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北方動乱

第八話 ゴズフレズへの道中

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 ジカイラやアレク達教導大隊が乗り込む飛行空母ユニコーン・ゼロは、ゴズフレズ王国を目指して飛行していた。

「ハーックション!!」

 ジカイラのくしゃみを傍らで見ていたヒナが心配する。

「ジカさん、風邪引いたの? 大丈夫??」

 ジカイラは、鼻の下を指で擦りながら、笑顔でヒナに答える。

「大丈夫さ。・・・誰か、オレの噂をしてるな」

 艦橋に居るジカイラは、航法士官に尋ねる。

「今、どの辺りだ?」

「ルードシュタット侯爵領を抜け、ゲキックス伯爵領内に差し掛かったところです。竜王山脈の麓の高地上空、高度四千メートルです」

「どおりで・・・冷えると思った」

 ジカイラの言葉に士官が怪訝な顔をする。

「中佐、寒いですか? 艦橋は与圧されていて、暖房も入っていますが・・・」

 士官の言葉にジカイラは苦笑いする。

「いや。寒いのは、気持ちだけさ」

 ジカイラが飛行空母の艦橋の窓から外の景色を眺めると、眼下に広がっていたのは、標高の高い峻険な山々が連なる竜王山脈と高地であった。






 アレクとアル、ユニコーン小隊の女の子四人は、飛行空母のラウンジで寛いでいた。

 アレクとアルは、ラウンジのカウンター席で二人で冷たいお茶を飲みながら話し、ルイーゼ、ナタリー、エルザ、ナディアは、窓際のいつもの席でフルーツパフェを食べながら、おしゃべりしていた。

 カウンター席に居る二人の元にグリフォン小隊の戦斧を持った戦士、ブルクハルト・ヴェーバーがやってくる。

 小隊対抗トーナメントで対戦して以来、アルとブルクハルトは親しくなっていた。

 ブルクハルトがアルに話し掛ける。

「よぉ、アル。聞いたぞ~。ユニコーンは転職クラスチェンジしたんだってな」

 アルが得意気にブルクハルトに答える。

「おう! オレは剣闘士グラディエーターになったぜ!!」 

「上級職も二人居るとか・・・」

 アルは、傍らに居るアレクを左手の親指で指し示しながら答える。

「良く知ってるな。ここに居る隊長のアレクが上級騎士パラディンに、ルイーゼが忍者になったんだよ」

 ブルクハルトは、アレクの上級騎士パラディンへの転職クラスチェンジを祝福する。

「おぉ! おめでとう! 上級騎士パラディンなんて滅多になれるものじゃないし、近接戦最強の職種だ。その胸に下げている帝国騎士十字章は伊達じゃないな!!」

 ブルクハルトに称賛され、アレクは照れながら答える。

「ありがとう」

 ブルクハルトが尋ねる。

「・・・ところで、ルイーゼって?」

 アルが女の子達の居る窓際の席を指し示しながら答える。

「ホラ。あの窓際の席に女の子達が居るだろ? 左端の南方系のがオレの彼女のナタリー。その隣でフルーツパフェを食べているがルイーゼだよ」

 ブルクハルトがルイーゼを見ると、ちょうどルイーゼがフルーツパフェを頬張っているところであった。

 ルイーゼを見たブルクハルトの目が点になる。

 ブルクハルトは目を点にしたまま、ルイーゼを指差してアルに尋ねる。

「・・・あの可愛いが・・・? ・・・忍者なの??」

「そうだよ」

 ブルクハルトが苦笑いしながらアルに告げる。

「おいおい。・・・お前、オレをからかっているのか? 『忍者』ってのは、厳しい修行を積んで、諜報や破壊工作、暗殺を専門とする斥候・盗賊系の頂点に達した者がなれる職業クラスで、言ってみれば『殺人機械キリングマシーン』みたいな奴だぞ??」

 アルは、ブルクハルトの顔を見ながら真顔で答える。 

「からかってなんかいないよ。・・・本当さ。・・・何なら、自分で試してみると良い」

 ブルクハルトは苦笑いする。

「試すのは・・・やめておこう。・・・お前を信じるよ。」

 そう言うと、ブルクハルトはラウンジに居る仲間の元に戻って行った。





 しばらくすると、ラウンジにフェンリル小隊の面々がやって来る。

「よぉ、アレク! 上級騎士パラディンになったんだってな! おめでとう!!」

 フェンリル小隊の隊長フレデリク・コイエットがそう言ってアレクに声を掛けて来た。

 小隊対抗トーナメントで戦って以来、各小隊間での親睦も深まりつつあった。

「ありがとう」

 アレクは照れ臭そうにフレデリクに答える。

 フレデリクが続ける。

「ユニコーンは、メンバーが皆、転職クラスチェンジしたんだってな。オレ達フェンリルも転職クラスチェンジを考えないといけないなぁ・・・」

 アレク達のユニコーンは、フレデリクのフェンリル小隊より先に転職クラスチェンジを済ませていたため、アレクがしたり顔で話す。

転職クラスチェンジは重要だし、小隊の戦力増強のためにも、できるならやった方が良い。基本的には現在の基本職の延長線上が良いだろう。戦士ならば戦士系の中堅職で。いきなり別の職種になれるほど能力値があれば別だけど」

 アレクの話にフレデリクは納得したように頷く。

「なるほどなぁ・・・」

 アレクの元にフェンリル小隊の僧侶の女の子が駆け寄って来る。

 女の子は、頬を赤らめながら笑顔でアレクに告げる。

「アレク中尉、上級騎士パラディンへの転職クラスチェンジ、おめでとうございます!」

 フェンリル小隊の女の子は、学校の屋上でアレクにお菓子とラブレターを渡した女の子であった。

「ありがとう。・・・ええと」

 アレクは、ラブレターを貰ったにもかかわらず、彼女の名前を憶えていなかった。

 彼女は自分の名前を名乗る。

「エマです。エマ・ベルムバッハです」

 アレクがエマと話していると、ラウンジにジカイラがやって来る。

「二人とも、ここに居たのか」

「はい」

「ジカイラ中佐!」

「それじゃ、私達はこれで」

 ジカイラが現れた事で、フェンリル小隊の二人は仲間の元に戻って行った。

 ジカイラがアレクに話し掛ける。

「お? 取り込み中だったのか?? 邪魔して済まなかったな」

 アレクは苦笑いしながら答える。

「いえ、大丈夫です」

 ジカイラは、アレクの隣のカウンター席に座り、アレクに告げる。

「今の内だぞ? 女を抱くのも、口説くのも、仲間と遊ぶのも。・・・戦場に着いたら、常に周囲に注意して、気を引き締めていないとな。戦場では、一瞬の油断が命取りになる」

 ジカイラからの忠告に、アレクは真剣に答える。

「はい」



 アレクは、士官学校での日々で、ルイーゼという恋人や小隊の仲間たち、教導大隊の友人たちに囲まれ、楽しく過ごしていた。

 アレク達を乗せた飛行空母ユニコーン・ゼロは、竜王山脈上空を北へ向かっていく。

 
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