冥界の愛

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コレーかペルセフォーネかデーメテールか

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冥界の安息地エリュシオンで、謎解きのミノスがハーデスに詰め寄ってるちょうどその時に、
地上では、夜中に抜け出したコレーを追って母のデーメテールとお世話係の妖精王の娘であるメンテーが対決していた。


 その時、冥界から持ち帰ってデーメテールの丘に植え替えたあの花から、冥界の音、色々な声が地上に流れ込んで辺りに響いていた。
なんてタイミングでしょう。
こういうのが運命というのでしょうか。



 ハーデスに話しているミノスの声が聞こえてきた。

「どうして、唯一の嫁を簡単に手放すのかなぁ。
こんな風に自分から幸せになることを放棄する性格?自己犠牲愛?
未来の言葉のクロノスの予言では『唯一の愛』なんだろ?他は無いんだろ?
もっと幸せに貪欲になろうよー。他の皆様みたいにさー。」


それ以外にも、冥界の川の渡守の辺りで冥界の者たちが話している声が聞こえてきた。

「結局、あのお嬢さんは、デーメテール様の代わりにはならなかったって事でしょ?」
「そうだ。そうじゃ無いなら、ペルセフォネ様を手放す筈がないでしょう。」
「けど、あのお嬢さんもここが気に入った様には見えたけどな。、楽しそうに笑ってたと思ったけどさ。」
「まぁ、旅行気分にはいいけど、一生この死者の国で暮らして行く何て事は、やっぱ地上の女神様には無理でしょ」
「そのデーメテール様ってのは、あのペルセフォネのお母さんなんでしょ?じゃあハーデス様は親子揃ってフラれたの? やば!色んな意味できつッ!」
「いや~フラれたっていうか~ あの時はどっちかと言うとハーデス様もさっさと冥界に来てしまわれて、あんまデーメテール様の事を構ってる余裕も無かったんじゃないか?」
「あの時って、ティタノマキアって言われてる先の神々の大戦の時でしょ?」
「その直後に、ハーデス様が冥界を治めるのにきたんだよね?
そんで、ジャンケン?くじ引き?で、決まったんだよね? そうそうハズレくじでここ冥界王になったって聞いたよ」
「俺は、ゼウス様に追いやられて、地下に押し付けられたって聞いたけど?」
「まぁ、そのゼウス王が追いやってくれたお陰で俺たち冥界の者は、ハーデス様を主として仕える事ができた。本当に良かったよな。」
「あゝ こればっかりはあのワガママエロ王のゼーウスに感謝するよな」

「お前達、随分と暇そうだな。そんな法螺話などしとらんで、ほれ、舟でも磨いておれ」

「あっカロンの爺様。でも爺様ならその頃の事も知ってるんですよね?」
「そんな話は知らんな。ジャンケンもくじ引きも皆んなが後から自分達のいい様に付け加えただけじゃろう。」
「じゃあ、追いやられたのも?大戦が終わったらデーメテール様を迎えに行くつもりが、冥界だったから行けなかったっていう話も違うんですか?」


 花から流れる冥界の下々の者達の噂を聞いて、美しい顔のその眉をグッとしかめるデーメテール。その横で静かに足元に目線を落とすレウケー。その様子を見て大きく目を見開き蒼白になるペルセフォーネ。

地上では沈黙する三人。その横で真夜中の丘にそっと揺れる冥界の花。頭上には皮肉にも美しすぎる月が居る。




夜という妖怪が、真黒い王座によって、悠々と辺りを覆い、、、




ポー 『幻の郷』より


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