アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅱ) 北方動乱

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北方動乱

第六十五話 獅子王の激怒と宣戦布告

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--婚約発表の翌日。

 バレンシュテット帝国皇太子ジークフリートとゴズフレズ王国カリン王女の婚約が決まり、帝国の国内外に向けて大々的に発表される。

 その報は、列強であるスベリエ王国の国王の耳にも入り、彼を激怒させた。

 『北方の獅子王』と呼ばれる国王フェルディナント・ヨハン・スベリエは、激怒のあまり額に血管を浮かび上がらせながら目を血走らせ、咆哮のような怒声を上げてジークとカリンの婚約を非難する。

「ガァアアアア!! 『帝国の皇太子とゴズフレズの王女が婚約した』だと!? フザケおって! これはゴズフレズの裏切りだ! ハロルドめ! 長年、我がスベリエが保護してやった恩義を仇で返しおって!!」

 フェルディナント国王は玉座から立ち上がり、白い獅子のたてがみを想起させる銀髪を振り乱しながら、報告に来た伝令の兵士に向かって羊皮紙の報告書を投げつける。

 報告書を投げつけられた伝令の兵士は、国王の鬼気迫る迫力に竦み上がる。

 フェルディナント国王が大声で廷臣達に命じる。

「かくなる上は、余自ら軍を率いて蹴散らしてくれる! カスパニア王国とバレンシュテット帝国に宣戦を布告しろ!!」 

 宰相が怒り狂うフェルディナント国王を必死になだめる。

「陛下! なにとぞ、お待ち下さい! 落ち着いて下さい! 如何に我がスベリエ軍が精強なれど、列強のカスパニアと超大国である帝国の両方を同時に相手にするなど、さすがに無謀です!!」

 フェルディナント国王は、宰相を睨み付ける。

「怖気づいたか! 貴様ァ!!」

 自分を睨み付け、鬼気迫るフェルディナント国王に、宰相は必死に懇願する。

「陛下! なにとぞお聞き入れ下さい! 物事には手順というものがあります!!」

 荒ぶる呼吸を整えながらフェルディナントは、宰相を問いただす。

「フー、フー・・・。『手順』だと!?」

 自分の話を聞く姿勢に入ったフェルディナント国王に、宰相は必死に自分の案を説明する。

「左様です! まず、ゴズフレズの地からカスパニアを排除し、彼の地を実効支配してから、帝国と交渉するのです! 帝国は、未だ軍勢を動かしておりません!!」

 フェルディナント国王は、宰相の提案を考え始める。

「・・・確かに」

 宰相は、国王を説得しようと詳しく説明を続ける。

「我が国が最初にやらねばならないのは、まず、列強であるカスパニア王国に対して宣戦布告して、ゴズフレズの地からカスパニア軍を排除することです。ゴズフレズの地は、我が国の目と鼻の先にあり『地の利』は我が方にあります。・・・その後、我が軍の三分の一の兵力しかないゴズフレズ軍を倒して占領し、我が国がゴズフレズを実効支配します。・・・それから帝国と交渉するのです」

 血走っていた国王の目が宰相の説明を聞いたことで、統治者の目付きに変わる。

「・・・続けろ」

 落ち着きを取り戻した国王に、宰相が続ける。

「彼の皇帝が率いる帝国は、人外の軍勢をも従え、その兵力は百万余と聞き及んでおります。我が国の側から宣戦布告するのは、得策ではありません。・・・仮に帝国との交渉が決裂しても、宣戦布告は帝国側にさせるのです。そうすれば、防衛条約により『北部同盟』の諸国が我が国の味方です。・・・帝国も迂闊に手は出せないでしょう」

 フェルディナント国王は、宰相の提案を採用することを決める。

「相分かった! 直ちにカスパニア王国に対し宣戦を布告せよ! ゴズフレズと帝国は、その後だ!!」 

 宰相は恭しく国王に一礼する。

「畏まりました」

 フェルディナント国王が続ける。

「アルムフェルト。飛行艦隊と三万の軍勢を率いて、前線のオクセンシェルナ伯爵と合流しろ。軍の指揮は伯爵に任せるのだ」

 王太子であるアルムフェルトも、父であるフェルディナント国王に深々と一礼する。

「畏まりました」






 同日、スベリエ王国はカスパニア王国に対して宣戦を布告する。

 列強同士の全面戦争の始まりであった。
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