冥界の愛

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妖精王の娘達 メンテーとレウケーの姉妹妖精

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もうずっと昔の話



「メンテもここにくるのは久しぶりなの?」
そう言って、私のお仕えしている大地の女神デーメテール様が悲しみの表情で私を見た。

そう、ここは、この泉は一番の仲良しの妹の思い出の場所であり、妹を偲ぶ為に墓を作った。
もちろんここには亡骸はなく、ニンフのその身は本来なら還る場所に戻って行くけれど。それですら、あの妹は戻れていないのだろう。
そう、冥界に嫁いだ妹のレウケーだ。
嫁いだ事にはならないのかもしれない。
他のどの妖精の姉妹達よりも、大人しくいつもにこやかに笑顔で、花が大好きで、それでいて夢見がちだったレウケーが、冥界王の嫁になろうとしているなんて、思いもしなかった。

この泉で、ハーデス様とデーメテール様が言葉少なに一緒におられた姿を、私もあの子も見つめていたのに。
私は、姉なのに、一番の仲良しだと思っていたのに、あの子の気持ちには全く気が付かなかった。
優しい優しい妹だったのに。
あんな風に亡くなってしまうなんて。



「メンテー、大丈夫? 私だけでコレーの後をついていくから、もう家に戻って待っててくれてもいいわよ」

昔の事に囚われて泉の方に目を向けていると、デーメテール様からお声がかかった。

気遣っていただいてることはありがたいが、大地の女神を真夜中に一人きりにさせる訳には行かない。それにコレー様の行方と真相を突き止めないと、このまま神殿に戻っても気持ちは同じだろう。
そして、この現象が冥界と関わっている事は確かだろう。
そうなると、ますます妹の事を思い出してじっとなどしていられない。

それに、この美しく澄んだこの泉が、悲しみの思い出の場所となっているのは、デーメテール様も同じ筈だ。
森の中の泉を通り、デーメテールの丘に行く。そこは昔から幼いコレー様の遊び場だったし、コレー様の隠れて泣く逃げ場だった筈だ。それはデーメテール様があまり近付いてこない場所だからだ。

あまりに美しく、あまりに澄み切った水を湛える泉は、妖精だけでなく神々の悲しみも映している様な気がする。
滅多に誰も辿りつかない泉には、小さき人々には幻の泉と呼ばれている。その聖なる水には、神の力が宿り不老不死の力や全ての願いが聞き届けられる力があると噂されている。

全ての願いが聞き届けられるなら、どこまで願おうか?いったい何処から時間を戻してもらおうか?神々でさえ万能では無いのに。 簡単に時間を巻き戻すなど御伽話の様だとついと自分の浅はかな考えに自嘲した。


「大丈夫です。デーメテール様こそ、神殿にお戻りください。私がコレー様をお守りしますから」

そうデーメテール様に返事する。

「いつもいつも、メンテーは見守っててくれるのね。そしてあなたの横にはレウケーもいたわ。」

やはり、デーメテール様も思い出しておられたのか。
そして、コレー様の後ろ姿を見つめながらきっぱりとおっしゃった。




「もう決して決して、誰も冥界に奪われたりしないわ。」

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