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コレーかペルセフォーネか
しおりを挟む森を抜けて、そこにはデーメテールの丘と言われる、昼ならば光に満ちて気持ちのいい風さえも輝く花畑のひらけた野原だった。
けれど、真夜中の月明かりの静謐の中では、一つの花を見つめるコレーの姿は幻想的でまるで此処にはいない様な姿だった。
コレーが冥界から持ち帰り、ここに植え替えたその茎から多数の花が咲いていた。
その一輪一輪から音が流れている。
それは、ヒソヒソとまるで内緒話しの様なものもあれば、楽しそうに笑い合ってる音もする、泣き叫んでる様なうめいてる様な音、流れる川の水音にキーコバッタン、キーコと何やら木の擦れ合う様な音、轟々と火が燃えている様な音まで様々だった。
一つ一つに耳を澄まし、薄らと微笑みを浮かべる見た事もない黒髪の姿はコレーというデーメテールの娘では無かった。
どう見てもどこから見ても、花の娘神、大地の女神の娘のコレーとは別人(別神?)だと認めざるを得ない。
デーメテールは 勇気を持って問いかけた。
「何をしているの?」
幻想が答える。
「懐かしいみんなの声を聞いているの」
横のメンテーが、質問が違うことを咎める様にデーメテールの袖を引っ張っている。
今度こそデーメテールは問いかけた
「、、、貴方は、誰?」
ロングヘアの黒色が答える
「私はペルセフォーネ」
不様に崩れそうな膝に精一杯力を入れる
「私の娘のコレーはどこ?どうなっているの?」
花を見つめていた黒髪の黒い瞳が初めてこちらを向いた。コレーよりも成長した姿で娘から女神になった姿だった。ただコレーが成長するであろう想像とは違っていた。
「コレーは覚醒して無限に散り散りになってしまったの。
カオス混沌にまで混じり合い、コレーという個が無くなったわ。」
「 嘘よ 」
「覚醒が大爆発してしまうのは、力のある大神ではたまにあると、後でカロンのお爺さんから聞いたわ」
「信じられないわ、だってコレーはコレーの姿で帰って来たじゃない」
「そう。帰ってこれたわ。でもね、本来ならカオスの中に大空そのままだっだわ。」
「じゃあ、どうして!」
「ハーデス様よ。大覚醒から救い出してくれたの」
「どういうこと?」
「海の水に落とした涙を集めたのよ。
私の細胞の一つ一つを追いかけて、
探し出して、
自分の身体と一緒に全ての細胞にマーキングして、
一つに回収して、コレクト寄せ集め、
纏めて、集結させたの。
本当にコレーは死んだわ。
そう、一旦は個が死んだわ。それは冥府に降りて行くとは違う個体の死だわ。
それを、蘇らせたの。
だから、急遽名付けの契約が必需だったという訳よ。
そのままだったらハーデス様の分身と、憑依となっても仕方ないぐらい、個として脆かったの。私の意識が無くなってしまう前に個人の名の縛りがいるでしょ?」
「そして、その名がペルセフォーネ?」
「そう、私がペルセフォーネ」
「だから、その姿形なの?」
コレーの全てにハーデスの一部が混じり合い、成長しているのか。それは納得したが、その後の衝撃の事実に再び膝が震えてきて全身の力が抜けそうになる。隣のメンテーも掴んでる袖から震えが伝わってくるわ。
「貴方は、それで、それで花嫁として契約したの?」
「? 花嫁?」
「そうよ。大神のハーデスが女神に名前を与えて、命を与える。それは花嫁の契約だわ」
「!」
「コレー、お願い、違うと言って。
『冥界王の唯一の花嫁』なんかの契約じゃないって。お願いだから。違うわよね?」
「何?唯一の花嫁って何?」
「何も聞いていないの?」
「誰も、向こうでは、私にそれが花嫁の契約だと教えてくれなかったわ。私を救うために仕方なくハーデス様がしてくれたもの。それに、何が唯一なの?」
「それは、冥界を治める主として、妃はただの独りと決まっているから。それが冥界王の『定め』なの。一度契約したら、後にも先にもその妃以外は愛さないわ。それが『唯一の』と言われる理由よ」
「どうして?どうして、そんな大事な決定を私に言わなかったの?」
「落ち着いて。その唯一の契約は冥界王の方だけよ。
貴方にその縛りは無いのよ。だから地上に帰って来れたし。だから、他にも愛して結ばれる事もできるの。冥界に縛られる事はないのよ。地上でも天上界でも何処ででも行けるし、誰かと愛し合う事もできるから。」
「ハ?? (私だけ)ホカノヒトデモ、アイセル??」
凄い、感情が揺れると黒髪がブワッと浮き上がり、瞳が金色に光るなんて、まるで闇の女王様だわ。
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