65 / 89
北方動乱
第六十五話 獅子王の激怒と宣戦布告
しおりを挟む
--婚約発表の翌日。
バレンシュテット帝国皇太子ジークフリートとゴズフレズ王国カリン王女の婚約が決まり、帝国の国内外に向けて大々的に発表される。
その報は、列強であるスベリエ王国の国王の耳にも入り、彼を激怒させた。
『北方の獅子王』と呼ばれる国王フェルディナント・ヨハン・スベリエは、激怒のあまり額に血管を浮かび上がらせながら目を血走らせ、咆哮のような怒声を上げてジークとカリンの婚約を非難する。
「ガァアアアア!! 『帝国の皇太子とゴズフレズの王女が婚約した』だと!? フザケおって! これはゴズフレズの裏切りだ! ハロルドめ! 長年、我がスベリエが保護してやった恩義を仇で返しおって!!」
フェルディナント国王は玉座から立ち上がり、白い獅子の鬣を想起させる銀髪を振り乱しながら、報告に来た伝令の兵士に向かって羊皮紙の報告書を投げつける。
報告書を投げつけられた伝令の兵士は、国王の鬼気迫る迫力に竦み上がる。
フェルディナント国王が大声で廷臣達に命じる。
「かくなる上は、余自ら軍を率いて蹴散らしてくれる! カスパニア王国とバレンシュテット帝国に宣戦を布告しろ!!」
宰相が怒り狂うフェルディナント国王を必死になだめる。
「陛下! なにとぞ、お待ち下さい! 落ち着いて下さい! 如何に我がスベリエ軍が精強なれど、列強のカスパニアと超大国である帝国の両方を同時に相手にするなど、さすがに無謀です!!」
フェルディナント国王は、宰相を睨み付ける。
「怖気づいたか! 貴様ァ!!」
自分を睨み付け、鬼気迫るフェルディナント国王に、宰相は必死に懇願する。
「陛下! なにとぞお聞き入れ下さい! 物事には手順というものがあります!!」
荒ぶる呼吸を整えながらフェルディナントは、宰相を問いただす。
「フー、フー・・・。『手順』だと!?」
自分の話を聞く姿勢に入ったフェルディナント国王に、宰相は必死に自分の案を説明する。
「左様です! まず、ゴズフレズの地からカスパニアを排除し、彼の地を実効支配してから、帝国と交渉するのです! 帝国は、未だ軍勢を動かしておりません!!」
フェルディナント国王は、宰相の提案を考え始める。
「・・・確かに」
宰相は、国王を説得しようと詳しく説明を続ける。
「我が国が最初にやらねばならないのは、まず、列強であるカスパニア王国に対して宣戦布告して、ゴズフレズの地からカスパニア軍を排除することです。ゴズフレズの地は、我が国の目と鼻の先にあり『地の利』は我が方にあります。・・・その後、我が軍の三分の一の兵力しかないゴズフレズ軍を倒して占領し、我が国がゴズフレズを実効支配します。・・・それから帝国と交渉するのです」
血走っていた国王の目が宰相の説明を聞いたことで、統治者の目付きに変わる。
「・・・続けろ」
落ち着きを取り戻した国王に、宰相が続ける。
「彼の皇帝が率いる帝国は、人外の軍勢をも従え、その兵力は百万余と聞き及んでおります。我が国の側から宣戦布告するのは、得策ではありません。・・・仮に帝国との交渉が決裂しても、宣戦布告は帝国側にさせるのです。そうすれば、防衛条約により『北部同盟』の諸国が我が国の味方です。・・・帝国も迂闊に手は出せないでしょう」
フェルディナント国王は、宰相の提案を採用することを決める。
「相分かった! 直ちにカスパニア王国に対し宣戦を布告せよ! ゴズフレズと帝国は、その後だ!!」
宰相は恭しく国王に一礼する。
「畏まりました」
フェルディナント国王が続ける。
「アルムフェルト。飛行艦隊と三万の軍勢を率いて、前線のオクセンシェルナ伯爵と合流しろ。軍の指揮は伯爵に任せるのだ」
王太子であるアルムフェルトも、父であるフェルディナント国王に深々と一礼する。
「畏まりました」
同日、スベリエ王国はカスパニア王国に対して宣戦を布告する。
列強同士の全面戦争の始まりであった。
