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北方動乱

第七十六話 それぞれの事情

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 皇宮に戻ったアレク達に、侍従がジカイラからの手紙を手渡す。

 アレクは手紙を受け取ると、羊皮紙に綴られたジカイラからの手紙に目を通す。

 手紙には、翌朝、エリシス伯爵が迎えに来てジカイラ達とアレク達は飛行空母ユニコーン・ゼロに帰還する事。ジカイラとヒナは、今夜は皇宮近くの官舎(自宅)に戻る事。アレク達は、このまま皇宮に一泊するように手配した事などが綴られていた。

 アレクがジカイラからの手紙の内容を小隊の仲間達に伝えると、エルザとナディアは「世界一豪華な宮殿に宿泊できる」と大喜びした反面、トゥルムとドミトリーは、「ここは豪華過ぎて落ち着かない」と落胆していた。

 侍従が二人一組で宿泊できるようにそれぞれ貴賓室を用意しており、アレク達を案内する。

 宿泊する部屋割りは、飛行空母に居た時と同じであった。






 用意された貴賓室に入ったアレクは、椅子に腰掛けると苦笑いしながらルイーゼに呟く。

「自分の実家に『来客』で泊まるなんて、何か妙な感じがするよ」

 アレクの言葉にルイーゼは、寂しげな笑顔を浮かべて答える。

 ルイーゼの顔を見て、アレクはハッと気付く。

「・・・ごめん。ルイーゼ」

 準貴族とは名ばかりの貧しい騎士爵家の娘であるルイーゼは、口減らしのため実家から皇宮に出されていた。

 実家のあるアレクと違い、ルイーゼには帰ることが出来る実家など無かった。

「いいの。気にしないで」

 ルイーゼはそう答えると、椅子に座るアレクの傍に来て後ろから抱き付き、耳元で囁く。

「アレクの隣が『私の帰る場所』だから」

「・・・ルイーゼ」

「ずっと一緒よ」

「ああ。一緒さ」

 アレクは振り向くとルイーゼにキスする。

 アレク達は、それぞれ割り当てられた貴賓室で一泊する。





--翌朝。

 アレク達とジカイラ達は、エリシスの転移門ゲートによって、皇宮から飛行空母ユニコーン・ゼロに戻る。

 エリシスの転移門ゲートを通る際に、アレクは一日ぶりにジカイラとヒナの二人と顔を合わせる。

 皇宮で久々に昔の仲間達と会ったというジカイラとヒナは、険しい表情を顔に浮かべていた。

(・・・あのジカイラ大佐とヒナ少佐の二人が、あんな深刻な顔をしているなんて。・・・何か、あったのかな?)

 二人の様子を見たアレクが色々と考え込んでいると、ルイーゼが心配してアレクに声を掛ける。

「アレク、どうしたの? また、考え事??」

「・・・ちょっとね」

 アレクの心配を他所に、ジークから教導大隊に下された命令は『その場で待機』であった。

 アレク達の乗った飛行空母ユニコーン・ゼロは、ブナレス上空で滞空したまま、次の作戦行動に備えていた。






 アレク達は、飛行空母ユニコーン・ゼロで寛いでいたが、ジカイラとヒナは揚陸艇でブナレスへ降下し、市庁舎でゴズフレズのハロルド王とネルトン将軍に面会する。

 ハロルド王とネルトンは、帝国軍がゴズフレズへの武力介入を決めた事をジカイラから伝えられる。

 ネルトンが口を開く。

「陛下。戦乱が終わるのも、もう一息です」

 ハロルド王は、ひじ掛けの付いた椅子に座ったまま、市長室の天井を見上げて呟く。

「・・・我が国が歩んできた長きに渡る苦難の歳月が、ようやく終わりを告げる」

 ジカイラが口を御開く。

「そう言えば、この戦乱が終われば、御息女と皇太子殿下の御婚礼がありましたな」

 一人娘であるカリンの婚礼の話になり、ハロルド王の顔がニヤケて綻ぶ。

「そうだった! この戦乱が終われば、カリンと皇太子殿下の婚礼の儀があったな! その際には、城の食糧庫を開け放ち、国を挙げて祝うとしようぞ! むはははは!!」

 ジカイラによって、帝国軍による武力介入が決定事項としてゴズフレズ側に伝えられ、ハロルド王を始めとするゴズフレズの人々は戦乱の終わりを予感し、戦後に希望を持ち始めていた。



 
--皇宮

 帝国軍総司令官となったジークは、妃達を連れて帝国軍総旗艦ニーベルンゲンに乗艦し、皇宮併設の飛行場からアキックス伯爵領の州都キズナを目指していた。

 カリンは、最近の出来事についてジークにお礼を言おうと思い、ジークの私室に向かって通路を歩いていた。

 帝都を案内してくれたデートの事。

 今回の帝国軍の武力介入で、バレンシュテット帝国がゴズフレズ王国を助けてくれる事。

 何よりも『ジークに会いたい』という想いから、足取りも軽くなる。

 カリンは、ジークの私室の前で立ち止まりドアをノックする。

「ジーク様、カリンです」

 ジークの私室のドアが開かれると、中から出てきたのはソフィアであった。

「あら? カリン王女。ジーク様に御用かしら?」

 カリンにそう告げるソフィアは、全裸で汗ばんだ身体の上にガウンを羽織り、袖だけを通した姿であった。

 下着など着けておらず、燃えているような赤い髪は乱れ、首や鎖骨の周囲に汗で髪が張り付いており、カリンが修道院育ちの処女であっても、ソフィアがジークと睦合った後だという事は容易に想像できた。

 ソフィアの艶姿を見たカリンの顔がみるみる赤くなる。

「こ、これは、とんだご無礼を・・・。あの・・・ソフィア様。閨だとは知らず、申し訳ありませんでした。出直してきます。・・・失礼致します」

 カリンは赤面したまま、ソフィアに深々と頭を下げると、足早に自分の部屋に帰っていった。

 ソフィアは、勝ち誇った笑みを浮かべながら足早に帰るカリンの後ろ姿を見送る。

(フフ。未通女おぼこね)

 ソフィアは、枕を背にベッドで寛ぐジークの元に戻ってくる。

 ジークがソフィアに尋ねる。

「どうした? 来客は??」

 ソフィアは、微笑みながら答える。

「カリン王女でした。・・・出直してくるようです」

「そうか」

 ソフィアは、ベッドで寛ぐジークの胸の上に甘えるように寝そべり、想い人と睦あった余韻に浸る。

「陛下も、ジーク様も。あのがお気に入りなんですね」

 ソフィアからの問いにジークは苦笑いしながら答える。

「ソフィア、妬くなよ?」

 ソフィアは、微笑みながらジークに答える。

「妬きませんよ。あの、まだ未通女おぼこじゃないですか。・・・今の私を見て、赤くなって。・・・ふふふ。可愛い」

 ソフィアから見て、二歳年下のカリンは、皇太子正妃である自分の立場や、産まれてくるであろうジークとソフィアの子の帝位継承の脅威となる存在ではなかった。

 ゴズフレズ王国のハロルド王の一人娘であるカリンは、既にゴズフレズ王家を継ぐことが決まっており、将来はジークとカリンの子がゴズフレズ王家を継ぐためであった。

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