アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅱ) 北方動乱

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北方動乱

第六十九話 カスパニア無敵艦隊 vs スベリエ王国艦隊

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--リベ夜戦から三週間後。

 リベに居るカスパニアの王太子カロカロの元に伝書鳩による報告書が届く。

 カロカロは自分の天幕に入り席に着くと、報告書に目を通す。

 報告書を読むカロカロの口元がニヤける。

「・・・やっと来たか」

 カスパニアが誇る無敵艦隊アルマダが間もなくリベ沖に着くという知らせであった。






 カスパニア無敵艦隊アルマダ

 列強カスパニアが誇るカスパニア・ガレオン船二十隻、ガレアス船十隻を主力とする総勢百五十隻からなる大艦隊である。

 無敵艦隊アルマダと称しているものの、装甲一等戦列艦を多数擁する世界最強の帝国海軍ライヒス・マリーネと争う事が無いように新大陸周辺での活動を避け、専ら南方の外洋で活動していた。

 カスパニア無敵艦隊アルマダは、膠着した戦況を打開するべく、スベリエ王国艦隊を叩き、地上軍の補給を断つためゴズフレズ南部の都市リベの沖へ迫っていた。

 



 同日、昼過ぎ。

 カスパニア無敵艦隊アルマダとスベリエ王国艦隊は、リベ沖で会敵して戦闘を開始する。

 両艦隊とも艦隊を進行方向に向けて一列に並べ、単縦陣に陣形を取る。

 双方の艦隊は、単縦陣で、すれ違いざまに旗艦の一斉射撃を合図として激しい砲撃戦を始める。




 海戦序盤。

 スベリエ艦隊側が海戦で優勢になる。

 三層の甲板全てに多数の砲門を備え、高い砲撃能力を持つスベリエ・ガレオン二十隻の一斉射撃は、船舷の装甲が厚いカスパニア・ガレオンは仕留めきれなかったものの、中型船であるキャラックやキャラベルを撃沈していく。



 海戦中盤。

 リベ沖の風向きが変わり、カスパニア艦隊側が海戦で優勢になる。

 戦場の風向きが変わった事で海戦の戦況が変わってくる。

 外洋での活動経験が豊富で操船術に勝るカスパニア無敵艦隊アルマダが風上を取り、海戦の攻守が逆転し始める。

 劣勢に立たされたスベリエ艦隊側は、王国艦隊の虎の子であるスベリエ・ガレオンにも被弾が増え始める。



 海戦終盤。

 一両日中沖合で艦隊戦を繰り広げた両艦隊は、決定打を欠いたまま、撤退を始める。

 リベ沖海戦の結果として、カスパニア無敵艦隊6;スベリエ王国艦隊4の比率で、カスパニア側の優勢で幕を閉じた。






 カスパニアとスベリエ、双方の首都と前線に海戦結果の報告が送られる。

 帝国軍がリベ沖海戦の結果の情報を掴んだのは、海戦から二日後であった。





--ゴズフレズ王国 中部の都市 ブナレス 市庁舎 会議室  

 帝国軍が掴んだリベ沖海戦の結果について、市庁舎で教導大隊とゴズフレズ軍で軍議が開かれていた。

 報告が書かれた羊皮紙に目を通しながら、ジカイラが口を開く。

「『リベ沖で両国艦隊の海戦が行われるも、双方、決定打を欠く』か・・・」

 ジカイラの呟きを聞いたハロルド王が尋ねる。

「黒い剣士殿は、今後の戦況をどう見るか?」

 ジカイラは、ため息交じりに答える。

「・・・決定打が無い以上、カスパニアとスベリエの両軍とも、このままリベ周辺に居座って越冬するかも知れません」

 ネルトンが驚く。

「両軍とも、このまま越冬すると!?」

 ジカイラが答える。

「カスパニアもスベリエも、『艦隊決戦』という切り札で決着が着かなかった以上、このまま、ずるずると散発的な戦闘を繰り返す消耗戦になるでしょう。両国とも、長大な補給線の負荷で疲弊するでしょうし、何か、きっかけがあれば撤退するのでしょうが・・・」

 ハロルド王が重苦しく呟く。

「列強の両国軍を撤退させる『きっかけ』か・・・」





 会議室で進展の無い軍議が重苦しい空気に包まれる中、伝令が会議室に駆け込んで来る。

「失礼致します。ジカイラ大佐、こちらでしたか」

「どうした?」

 伝令の兵士が口を開く。

「皇帝陛下より勅命です。『御前会議を開催するので帝都へ帰参して欲しい。迎えを行かせる』との事です」

「判った。参集すると伝えてくれ」

「了解しました」

 伝令の兵士はジカイラの返事を聞くと、敬礼して会議室を後にする。

 ジカイラは、右手で軽く拳を握ると顎に当てて考える。

(・・・御前会議!? ラインハルトのやつ、このタイミングを待っていたのか・・・)

 ジカイラの目が軍議に参集しているアレク達に向けられる。

「アレク。お前達も一緒に来い。帝都に行くぞ」

 アレクが答える。

「了解しました」

 ジカイラとアレク達は、市庁舎の会議室を後にし、飛行空母ユニコーン・ゼロに戻る。

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