケニーは身をひるがえすと、逆手に持ったショートソードを相手の喉元に寸止めで突き付けた。

「勝負あり! 勝者ケニー!!」

 教官の判定が下った。

 会場の周囲の観客から歓声が沸き起こる。

「クソッ!!」

 ポロリ子爵は、スカウトのケニーに負けたことがショックなようであった。

 ケニーは試合があった会場中央から意気揚々とユニコーン小隊の控え席に帰ってきた。

「ケニー、やるじゃないか!!」

「ケニーたん、カッコ良かったよ!」

 ジカイラやヒナ達から称賛され、ケニーは照れ臭そうにしていた。

 


「二番手! 前へ!」

 教官の声が響く。

「よし。行ってくる」

 ラインハルトが立ち上がった。

「おいおい。もうお前が出るのかよ?」

 ジカイラの声にラインハルトが返す。

「一撃で決めてくる」

 そう言うとラインハルトは教官の前へ歩いていった。



 ユニコーン小隊のラインハルトとバジリスク小隊のラング子爵が、会場の中央の教官の前で対峙する。

「礼!」

 教官の声にラング子爵が胸の前に剣を垂直に立てて掲げ、名乗りを上げ一礼する。

「帝国貴族ラング・アクセプト子爵」

 ラインハルトも愛用のサーベルを胸の前に垂直に掲げ、名乗りを上げ一礼する。

「ラインハルト・ヘーゲル」

「では、第二回戦! 始め!!」

 教官の声の後、ラング子爵がラインハルトに斬り掛かる。

 ラインハルトはサーベルでラング子爵の剣を受け流し、返す刀で一気に間合いを詰めてサーベルの切っ先をラング子爵の顎先あごさきに突き付けた。

 一瞬の出来事であった。

 ラング子爵には何が起こったのか、分からなかった。

 最初の一撃を振り下ろしたら、勝敗が決した。

 彼の目の前にある、ラインハルトのアイスブルーの瞳がラング子爵を睨みつける。

「あ・・・ああ」

 ラング子爵は立ちすくんでいた。

「勝負あり! 勝者ラインハルト!!」

 会場の周囲にいる観客が感嘆の声を上げた。

 教官の声にキャスパー男爵が騒ぎ立てる。

「おい!! 今のは何だ!? 一体、何の技だ!?」

 ラインハルトはサーベルをさやにしまうと、未だに立ちすくんでいるラング子爵の肩をポンポンと叩き、ユニコーン小隊の控え席に戻ってきた。

 ラインハルトが控え席に戻るとジカイラが感嘆の声を上げた。

「本当に一撃で決めるとはな!」

「そう言っただろ?」

 ティナが喝采を上げる。

「お兄ちゃん!  スゴい!! 」

 ラインハルトは笑顔で手をかざしてティナの喝采に答えた。
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