102 / 107
妖精王の娘達 メンテーとレウケーの姉妹妖精
しおりを挟むもうずっと昔の話
「メンテもここにくるのは久しぶりなの?」
そう言って、私のお仕えしている大地の女神デーメテール様が悲しみの表情で私を見た。
そう、ここは、この泉は一番の仲良しの妹の思い出の場所であり、妹を偲ぶ為に墓を作った。
もちろんここには亡骸はなく、ニンフのその身は本来なら還る場所に戻って行くけれど。それですら、あの妹は戻れていないのだろう。
そう、冥界に嫁いだ妹のレウケーだ。
嫁いだ事にはならないのかもしれない。
他のどの妖精の姉妹達よりも、大人しくいつもにこやかに笑顔で、花が大好きで、それでいて夢見がちだったレウケーが、冥界王の嫁になろうとしているなんて、思いもしなかった。
この泉で、ハーデス様とデーメテール様が言葉少なに一緒におられた姿を、私もあの子も見つめていたのに。
私は、姉なのに、一番の仲良しだと思っていたのに、あの子の気持ちには全く気が付かなかった。
優しい優しい妹だったのに。
あんな風に亡くなってしまうなんて。
「メンテー、大丈夫? 私だけでコレーの後をついていくから、もう家に戻って待っててくれてもいいわよ」
昔の事に囚われて泉の方に目を向けていると、デーメテール様からお声がかかった。
気遣っていただいてることはありがたいが、大地の女神を真夜中に一人きりにさせる訳には行かない。それにコレー様の行方と真相を突き止めないと、このまま神殿に戻っても気持ちは同じだろう。
そして、この現象が冥界と関わっている事は確かだろう。
そうなると、ますます妹の事を思い出してじっとなどしていられない。
それに、この美しく澄んだこの泉が、悲しみの思い出の場所となっているのは、デーメテール様も同じ筈だ。
森の中の泉を通り、デーメテールの丘に行く。そこは昔から幼いコレー様の遊び場だったし、コレー様の隠れて泣く逃げ場だった筈だ。それはデーメテール様があまり近付いてこない場所だからだ。
あまりに美しく、あまりに澄み切った水を湛える泉は、妖精だけでなく神々の悲しみも映している様な気がする。
滅多に誰も辿りつかない泉には、小さき人々には幻の泉と呼ばれている。その聖なる水には、神の力が宿り不老不死の力や全ての願いが聞き届けられる力があると噂されている。
全ての願いが聞き届けられるなら、どこまで願おうか?いったい何処から時間を戻してもらおうか?神々でさえ万能では無いのに。 簡単に時間を巻き戻すなど御伽話の様だとついと自分の浅はかな考えに自嘲した。
「大丈夫です。デーメテール様こそ、神殿にお戻りください。私がコレー様をお守りしますから」
そうデーメテール様に返事する。
「いつもいつも、メンテーは見守っててくれるのね。そしてあなたの横にはレウケーもいたわ。」
やはり、デーメテール様も思い出しておられたのか。
そして、コレー様の後ろ姿を見つめながらきっぱりとおっしゃった。
「もう決して決して、誰も冥界に奪われたりしないわ。」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる