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北方動乱

第六十三話 ブナレス進駐

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 星の夜空をアレク達は飛空艇でブナレスへ向かう。

 アレクとルイーゼの二人が乗る飛空艇は、四個小隊による編隊の先頭を飛ぶ。

 飛空艇が飛んでいるのは高い高度ではないが、ゴズフレズの秋の夜空は冷え込み、アレクの吐く息が白くなる。
 
 アレクがルイーゼに指示を出す。

「ルイーゼ、各機に伝達。『最初の目標は市庁舎の制圧。後に各門を押さえろ』」

「了解!」

 ルイーゼは、手旗信号で編隊を組む四個小隊の僚機にアレクからの指示を伝える。

 ルイーゼが尋ねる。

「アレク。ブナレスにカスパニア軍が残って居たら、どうするの?」

 アレクが答える。

「戦うまでさ!!」






 アレク達の目の前にブナレスの都城が見えて来る。

 下弦の月が照らし出す都城は、住宅地区に明かりが灯る以外は静まりかえり、暗闇に包まれていた。

 アレク達の飛空艇が都城の門の上空を越え、月明かりが照らす人通りの無い街の大通りの上を飛行する。

 上空からブナレスの街の様子を見たアレクが呟く。

「・・・静かだな」

 ルイーゼが答える。

「カスパニア軍は、いないみたいね」

 アレクがルイーゼをたしなめる。

「油断するなよ? 奴ら、何を持ち出してくるか判らないから・・・」

(アレクと一緒なら食人鬼オーガも倒せる)

 ルイーゼは笑顔で答える。

「りょーかい!」

 ルイーゼの言葉にアレクは微笑む。




 

 やがてアレク達の前に、明かりの灯っていない真っ暗な市庁舎が見えて来る。

「行くぞ!!」

 アレク達は市庁舎前の大通りに飛空艇を着陸させると、真っ暗な市庁舎へ乗り込んで行く。

 四個小隊で手分けして市庁舎の中を探索するが、既にカスパニア軍の姿は無く、もぬけの殻であった。





 探索を終えたアレク達四個小隊は、市庁舎前の庭に集まる。

 斧槍ハルバードを肩に担いでアルが軽口を叩く。

「もぬけの殻だ。カスパニアの奴ら、逃げ足は速いな」

 ナタリーが答える。

「罠とか、ありそうだったけど、何も無かったわね」

 トゥルムが告げる。

「カスパニア軍の目的は、『略奪』と『奴隷貿易のための住民誘拐』だろう。・・・さすがに短時間で街の住民全員を誘拐する事は出来なかったようだが」

 ナディアもトゥルムの意見に同意する。

「そうね。飛空艇で飛んでいた時も、所々、民家に明かりが灯っていたのが見えたし」

 ドミトリーも口を開く。

「街の住民を石に変えたら、街が機能しなくなるからな。カスパニア軍は、周囲の農村の人々を石に変えて誘拐したが、街の住民を石に変えて誘拐する事はしなかったのだろう」

 エルザは両手剣を地面に突き立て、柄の上に両手を乗せると、呆れたように感心する。

「・・・カスパニアは、そういうところは頭が良いのね」

 ルドルフ達グリフォン小隊が、市庁舎の庭にある国旗掲揚の柱にゴズフレズ国旗を掲揚する。

 ルドルフが口を開く。

「・・・これで良い。市庁舎は占拠した。後は四方の門を押さえよう」




 アレク達四個小隊が中庭に集まっていると、揚陸艇が中庭に降下してくる。

 揚陸艇の跳ね橋が降ろされると、中からジカイラとヒナ、そして貴族組が降りてくる。

 ジカイラが口を開く。

「ここは引き継ぐ。四方の門を押さえろ」

「「了解!!」」

 アレク達は、駆け足で大通りに止めた飛空艇に向かい、それぞれ乗り込むと、再び離陸して四方の門へと向かう。

 中庭から駆け足で去って行くアレク達を見送りながら、ヒナがジカイラに歩み寄り話し掛ける。

「・・・順調なようね」

 ジカイラが答える。

「・・・今のところはな」




 アレク達ユニコーン小隊が西門へ、ルドルフ達グリフォン小隊が北門へ、フェンリル小隊が東門へ、セイレーン小隊が南門へと飛空艇で向かう。

 ルイーゼが疑問を口にする。

「ねぇ、アレク。ブナレスの西側は港でしょ? ・・・西門なんてあるの??」

 アレクが答える。

「そう言えば、そうだよな・・・。港に門なんてあるのか??」

 二人が飛空艇を飛ばしながら、あれこれと考えていると、アレク達の前に西門が見えて来る。

 アレクが呟く。

「・・・そういう事か!」

 ブナレスの西側に位置する港は、出島になっており、西門の跳ね橋で市街地と港に行き来できるようになっていた。

 アレク達は西門に通じる大通りに飛空艇を着陸させると、西門の周囲と港を探索する。





 西門の周囲を見回ったアレクが呟く。

「誰も居ないな」

 アレクと手分けして見回ったルイーゼが答える。

「こっちも。誰も居ないわ」

 港の探索に向かったアル、ナタリー、ナディア、ドミトリー、トゥルム、エルザの六人が戻って来る。

 アルが口を開く。

「港には、誰もいない。もぬけの殻だ」

 カスパニア軍は、既に港から出港した後であり、もぬけの殻であった。

 アレク達は、西門の上にゴズフレズ国旗を掲げる。

 ナディアが呟く。

「・・・これで任務完了ね」

 エルザがしたり顔で頷く。

「完了、完了! ・・・毎回、これくらい楽だと良いんだけど」

 



--深夜。

 出撃準備を終えたハロルド王とネルトン将軍が率いるゴズフレズ軍主力がブナレスの東門に到着。

 ゴズフレズ軍主力が東門を通ってブナレス市街地に進駐してくる。

 ジカイラとヒナの二人は、市庁舎の前でゴズフレズ軍主力を率いてきたハロルド王とネルトン将軍を出迎える。

 ハロルド王は両手でジカイラの手を取りながら口を開く。

「黒い剣士殿! 見事な手並みだ! 良くやってくれた! これで我がゴズフレズ王国は、北部のティティス、中部のブナレスをカスパニアから奪回することが出来た!!」

 ジカイラが苦笑いしながら答える。

「・・・決戦はこれからです。それにスベリエ軍がどう動くか」






 カスパニアは、三つの軍集団からなる総勢九万の軍勢を南部の都市リベに集結させ、本国からカスパニア無敵艦隊アルマダを出撃させる。

 スベリエは、大艦隊を動員し、ブナレスの北に六万の軍勢を上陸させる。

 カスパニアとスベリエ。覇権を争う二つの列強のはざまで、小国ゴズフレズ王国の命運を掛けた決戦が始まろうとしていた。

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