冥界の愛

文字の大きさ
上 下
92 / 107

ミノスから見た「恐怖で冷徹で残酷の地獄の王」ハデス

しおりを挟む

 そう言う俺も、ここに落とされた最初の頃は、何でだよ!って何度もハデス様の理不尽な不当の立場を抗議しに行った。

 その度に涼しい顔をして俺たちの怒りを鎮める為に、何故か宴会を開いてくれる。

 色々な事が起こるたびに、しばらくしてから、やはり冥界の王の仕業だ、恐ろしいと。全ての残虐な事柄は「冥界の王」がやらかしたことになっており、真実ではない噂とともに、事態はいつの間にか終息していった。こうやってますます「恐怖で冷徹で残酷の地獄の王」としてハデス王の名がとどろいていく。


 そして 今回のペルセフォネ様が冥界に落ちて来たことも、何か意図を感じざるおえない。
 

 生者である人々の噂では、英雄が死後に到達するエリシオンと言われる場所は、遥か遠い西の海にあり、雪や寒さを知らず、 雨も降らず、爽やかな西風が吹きそよぐ、幸福の地だと言われている。
 神の恵みを受けた、その輝かしい生を終えた英雄たちは、この地で死も病気もなく、地獄の裁判官ラダマンテュスの支配のもと幸福な生活を送ると言われている。


 散々、正義の大戦だと戦わせ、神殺しや大量殺人をさせておきながら、死んだ後々まで、自分たちの都合良く噂を流して利用だ。
 自分たちのために戦って死んだのに、殺した相手と同じのただの死者の国では、都合が悪かったらしい。
 そこで、死者の安息の地としてエリシオンの伝説を作り「奉られ」て。
 死後も敵とは違う場所に行くから、ますます頑張って戦争を続けろよーと、上手く言いくるめた様だ。
 まったく迷惑な話だと聞いた時は笑ってしまった。死者の皆さまは、平等にみんなここ冥界にお越しになります。

 心配しなくても、生きていた現世で、何千、何万人の人殺しの英雄様や、人の王や神などの身分によって、エリュシオンに行ける行けないではないから、大丈夫。


 きちんと、その人生での魂の浄化に従って、冥界のどこの地で、好きな場所で休んでもらってもいい。
 何が好きで、針山に座っていらっしゃる死者がなんと多い事か! 
死後の世界だと言ってるのに、この冥界で、何度も何度も飛び降り自殺を繰り返す。既に肉体は死んでるのに飛び降りる奴を見るたびに、高所恐怖症の俺はヒューっと大事なところが寒くなってくる。
 やっぱり、ダイブが好きなんだろうか?その割には悲惨な顔して飛び込んでる様だけど。

 そんな高い身分や、たくさん人を殺した英雄が死んで素敵な冥界にいけますよー  なんて、そんなご都合主義の噂は、全くのデマだから。ていのいい様に御託を並べて追いやった者達を忘れて、自分のした事を無かった事にしたい奴らがデタラメな噂を流している様だ。

 

 誰も自分がやられた事はずっと覚えているものだ。身に染みて、骨に刻んで、恨みを忘れまい。いや、忘れるどころか日が経つに連れ、何度も思い出しては繰り返し、恨みを味わった恐怖を怒りを反芻する度に増していく。
 けれど利用し捨てた者達はすっかり、自分たちの非道は忘却してしまう。
 そして、他者には、事実を捻じ曲げて厚かましくも美談として噂を流す。

 だからこそ、俺たち地獄の(ジャッジメント)裁判官は、噂を鵜呑みにせずに、あらゆる事柄を本人目線だけではなく、全ての目線から捉えて、地獄の裁判官として判断を行う。
 必要ならば、罪として自覚がない「自分は、悪くない」と訴えられれば、被害者として非道を行われた視点から、体験させる。蔑まれ、全く忘れ去られる、どれだけの苦痛だったのかを、この地で味わってもらう。身に染みて骨に刻む機会を与えてようやく他者へしたの行為や言葉を思い出すだろう。

 それは、、俺自身の生きていた頃の強烈な後悔の人生からきている。犯した大罪を認め、許されない罪を背負う覚悟、魂に刻んだ、その戒めこそが死者へのジャッジの指針となる。

 冥界の裁判官の俺でも迷った時は、闇堕ちしていた俺を救った主様を思い出して、主ならどうするだろうと照らし合わせる。ハデス様こそが、俺の手本で、死者として前に立った者を裁くなんて偉そうな事をしている俺のルールブックだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...