バレンシュテット帝国皇太子ジークフリートとゴズフレズ王国カリン王女の婚約が決まり、帝国の国内外に向けて大々的に発表される。
その報は、列強であるスベリエ王国の国王の耳にも入り、彼を激怒させた。
『北方の獅子王』と呼ばれる国王フェルディナント・ヨハン・スベリエは、激怒のあまり額に血管を浮かび上がらせながら目を血走らせ、咆哮のような怒声を上げてジークとカリンの婚約を非難する。
「ガァアアアア!! 『帝国の皇太子とゴズフレズの王女が婚約した』だと!? フザケおって! これはゴズフレズの裏切りだ! ハロルドめ! 長年、我がスベリエが保護してやった恩義を仇で返しおって!!」
フェルディナント国王は玉座から立ち上がり、白い獅子の鬣を想起させる銀髪を振り乱しながら、報告に来た伝令の兵士に向かって羊皮紙の報告書を投げつける。
報告書を投げつけられた伝令の兵士は、国王の鬼気迫る迫力に竦み上がる。
フェルディナント国王が大声で廷臣達に命じる。
「かくなる上は、余自ら軍を率いて蹴散らしてくれる! カスパニア王国とバレンシュテット帝国に宣戦を布告しろ!!」
宰相が怒り狂うフェルディナント国王を必死になだめる。
「陛下! なにとぞ、お待ち下さい! 落ち着いて下さい! 如何に我がスベリエ軍が精強なれど、列強のカスパニアと超大国である帝国の両方を同時に相手にするなど、さすがに無謀です!!」
フェルディナント国王は、宰相を睨み付ける。
「怖気づいたか! 貴様ァ!!」
自分を睨み付け、鬼気迫るフェルディナント国王に、宰相は必死に懇願する。
「陛下! なにとぞお聞き入れ下さい! 物事には手順というものがあります!!」
荒ぶる呼吸を整えながらフェルディナントは、宰相を問いただす。
「フー、フー・・・。『手順』だと!?」
自分の話を聞く姿勢に入ったフェルディナント国王に、宰相は必死に自分の案を説明する。
「左様です! まず、ゴズフレズの地からカスパニアを排除し、彼の地を実効支配してから、帝国と交渉するのです! 帝国は、未だ軍勢を動かしておりません!!」
フェルディナント国王は、宰相の提案を考え始める。
「・・・確かに」
宰相は、国王を説得しようと詳しく説明を続ける。
「我が国が最初にやらねばならないのは、まず、列強であるカスパニア王国に対して宣戦布告して、ゴズフレズの地からカスパニア軍を排除することです。ゴズフレズの地は、我が国の目と鼻の先にあり『地の利』は我が方にあります。・・・その後、我が軍の三分の一の兵力しかないゴズフレズ軍を倒して占領し、我が国がゴズフレズを実効支配します。・・・それから帝国と交渉するのです」
血走っていた国王の目が宰相の説明を聞いたことで、統治者の目付きに変わる。
「・・・続けろ」
落ち着きを取り戻した国王に、宰相が続ける。
「彼の皇帝が率いる帝国は、人外の軍勢をも従え、その兵力は百万余と聞き及んでおります。我が国の側から宣戦布告するのは、得策ではありません。・・・仮に帝国との交渉が決裂しても、宣戦布告は帝国側にさせるのです。そうすれば、防衛条約により『北部同盟』の諸国が我が国の味方です。・・・帝国も迂闊に手は出せないでしょう」
フェルディナント国王は、宰相の提案を採用することを決める。
「相分かった! 直ちにカスパニア王国に対し宣戦を布告せよ! ゴズフレズと帝国は、その後だ!!」
宰相は恭しく国王に一礼する。
「畏まりました」
フェルディナント国王が続ける。
「アルムフェルト。飛行艦隊と三万の軍勢を率いて、前線のオクセンシェルナ伯爵と合流しろ。軍の指揮は伯爵に任せるのだ」
王太子であるアルムフェルトも、父であるフェルディナント国王に深々と一礼する。
「畏まりました」
同日、スベリエ王国はカスパニア王国に対して宣戦を布告する。
列強同士の全面戦争の始まりであった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる